新たな情報と気づき
「式くん、戻ってきましたか」
学校に戻った式は、まず榊たちの話から聞くことにした。
「何か新しい発見はあった?」
「はい。まずは式くんが気になっていた石のことですが、あの石を昨日の五時くらいに見かけたという証言があります。つまり石がなくなったのはその後ということになりますね」
「なるほど」
「それともう一つ。あの石は鉄鉱石のようです。なので磁石などにくっつく特性があるようですね」
「鉄鉱石……」
式は考え込む。
「続いて、昨日事件が起きた時刻である六時の前後一時間の間に学校にいた人物たちが特定できました。あの日教室を掃除していた私たち五人と、教員は多田先生のみだったようです」
「多田先生だけ? 他の先生は何やってたの」
「他の先生方は児童たちの下校の見守りや地域のパトロールに駆り出されていたようです。しかし多田先生は加藤先生と打ち合わせがあったようで、唯一学校に残っていたみたいですね」
つまり、犯行が可能だったのは六人ということになる。
「もちろん、何かしらのトリックがあって離れている場所から殺害した可能性もありますから一概には言えません。しかしこれでもし学校にいた人物が犯人であるということが判明できればかなり絞ることができます」
「うん。でも、問題はアパートで起きた殺人なんだよね」
「そういえば、そちらはどのような事件なんですか?」
「ああ、実は……」
式はアパートで起きた事件について話した。
「なるほど、佐野さんが殺害されてしまったと。それでこの二つの事件は何か関連性があるのではないかと疑っているのですね」
「うん。無関係とは思えない。とはいえ、まだどういった関連性があるのかはわからないし、そもそも各事件の謎についてもまだ完全に解けていないんだ。まずはそこの謎を解くところから始めなきゃ」
「検討もついてないのですか?」
「うーん、殺害方法については確証はないけどもしかしたら、ってのはあるかな。でも犯人が誰なのかがわからないんだよね」
「まだ情報が必要でしょうか」
「そうかもしれない。とりあえずまずは昨日の出来事を思い返してみよう」
式は昨日の出来事を思い返してみる。
(昨日は教育実習二日目で、一日目と同じく四年二組の授業の補助を行った。放課後までは何事もなく終わったし、放課後に行ったのはボランティアの掃除だった……。その掃除に参加したのは俺と榊さん、春崎さん、水元空、三上志穂の五人。とはいっても水元空と三上志穂は途中からの参加で、終わった後も真っ先に帰って行った。掃除が終わった後に家に帰ろうとしたところ、加藤先生と会った。そしてその後に加藤先生は殺された。そしてほぼ同時刻に、花壇を囲っていた鉄鉱石の一つがなくなった。その石はおそらく犯人が持って行ったものと思われる。何故犯人が鉄鉱石を持って行ったのかはわからない。そもそも、あの鉄鉱石をどうやって持って帰ったのか……)
鉄鉱石は漬物石ほどの大きさがある。手で抱えていくことも出来なくはないが、それほどの大きさの石を持って歩いていたら流石に不審だ。
(犯人がどこまで石を持って行ったのかはわからないけど、石をそのまま持っていったら誰かに見られたときに疑問に思われる。そんなリスクを負ってまで、石を持ち運ぶ意味なんてあるのか……)
そこまで考えて、式はあることに気が付いた。
(待てよ。もしかしたら……)
その気づきが、式にある答えへと導きだす。
(まさか……!)
式は近くにいる刑事に、
「すみません、四年二組の教室まで行っていいですか!?」
と尋ねた。
「あ、ああ。構わないが」
その言葉を聞いた式は急いで四年二組の教室へと向かった。
教室についた式は、そこにある机をひょいと持ち上げた。
「……」
「ど、どうしたのですか式くん」
慌ててついてきた榊が尋ねる。
「そうか。だから……」
式はぶつぶつと呟いた後、
「榊さん、もしかしたら犯人がわかったかもしれない」
と言った。
 




