子供が大人よりも自由なもの
「それで、君はなんで殺人なんかを犯したんだ?」
小学四年生の少女に園田が尋ねる。
「動機、ですか。色々あるんですが、それを言う前にお兄さんに答えを聞きたいな」
「答え?」
「質問したでしょ。子供が大人よりも自由なものって、何だと思う? って」
「……その答え、今必要かな?」
式と志穂はお互いに視線を交わし合う。
「うん。あなたはどういう答えを出したのかな」
「その答え気になるけど、式くんわかってるの?」
「……君が犯人だということが、答えみたいなものだろ」
「ふふ。正解」
式の答えを理解できたものは、志穂以外にいなかった。
「どういうこと?」
「わからないの、お姉さん。答えは『犯罪』だよ。大人は厳しい処罰を受けることになるけど、私たちのような子供は大した罪も背負わずに生きることができるんだよ」
志穂が放った冷酷な言葉に、その場の全員が息をのんだ。
「特に、少年院送致処分を受けない10歳以下の子供は、犯罪になることもないし、気楽なものだよ」
「何言ってるの、君は……」
春崎が信じられないといった表情を浮かべながら尋ねる。
「だって、国が保証してくれてるじゃない。14歳以下の子供は犯罪として扱われないし、10歳未満の子供は少年院送致処分も受けませんから自由に犯罪をしていいですよって」
「法律をそんな風に解釈するなんてね……」
流石の式も冷や汗をかいている。
「犯罪を自由にやれるのは子供のときしかない。お兄さんたちもギリギリ大丈夫でしょ。せっかくだから殺人とかやってみたら?」
「ふざけないでよ。そんなことやるわけがない」
「そうだよ。人を殺すなんてどうかしてるよ!」
「そうかな。アリの巣爆破したり、トンボの羽むしったりするのと変わらなかったよ」
志穂の言葉を聞き、式は彼女とは根本的に感覚が違うのだ、ということを理解した。
「ま、もちろんそれだけが理由じゃないけどね。あの男を殺したんだから二つ目の理由はわかるでしょ」
「……やっぱり、佐野未来ちゃんが関連しているのか」
「うん。あの子は私の命の恩人だからさ、敵は取ってあげたかったんだ」
「命の恩人とはどういうことだ?」
その意味を多田が問う。
「……その様子だと、多田先生は知らないのかな。私が殺した二人はとんでもない屑だってことを」
「聞かれてくれ」
「わかった」
志穂は淡々と語り始めた。
 




