放課後の掃除
「……そんなことがあったのですか」
放課後、式たちはそれぞれ手に入れた情報を交換し合っていた。
その中で、式は先ほどの志穂との問答について話していた。
「うん。答え言ったら笑われちゃったよ」
「それはそうですよ。そんな答えじゃ」
「なら、榊さんはどういう答えを出すの?」
式が尋ねる。
「もちろん、未来の可能性ですよ」
「え!?」
式と春崎は目を丸くしている。
「私たち子供には、様々な未来の可能性が秘められています。今は力が及ばなくても、今から努力すればなんだってなれるはずです。だからこそ、日々の勉強が必要なのです。志穂ちゃんはそれを伝えたかったのでしょう」
「……それならさ、その答えを志穂ちゃんに言ってみてよ」
「いいですよ」
榊は自信満々な様子で志穂を探しに行った。
「……どっからあんな自信が出てくるんだろう。まさかとは思うけど、本気であれが答えだと思っているわけじゃないよね」
「……さあ」
流石の春崎も苦笑いをしている。
しばらくして、榊が戻ってきた。
「……思いっきり笑われてしまいました」
「そりゃそうでしょ」
「何故でしょうか。私なりに自信を持った回答だったのですが……」
「まあ、それが榊さんの魅力だよ。何事にも真面目で」
春崎がフォローにもならない励ましをする。
「そんなことより、今日はどうするの?」
「これ以上調べても、似たような情報しか手に入らないのではないでしょうか」
「確かに、これ以上は俺たちじゃ大した情報を手に入れられそうにないかも」
「じゃあ今日は普通に帰ろっか」
「そうですね」
「じゃあ、軽く掃除を済ませちゃおっか」
本来この学校では昼休みの後に清掃があるのだが、式たちはボランティアとして放課後にも清掃を行っていた。これは春崎からの提案で、今後教師になったときのためにも行ってみたいという想いからだった。
「じゃあ、俺はこっちの机から運ぶよ」
式は窓際の一番後ろにある机を持った。
「うわ、結構重いな」
「うそー。そんなに重くないでしょ」
春崎は軽々と机を持ち上げる。
「式くん……」
榊は残念そうな目で式を見た。
「式くん、そんなに筋力ないの?」
「そ、そんなことあるわけないだろ。流石に女子に負けるほどなんてことは……」
「式くんは机一つで苦労しているようなので、私たちが残りを片付けてしまいますね」
榊がからかい半分で言った。言葉通り、式が運んでいる机以外のすべてを片付けてしまった。
「ご、ごめん。何か足手まといみたいだね」
「そんなことないですよ。さあ早く掃除を終わらせましょう」
その後も三人はテキパキと掃除を進めていた。
もう間もなく掃除が終わろうとしていたそのとき、
「あれ、なにやってるんですか?」
「お兄さんたち、また掃除やってるの?」
と三上志穂と水元空が現れた。
「あ、志穂ちゃんと空ちゃん。ボランティアで掃除をやってるんだよー」
「へえ、ご苦労なことですね」
「志穂ちゃん、ちょっと失礼でしょ。私たちも手伝いますよ!」
「はあ、仕方ないな」
そういって二人は掃除を手伝いだした。
水元空はゴミ取りを、三上志穂は窓際の一番後ろにある机を運び出した。
「私たちもやりましょう。ボランティアでやっているのに、二人ばかりにやらせてはいけませんから」
「そうだね」
式たちも残りの作業を片付け始めた。
「……うん、こんなもんかな」
数十分後、式たちは綺麗に片付いた教室を眺めていた。
どこもピカピカに磨かれている。明日からも快適に勉強ができそうだ。
「じゃあ私たちは帰りますね」
「さようなら」
小学生の二人は挨拶を交わして立ち去った。
「じゃあ私たちも帰ろう」
「はい」
「うん」
春崎の一声で、式たちも帰路についた。
学校から出る途中、式は校長の加藤に出会った。
「あら、式さん。本日はお帰りですか?」
「ええ。また明日よろしくお願いします」
「はい。それでは」
そういって加藤は式の前から立ち去った。
式は、立ち去る加藤の周りから何やら黒いオーラのようなものが見えた気がした。それはまるで、死期が近いことを表しているようだった。
「……まあ気のせいだろ」
そういって式は気に留めず帰宅した。
このとき式は気づくべきだったのかもしれない。既に事件は起こっていたということに。