いつか世界が滅びますように ~拷火の三刻前 編~
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「………もうすぐ着きます」
『──ィ、─……気───て………ぃ、え』
「………はい。必ず任務完遂まで、生き残ります。だから──」
『────ザザッ…────ザ──』
「……母様も、気をつけて──」
言葉の直後、見ていた『窓』が一面黒くなった。
今まで優しい声を届けていたモノが黙り、声に声を返していた少女も口を紡ぐ。
色の無い眼前を見つめて。
色の有った眼前を思い出して。
その緑黄色の瞳に浮かぶ……雫を振り払って。
次に窓が描く外の赤黒い光景を眼で呑んだ……。
──地獄の空を、翼を持たぬ箱が駆ける。
この箱は船。
人を助け、才を守り、遥か彼方へ運ぶ物。
船は内を晒さないが、船の中にいる少女は明かされた外に──船が映す地獄の街に、残る雫を焼かれた。
……元は旧都。
宗教的建築物で溢れ、この世の絶望に心潰す者達に救いの場を施していた街。……けれど、救いなど所詮残虐な炎に被せただけの布切れだと示された街。
少女が覗く場所は今、生き物だった変異体『オルス汚染物』による、生体腐食と人権の崩壊で『街』を消そうとしていた。
そんな場所の上空を滑る箱船の役目は、拡がる汚染に捕らわれずに逃げ延びようとする街の者を回収し、安全な隔離へと運送する事。
この少女は、その任を担う誘導員の一人。
『セルフィ・クレヴァ』。
幼くも淡麗な髪は色素を失い白く、おざなりに波打つ毛先が擽る新品の制服は機能的で、軽装でありながらも防護に抜かりの無い濃色仕様。
コート状の上着の合間から覗く誘導照銃が納められた三重ベルトが、プロテクターを内蔵したスラックスを締め付ける。
正規の構成員として動く者とは言え、彼女はまだ十の年を数えたばかり。
左腕に刺繍された六角図形規格の正規局章を握る手は小さく、儚い。──しかし、輸送機の窓に映る外の映像を睨み、少女は船が地に近付くにつれて奥歯を強く噛み締める。
今から此処にいるのは子供じゃない。
母恋しと泣いた娘は泣き疲れて眠った。
では、私はこの子をも帰そう。
『己の任に救われる最後の一人』にしよう。
──彼女は強く心に刻む。
絶対、帰りますと。
……絶対、帰れますようにと。
まだこの街に、人々が崇めた神様が居るのなら、是非、この願いを聞いていてくださいと願いながら……。
人材救助後援班所属──セルフィ・クレヴァは、船内に流れた任務開始の号令に、「はいッ!」と応えた────!
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