取り調べと推理
「まずは式くんから入ってくれ」
「わかりました」
式は別室へと案内された。
「さて、君に聞きたいのは昨日の放課後にどこで何をやっていたかなんだけど……」
「それなら、榊さんと話すことはだいたい同じになると思います。僕たち三人は四年二組の教室で掃除をしていました。そのクラスの生徒である水元空さんと川上志穂さんも途中から参加してくれました」
「その後は?」
「掃除が終わった後は、最初に水元空さんと川上志穂さんが教室を後にしました。僕たち三人は別々に家に帰ることになったので、僕も学校から出ようとしたら、加藤先生と会いました」
式は昨日の出来事を思い出しながら話す。
「加藤先生と会ったのは何時くらいかな?」
「そうですね……。時計を見たわけじゃないので正確な時間はわからないんですが、六時前なんじゃないかって思います。家に着いたのが六時半くらいで、この学校から家までは約三十分ほどはかかるので」
「なるほど。その時会った加藤先生は何か変わった様子はなかったかな?」
「特に何も。ただ……」
「ただ?」
式は話すべきかを迷う。
「事件と直接関係ないかと思いますが、何か黒いオーラのようなものが見えたんです。今思えば、それはこういうことになってしまう予兆だったのかもしれません」
「そうか……。ありがとう、話してくれて。取り調べはもう終わりだから、次は春崎さんを呼んできてくれるかな」
「わかりました」
式は外で待っていた春崎を呼んだ。
春崎が取り調べを受けている間に、これまでの情報を整理することにしよう。
(加藤先生は六時前までは生きていた。俺が今日登校してきたのは朝七時くらい。ということは、昨日六時から今朝七時までの間に殺人が行われたということになる。けど今日児童たちの話を聞いた限りじゃ、夜に犯行が行われたということは考えにくい。松木高志の話では夜七時にはセキュリティが作動するようだから、加藤先生が殺されたのは六時から七時までの一時間ということか)
殺害時刻に関しては、死体を検死すれば判明するのだから警察は既に知っているだろう。
(犯人が誰かということだけど、まず外部犯は考えられない。全くの赤の他人が学校内をうろついていたら誰かに見つかる可能性が高いし、夜に忍び込むのもセキュリティがあるから難しい。だから犯行を行ったのは児童か教師かってことになるけど、水元空がいうには児童では殺すのは体格的に難しいという。しかし六年生となれば体格的な問題はクリアできる可能性があるから、決して不可能であるとは言えない)
ここまで整理して式は、ある事実に気づいた。
(待てよ、そもそも何で加藤先生はトイレで殺されていたんだ? トイレに入ろうとしたところを殺された?)
式は死体の状況を思い出す。
(いや、死体が倒れていた向きは頭が廊下側だった。つまり加藤先生はトイレから出ようとしたところを殺されたんだ。ということは、犯人は殺すときはトイレにいたということか? 例えば……)
式は一連の犯行を想像する。
(まず、加藤先生がトイレの一番奥の個室に入る。次にその様子を見ていた犯人がトイレに入り、個室のどこかに隠れる。そして加藤先生がトイレから出ていくのを見計らって後ろから鈍器で殴る。これが出来るのは、加藤先生と体格がそう変わらないか、大きい人に限られるから、教員の誰かである確率が高いが……)
そこまで考え、式は訂正する。
(……いや、小学生の中にも背丈が大きい子はいるから教員でなくてもいいし、これでは入口にあった糸切れと死体が濡れていた説明がつかない。あの二つは一体なにを意味しているんだ?)
その二つの意味を知るには、今の情報では少ないのかもしれない。
(もう少し調べてみる必要があるな。現場やその付近を見てみたいけど、もう警察の介入があるから見ることはできないよなあ。ダメ元で隼人さんに頼み込んでみるか……)
とりあえず式は取り調べが終わるのを待つことにした。




