第一話 神さまとの対面①
死後の世界です。
気が付くと真っ白な部屋にいた。
見渡す限り目の痛くなるような白が続き、部屋というよりも空間と言った方が正しい広さの場所で、心美は目が覚めた。
一体ここはどこだ? なぜ自分はこんな、なにもないところにいる?
疑問が浮かんでは消えていく頭で必死に思い返すと、ようやく自分になにが起きたか理解した。
「……ウソ。わたし死んじゃったの?」
「その通り。残念ながら、君は死にました。心よりお悔やみを申し上げます」
「ぎぃやあああああ⁉」
心美は悲鳴を上げた。いつの間にか目の前に人がいたのだ。
いや、人といっていいのだろうか。恐らく自分に話しかけているだろう声の主は、黒い線で縁取られた人型をしただけの、紙人形のような姿をしていたのだから。
「驚かせてごめんよ。でも安心して? 僕は君たちが言うところの神だ」
「か、神さま……? あなた、頭おかしいんじゃないの? まず見た目からして狂ってるもん。もしかしてテレビ? それともなにかのイベント?」
「混乱しているようだね。残念ながらどちらでもないよ。記憶のサルベージは完了しているはずだからわかるよね? 君がどうなったのか」
顔がないから表情はわからないが、嘘を言っているようには見えないし、なにより心美には記憶があった。
自分は死んだ。道で車に撥ねられ、病院に搬送されて死亡が確認されたのだ。
「……なんで」
「運が悪かったとしか言えないな。朝日が反射してドライバーの視界を一時的に奪い、車の進行方向上に君がいた。それだけさ」
「どうして……そんなことで、わたし死んじゃったの? だってわたし、これから頑張ろうと思ったのに……」
「信じたくないのも無理はない。本当に不運としか言いようがないんだ」
心美は泣いた。
手で顔を覆い、哀しみを喉が痛くなるほどの叫びにして泣き喚いた。
「なんでよ! あんた神さまなんでしょ⁉ なんで助けてくれなかったの!」
「確かに僕は神だけど、不幸な人をすべて助けているわけではないからね。世界に干渉するのは、そこに生きる種族に多大な影響が懸念される場合のみだ」
「つまり、わたしなんか死んでも、どうでもよかったってこと」
「はっきり言ってしまえばその通りだ。君は働きもせず家に引きこもり、すべてに無関心を貫いた。君自身の命にさえもね。そんな人を助けてどうなる?」
「でも、わたし変わろうとした。あの時だって、履歴書を買いに……」
「君一人が就労を決意したからなんなのさ。せいぜい君の両親が喜ぶだけ。人類にはなんの影響もない。むしろ、君があそこで事故に遭う方が、社会にとって有益だ」
「わたしなんか、死んだ方がよかったって言うの?」
「いいや。しかし、あの道で死亡事故が起きたことで、交通標識の設置が進み、安全確認意識を高める効果に繋がった。君は死んだことで、初めて社会に貢献したと言える」
「……そんなのって、ない」
神さまの言うことはもっともだ。自分のような引きこもりの命よりも、毎朝家の前を通る子供たちの未来の方が、何倍も価値がある。
でも、自分は変わろうとしたのだ。
履歴書を買って志望動機を考えて、企業の面接に行こうと決意したのだ。
(それが、こんな、こんなことで……)
不運などと言う理由で、自分の未来が潰されて納得しろと言うのか。
「……ごめん……ごめんなさいっ……!」
「それは、誰に対しての言葉だい?」
「関係、ないでしょ」
「ま。聞かなくてもわかるよ。彼女だろう? 君の社会人として初めての先輩。名前は」
「うるさい! 先輩の名前を口にするな! どうせなにもかも知ってるんでしょ⁉ 先輩は自殺した! 会社で仲間外れにされて上司との変な噂流されて首吊ったんだ!」
WEB小説は初めてなので、ご指摘がありましたら賜りたいです。