ラッチェット FPS・プロの腕
今回は単発シナリオです。
設定とストーリーは一応ありますので多分近いうちにこれもちょくちょく作品としてあげることになると思います。
片方の作品を楽しみにしている方々に申し訳ありません。続きをちゃんと書いて投稿します。
今回の単発アクションゲーム系シナリオを楽しんでもらえたらと思います!
「で、今日も腕鳴らしでいいの?」
暑い夏の夕暮れに対抗する手段として、俺たち3人は野々宮祐也の家に集まって、クーラーがかかった部屋でゲームすることにした。
野々宮咲良は窓のカーテンを閉めて電気を付けたあと、席についてパソコンを立ち上げた。
同時に祐也は冷蔵庫からお茶を取り出して、小机に座った。俺はその小机で既にゲームにログインしていた。
「そんなかんじかな。広原もいないし。」
「ちなみに洋介、明日のレポート終わった?」
問いかけに肩をピクッとさせた。
「…やったかもだけど、覚えてない…」
咲良も祐也もため息をついて、2人揃って嘆いた。
「またですか…」
「またかよ!」
俺は2人のあまりにも酷いリアクションに対して精神的にダメージを負ってしまったのだ。そんなにいつもやってるわけじゃないだろう。
気づけば先週もギリギリ締め切りまでレポートに手を付けず、徹夜するハメになった事が2,3回もあった気がする。
口出しが出来ない俺は黙って涙を1粒流した。
「ごめん、ちゃんとやります。」
「今日は3戦で終わりってことで。」
「え、私も?」
咲良が聞いたのと同時にぐるっと椅子で回った。不満は分かる。他人のせいでやりたいゲームを止めるとはいい迷惑だからな。
「いいよ、俺帰ってレポートするから。」
「帰ったら逆にゲームするだろう、お前!」
否定出来ないのは悔しい。
「俺が手伝うからここでちゃんとやれ。」
「あの、私も止めないと行けないの?」
咲良はまた聞くと当たり前のように祐也は答えた。
「それぐらい我慢しようよ。」
むーと咲良が頬を膨らませて見せた。高校生になったばかりの女の子って可愛いよな。
高校に通ってないのは残念と思ってるんだけどな。いや、本当だよ?
ゲームができる女の子、それもFPSの達人はあまり見かけないため貴重な存在と思うが、やはり普通の女の子のように出かけたり友達を作ったりすることも大事と思うんだ。
健康的な生活とか言わないが、とにかくゲームだけの人生はちょっと寂しいとおもう。
ゲームのマッチングを3人で始めて、試合が始まるのを待っている間に俺はふと思ってポツリと言った。
「今度食べにでも出かけようか、咲良?」
「え?」
「はっ?」
二人揃って疑問の声があがった。変なことでも言った?
「そ、それは」
「気をつけろよ、お前…」
鬼の形相をしてるお兄ちゃん。はっきり言ってめっちゃ怖い!
なんて言っている間マッチが始まった。
いつも通り俺は足の早い歩兵を選んでフィールドでボット狩りをすることにした。祐也はどうやらショットガンで少しプレイスタイルを変えたみたいで、咲良はいつも通りのスナイパーで向こうのチームのプレイヤーの牽制を担当している。
開幕は腕鳴らしのような感じでゲームを進めているのでキル数をあまり気にしていない。撃てたら撃ち、とにかく調子に入るようゲームの感覚を意識しながらの戦いをする。
そんなラウンドのはずだった。
「うわっ!アイツやるな」
祐也が殺されたようで感心したように言った。結構強い人が向こうのチームにいるみたいだ。
「誰?」と俺は聞くと祐也は簡潔に答えた。
「ratchet何とかだな」
「へ?」
咲良は反応した。
同時にそのラッチェットとやらプレイヤーがいつの間にこっち側に侵入し銃を俺に向けた。慌てて標準を合わせようとしたが、撃ち合いで向こうが早かった。
「やべ!咲良、来たぞ」
リスポーンを待っている間チラッと咲良の画面を覗き込んだ。難しい顔で標準を頑張って相手に合わせようとしている咲良は初めて見たのかもしれない。
動きが速く、予想も出来ないパターンを辿っていた。ラッチェットというプレイヤーは建物に入り、予想しかねる出口から出てはまた距離を詰める。やがて射程内に入るとラッチェットは咲良を撃ち抜いた。
なんだこいつ、強すぎ!
咲良はそれに黙り込んだ。かなりのショックを受けているようだった。まさか最初のゲームにバケモノに会うとは予想するはずがなかったのだろう。
「まぁ、ドンマイ」
とでも言ってみたが、言葉が通らなかった。
「会いたかったよ…このクソが!!」
咲良?!
