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1:地下鉄の夜は遅い/2:酒+振動

一話と二話が極端に短かったので統合し、元の一話部分に登場人物表を入れました。

(2016/12/15)

 どん、と走った衝撃があった。

 背中を押されたのだとわかった時にはもう、遅かった。

 え、と。振り向きかけた視線の先に真っ青な顔をした少年が見える。彼の手はまっすぐに伸びていて、たぶんわたしを突き飛ばしたのは彼なのだろう。見覚えがある。誰だっけ。彼の顔はこちらを見ていなかった。彼の視線の先からはプァン、という聞き慣れた音が、ビビー、とけたたましく警笛が鳴っていて、電車がすぐ近くまで来ていることを伝えている。けれど、わたしの足の下にはもうコンクリートの感触がなかった。

 あ、思い出した。


「そうだ、今朝、煙草ポイ捨てしてた高校生!」


 指差して、それだけ言ったらあとは地下鉄の線路に向けて真っ逆さま。

 慣れないヒールなんて履くんじゃなかった。きっとひどいことになるんだろうな、運転士さんごめん。お養父さんごめん、せっかく仕事紹介してくれたのに。あー、遺品整理とか言ってきーったない部屋ん中に入られるんだろうなぁ、ちょっとは片付けておけばよかったかな。

 ……。

 …………。

 ……………………。


「あれ?」


 いつまでも来ない衝撃に、知らないうちにかたく閉じていたまぶたを開ける。

 そこには青空が広がっていた。


「えー?」


 いやいやいや、ないから。

 ないから、地下鉄に、青空は。

 むくりと起き上がってあたりを見回せば、一面の草原が広がっていた。


「……えー?」


 なにこれ。

 天国ってやつなのかなこれもしかして。

 だったらせめて、花畑とかの方が良くない?

 自分の姿を見ても、婚活のために着てた明るい色のアンサンブル、そのまんま。ヒールは脱げてしまったのかどこにも見当たらない。

 ほんとに、なにこれ。

 わたしの頭の中にかろうじて思い浮かんだのは、七十年前に戦争で死んだはずの独裁者が現代で目を覚ます映画だった。

 だって、しかたなくない?

 ずっと遠くの方に、いかにも中世風ファンタジー! な格好で馬に乗った、騎士的な人が見えたんだから。

 とりあえず立ち上がってみて、土にかかとの沈み込む、むにゅっとした感触にちょっと閉口する。

 だけど、このままってわけにもいかない。


「おーい、おーい!」


 わたしは騎士的な人のシルエットに向かって手を振り上げ、学生時代以来じゃないかってくらい久々に、大きな声を張り上げた。




2:酒+振動




 馬って、凄く揺れる。

 ううう、わたし、車酔いする方なんだけどなあ!


「きもちわるい」

「はァ!?」


 喉が痛いほど叫んだかいあって、シルエットオブ騎士な人はすぐにわたしに気がついてくれた。

 のは、いいんだけど、すごく不審な顔でじろじろと上から下まで舐め回すように見られて、気分が悪い。ともかくも、気がついたらここに倒れていたのだと訴えたところそのまま、すっさまじいしかめっ面ではあるものの騎士的な人はわたしを馬の前に乗せたのだった。

 わーすてき☆ とか言えたら良かったんだけど、結果がこの馬酔いなのでどうしようもない。

 だって! 前向いて座りたかったんだけど!

 馬をまたごうとしたら「はしたない」とか言い出すんだもん騎士的な人!

 じゃあどうやって座れって言うのよ、って言ったら横すわり、とでも言うんだろうか。自転車の二人乗り(※やっちゃだめだよ!)で荷台に座るのに進行方向に横むいて座って足閉じるような、そんな姿勢をしろっていわれて。やってるんだけど、めっちゃ腰ひねるし。痛いし。で、そのわたしのうしろに騎士的な人が座っていて、腰を掴まれている。

 電車の中だったら痴漢だなんだと喚いてみたい状況だけど、下心のまるでない掴み方はなんていうか、犬が猫の子運んでるみたいな、落ちないようになのか逃げないようになのか、無造作感があふれている。逃げないようにの気がするなー。

 うしろを向いた日には胃の中のものが逆流しそうなんで振り向いたりはしないけれど、どうもこの騎士的な人、彫りの深い顔立ちをお持ちの若いイケメンさんで、婚活帰りなわたしとしてはなんかこうちょっぴり居心地とかそういったものがよくない。

 ……いや、わかりやすく中世ヨーロッパ! なイケメンだったら、まだこう、映画村みたいなものかなーとか思えたんだろうけれど。ちょっとこう、もやもやする。確かに彫りは深いんだけど、中東風……なのかな、顔立ちは。問題は髪の色。

 まさかの水色。一瞬コスプレかと思ったけど、まつげとかもその色で、しかもどう見ても染めてない。

 気になる。でも振り向けない。うああジレンマ!

 そんなもどかしいこっちの気持ちなんてまったく知ったことないと言いたげに、騎士的な人は手綱を握っている。


「もうすぐ詰め所に着くんだ、それまで我慢してくれ」

「……だめおろしていったんちょっと、ぅぇぇぇぇ」

「うわああ! ちょ、ちょっと耐え――」


 ★しばらくお待ち下さい★


 うーん。頭はしっかりしてるんだけどね。

 お酒入ってるからね、わたし。

 騎士的な人はあわあわしている。馬に被害がなかったことは救いだったかなー、とだけ思った。

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