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SOI-009


(猫又……か、確か恨みの無い奴とあるやつとかあるんだったかな?)


 おぼろげな知識からそう考えると、いつものように鳴くぶーたのことで頭が痛くなる修司だった。


「悪い感じはしないなあ。あれか、天音を守るぞーってとこか、ぶーた」


 町への帰り道、抱きかかえた修司の腕に伝わるのはちゃんと生きていることを感じるぶーたのぬくもり。

 とても一部で言われているような人間を襲うタイプの怪異には思えなかった。


 何より、もしそうであるならば小鬼を倒すなどということはするはずもない。


 ただの直感でしかないが、修司はその考えを大事にしようと思っていた。


「それにしても、最初からついてきてたのか? 全然気配を感じなかったな。お、ご主人様が探してるぞ」


 町のそばまで来た結果、ぶーたを探してか囲いぎりぎりに来ている天音が見えた。

 手を振ってやればわかるだろうかと思い、修司が右手を振った途端、腕の中の重みが消えた。


「!? あいつ……影渡りってやつか」


 ぶーたが飛び降りた……だけでなく、瞬時にまだ数百メートルはあるはずの天音の足元に出現したのだ。

 ちょうど、影から出てくるのを目撃した修司は笑みを浮かべる。


 陰から影へ、超常的な移動なのは間違いないが修司も初めて見た。

 どうして自分のところに来たかはわからないが、あの能力なら知らずに来ることもできる。

 これ以上ない納得する材料を見せつけられ、どこか脱力した足取りのまま町へと戻った。


「お帰りなさい、お兄ちゃん」


「おう、ただいま。ぶーた、すごいんだな」


 一応内緒にしていたのだろうか? 修司の指摘にびくっと揺れる天音。

 それでも修司が怒っていないことがわかると、おずおずと言った様子でぶーたを掲げて見せる。

 相変わらずと思うほどに良く伸びる体、その下には2本の尻尾。

 やはり、どう見ても猫又だった。


「えっとね、天音が変身した後に呼ぶと答えてくれるの。1人と1匹でセットなんだよ」


「魔法少女にはマスコットがつきものだもんな。じゃあ明日からの特訓にぶーたも参加だ」


 一緒だねーと喜ぶ天音に対し、ぶーたはどこかだるそうな……いや、いつものことだろうか。

 まだ日も高いということで畑を見に行くことにした2人と1匹。

 天音の両親と、修司が住む家の裏には共同で耕している畑がある。

 町に来た当初はあまり調子のよくなかった天音の母親も、いつしか畑仕事をするぐらいには元気になっていた。


「あら、修司君。天音も一緒なのね」


「こんにちは、おばさん」


 諸々の都合で既に両親がおらず、遺された家を持て余していた修司にとっては天音たちは第二の家族だ。

 一人で広すぎる家を、持て余しそうになっていたところへの引っ越し希望は渡りに船だった。

 一応危険物もあるので修司一人で住む区画のほうが広いのだが、それでも家族3人で暮らすには十分。

 大人の感覚でその分遠慮した気持ちがある天音の両親と、気にしていない修司との関係は独特の物だった。


「うん、いい感じに育ってますね」


「ええ、そうなのよ。この子が水やりをやるようになってから特に……やっぱり異能の力なのかしら」


 既に大きくなってきたキュウリを手に、修司はぶーたと遊ぶ天音を見る。

 見られていることに気が付いた天音は、畑と修司、そして母親を見てなぜか頷いた。


「お野菜も元気いっぱい、キラキラになーれー!」


 まだ天音の言動はやや幼い。

 この年頃は個人差がすごいと何かで聞いた気もするが、気にしない方がいいのだろうかと考える修司。

 前はともかく、今は町の子供達も一緒なのだからそのうち上手く行くだろうと思いなおした。


 そんなことを考えている間に、天音が異能を発揮し、全身を光らせて変身を行う。

 やはりどう見てもアニメで見る魔法少女のような格好で、ステッキを手にしている。

 そのステッキからじょうろでそうするように水が飛び出していく。


 どこからか、空気中の水分か? それとも火を放つようにどこでもない場所からか。

 水の正体を考えつつも観察を怠らない修司。

 前線で最強クラスの扱いをされていた彼にとって、異能の分析は生き残る秘訣でもあったのだ。


「うんうん。いいぞ、天音。出来るだけ毎日そのぐるぐるした感じを出し切るんだ」


「はーい。たくさんやるとすぐ眠くなっちゃうんだよね。ぶーたともう少し遊びたいのに」


 異能の力はいわゆる体力とは別の何かを消費する。

 それは修司だけでなく、国も把握している事実だった。

 若者たちは魔力だとかMPだとか、好きに呼んでいるが公式には精神力、なんて呼び方がせいぜいだった。

 なにせ、機械的に測定が困難で、基準も作りようがないからだ。


「天音、力は水やりと一緒なんだよ。ほら」


 言いながら修司が見せるのは、ホースで撒く水の様子。

 そのままで流したり、潰して飛ばしたり。あるいは真ん中だけを押して左右に飛ばしたり。


「ちょっとの力でも、考えて使うと効率がいいんだ」


「んー……こう?」


 まさに見よう見まねで天音が力を操作しようとした瞬間、修司はそれを感じて天音の腕を上に向けた。

 細い、女の子らしい腕がそのまま上を向き……その手に握ったステッキから水が高速で放たれた。

 そのまま畑に向ければ、土がえぐれそうなほどだったと言えば強さがわかるだろうか。


「天音、あなた……」


「大丈夫ですよ、おばさん。異能者に良くある話です。コンロの火加減と同じで、練習したらOKですよ」


 自分の娘が引き起こしたまさに異能という力に、驚いた様子の天音の母親。

 色々と覚えがある修司は安心させるようにそう言い、天音を抱き寄せる。

 自分のしたことはよくわからなくても、母親を怖がらせたことはわかった天音。

 その表情がゆがみかけ、抱き寄せられたことでそれも収まる。


「練習すると大丈夫?」


「ああ、そうだ。しっかり勉強も練習もしような」


「うん、天音頑張る。ぶーたも一緒にお母さんとお父さんを守るの」


 笑顔満開、その姿に修司も異能者の先達として恥ずかしくない姿をみせようと、気を引き締めるのだった。




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