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63:孤児と離婚と、駆け込み寺

 しこたま酔っていたせいだと思う。

 わたしはぽつぽつと、自分がどういう目にあったのか、つぶやき続けた。

 返事がほしかったわけでもなくて、相手は壁でも良かったんだろう。だけど、アディナはずっと聞いてくれていたようだった。


「結婚するんだろうなって思ってたのよね、その日、本当にその時まで」

「……相手が先に自分の不貞を打ち明けただけ、良かったと思うしかないのでしょうね」


 ふう、と。ため息混じりに、アディナはそんなことを言った。

 アディナの方を見る。寝ようとしているだろうかと思ったけれど、むしろ寝台に腰掛けてしっかりとこっちを見ていた。酔っぱらいのグデグデ語りに真面目に付き合ってくれるのはありがたいが、申し訳ない。


「そーぉよねえ、そのまま結婚まで行ってたら、離婚するにも大変だったろうしねー」


 けらけらと笑うわたしに、アディナは首を傾げた。


「リコン?」

『結婚関係を解消することね』

「解消……なるほど、そんな方法が」


 ……あー。なんとなく察してたけれど、やっぱりこの世界、離婚がないのかな。


「離婚が、できるかどうかはまたいろいろあるから、条件とか」


 とりあえずやんわりと、それが手段の全てではないとだけ伝えておいたらいいかな、と思ってそう口にする。アディナはすごく薄っすらと、笑ったように見えた。


「ノーマの記憶は、順調に戻ってきているようですね」

「あ」


 そういえば、そんな設定だった気がする。

 今更ながら「ううっ、あたまが」とか言って頭を押さえてみたけれど、アディナの反応は特にない。まあ、芝居なのは間違いないので、見破られていても仕方あるまい。


「お酒がまわりやすい体質なのであれば、二日酔いの対策が必要ですね」


 あっれ、信じてた。

 ものすごく心配そうにそんなことを言われては、おとなしくするしかあるまい。


「あー、うん、ちょっと残りやすい方かな」


 二日酔いの心配をしながら酒を飲むことはしないが、がっつり二日酔いする体質です、はい。

 ううっ、明日の朝が今から怖い!


「酔い覚ましに良いというお茶があります。明日はそれを淹れましょう」

「ありがとー……」


 明日、か。起きて、二日酔いとかの調子を見たら、神殿に向かわなきゃ。

 何もできないからじっとしているのは確かだが、リーンのことはずっと気になっている。

 わたしの推測以外の理由だったら、切ってみたところで意味がなかった可能性もある。

 まあ、その時は神殿に出向くなりわたしの首をばっさり、で終わるのかもしれないし、何より現時点に至るまでベル君が襲い掛かってきていない以上、まだ生きていていいんだという意味だと思うので、今はこれ以上考えないことにする。


「結婚、するんですか?」

『予定がないかな』


 アディナが突然、そう聞いてきた。

 あまり踏み込んでこない子だと思っていたので、少し驚く。だけどそもそもその話題を始めたのはわたしなので、頑張って話を続けようとしてくれているだけなのかもしれない。


「エーリは、真剣にあなたのことを心配していました」

「んー……かわいい子だよねえ、あの子。

 でも、20も年が違うからねえ。あの子が大人になった時には、もっといい相手がいるでしょ。

 何よりさあ、女同士の結婚とかってアリなの?」


 藁と布の寝具に突っ伏したまま片手をぱたぱた動かしてそう返し、うわこの動き、いわゆるオバチャン的な角度と振り方だなあ、なんてことを思う。


「女? エーリは、女の子なのですか?」

『あんだけ綺麗な顔してて男って、なくない?』


 不思議そうに聞いてくるアディナが、さらに畳み掛けてきた。


「クォセミ司教のような方もいらっしゃいますよ」

「う……」


 確かにそうね、あの綺麗な顔、女性って言われても信じる。

 同じように顔立ちがやたら整ってるだけの少年の可能性も、なくはないのか。


「ちっちゃい子の性別って、見た目でわかんないよね……」

「……アディナも、確信はありません」


 どうでもいいけど、クールビューティーの一人称が名前って、なんだかギャップがあるな。

 これで舌足らずな甘え声だった日には、男はイチコロ女は激怒、みたいな存在だったかもしれない。


「ええ、幼い頃はよくそれで怒られました」

「あっれ、わたし声に出してた?」

「しっかりと」


 やっべ。酔ってる時って考えてるだけなのか口にしてるのかわかんないことがあるけど、どこまで言っちゃったのかな。


「これで舌足らずな甘え声だった日には、と。確かによく同性の保護官には怒られました」


 ……おおう、わりとほとんど声に出していた様子。もう変なこと言い出さないように、口をしっかりとおさえておくことにした。

 アディナは少し考え込んでから、いくつか続けて教えてくれた。


「アディナは孤児でしたから。保護施設で育ちました。……幸運な方だったと思います。

 顔が、良いと言われて。身分の高い方に引き取られることになって。

 他の多くの孤児は、十を過ぎたとほぼ同時に、各職能ギルドに引き取られて行きましたから」


 孤児か。神殿で働いているのも住み込みみたいな扱いっぽいし、その辺りはそんなに意外ではなかったかもしれない。


「けど、そこから逃げた?」

「逃げました」


 くすりと、本当に小さくアディナが笑った。


「引き取られる直前に、保護官に話しているのを聞いてしまいました。その方はアディナより年上の子供もいて、遺産で揉めるわけにはいかないから、子供を作れなくしてほしいと。

 ……アディナは、家族がいませんでしたから。子供が産めない体になりたくなかった」


 それで神殿に逃げ込んだのだそうだ。

 女性に同意がない結婚は、たぶん普通のことなのだろう。それでも全く問題にならないということもなくて、その際の仲裁に入るのも神殿の仕事、なのだとか。

 アディナの場合は相手が悪質だったことがわかって、そのまま神殿に住み込むことが許されたのだそうだ。

 そんな話を聞きながら、わたしはアルコールから来る眠気が限界で、いびきをかかないようにするのに必死で――話を聞き終えるか終えないかのあたりで、意識がふっとんだ。

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