第二十七話 孤児院にて
温泉回です。
ダンジョンへは明日向かうこととなった。
随分急だが、いつ情報が洩れるとも知れない。それにミラだってお尋ね者なので、さっさと人目につかないダンジョンへ逃げ込んだ方がいいに決まっている。
ダンジョン攻略に必要なものはセラが用意していたので、明日は早くから向かう予定だ。
ミラが宿をとっていないと聞くと、セラは孤児院へと案内してくれた。帰郷した際はほとんどここに泊まっているというから、セラにとっては実家同然なのだろう。
孤児院は町の外れにあった。低い壁に囲まれた質素な平屋建てである。かなり古いが、所々修復して大切に使っているのがわかる。壁の向こうから子供たちの笑い声が聞こえた。
門を抜けると、子供たちの声が一気に大きくなった。笑い声や泣き声、なにやら喧嘩らしき叫びも聞こえて賑やかなものだ。
リンリンもいた。庭で大人しくしているが、それをいいことに子供たちのおもちゃになっている。ドラゴンはどこの世界でも人気者なのだ。
(今日、ホントにここで寝るの? わたし、明日ダンジョンに潜ってドラゴンと会うんだけど)
そんなことを考えていると、建物から一人の少年が出て来た。背はひょろりと高いが、顔立ちには幼さが残っている。一二~三歳くらいだ。
「オルテ? オルテじゃないか!」
「姉さん、お帰りなさい。リンリンが待ってるよ」
セラがオルテと呼ばれた少年に駆け寄り抱きすくめた。そして体中を叩く叩く。埃でも出そうというのかというくらい、もの凄い叩きまくる。関西に住んでる親戚のおばちゃんを思い出した。
(わたしも誰かに抱きしめて欲しいなー)
「オルテ、お前でっかくなったな! もうわたしより背ぇ高いんじゃないか?」
「もう少しかな。姉さんは変わらないね」
「そう簡単に変わってたまるかよ。それより、今日泊まってもいいか?」
「もちろん。いちいち訊かなくてもいいよ。ここは姉さんの家でもあるんだから」
「へへっ、この野郎!」
セラがオルテにヘッドロックをかました。
思春期の男の子にそれは刺激が強すぎるんじゃないかと思うが、姉と弟のようなものだし問題ない。
……ないか?
「それより姉さん、その子は?」
「おっと、忘れてた。こいつはミラ。一応、聖女で魔導士だ」
「ちょっとセラさん! なに速攻でバラしてんですか⁉」
「平気だって。こいつは内気で無口だから、ここのガキども以外に話す相手なんざいねえよ。んでもって孤児院のガキの言うことなんざ、誰も信じやしねえから心配すんな」
「ちょっと姉さん、口が堅いと言ってよ。えっと、オルテです。ミラちゃんだね? よろしく」
オルテがハニカミながら手を差し出して来た。
年齢的に守備範囲外であるが、結構かわいい顔をしているから、将来は期待できそうだ。結婚したらいい夫、いい父親になるだろう。セラと親戚っぽい関係になるのが玉に瑕だ。
「ミラです。できれば今聞いたことは誰にも言わないでください。実は逃亡中なんです」
「え、本当なの? 君が聖女で魔導士って。そういえば、昨日王都で列聖式があったって聞いたような。新しい聖女が誕生するって……」
「それわたしです。事情があって逃げ出して、今はセラさんにかくまってもらってます」
「うわー、どうしよう! 姉さん、聖女さまがいるよ!」
「知ってる。あたしが連れて来た」
「聖女さま、子供たちに祝福を授けてください」
地に跪こうとするオルテを必死で止めた。
「だから秘密にしたかったのに! 悪いけど、わたしにはなにもできないよ。せいぜい、子供たちと遊ぶくらいかな」
「是非お願いします! 聖女さまに触れていただければ、みんな健康に育つはずです」
