第三十四話 セラの乙女化
セラさんはモテます。
「つまり、人違いだった……と」
「そうだ。すまぬ」
「すまぬ。じゃないですよ! あなた、人になりたいんですよね⁉ なら、人の話はちゃんと聞かきゃダメじゃないですか! いいですか? 人の話も聞かず、空気も読めないような人は、すぐに嫌われてぼっちになるんですよ!」
「むう……。ぼっちとはなんだ」
「独りぼっちの意味です。これはとてもつらいですよ。なにせ、周りの人が誰一人自分を見てくれないんですから。こんな穴倉に引きこもるより、ずっとつらいんです」
「わかった。ぼっちにならぬよう、努力しよう」
ならばよし。ミラは偉そうにふんぞり返った。
現在お説教中である。人違いで殺されそうになったミラはぷりぷり怒ってぐちぐち文句を言っている。
ドラゴンも自分が悪いとわかっているので大人しくしているが、伝説のアークドラゴンに歯に衣着せぬ物言いをするミラを見て、セラは冷や汗を流していた。
「ミラ、その辺で勘弁してやれよ。ドラゴンだって、悪気があったわけじゃないんだし」
「いいえ、ダメですね。悪気がないなんて、言い訳にもなりません。それでは実際に被害を被った人が救われないからです」
会社でもそうだった。一人のミスで残業が確定した日なんかは、生理中と同じくらい不機嫌になったものだ。
「我は、どうすればいい」
ドラゴンが訊ねると、ミラはニヤリと笑った。「計画通り」とか聞こえてきそうな悪い笑顔だった。
「あなたには、罰を受けてもらいます。とても苦しく、長い拷問です」
「お、おい、ミラ」
「セラさんは黙ってて。これはドラゴンさんのためでもあります。ドラゴンって気高い生物なのでしょう? 許されるだけなんて、それこそプライドが傷つくだけじゃないですか」
「その通りだ。絶大なる力を持つ我ら竜族は、相応の振る舞いを求められる。さあ、二人目の天使、我に罰を与え賜え」
「いや、天使じゃないんですけどね。まあいいや、では、あなたに科す罰を伝えます。あなたは、このままこの暗い穴の底で、これまで通りの苦行を続けてください。決して諦めることも、逃げ出すことも許さない。いいですね?」
(……完璧)
ミラは己の発言に酔いしれた。
なんて心の広い女だろうと自分に酔った。
こんなの、ドラゴンにとってはなんの罰にはならない。むしろご褒美じゃないか。それを罰だと言って続けさせ、諦めるなと約束させることで希望まで与える。
(わたしマジ天使。これもう、絶対惚れたね。ドラゴンに惚れられるとか罪な女だよ)
ドラゴンも泣いて喜ぶことだろう。
そう思い待っていると、予想外の言葉が聞こえた。
「それはならん。我はセラフィム・ストレンジに忠誠を誓った。これより、主の側に仕えることとなる。この穴も出なければなるまい」
「「……へ?」」
ミラとセラの声が重なった。顔を見合わせると、どちらも心当たりがない様子。
「えっと、アークドラゴン……さん。あたしに忠誠ってなに?」
「そなたに命を救われた。あまつさえ、あの娘と出会った頃の気持ちを思い起こさせてくれた。我はそなたに魅せられた。このアークドラゴン〝アルギュロス〟、全身全霊をもって、そなたの願いに助力しよう」
「……マジで?」
セラが放心した。無理もない。伝説のアークドラゴンを手懐けたのだから。
「ちょっ、ええ⁉ なんで⁉ そこはわたしに懐くところでしょう! あなたに勝ったのわたしじゃん!」
「確かに、我は天使に負けた。そして、死にゆく我を救ったのがセラフィムである。殺戮者に付き従うなど、我はご免被る」
「酷くない? わたし、ただの美少女だよ? 超かわいい女の子だよ? セラさんよりずっと若いピチピチの一〇代だよ?」
「お前後で覚えてろよ」
セラの言葉をミラは無視。
「人の容姿についてはわからぬが、人を見る目はあるつもりだ。我は、セラフィムがいい」
ぽっ。
「セラさん、なに赤くなってるんですか」
「だ、だって、こんなに力強く口説かれたのって初めてで……それに、彼はわたしの顔じゃなくて、きちんと中身見てくれてるし……」
(乙女か。もじもじすんないい年して)
種族の壁を超えた恋って素敵。




