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13:昔なじみとヤグヤグと、推理

 イノリの作ってくれた晩御飯は、確かに豪勢だった。

 食堂のようなものがあったし、そこでいい匂いがしていたからそこで食べるのかなと思ったのだが、わたしたちは別、ということらしい。

 食事が運ばれてきたのはロンゴイルさんとベル君が泊まることになった部屋で、二人部屋のようだった。最初はわたしが泊まることになった部屋に持っていこうかと考えていたのだけれど、とイノリが言っていたのだけれど、大きな男ふたりと女一人、さすがに窮屈だろうという判断なのだとか。

 ロンゴイルさんは部屋に運ばせるのをそれで当然、という顔をしていたが、ベル君が少し驚いていた辺りでこの処置はちょっと特殊ということだろうか。いや、あとから考えてみれば当たり前のことではあったのだけれど。


「そういえば、ロンゴイルさんてこの町だとなんだか気さくですね」


 何の肉かわからないけれど、肉汁がジューシーに滴っている焼かれた肉を、やっぱりこれも正体が何かわからない広めの葉野菜で巻いたもの。本日の主菜はそういうヤツである。

 正体がわからないものを食べることに対しての抵抗感なんてのは、この世界に来てもうそこそこ経過しているわたしにとってはもう今更の話。喰わなければ人間、死ぬのだ。鶏に似たちょっと淡白な味の肉を葉野菜で掴み、根菜をすり下ろしたものをのせて葉を巻いたところをいっきに頬張る。味としては、焼肉屋でも葉物で巻いて食べる方法はよくあるし、もうちょっと脂っぽくてもいいのになあと思うくらいか。あとはこれを手づかみでなく箸でやりたいところだが、さすがにこの世界では子供用のプラスチック一体成型スプーンを大人サイズにして木か金属で作ったスプーンと、スプーンから先をぎざぎざと削り出されたそのうちフォークに進化するのかもしれないと思わせるような先割れスプーンらしき物体と、あとは刃物そのもののようなナイフしか見たことがないので今のところ諦めている。ちなみに一度だけ招かれた王様がいるような食卓でも、多少洗練された形になったり金属製だったりするくらいで、そこにあまり大きな違いはなかったりした。


「……そうでしょうか」


 こちらに聞き返してくるわけではないあたり、心あたりがあるのだろう。ロンゴイルさんは口の中の肉を飲み下すと、わたしの方に向き直っていた。

 ベル君が、あわあわした顔でわたしとロンゴイルさんを見比べる。ちなみに彼はあの後、律儀に自主練をしていたのだそうで、昼にわたしが借りた氷袋を時折腕にあてたりしている。


「確かに、そうかもしれません。この町は自分が育った町ですから」


 何故か言葉を選んだようで、ロンゴイルさんは慎重にそれだけを言う。


「へえー。てことは、イノリとかハゴムとかも昔なじみってこと?」

「子供の頃はよく一緒に遊んだものです」


 やんわりと肯定するロンゴイルさんが、どこか懐かしい場所をみるような目をしながら汁物スープを匙で口にする。――こういう人が、こんなふうに上辺だけの返事しかしてこないようなものは、追求しても教えてくれないことぐらい、わかる。わたしも別に無理にでも聞きたいわけじゃないので、「ふぅん」と誤魔化すかわりに自分の分の汁物を匙でかきまわした。ポトフ的な風味の、これもしっかり肉の出汁が出ていて美味しいのだが、野菜以外で中に浮いているのは例の芋けんぴっぽいあれだった。

 わたしは匙ですくい上げたそれを、思わず凝視する。本当に何なんだ、これ。齧ると、肉の味がしたのでやはり肉を固めたものには違いがないようだ。むしろジャーキーとかそんな感じの? コンビーフにも近いような味? 燻製……ほど臭いも強くないし、猫が食べても平気な顔をしていられるのを納得できるほどに、塩からさも感じない。


「この肉、なんなんだろ?」

「ヤグヤグの足の筋です」


 ベル君が即答する。すじときたか。ていうかヤグヤグて何なんだ。

 わかんないことが多すぎる。とりあえずわたしはお腹を満たすことにして、その筋とやらを口の中に放り込んだ。


「結局のところ、この町で殺されたのはアイツじゃなかった」


 割り当てられた、例のスイートルームに戻るとわたしはひとり、呟く。

 いい加減、起きていることに整理をする必要があると感じたのだ。


「殺人事件があった。それは間違いない。

 その事件は最初、物盗りだと思われていた――商人が持っていたはずの売り物も一緒になくなっていたからって言ってたよね」


 人相書きを、大きな葉を乾燥させたものに書き写させてもらったのを広げて考え込む。聞いた話と、わかったこともメモ書きしてみる。ペンは羽ペンだけど書くための軸は木製。小学校の授業でこんなの作ったような気がするなあ、なんて思いながら借りてきたインク壺に先をひたす。図工だったっけ。


「殺された人の額には、真新しい十字傷があった。なぜ?

 ……死んだのは、ケイジ(仮)――ていうか商人だと思わせたかったから。つまり、少なくともその傷を入れた人は、商人の額に十字傷があると知っているということ、よね」


 かっこかり、と自分で発音しながら書こうとして、さすがに意味がわからなくなると思い『商人』に変更する。

 さて、その商人の額に傷があると知っているのは?


「まずは商人その人。そして神殿であいつが怪我をした時に居合わせた人物」


 それから、わたしが人質にされた時に、他に誰がいたのかを思い浮かべる。ロンゴイルさんとベル君が、その傷をつけた本人だ。当然、わたしもいた。商人、と書いた下に三人の名前を書いてみる。


「あとは……商人の十字傷を、知っている人」


 最後に、イノリ、と書いた。

 十字傷の男が死んだ、と伝えることで得をする人物は誰だ?

 それは考えるまでもない。


「商人、本人」


 くるりと丸で囲む。

 自由に動けるということは、間諜にとって大きなメリットのはず。

 それに、殺された男が隣国の間諜の疑いがあると知ったら、警察……は、この世界にはないから、治安維持を担当するのは領主か。領主は本当に死んだのがその人かどうか確認をするはずだ。そして、このあたりの領主はロンゴイルさん。……あれ? ロンゴイルさんがこの事件について調べ始めたのは、昨日今日の話じゃないはずで……え?

 もしかして、ロンゴイルさんは、殺されたのが商人――ケイジ(仮)じゃないって、とっくに知ってた可能性、ない?

 その状態で……よくわからない理由でロンゴイルさんが、わたしを呼びつけた?


「待って。待ってそれって、もしかして」


 がたり、と立ち上がった拍子に椅子を蹴飛ばしてしまって、わたしは捻った足を抑える。痛い。

 その時ドアが控えめに、コンコン、と叩かれた。

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