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聖女転生~異世界旅行は黒猫と共に~  作者: うえりん
第四章 ダンジョンの町
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第三十一話 努力が報われる能力

ミラの努力は、必ず報われます。

「許さぬ、許さぬぞ! 白き天使よ、氷の剣を抜くがよい! 我の猛き炎はその刃を砕くであろう!」


「セラ……さん?」


 ドラゴンの咆哮が響く中、ミラは懸命にセラを探した。


 だが、心のどこかで理解している自分がいた。


 岩を溶かし、半径百数十メートルに渡って破壊をもたらしてなお、この国の誇る最高の結界師と同等の結界を吹き飛ばした。


 そんなものを至近距離で食らって、無事なはずが――


「ダメ、ダメぇ!」


 ミラは取り乱し、頭を抱えて蹲った。


 ついさっきまで、あの人は目の前で笑っていた。いつもの豪快で武骨でガサツな笑顔を、確かに向けていたのだ。

 なのに、それが今は見えない……。


(オルテくんや孤児院の子供たちや先生はどうなる。どう思う。どう説明する)


「できない、わたしにはできないよ……」


 ミラはガタガタと震えた。最悪の未来を思い描き、ドラゴンと同等の恐怖となって心を蝕んで行く。


(こんなこと、あっていいはずがない)


 あまりに唐突。あまりに理不尽。転生に際し呪った世界の真理を、ミラは再び知った。


 ……わかっていたことだ。


 世界はこう(・・)なのだ。


 いつも転機は唐突に訪れ、積み上げたすべてを無に帰してしまうのだ。


 それを許さぬために、ミラは転生した。


 ――ならば、すべてを否定し覆す方法を模索する。


「……努力」


 神から授かった能力を、今こそ全力で行使する。


「わたしは努力する。セラさんが助かるよう努力する。結果を変えるよう努力する。すべてを〝なかったこと〟に――」


 〝努力が報われる能力〟


 始めは成長チートだと思っていた。努力して行動すれば、自身の確かな成長を感じられると。


 だが、それだけでは説明がつかない事柄が多すぎる。


 急速に視力が上がったように――

 すべてを完全に記憶できたように――

 明らかに達成不可能な目標を超えられたように――


 ありとあらゆる〝努力〟は報われる。


 それが例え、世界の理に反していても、それがミラの〝努力〟である限り、絶対に叶えられる。


 それは神の名の下に約束された不文律。


(だから、きっとできるはず。神の力は絶対ではあるが、完全ではない。〝時を巻き戻す〟ことはできなくとも、〝時を巻き戻す結果を得る〟ことが、この能力ならできる。代償は……なんでもいい。全部持ってけ)


 努力が報われるためには強い思いと、相応の代償が必要になる。

 時さえ操りたいと願った代償がいかなるものになるか、想像もできない。


 だが、この能力なら。


 神が与え、世界すら変え得るこの能力ならば、できぬことはないはず。


 ミラは本気で――死ぬ気で――努力した。


 図書館一つ分の知識から魔法理論を検索。一〇〇の魔導書から秘法則を模索。異常代謝で生命維持に支障が発生。


(まだ)


 エネルギー不足を補うため、自身の体を再構築。魔力精製機構を変質。既存の魔法則での現実世界への遡及効の実現は不可能。


(まだ行ける!)


 目標とする新魔法則――構築失敗。


(まだ……!)


 ブツン。


 ミラの体の中でなにかが切れた。


 人の力を超えた願いがもたらすのは破滅。


 ミラの願いは、この世界の法則では実現不可能だった。


 だが、彼女の努力(チカラ)がそれを許さない。現実を直視することを認めない。


 究極の我儘、傲慢。ミラは自身の体が崩れ行くのを感じた。


「……それでも、わたしは」


 いくら努力しても、できることとできないことがある。


 だが、ミラの能力は神の権能を集約した上に成り立っている。

 優先されるべきは、世界の理よりも、彼女の能力。


(できないならば、できるようにするまで)


 なぜなら、努力が報われない世界など、間違っているのだから――


 世に蔓延る物理・魔法・裏法則。すべてがただ一人の願いを叶えるために変化する。


 正にチート。神の力を使った横暴だった。


 ――結果、彼女の努力は世界を歪めることで報われた。


 ミラの体を光の粒子が取り囲んだ。それは先のドラゴン同様、彼女の魔力が大気中の魔素に働きかけた結果であった。


 ただし、イオンなどの既存の物質に働きかけたのではない。

 ミラの思いを受け取り、それを叶えるために能力が作り出した物質だ。


 今、世界に新たな元素が誕生した。

 それはかつてある(・・)と考えられたが、時代が進むにつれ、絵空事として忘れ去られた『第五元素』。


「天使よ、最後に答えられよ。なぜ、約束を破棄した。なぜ、あなたは再び我の前に現れたのか」

「――黙れ」


 光が疾走し、ドラゴンの周囲を金色(こんじき)のオーロラが取り巻いた。


 次の瞬間、ドラゴンの体が強烈に捻じれた。あらゆる骨が軋み、鱗同士がぶつかって火花が散った。


「天使……!」


 苦し気に呻いてなお、ドラゴンは反撃に転じた。巨大な火球が放たれ、真っ直ぐミラへと疾走する。

 ミラはそれを、新たに作り出した光球で迎え撃った。

 魔滅の炎と既存とは異なる魔法則がぶつかり合う。


 結果は、引き分け。どちらも消え去り、双方無傷だ。


「わたしは天使じゃない。お前を殺す悪魔だ。覚えておけよ、愚かな竜。お前を殺すのは、このわたしだ」


 捻じれがさらに大きくなる。堪らずドラゴンが咆哮する。火炎が混じった叫びはすぐに途切れ、口から血の泡を吹いた。ミラが生み出した新たな元素が、魔法を超えた〝力〟でドラゴンを締め上げる。


 伝説のアークドラゴンはその力にさえ、ある程度の耐性を発揮した。


 ――しかし、勝敗は明らか。ミラはドラゴンを殺すだろう。魔法耐性など、長く苦しむだけの拷問器具でしかない。


「お前がいると、時を戻せない。殺し、灰にしてやる。そして、わたしはセラさんを取り戻す」


 ドラゴンは答えない。既に虫の息なのだ。このまま首を捩じ切り解体する。


 呻き声が聞こえた。それはドラゴンの首から聞こえたが、その実骨が軋む音でしかなかった。このまま一気に捩じ折り目的を果たしてやる。


 光の粒子がさらなる輝きを発しようとしたその時、ポンと、肩を叩かれた。


努力して得た結果が、必ずしも正しいとは限りません。

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