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75:ナイフと、毒と、絶体絶命

「でもさあ……あいたたたっ! 折れる抜ける!」


 思いつきを言おうとしたわたしの腕が、更に強くねじりあげられた。痛いってのこのやろ!

 腕の恨みがあるせいもあってか、顔を一層険しくしたゼネガンが腰を低く下げて腰に手を添えようとして、すっごい微妙な顔をしてから姿勢を正した。

 あー……うん、ベル君とロンゴイルさんを見る限り、ゼネガンもかつてはそこに剣をさげていたんだろう。だけど柄を探るように右手を動かした結果、固定されたホウキモドキが地面を掃除しただけだ。

 一方の、剣を持ってる二人はと言うとこれも、わたしが捕まっているせいだろう。いつでも剣を抜けるように、とは構えているようだが、どうしたものかと動きあぐねているようだ。


「とりっ……あえずさあ!」


 このまま捻り上げられっぱなしじゃあいつかわたしの腕が伸びてしまいかねない。ヨガって言ったら炎が吹けるわけでもなし、そんなことになれば無事ではすまないので、声を張り上げてみた。


「結局、女の子だったわけじゃない! なんか問題あるわけ!?」

「性別なんてさっき知ったところだよ」


 元ターバン男は、諦めの境地に達した藤原啓治みたいな声でそう囁く。

 くっそ腹がたつので、ターバンもほくろもないこともあり、今後はケイジ(仮)呼ばわりすることにした。そのうちニコラスがついて前髪の行方に震え上がるがいい。

 ケイジ(仮)はそのまま、軽く説明をしてくれた。


「いいか? 俺が情報収集もしてた可能性があるだろ。

 その中で、変な話を聞いたら、利用しようとか思わないか?」

「変な話?」


 確認は質問ではない、ということだろうか。語尾が上がったのを聞いた時にはぎくりとしたが、変な内容を口走らなくて良かったと、心中で胸をなでおろす。


「そう、すごく変な話だ。

 掃除職がいきなり廃止の方向だなんて話が出て来るだけでも、充分変だろ。

 それに、死ぬだろうなァって言われてたお嬢さんが助かりそうだって話も、やっぱり変だ。

 どっちにも同じ女が関わってるって知ってみろ。

 どうだ、めちゃくちゃ変な話だろ」


 冷静に言われると、そういやそうか、みたいな気分になる。

 目立ちすぎたのかもしれない。自分が見てて不快だったことも、助けることができるかもしれないと動いたことも、わたしにとっては普通のことでも、この世界にとっては異端だった。

 だけど、仕方ないじゃないか。目立たずにいよう、なんて思ったのはその後のはなし、昨日のことだ。


「掃除職なんて、奴隷の見せびらかしが最初の目的だったんだろうけど、偉いさんのとこに潜り込むのに都合が良かったから、なくなっちゃ困るんだよなァ。どこの国でもやってくれてるんだ、この国だけ一抜けたーってされちゃ、こっちが困る」

「しらんがな――くうぅっ」


 身勝手な理論に思わずツッコミを入れたら、また捻り上げられた。

 左腕はまだ、しびれた感触がしてうまく動かない。右手は、今ので肩の筋が傷んだ、と思う。ぶちぶち、なんて音が体の中から聞こえた。だけど、思ったより痛くない。なんでだろう、と疑問に思う頭も、少し朦朧としてきた。


「喋りが曖昧になってきたな。やっと効いてきたか」

「――毒か」


 クォセミ司教がそう呟いたのが聞こえる。わたし本来の視力なら、余裕で見えたはずの距離にいる司教の顔が、少し霞んでいる。というか……散瞳剤をさしたあとのような視界になっている。瞳孔を開く薬だ。使ったことがある人は、そんなに多くないかもしれない。体は子供な名探偵の映画で使われているのを見た時には、わたしは自分が将来それを使うなんて思いもよらなかった。いやただ目を怪我しただけで、その検査に使ったんだけど。あれは数メートル先のものを見る時の感覚はあまりかわらない。だけど遠くのものは普段よりずっとぼやけている用に感じ、近くのものは見ようとしてもまるでピントがあわない。暇があればモンスターボール投げてた猿のような子供が、ポケモン集めを諦めた程度にはゲームなんざまともにできなかった。

 ……いや、まて。それと似たような状態?

 それってまずくないか。瞳孔開いて来てるってことじゃないのか。


「逃してくれたら、俺の国でこいつに薬をのませてやるけど、どうする?」


 そういって、ロンゴイルさんたちに声をかけているのが聞こえる。

 気楽な調子だけれど、何度か、誰かが剣を抜こうとするたび、抜け目なく気がついたケイジ(仮)のナイフはわたしの首を薄く切っている。

 もう押し付ける程度では脅しの意味がないという判断らしい。実際に傷つけてみせないと、ってことか。

 ただ、血が出ている感覚はすれど、これもやっぱり不自然なくらい痛くない。これもおそらく、薬のせいだ。


「……あまり意味はあるように思えませんね」


 司教が、急にアメリカンな感じで肩をすくめて両手を上げた。


「目の前で知り合いに死なれては寝覚めが悪いので、ここまで着いてきましたが。

 あなた、単独の行動のようですね。この期に及んで逃げる方法を探しているわけですし」


 眼鏡を掛け直して、司教がこっちを見た、ような気がする。ええい、はっきり見えない。


「仲間がいるなら、とっくに情報だけ持って逃げて、あなたはここまでわたしたちを引きつける囮の役目を立派に果たしたとして人質を殺し、死を選ぶ。違いますか?」

「……この人質に用がある、って可能性もあるんじゃねえかな。ま、嘘だけど」


 軽薄そうな笑いを含めて、ケイジ(仮)はわたしの腰を抱きよせてみた。かなり無茶な体勢で、全身が結構痛い。わたしは体かたいんだぞ! なんて悲鳴を上げたいが、喉もうまく動かなくなりつつあるようで、声がいまいち出せない。

 どうしよう。わたし、絶体絶命。

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