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17:午後はなんとかおもいッきりどうとか

 クォセミ司教はわたしの全身を上から下までゆっくりと見た、ようだった。

 ……男の人にされて嬉しい視線ではない。椅子に座ってたのは、失敗だったかもしれない。こういう時に逃げられないのだから。なんとなく半身を隠すようによじると、にこりと笑われた。


「時遅は、鼓動を遅くし、身体に流れる時間を遅くするという魔の術です」


 あ、さっきの術とやらの、説明ね。RPGでは時々聞く、減速魔法みたいなものってことだろうか。どこかの天秤座の聖闘士じゃあるまいし、鼓動が遅くなるのは副次的な作用なのだろう。

 魔の術、って言い方からして嫌悪感が滲んでいるけれど、それは白魔法と黒魔法、みたいな切り分けが有るのかもしれないと思えば、わからなくもない。

 勝手に納得しているわたしに興味をなくしたかのように、司教はロンゴイルさんに向き直る。


「従者の傷は、骨には達していませんでした。

 ですが随分と出血が多いようで、それで時遅を使ったのでしょうね。出血を抑えるという意味では、間違いのない処置です。あとは、目がさめるのを待ってからの本人の体力と……神の賽子次第です」

「さいころ」


 場違いな単語だと思った。

 思わず、たったままのロンゴイルさんの顔を見上げたが、彼はこちらの視線には気がついていないようだった。

 こういう時、目ざとい人なのだろう。司教の方がいち早く反応する。


「ええ。神は気まぐれです。

 奇跡を貸し与えて人の子の傷を癒したとしても、後からそれを撤回されることも多いのです。

 軽い怪我であっても、それが気づけば酷く腐敗し、気がついたときには手遅れに、なんてこともあります。

 聖人であっても、悪人であっても、そこに違いはありません。

 神の御心は我々には推し量れないものですが……あまりに無慈悲な結果をもたらされることもあります。

 ですから、その基準は神が賽子を振って決めているのだと、昔から言われているのです」


 ……長い。三行で説明して。

 なんて言うわけにはいかないので、なんとなく頭のなかで整理してみる。

 つまり、怪我を治す魔法はあるけれど、その後から腐ったりすることがあると。

 待って、一行で済んだじゃない。回りくどい人はこれだから!

 勝手に納得したり、勝手に憤慨したり、我ながら忙しいとは思うけれど、口に出してないだけ良いと思って欲しい。

 だけど、わたしの様子を気に留めていたらしい司教には、くすくすと笑われてしまった。


「ロンゴイル様。こちらの女性の身元は、いまだわからないままなのですか?」


 はっ、わたしにとっての本題、来た!


「ええ……早馬を飛ばす余裕もありませんでしたから。来たばかりということもありますが」


 ロンゴイルさんが軽く頭を左右に振る。

 ううう、わたしの事情をわかっていて相談できるヒゲジジイと離れることになりそうなのもちょっとつらいけど、このナイスミドルとお別れになりそうなのが一番つらい!


「話をお聞きしてから、まずは行方不明人の届け出を当たらせておりますが。

 ……申し訳ありませんが、市井の民まで含めては時間がかかります。特にこの方の歳頃であれば、子育ても終わろうかという時期です。自由に過ごされる方は、思いの外多くて」


 こそだてもおわろうかと。

 今度はオウム返ししなかったわたし偉い。いやそういう問題じゃないわね。

 なんというか、異世界感を時々こうして突きつけられるのは、まだ慣れない。

 ……むしろ、わたしもいつかは慣れてしまうのだろうか、という恐怖がどこかにある。

 わたしは、これ以上なく異邦人なのだから。

 少し沈み込んだわたしの表情を、身寄りが見つからない悲しみだとでも思ったのか、司教はまるで「そうだ」とでも文頭につきそうなくらいに明るく話題を切り替える提案を――どう考えても最初から結論はそこにあった言葉を、持ち出してきた。


「お嬢さん。数日こちらで滞在されてはいかがでしょう、その間に知る方が来られるかもしれません」


 うわぁ。みのもんたか綾小路きみまろかみたいな発音されたよ今!

下書き時に変更した表現が反映されていなかった部分の修正

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