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9:すぐ骨になるのも不思議

 地震でもあったのか、と最初の一瞬、そう思った。

 だけど、さっきまでいた部屋の様子を思えばそうじゃないことぐらい、すぐわかる。

 つまり、この部屋は。


「何でこんな……きったないのよ!?」


 悲鳴をあげたわたしに、ヒゲジジイが眉根を寄せる。


「ええから、そこを退け」

「まさか、ここに寝かせる気なの!?」

「他にどうするというんだ」


 弓の人が邪魔だ、とまで付けてわたしを押しのける。その勢いで、わたしも部屋の中に入り込んでしまう形になった。

 ……正直、部屋の中、直視したくない。

 さっきの部屋でも、窓は大きなものではなく、木の板を跳ね上げてつっかえ棒をする形のものがいくつか有るだけだった。こっちの部屋には、窓がそもそも見当たらない。

 薄暗い部屋の中で、ヒゲジジイが石をこすり合わせる。火打ち石……なのかな。何をしているのかはよく見えなかったけれど、すぐに、灯りがついた。

 むわり、油の……いや、違うなこれ。たぶん、『脂』のにおいがした。

 これだめ、臭いだけで胸焼けしそう!

 思わず鼻をつまむ。

 灯りがついたせいで、部屋の中もよく見える。見えてしまう。

 ベッドというには簡素なものが、いくつか並んでいる。多分どれもシーツはもともと、白かったんだと思う。だけどいまや、それらは全部、灰色と黄色と茶色……何が原因なのか思いもよらない色で、薄灰色に染まっている。

 足元だって、散らかるに任せているのがわかる。隅に転がっている革靴が白いまだらに見えたけど、ぱっと見ただけでその正体に思い至ってしまった。えづきそうになったけれど、鼻をつまんでいたせいというかおかげというか、胃の中のものが逆流せずにすんだ。そのかわり、肺がひきつって痛い。

 そうこうしている間に、ベッドに横たえられたベル君の鎧が脱がされていた。

 随分と分厚い服だ。やっぱり鎧の下ってイチゴパンツだけってわけじゃないんだね。わかってた、わかってたけど。とにかく、服にじわりと、赤い色が染みを作っている。脱がせるよりも早いということか、ヒゲジジイはどこから出したのかもわからないナイフでざざっとそれを切っていく。手慣れているのか、意識のないベル君はあっという間に下着姿になった。

 見た目ほど、派手な怪我じゃないことはわたしにもひと目でわかった。

 頭からも出血している、というか頭からの血が多いみたいで、そういえば顔とかってよく血が出るようになっているんだっけ。青黒い打撲痕が、胸やお腹――なんというか、綺麗な細マッチョだ――にいくつもできていた。

 それでも、二の腕あたりに大きく、深い切り傷が何本かあった。

 そういえば甲冑とか鎧とか認識してたけど、腕とかの、可動域とでも言うんだろうか。そういった場所は金属で覆っていなかったな、と思い出す。馬に乗った時にわたしを支えていた手だって、剣道着の小手みたいなのはあったけど指先は出ていたし。

 なんとなくぼーっと見ていたが、ヒゲジジイがその怪我を確認したと思いきや、そのあたりのシーツを裂いて――え、ちょっとまさか。


「そのまま包帯にするつもり!?」

「そうだが」


 おもわず叫んだわたしに即答した弓の人の声は、その行為に何の疑問も感じていないようだった。

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