30:アラサー達の午前
ざっざっと、埃を掃き出す。
クォセミ司教の部屋から始めて、廊下を、そのあたりの部屋を、次々と襲撃するかのように掃き清めてやった。昨日見かけたような、蔑むような、目を合わせないようにする空気ではなく、何事かと怪訝そうな雰囲気に、エーリはもしかしたら楽しいのだろうか、どことなくにやにやしている。ゼネガンも、澄ました顔ではあるものの、なんとなしに愉快そうだ。わたしも、試作零号機でザッザッと隅を掃く。
埃は、凄い量が集まっていく。
その様に、小学生の頃を思い出した。
毎日掃除してるのに、なんであんなに多くのゴミが出てくるのか、不思議だったものだけれど……日本の教室でさえそうなのだから、この世界の神殿の廊下があれよりマシなはずもなく。あっという間に埃は山を作り始めていた。
突然の、しかも多くの人にとってわけのわからない作業に幾度か、神官らしき人がわたしたちを咎めようとはしたものの、そのたびに何故か後ろから付いて来た司教がそれを留めてくれた。
わたし達が何をしたいのかはわからないなりに、それでも何かをしようとしていることには気がついてくれたのかもしれない――多分。
そうやっている間に、すごく大雑把ながらも神殿の構造がわかってきた。
一階は受付的な場所というか、待合室兼雑談所というか。
まあ、大きな病院のロビーなイメージであまり間違いはないと思う。簡単な治療なら、その場ですぐに済ましていることさえあるようだ。神殿の、入口を前方とした前半分は、そんな感じ。わたしに割り当てられたあの物置は後ろ半分より奥の方にある。そのあたりは、神官たちの部屋の他に応接間のような場所も存在していて……だけど、この応接室に通されるのは、重症患者だけだろう。
――少しわかりにくいことを言っている自覚はあるのだけど、許してほしい。
たぶんこの応接室もどきは、手術室に相当しているんだと思う。
なんせそれらの部屋には、大きな椅子の他には寝台しかなかったのだ。
今更ながらに、ベル君がいきなり司教の部屋に通されたのは、怪我の大きさも理由のひとつだったのだろうと思い至った。他の神官でも対処できなくはなかったのだろうけれど、と。
ともかくも、一階のゴミを集めてみる。まとめて置く場所は文句が出てくるだろうことを見越して、例の物置スペースの前だ。こうして掃除してみると意外と気にかかるのが、扉の隙間などに残るゴミだ。そうした場所は、わたしが向かった。
「じゃじゃーん! 昨日作った物ナンバー2こと、M居棒ー」
握りしめていたのでひみつ道具感が出ないのが少し悔しい。
わたしが掲げたのは、いらない布を細い棒に巻きつけてゴムで縛るだけのあれである。輪ゴムはないので、紐できつく縛っているだけなのだけれど。
「はぁ……これが、えむいぼう……ですか」
二度三度、首をひねるゼネガン。
何に使うのか、いやそれどころか何の意味があるのかという顔である。
……だいじょうぶ、わかってる。この世界にはもちろん火曜サスペンス劇場なんてないしそうすると火サスの帝王もいないし当然のごとくその嫁のM居さん一押しの掃除道具なんて言ったってまったくもって誰も通じないことぐらいわかってる。それでもこいつのことはM居棒と呼びたくなるのだから仕方がない。
「ふふふ、百聞は一見にしかずね。一度やってみるといいわ」
「はあ」
浮かない顔で、気が進まない様子で、ゼネガンさんはあれを扉や棚の隙間にざくざくとつっこみゴシゴシしはじめた。実のところ、汚れた、捨てるしかない布は結構な数があるようで、これはそこそこの本数を作れている。わたしも別の場所に取り掛かり……やがて、ううっ、という呻き声が聞こえた。
何事かと慌てて振り返ると、ゼネガンが目頭を押さえていた。
「隙間が……ただのこれだけで、こうも……こうも……簡単に……!」
か、感極まっていらっしゃーる!?
今までの苦労が思い起こされたのだろうか。
目尻にきらりと輝く雫を浮かべながら、M居棒の魅力に取りつかれたらしいゼネガンがもくもくと細かいところをこすり続けている。
そうこうしているうち、一階は概ね掃き終えることができた。
何事かと見ているひともそこそこいるけれど、止めに入ろうとするひとはもういない。
黙って後ろからついてきている司教がいるからだ。
……いや、本当に何を気にしているのかわからないけど、結局ずっとついて回ってたなこのヒト……。
「司教が黙ってくれてるうちに、二階もいっちゃいましょ」
こそりと、エーリに告げる。ゼネガンはM居棒に夢中なのでほうっておくことにした。……いや、あの人の場合、片手で大きいホウキモドキ扱うよりよほど適任だという事に気がついたってのもあるんだけども。背があるから高い本棚みたいなものの上も躊躇なく手が届くようで、M居棒はそういう場所にもその実力を遺憾なく発揮するヤツである。ついでに本を取るのを頼まれたりもしていた。
エーリと二人、いたって堂々と二階へと上がり、廊下を掃き始める。
そして、すぐに気がついた。
一階に比べて、こっちは生気がいまいち、ない。
部屋を覗き込むと、皆、寝台で寝たままじっとしている。
鼻に感じる、妙にむわりとした臭いに、何かを思い出す。
なんだろう、と考えてみて、学生時代、風邪をひいた同期を一人暮らしの部屋に見舞いに行った時の臭いだと思い当たった。
そうか、つまりは。
「……入院棟ってとこかな」
わたしが呟いた言葉は、わたし自身を納得させた。
映画タイトル縛りさすがにいろいろと無理があった……次からまた変えます




