15:神殿到着
昼になるころ、神殿に着いた。
昨晩の料理を薬膳粥のようだと思ったのは間違いではないようで、あれから致命的に酔うことはなく、馬車酔いに効くスープだとは、後から聞かされた。
異世界人だろうが、車酔いをする人はいるらしい。
――異世界人、で思い出したのだけれど。
自白団子(今適当に名付けた)の効果がこんなに長引いているのは、異常らしい。
そんなことを言われたら、毒とか解毒剤とかの、同時に飲まされたものとの相乗効果を疑うところだけれど、そんなのは聞いたことが無いってヒゲジジイが即答したからには、関係ないのだろう。
となると、そもそも『わたしが異世界人だから』薬の効能がおかしくなっているという可能性が、排除できない。
……あれ。
となると……薬膳粥風スープも効果があったわけだし、薬効そのものは出てるってことになるんだろうか。
このあたりは、あとでヒゲジジイにも話しておこう。
しかし。
わたしは頭を抱えた。
ああ、頭の中にぐるぐると回る昨日へのメリーゴーランド。
以下ちょっと回想。
===
団子の効果が残っているとわかって、ヒゲジジイは馬車の天井を仰ぐ。
嘆くようにも見える奇妙な行動に、わたしの方が嘆きたくなってきた。
「な、なによ。何か変なことでもあったの」
「おおありだ。おまえさん、おかしいと思わんかったのか。
わしはすぐにその効果は消えると、そう言っただろう。
わしのほうが後に団子を食ったのは覚えているな。……なんでもいい。質問してみろ」
唸るヒゲジジイが、わたしの顔を睨む。
そういえばそんなことを言われたような気がする。
嫌な予感しかしない会話の流れに、かと言って確かめないという選択肢もない。
「2+3は?」
「178」
「……本気で?」
「冗談に決まっとるだろう!」
5は5だ、と言いながらも、確かに相手の喉からは団子声(これも今適当に名付けた)が出てこない。
だというのにわたしの喉は。
「初恋の相手の名前は」
「やめてえぇ!?」
『ぬえのめいすけー』
殺してくれ。
今すぐ殺してくれ。
なんでこんな公開処刑をされなきゃいけないのか。
蹲ったわたしに、ヒゲジジイは「安心せ、わしにはその御仁が誰か、わからんから」とか言っているが、そういう問題ではなかった。
===
はいここまで。回想終わり。
「どうされました?」
「なんでもありません!」
『ちょっと黒歴史に苦しんでただけで』
神殿で怪我人受付の手続きを終えたロンゴイルさんが、わたしの様子に「くろ……?」と怪訝な顔をしたけれど、お願い、これ以上質問しないで!
嘘がつけない体質になった、だけでも面倒なのに、勝手に返事をする体質とか、どう考えても役満、いや厄満です本当にありがとうございました。
「とにかく行きましょう、ベル君の治療はすぐ始まるんですよね!」
「ああ、そうでした、あちらの奥で行うそうですよ。付き添うとしましょう」
あからさまに話を変えたことに気が付きながらも、そのまま移動しだすロンゴイルさん。もうこんな怪しいわたしみたいなのを追及しないってだけでも本当ナイスミドルだよこの人。それだけヒゲジジイのことを信用してるのかもだけど。
そのヒゲジジイ、ジャデリクは神殿の手前で待機させられていた。
……本人が言っていたとおり、神殿からは嫌われているらしい。露骨に警戒の顔を見せた門番なのか衛兵なのか、そういう警備員的な役割らしき人の前で、わしは馬車の番をしとるでな、と言っていたけれど。
神殿は、なんというか、想像できる通りの神殿って感じだった。
語彙が貧困で申し訳ないのだけれど、復元して真っ白にしたパルテノン神殿をもうちょっとだけ人が住みやすい構造にした感じ、に見える。
ありきたりと言えばありきたりな、でも荘厳な雰囲気にわたしは気圧されそうになりつつも、ふっと壁の隅に目が行くのを止められない。
……やっぱりここも、掃除はされていないようだった。
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