第十二話 奇跡と黒頭巾②
短いです。
「ええっと、奇跡かどうかわかりませんが、千里眼を……」
「それはなんだ」
「すごく遠くのものを見ることができます。人の目には不可視な距離、魔法の届かぬ彼方まで、わたしの目は見通すでしょう」
「つまらんな」
(ですよねー。うん、わかってました。自分でも地味だなって思ったもん)
それでも、なにもやらないよりはマシなはず。少なくとも時間は稼げる。
国王は無造作に腕を上げると、節くれだった手で窓を指さした。
「では、あれになにを見る」
国王は窓すら見ていない。一瞬たりともミラから視線を外しはしないのだ。
ミラは一度深呼吸すると、国王の指さす窓、その彼方へと意識を集中した。幸いにも、さっき待合室で見た方角と同じだ。
「荒野の向こう、森の近くに馬に乗った一団が見えます。距離は大体……あ、出ました。ここから二五・二七キロメートル先です。馬の数は二一頭。乗っているのは全員日に焼けた男たちで、そろいの黒いフードを被っています。あっ、リーダーらしき小柄な男が馬を降りました。それに合わせて他の男たちも森に入って……うそやだ、おしっこしてる!」
ミラは頬を染めながらも夢中でガン見し続けた。別に見たいものでもないが、見て損というわけでもない。それに、リーダーは結構いい男なのだ。
「ごほん!」
「おっと失礼。えーっと、こんな感じなんですが、どうでしょう?」
エドガーの咳払いで我に返ったミラは、平静を装ってそう訊ねた。
しかし、なにやら空気がおかしい。誰も言葉を発していないのだが、騎士たちがなにかを探るようにミラを見て、隣合った騎士と視線を交わすのだ。
「二一人の黒頭巾。〝砂漠の影〟か……ふむ、アルトレイムよ。これだから貴様の進言に、余は傾注するのだ。面白いと思わぬか」
「はい。とても」
国王陛下と後ろに控えた男――アルトレイム――が、さも楽し気に笑みを浮かべている。嫌な予感しかしないが、ミラにできることなどありはしない。
「そなたは砂漠の影が、この王都に這入り込むと予言するか」
どうやらあの一団には名前があるらしい。それも、恐らくは悪名の類だ。
「いえ、そこまでは……あ、でも、地図見てますよ。角度が悪いけど、多分王都のものですね。荒くて手作りっぽい感じです。えーっと、王都の西と東をさしてるのかな?」
「腑に落ちんな。王都の西には練兵場と宿舎が、東には貴族の邸宅がある。邸宅には確かに、金目のものくらいあるだろう。だが、なぜ西を気にする? 奴らは盗賊だ。極力戦いを避けることで上手く儲けていると聞く。そんな奴らが王都の兵の配置を調べぬとは思えぬ。一団が兵でひしめく練兵場から潜入するというのか」
「わかりません。ですが、あの人たちが盗賊なら、警戒は必要かと」
「よかろう。エドガー」
「ハッ! ここに」
「ラール騎士団はここのところ城勤めで退屈しておろう」
「決してそのようなことは。みな王宮を警護できることを喜んでおります」
「しかし、余は退屈だ。我が国随一の兵団を腐らせておくのは、国の損失である。然らば、貴様と貴様の率いる兵に森での訓練を科す。出発は本日真夜中。想定内容は王都の北西、ロウルトの森に盗賊が潜んでいると仮定する。捕らえて見せよ。期間は一〇日間だ。行け」
ミラにも国王がなにを言っているのか理解できた。
これは嫌がらせだ。おかしなことを口走った子供に対する当てつけなのだ。エドガーは運悪く貧乏くじを引かされたことになる。
「陛下、一つ確認がございます」
「なんだ?」
「賊を捕らえた場合、訓練期間を繰り上げて王都へ帰還する許可をいただきたい」
謁見の間が騒然とした。誰もが息を呑み、エドガーを見つめている。エドガーは出会ったときとまったく同じ目で国王を見つめていた。
「よかろう。だが、訓練期間は一四日間に変更する」
「かしこまりました。必ずや陛下のご期待に沿えるよう、誠心誠意邁進いたします」
エドガーが巨体に似合わぬキビキビとした足取りで部屋を出て、同時にミラの謁見も終了した。
不用意な発言が誤解や問題を生むことってありますよね。




