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45:アディナと、着替え

 ええっと、中途半端なロウヒーローみたいな餃子風の白服のクォセミは、司教でしょ。

 んで、このしょぼくれた感じのあるヒゲ生やしたジジイが、司教だった。と。

 馘首って、クビのことよね。んでまあその理由はイカサマってことっぽい。はあ?


「なんかよくわかんなくなってきた……」

「それこそお前さんの言うた通り、今説明する必要のないことではあるからの」


 詮索したくなる好奇心に先んじて釘を打たれては仕方ない。

 そうは言っても。


「でも今、あの子に何をしてやったらいいんだろう」


 そこはまったく思いつかない。

 何があったのかはやっとわかった。つまり、帝王切開の途中に不衛生な状態になったということ。

 司教の方を見る。暗い中で、顔はよくみえないけれどわたしがそっちを見たことはわかったのだろう。ゆっくりと首を左右に振られた。


「……神はすでに、リーンの賽子をお振りになられた。あとは出目を待つことしか」


 神の賽子。

 さっき自分でも言いかけたその単語を耳にしたとき、さっと頭のなかに走るものがあった。

 怒りだ。


「んなアホな話があるわけないでしょ!

 黙って見てろって、それでどんだけの人が助かるの?

 神様なんて気のもんでしょ、女の子ひとり助けてくれない神様にすがって何か意味あんの!?」


 言ってから、神様を祀っているのだろう神殿の、偉い人にむかって随分なことを言ったと気がついた。

 案の定、司教は若干むっとしたようだった。


「神はすべての人を見守っています。人の身に耐えられぬ試練を課すことなどありません」


 じゃあリーンが耐えられなくて死んだとしたら、それは誰への試練なの。

 そう言おうとしたけれど、ヒゲジジイに遮られた。


「そうさな、わしもそっちの女の意見に賛同する。

 わしには神の御心はわからん。試練だなんだと、納得のいかんことばかりだ。

 神官としては悩める民にいろいろ言ってみたものだが、それだけはついぞわからんかった」


 ヒゲジジイの言葉には、不思議なほどに重さがあった。

 司教とか神官とかが、どういうことをしているのかはわからないけれど――ひとの悩みに耳を傾け、寄り添うようなこともその仕事のうちだったのだろうか、なんてことを思ってしまう。


「教義でもそうだろう。神の御心をひとが理解するのはおこがましいことだなどとごまかして。

 それを理解しようと、受け入れようとすること、その姿勢そのものこそが信仰だと、書いてあるままそう民にも伝えてきたはずだ。

 わしら神官、まあわしは元だが……それにもわからんものが、苦しんでいるさなかの者にわかるものか。

 神の存在を身近に感じることのできない、癒しの術の使えない者なら、なおのことな」

「それは……ご自分のことですか、ジャデル翁」

「さてな」


 諭すような声音で信仰を突き放したヒゲジジイは、そういって口の端をつり上げた。


「とにかく、今はあの娘御の容態じゃな。熱を出してからでもうすぐ2日、動けなくなってからでももうすぐ丸1日か。若いと言えど長引くと体力がもたんじゃろ」


 その時、こんこん、と小さく扉を叩く音がした。これは……階段の方?


「失礼します。病人を着替えさせたいのですが、通ってもよろしいですか?」


 アディナの声だ。

 扉を開けると、いくつかの服らしきものを抱えた彼女が立っていた。

 目が合うと同時に、一瞬その目が丸く見開かれ――すぐに元に戻って、わずかに首を傾げた。


「……服がもう一着、必要なようですね。あとでお持ちします」


 え。

 あ!


「お前さん、わりとそれ今更じゃぞ」


 思わず座り込むように体を隠す。

 わたしの服装は、夜着のままだった。

 うるさいやい。全然気がついてなかったんだい!

 呆れた顔で、司教もヒゲジジイも、アディナとともに室内に戻る。

 と、思いきやヒゲジジイはすぐ戻ってきた。


女人リーンの着替えを覗くのかと怒られてしもうた。

 それを言うたらベルデネモもクォセミも同じじゃろうに。のお!」

「いやそのへんは違うと思う」


 どう考えても、兄や病状確認しようとしてる医者と、ヒゲジジイは同じ立ち位置ではないだろう。司教は医者じゃないけど、多分大差ないので問題ない。

 ええい、唇を尖らすな。おじいちゃんがやっても可愛くないから。

 しばらくして着替えさせ終えたのだろうアディナが階段を急ぎ目に降りていき、それといれかわりに室内に戻るヒゲジジイ。慌ただしい。

 アディナはすぐにわたしの着替えを持ってきてくれた。

 倒れる前に着ていたのと同じ服だった。


「あ、これどうしよう、わたし……」

「一人では着られないのでしたね。わかっています」


 てきぱきしてるなあ。

 アディナに背中の紐を締めてもらって、ぐええとなりながらも着付けを終えたわたしも室内に入る。


「膿が出ているようです」


 難しい顔をした司教が、そう呟いた。


「膿? リーンの話よね。あの子どこか怪我でもしてたの?」

「あ、いや、ええと……ごほん!」


 切り傷とかならすぐに治してしまえるだろうに、見落としでもあったのだろうかと尋ねたわたしに、司教は不自然なくらいにおどおどして、やたら大きな咳払いをした。


「あなたも女性なんですから! わかってください!」


 声を殺してそう言った司教の顔が真っ赤だ。

 わたしは少し考え込む。女性だからわかるだろう場所?

 つまり男性にはなく、膿が出ていると言うからには出産に関して傷を負いそうなところ。

 あ。

 ようやく意味を理解した。


「なんか、その……ごめん」

「わかってくだされれば、それでいいです」


 お互い、微妙に声が裏返っていた。

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