「その聖女さまってやめてよ」
その後興奮するオルテを宥め、どうにかミラちゃんと呼ばせることができた。
初っ端から疲れたが、これはまだ序の口だった。
孤児院には一〇人の子供たちが暮らしていたので、そりゃもうもみくちゃにされた。
みなミラより小さい。
この世界では一桁の年齢でも働くのは普通なので、遅くとも一〇~一一歳の年齢で自立していくという。一体どこで働くのかと訊けば、鍛冶屋やパン屋、食堂などで住み込みの仕事をしているらしい。環境がいいところばかりではないので、時々逃げ出して戻って来る子もいるとか。
オルテは一三歳だった。住み込みで近所の武器職人の徒弟をしている。孤児院には先生がいるが、頻繁にここを訪れては手伝いをしているのだ。
(なんて素晴らしい勤労少年だ! 前世のわたしに見せてやりたいよ)
ミラは感動し、疲れるが楽しい子供たちとの触れ合いを満喫した。
夕食は孤児たちが栽培している野菜の切れ端と、肉屋で貰った魔物の皮を焼いたものだった。あまりに質素なので、見かねたミラとセラが急遽狩りに出かけ、運よくデザートウルフを仕留めることに成功した。
セラがその場で解体し、新鮮な肉が食卓に並んだ。
「ありがとう。まともな肉は久しぶりだよ。さすが、魔導士部隊の一員だね」
「そんなもん関係ねえよ。さすがあたし。それだけさ」
(なにが違うの? 違うんだろうね、きっと)
セラと子供たちの笑顔を見ていれば、疲れも飛んだ。
食後、嬉しいサプライズがあった。
なんとこの孤児院、温泉があるのだ。
なんでも、ダンジョンに横穴を開けようとしたバカ(セラ)が掘り当てたという。毎日温泉に入り放題だ。
ならば宿でも建てれば儲かると思ったが、この町で温泉は珍しくないそうで、宿には必ず温泉が引かれているらしいのだ。
これもこの町が人を集める理由だろう。
案外ダンジョンがなくなっても、温泉郷として売り出せばなんとかやっていけそうだ。
オルテが子供たちを引き連れ汗を流している間に、ミラは持ち物の確認をすることにした。子供たちの前で出したらあっという間におもちゃにされるであろうガラクタたちを、使えるものと使わないものとにわけて行く。明日はダンジョンだ。気持ちが逸って仕方がない。
「おーい、ミラ。風呂行こうぜ」
「あ。はーい」
オルテたちは上がったようだ。整理したての亜空間ポケットから着替えとタオルを取り出すと、セラと並んで風呂場へと向かった。
脱衣所は広かった。使う人数が多いからだろう。これは浴室も期待できそうだ。扉の向こうから子供たちの声が聞こえている。
「まだ入ってる子がいるのかな?」
「だろうな。ガキにとっては風呂も遊び場だからな」
「だね」
と、笑い合っているうちに服を脱ぎ、いざ浴室へと向かった。
温泉なんて、小学生の頃家族で行った切りだ。
前世では週に一度しかシャワーを浴びていなかった。冬だとどうしても寒くて足が遠のくのだ。
「おっじゃまっしまーす」
ミラは勢いよく浴室の扉を開けた。
「あれ? ミラちゃん?」
「OH……オルテくん」
そこには、丁度子供の背中を流しているオルテがいた。
子供たちは見つめ合う二人を気にすることなくお湯を掛け合って遊んでいる。みな小さい子ばかりなので、当然混浴だ。
だが、さすがにミラの年で一三歳の男の子と一緒に入るのは、この世界の常識に照らしても判断がわかれるところだ。
「えーと、一緒に入る? ミラちゃんがよければだけど」
「よろこんで」
ミラは迷わず浴室に足を踏み入れた。
これはチャンスである。主人公にのみ許された特権、その名も〝ラッキースケベ〟が実現したのだ。