スナイパーのハズの咲良がいきなりリスポーンしたら戦場を走り込んだ。手にはサブマシンガン、その他の装備は高速歩兵が扱うブーストなどのバフ系アビリティ。
咲良は乱戦に特化した兵士と変身した。行動や言動も一気に怖くなった。
「ど、どうしたんだ!?」
敵に見つかっては撃ち方を受ける咲良はそれらを構わず避けた。弾幕の中を踊るように建物に入り込んでは撃ち返し、敵を一掃したらまた走り出した。
「邪魔すんなオラァ!」
興奮してるこいつ!
キル数を貯めてながら咲良は戦場の中を暴れている。撃つ敵は弾を避けられ、頭を彼女のハンドガンで抜かれてしまう。
乱暴だが完璧なプレイをしている咲良は圧倒的な戦力であった。
その豹変の原因をやがて俺たちも知るようになる。
マップの片端にラッチェットは狩りをしていた。スコアボードを見れば1~2分も経たず既に20もの敵をキルしていた。
そんなバケモノに咲良は駆け込んだ。
「見つけた、この野郎!今度こそ殺してやる!」
標準を合わせず咲良はマシンガンで撃ち始めた。1発はラッチェットの胴体に当たったようだがそれに気づいたラッチェットの反応が速かった。走り出し始めたラッチェットは頑張って咲良の撃ち方を逃れようとしたが彼女の標準を前にしてそれは無駄なあがきだった。
「よっし、いっぱつかましてやったぜ!」
キルしたみたい。けど、それで戦いが終わった訳ではない。
リスポーンしたラッチェットはすぐに咲良を狙いだした。
画面の向こう側にはラッチェットのニヤっとした顔を思い浮かぶ。同格のプレイヤーがこんな時間にオンラインしていると思っていなかったのだろう。
あのバケモノがフィールドを駆け抜けて、撃とうとする愚かなプレイヤーは無情に撃ち落とされ、彼の敵は皆一発も与えられなかった。全ての弾を予測していたかの様に標準を避けていた。
素早く、そして華麗に駆け出すあのプレイヤーに憧れてしまった。
そして咲良の位置に近づくと彼は標準を合わせてハンドガンで一発を撃ち、足音に気づいた咲良はその弾を間一髪で避けて慌てて一発を飛ばした。
その交わった一弾から2人の戦いは始まった。
「かかってこいや、コラァ!!」
咲良は初めにフラググレネードを構えて2秒を正確に測りながら遮蔽物に隠れた。ラッチェットは追い込みに行ったが途中で作戦を変更したらしく遮蔽物から遠ざけてジャンプ。そのタイミングに咲良はフラグを投げて隠れた場所から出て銃を構えた。
フラグを予想したラッチェットは咲良出る位置に標準を合わせて撃ち方を始めたが、咲良も速かった。一発は当たったがキャラのスキルである高速移動を発動し標準を逃れた。横に位置を定めて打ち出した。
ラッチェットは一瞬の如くそれに対応して彼のキャラのスキル、瞬間移動ブリンクで弾を避けた。
2人はマガジンを空にし、そしてほぼ同じタイミングでスキルを発動したため、リロードとクールダウンを待つために互いは遮蔽物に隠れた。
「無駄に逃げ足が速い野郎が…」
ますます怖くなっていく咲良だった。
「一人援護に行った」
祐也は言ったら俺も気づいた。味方チームの1人のスナイパーは高台に位置についてライフルを構えているところが見えた。一発を放ったがキルレポを確認する限り殺せなかったようだ。
肝心のラッチェットはリロードしながらずっとキャラを動かしていたのだ。標準がうまく定まらなかった訳だ。
それだけだったら良かったのだが。
あのバケモノはその1発でスナイパーを位置を特定出来たらしくスナイパーの方に向いて、テルミットスターという手裏剣みたいなグレネード系装備品を投げてスナイパーを殺した。
距離はそれなりにあったのでかなり上に傾けなければならないため投げる際、スナイパーの場所が一瞬でも画面に映らないはずだった。それでも直撃するとは人間を超える能力としか言いようがない。
やり込みすぎだろお前!?
