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55:連想ゲームと敗残卿

「……クロシェアを悪く思わないでやってください」


 嵐のように去っていった来訪者に対して不快を口にしたわたしを、ロンゴイルさんはやんわりとたしなめる。その表情は、どこか悲しそうに見えた。


「彼女の夫であるアムスコットは、自分の部隊におりましたが――クロシェアの言うとおり、自分が人の口に敗残卿という名で上がるようになった戦いで、命を落としました。強い後ろ盾があるわけでもない身で、アムスコットの名を残すためにもリーンを名家に嫁がせたのに、この事態で――自分に向けて媚びてみせるのも、仕方のないことです。妻のない男と夫のない女、そこに家名のためという利害があって、それが一致している以上、仕方のないことなのです」


 仕方ない。そう繰り返したロンゴイルさんの言葉は、彼自身が自分のために言い聞かせているようにしか聞こえない。


「敗残、卿」


 ひどい名前だと思うが、ロンゴイルさん自身がそれを受け入れていることも気にかかる。

 わたしがその単語を口にすると、彼は少し困ったような顔になった。


「この街で暮せばすぐにその意味もわかるでしょうことですが、自分の名誉のためにも、己の口から説明をさせていただきたい。よろしいですかな」

「……はい」


 聞かない、という選択肢もありはしたのだろう。

 だけど、どう聞いても醜聞的スキャンダラスな二つ名は、どうせ嫌でも耳に入るのだろうからと、わたしは頷く。

 ――片方だけの言い分で物を判断してはいけない、なんて殊勝なことを考えたわけではないけれど。大の男が面罵を受け入れるような事情など、ねじ曲がって伝わった後のものはどれだけ面白おかしくするかに執念を燃やした尾ひれのついているものだと、週刊誌を読んだことのある人間ならば誰だってわかっているものだ。


「3年ほど前のことです。この国とは長らく対立していた隣国がありました。

 小競り合いはいつものことで、いっそ儀礼的でさえあったものです。ですが争いである以上は時折、どうしても剣を抜かずに終われないこともあるもので、その時もそうでした。

 自分の率いる隊を中心とした小規模な軍を作り、あちらも同じような規模の軍を用意していた。そのはずでした」


 その時は、どういうわけか隣国の軍は常の倍もあったのだという。

 協定に反していた、とかロンゴイルさんは言っていたけれど、そのあたりのことはこの世界のルールのようなのでわたしにはよくわからないが、まあ、規則に則った戦いだったことはわかる。

 ところで少し話が逸れるのだが、わたしが元いた世界の中世ヨーロッパにおいて、馬上槍試合というものがある。これは今で言う『トーナメント』の原型なのだそうで、日本語にするとものすごい直訳ぶりが光るくらいに馬に乗って槍持って戦うわけである。これが多分、ロンゴイルさんの言うような儀礼的でさえある争いのイメージ図として最適ではないかと思う。ぶっちゃけわたしの知識はハーレクインなどの恋愛重点海外歴史物からの受け売りなので、まあ間違っていてもそこはそれ、浪漫で変換していただきたい。

 何を読んでるんだなんてうるせえ今は気にするな。童貞がエロ本読む自由があるんだから処女(28)がロマンス小説読んだっていいだろ。

 一対一のものだとまっすぐな柵をつくり、その柵に沿って馬を走らせてすれ違いざまで槍を使って相手を馬から叩き落とす、みたいなやつがある。これは公開試合だと槍の先を潰したり折れやすいものを作ってみたりなど、大事故には注意しておこなっていたようだが、肩あたりのいわゆる鎖骨ってやわいので多分ぽっきぽき折れていたんだろうなあと思う。あと確かフランスの王様にこれで死んだのがいる。で、あとは槍試合と訳してはいるものの、なんか厳密にはハンマーとかも使ったりするらしいが、たぶんこれの話は今回違うので適当に流すことにする。

 そんでもって、別のケースとしては乱戦の馬上槍試合がある。運動会の騎馬戦のイメージで、あれががっつり武装してたりリアル馬だったりすると考えたら良い。敵味方にわかれて一斉にわーっとぶつかっていって、馬から落ちた騎士は騎馬戦と違ってこちらは武装した騎士なので、手持ちの武器で戦う。それで負けたら、はいそこまで。べつに命は取られたりしないのでご心配なく。

 たぶん、今回のケースはこっちだと思う。

 乱戦の方は、超大雑把な認識でもうしわけないけど、負けると相手に身代金を払って自由を買い取る形になる。つまり極論、運が良ければ五体満足ぴんぴんしたまま生きて帰って来ることができる。運が悪けりゃ言うまでもない。

 何でこの話をはじめたかというと、つまりはロンゴイルさんがどうして今、元気な顔でいるのかという話につながるのだ。


「――ゼネガンは右腕を、アムスコットはその命を失いました。

 自分の身柄は隣国におさえられ、争いは明確に隣国の勝利で終わり……帰国したとき、この国からは捕虜奴隷がいなくなっていました。

 隣国の軍が、その国の王を斃すための用意をしていたことも、そのための調整として協定に反したことも、ずっと後からわかったことです。

 自分についたのは、敗走し、部下を失い、降格された将という事実、それだけでした」


 ……クーデターかぁ。

 よほどの悪政だったか、もしくは軍事部の暴走か。

 隣国に起きていたのがどちらなのかは、現在は国境を閉鎖されてしまっているためにわからないのだそうだ。つまりは鎖国、ね。

 出島よ、出島を作るのよ。

 地軸が移動して干上がった東京湾に東京都新星市を作って、ニューロエイジに繰り広げられるサイバーパンクなトーキョーの物語を――はい、コンピューター様、わたしは幸福です。ただの冗談です。連想ゲームしただけです。

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