(そしてわたしは、純真無垢な一〇歳児。なにを恐れることがあるのか)
ミラは見た。
そりゃもう、隅から隅まで嘗め回すように観察した。
若くて健康なピチピチ一〇代前半の少年を穴が開くほど見つめてやった。
オルテは子供の世話に忙しく、まったく隠していない。
そもそも、ミラのことも他の子と同じようにしか見ていないので、警戒していないのだ。中身が二七の憐れなバージンだと知ったらどんな顔をするだろう。
それを想像するのもまた一興だった。
無論ミラも隠さない。
元の体の持ち主には悪いが、はっきり言って女性らしい凹凸は皆無なので、隠す意味がない。
それに、こちらが隠して向こうも照れて隠したりしたらどうする。ミラは欲望に忠実だった。
(ヤバイ。全部見られるのって、ちょっと快感かも)
「ミラちゃんはもう大きいから、別に入ると思ってたよ」
「フヒッ。サーセン」
「(フヒ?)もしかして、王都でも姉さんや他の魔導士の人たちと一緒に入ってた?」
「ウス。たまにご一緒させていただいておりやした」
「なら、今日は姉さんと一緒じゃなくていいのかい?」
「アネさんも一緒ッス。多分もうすぐ来るッス」
「なんだって?」
まさか難聴系主人公の素養まであるというのか。オルテ、恐ろしい子! 白目を剥いていると、扉が開き、件の女性セラが入って来た。
「なんだよ、まだガキどもが入ってるじゃねーか。悪いが邪魔するよ。オルテ、そっちに詰めろ」
「ね、姉さん……」
「なんだよ。お、丁度体洗ってんじゃん。背中流してよ。いやー、昔を思い出すなあ」
「うん、懐かしい。懐かしいけど……おかしいでしょう⁉ なんで普通に入ってくるの⁉ せめて隠してよ!」
オルテが真っ赤になって目を背けた。
無理もない。思春期の少年に、セラの裸は刺激が強過ぎる。
セラは着やせするタイプなので、脱ぐと予想外のスタイルの良さに驚かされる。ミラも驚き、そして憎んだ過去がある。
たわわな胸をぷるぷる揺らし、豪快に足を開いて体を洗う綺麗なお姉さんなど直視に堪えないだろう。
「なんだよ、照れてんのか? 別にいいよ見ても。ほら」
「ちょ、やめて! 広げないで!」
「なら、背中流せって」
「自分でできるでしょう! もう、僕出るから!」
「それは困る!」←ミラ。
「オルテよ、お前は久しぶりに会ったお姉ちゃんと、一緒に風呂も入ってくれないのか?」
「もうそんな年じゃないんだよ!」
「いくつんなっても変わらねえよ。お前はあたしの家族だ」
セラがオルテの背中に抱きついた。オルテは真っ赤になって股間を押さえている。
(おっきくなったか⁉ おっきくなっちゃたのか⁉)
ミラは興奮した。
身を乗り出し過ぎてこけそうになった。
しかし、目を離すことだけは決してしなかった。
前を横切ろうとする子を容赦なく押しのけ視界を確保した。
二七にもなってなにしてんだろ……と、ふと冷静になりかけたが見ることに集中した。寂しい女は貪欲なのだ。
「ほら、こっち向けって。お前の成長を確かめてやる」
「やめて、いやあ!」
「おおう、これはなかなか……」
「見たの⁉ ずるい!」←ミラ。
「うわーん、姉さんのバカー!」
オルテはとうとう泣き出し逃げ出した。ミラは拳を壁に打ち付け悔しがった。
「なんだあ、あいつ。変なの。おいミラ、あまり壁殴るな。それ直すの結構大変なんだよ」
「……ねえ、セラさん。どうでした?」
「なにが」
「ナニが」
こうしてメイルスラミスでの夜は更けていく。
明日はいよいよダンジョンへ出発である。
女の子が主人公だと、エロを出す機会が減りますね。