同時に咲良の方に駆けつけようとしていたら、咲良の隠れている所に近づくプレイヤーを発見。そいつを撃ち落とそうとしたが俺の武器の射程距離外にいたせいで弾がうまく当たらなかった。
「咲良、一人来てる。」
気をつけろと付け加える前に咲良そのプレイヤーの存在に気づき、回り込んで背後を取ってそのプレイヤーを近接攻撃で一発くらました。遠くから処刑モーションに入ったことが見えた。相手は悔しい思いしているんだろうな。
「邪魔すんじゃねえぞ、ボケ!」
うん、咲良は1人でも大丈夫だろう。とりあえず他のプレイヤーと戯れるとしようか。どうせバケモノの戦いには俺なんか虫と対等だし。だからお願い。
俺が知っている可愛い咲良ちゃんを返してー!
とかなんか言っている間に背後から弾を打ち込れた。ラッチェットに殺されたのだ。対応が早すぎやろ!
キルカメラでは2発頭をキレイに当たったみたいだが、それはおかしい。動いていたし何でハンドガンであんな距離でもあたるだよ?!
もうイヤだ…おうち帰る!
咲良とラッチェットの戦闘がまた始まった。今度は2人、互いに駆け込みながらアサルトを撃ち始めた。避けながらの撃ち方だったのでさすがの2人でも当てることは難しかったのか互いはまだ生きている。
画面に映らなくなった互いはスキルわ発動し標準が合わせられるような位置に付き。マガジンが空になるまで残りの弾を互いに避けながら撃ち合った。
遮蔽物の表に出ては撃ってまた隠れる。そしてメイン武器のマガジンがカラになったら次はまたお互いの方向に駆け込んでハンドガンで撃つ。咲良は途中スプリントスライドをして撃ち続けたが、それを読まれたらしくラッチェットは飛び跳ねて頑張って頭に弾を撃ち込もうとしていた。
そして両武器のマガジンを流してしまった2人にリロードの暇がなかったらしく、咲良はグレネードを足場に投げた同時にラッチェットはその咲良に駆け込んで近接攻撃をくらましてキルした。
「クソ!」
咲良はなんて言ったが、ラッチェットが油断していたようで足元にあるグレネードに気づかなく、その場でリロードをしていたら爆発で死んでしまった。
ラッチェットもそうだけど、咲良もやるな。リスポーンして2人はまたマップの真ん中に駆け込んでいた。
またタイマンする気かよ!?
試合の時間は残り1分を切っていた。前半では向こうチームが優勢だったのだが、咲良とあのバケモノがずっとイチャイチャしていたので向こうのチームの最強プレイヤーが活躍しなくなって、こっちが有利になった。
二人の戦いの間俺達もサボってなんかいなかった。地味に敵を倒したり、撃ったり、殺されたりしていた。楽しく頑張った結果、俺達のチームはスコアで150対123で勝利した。
「おりゃあ!」
咲良とラッチェットはちょうどマッチが終了する寸前に互いに遭遇して、一発を互いの胴体に当たったが、致命傷にはならなかった。
「へ?終わった?」
時間に気づいていなかったようだ。
「そうだよ。お前2人で10分も掛けてのタイマンしてたんだぞ。夢中にも程があるだろう。」
「ごめん。全く試合していなかったのね」
そう言った咲良は疲れたようで背伸びをした。かなり盛り上がった戦いだったから無理もないだろう。
「で、次の戦をやる?」
と俺は問いかけてみたが予想通りに
「いや、私はもう疲れた。こってた1戦だったし、満腹です。」
咲良はログアウトをしてパソコンの画面から離れた。
「晩御飯の支度するね」
と言い残して咲良はキッチンへ。
それにしてもあれはなかなか見れない光景だった。二人の超高次元のプレイヤーがオンラインFPSマッチでタイマンすることは夢にも見ない。
出来ればアレを動画にしたかったが、今回は残念だ。
「すごかったな、ラッチェットと咲良。」
「全くだ。今までゲームしている所で一番イキイキしていた。」
あれはイキイキと言えるのか。殺意だけ感じ取れて、ずっと怖いとしか思えなかった。
でも、確かに楽しそうだった。咲良ぐらいの腕になれば対等の相手はそうそういないだろう。並のプレイヤーを狩るだけじゃ面白くもないだろうから、今回の1戦はきっと新鮮な経験だったのだろう。
少ししたら祐也もログアウトしていることに気づいた。
「どうした?お前も疲れた?」
「ああ、そうだな。」
嫌な笑を浮かべながら祐也は禁じられていた言葉を口にした。
「ゲームが終わったし、レポートでもしようかと思ってな。お前もだろ?」
忘れてた…
そしてその夜、晩御飯まではレポートと課題と小テスト対策勉強をして、健康的な時間に友達の家で寝ました。
めでたしめでたし。
大学でのゲーマー生活は辛いなぁ。