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33:わたしと、ご飯

 敵情視察。

 てわけじゃないけど、とりあえずお昼ごはんをいただくことにした。

 シリアルなら見慣れたものだけれど、あれの多くは砂糖がかかっているので食べやすいわけで……まあ、味は期待できないだろうと覚悟しながら、一口、木の匙ですくってぱくりと。


「…………」


 頑張って食べよう。

 あれだ。最近コンビニで見かけることがあるパンの中に、『ブラン』を使ったやつがあるのだけれど、あのブランってのはシリアルなんかにも入っている、麦のひとつみたいなものだったはずだ。でもあれを食べた時、味について普段、パンを食べる時に期待した味と違ったりして気分がモヤモヤっとしたりすることもあるだろう。

 まあなんというか、最初からそれしか知らなければ美味しく食べるのもやぶさかでもないかもしれないがわたしたちの舌にはあいにくい程度には野性味のある味というか。端的に言って「美味しい」とは言いにくい。

 そんな穀物の味だった。

 しかも見た目はぐずぐずに似たお粥がやんわりと塩味でパン風味なので、どうにも脳が理解を拒絶する。たぶん、この粥が雑誌で紹介するオシャレな海外生活特集みたいなやつで出て来ることのある『ポリッジ』というやつなのだろう。おしゃれは我慢とはよく言ったものだ。

 わたしの食事はメイド服な人々と一緒に取っている。周りが誰も拒否感を示していないのは、この食事が普通だからなのだろうとは、容易に想像がついた。

 魚は美味しかった。

 白身魚の塩焼きは、焦がさない限り誰にも一定以上美味しく作れるものである。メシマズの味方、ここに極まれり。脂っけの少ない、ぱさぱさした食感だけれど粥に乗せて食べれば、粥の方の味気の少なさも補えて普通に食べることができる。

 ……ただ、わたしは頭とはらを残した。それで周囲には随分と怪訝な顔をされてしまった。しっぽくらいは食べられるけれど、それも美味しいものではないし……と思いつつ、ぱりりと齧る。

 昨晩食べたものと、神官の朝食と、この使用人たちの昼食と、そして掃除職の食べていたものと。

 比べてみれば、少しはわかったことがある。

 司教は良いものを食べていたのは間違いないけれど、それでも主食は粥のようだった。味が今わたしの食べているこの粥と同じなのかはわからない。

 昨日の晩は膨らみの足らないパンだったけれど、それはまあ、中世感あふれる光景のあたりで覚悟はできていたことだし。夜はしっかり食べるということで、一(パン)一汁一菜、とかそういうことなのだろう。使用人のご飯は残さない人が多い。ということは、掃除職の人たちの食事は、神官たちの残した物や、最初から取っておいた切れ端が中心ということか。たしか中世ヨーロッパで残飯を食べるのは豚で、その豚は冬にさばいて食べる、みたいなのあったなあ。それだけ冬の食糧事情に窮したということでもあるのだろうけれど。豚のかわりに、豚のように、手づかみで食べているのが、この世界だと掃除職なわけだ。

 ……ぞっとした。

 今、そのことに思い至ってぞっとした。

 中世って考えたら、木製の器とはいえあるだけ良かったのかもしれない。中世ってのをペストやら何やらが出回った時代と考えたら、確か一般家庭には食器がないなんてこともあったはずだ。

 パンを器にしてソレごと食べるなんてもう相当にお行儀の良い方。木の机にスープのためのくぼみがあって、そこに食べ物を浸したり指ですくったりとか……うああああ考えたくない!

 かみさまありがとう、ぼくにともだちをくれて――違う。ラスカル違う。

 ありがとう、ホウキはなかったけど食器はある世界で本当にありがとう。

 そんなことをうだうだと考え、味のことを考えないようにしているうちに、器の中身はカラになっていた。


「……ごちそうさまでした」


 ものたりない。

 食後の感想はそんなものである。

 うーん……ヒゲジジイの作ったスープに随分と味があったのは、薬草とか放り込んでるってことなんだろうか。それとも、ロンゴイルさんを坊っちゃんと呼んでるだけあって、いいとこのご家庭の付き人的な立場で、食材を色々使えるとかなんだろうか。

 食後に神殿の前でぼーっと座っていると、ゼネガンとエーリが戻ってくるところに出くわした。


「おかえり。何かあったの?」

「ええ……少し、司教様と話ができませんかね」


 ゼネガンの顔は少し険しい。探してこようかとして神殿に入ろうとすると、ちょうどクォセミ司教がこっちに向かってきているところだった。


「タイミングの良い……」

「そうでなくて、私が待っていたんです」


 呆れ気味に言ったわたしに、司教は少しだけむっとした顔をし、それからゼネガンと何かを話し始めた。

 エーリがその一方で、こっちの服の裾を引っ張る。こっちに来いと言いたげな様子に、裾を引かれるまま藪の方へとついて歩き出した。


「どうしたの?」

「……ちょっとさ、気になってんだけど。オバサン、腹へってるのか?」

『ぺこぺこね』


 返事が勝手に出たのに気が付かれないように、重大な秘密であるかのように口元を隠してみる。

 いたずらのようにも見えるその仕草が、エーリには面白かったらしい。クックッと声を殺して笑いだした。

 まあ、子供らしくて悪いことだとは思わない。だけど。


「それと、オバサンはやめて」

「どう見てもオバサンだけど……ハイハイ、やめとくから」


 ええい、減らず口をたたきおってからに、お子様が。

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