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6.旅立つ準備 side M

カン、カン、カン、キィーン

「はぁ、はぁ、 参りました…」

打ち合っていた木剣を弾かれ、喉元に相手の木剣が突きつけられる。

私の剣の先生は騎士のゴードン・スティングレイさん。

とても背が高くがっしりしている重戦士だ。

重戦士は大きな盾を使い、後衛の魔法使いや戦えない人の壁になるのが役目だそうだ。

この国に現れる魔獣を倒す方法は、魔法を使い体の中にある魔力の核を破壊し倒すのだと言う。

魔法を使わず、まともにやりあおうとすれば被害が大きく何人も死傷者が出るからだと。

普通の魔獣はこの国の人達でも倒せるが、何百年かに一度生まれる魔獣の王には魔法が効かない。

倒す方法はこの国の国宝、魔剣ティルビンスでとどめを刺すこと。

この剣は使う時膨大な魔力を放出し相手を倒す。

この国の人が持つ魔力の量では王を倒すには力が足りない。

だからこの剣を扱える程の魔力持ちを呼ぶのだ。

そして、呼ばれたのがこの私。

あの召喚の陣には条件が2つ付けてある。

一つは剣を扱える魔力を持つ者。

もう一つは今の場所から逃げだしたい者。

前の世界に未練があったら、この役目を果たさないだろうから。

私はこの二つの条件を満たしていた。

魔力計測器で測れば、剣を使うに十分の量の魔力があると分かった。

そして、前の世界に戻りたいとは思わないのも確か。

別に異世界トリップ万歳!ヒロイン頑張る!と思っている訳じゃない。

私は施設で育ったが、その土地の実力者の娘に目をつけられ何かと嫌がらせを受けてきた。

同学年で同じ学校、日々嫌がらせがエスカレートしてきたが、とうとう施設の存在を脅しにかけてきた。

学校を退学しろ、さもなくば親に言いつけて施設にちょっかいを出す、と言ってきた。

誰にも相談出来ず、育ててくれた恩のある施設を何をしても守らなければと。

召喚をされたあの日は学校の屋上から校庭を見下ろし、どうすればいいのか考えてた。

いっそ自分がいなくなれば、施設に危害を加えられずうまく行くのではないかと思いつめていた時、足元に魔法陣が浮かび上がりまばゆい光に包まれてこの世界にやってきた。

私は魔法陣の条件をクリアしているが、桜さんは違う。

最初の日に桜さんも測ったそうだが、全く魔力がなかったらしい。

きっと私の召喚の時何らかの余波が影響して、イレギュラーで桜さんを連れてきたんじゃないだろうか。

それとも私の願望がそうさせたのか。

家族が欲しかった。無条件で守ってくれる人が欲しかった。

だからなのか、桜さんは私が一番欲しかった言葉をくれる。

桜さんの妹さんは幸せ者だね、あんなお姉さんがいたら心強いだろう。

そろそろけじめつけないとね。

桜さんの優しさに甘え過ぎてはいけない。

私は私のやることをしなくては。


木陰で水分補給していると、魔術師のセルジオと神官のファリアーゼが様子を見に来た。

この二人とゴードンと私が魔獣の王退治に向かう。

私が剣を扱えるようになり次第、出発する予定だ。

「順調そうですね。」

このメンバーのリーダーであるセルジオが尋ねてきた。

「まあまあ使えるようになったな。」

先生役のゴードンさんが答えた。

私もなんとか形になってきた実感がある。

旅立ちの日はきっと近いだろう。

「あの、桜さんはどうしてますか。最近会っていないので…。」

「ああ、離宮でのんびり過ごしているようですよ。」

そんなに声の温度下げなくてもいいと思うのに。

セルジオさんは桜さんに対して結構厳しい。

戦力にならない人間には用がない、と言わんばかりだ。

「ふふっ、私たちの事情でここに留まっていただいているので仕方ないですよ。今日も周りの者に様子を聞いたらお昼寝中だそうです。」

ファリアーゼさんはほんわかした雰囲気をまとう人だが、優し気に見えてちくりと刺す話し方の人だ。

「良かった、困っていたリしてなさそうで…」

「困るどころか、何もしなさすぎて腹立たしいくらいですよ。」

第三者から見たら、そうだよね。

でも、これだけ伝えなきゃ。

「そうさせたのは私です。文句は私に言って下さい。」

思ったよりきつく言ってしまった。

初めて感情的になっちゃったな。

これから旅をするのだし、仲は悪くなりたくない。

部屋に戻り、頭でも冷やそう。

近くの扉に向かう私にゴードンが声をかけた。

「あの同郷の者に本当に話さなくていいのか?」

珍しい。

口数が少なく、立ち入ったことは触れない人がお節介をするなんて。

思わず振り返って、ゴードンさんの顔を見上げる。

いつもは表情を変えず淡々としてるのに、今は心配気な顔してる。

「うん、何も伝えないでいいの。桜さんはそのままで。」

「あいつはおまえから話してくれるのを待っていると思うぞ。」

うん、桜さんはそういう人だ。

何回かお茶してるけど、そうだと思う。

ゴードンさん、桜さんの人柄知っているんだね。

「心配させたくないのよ…」

そう告げて今度こそ気分を落ち着かせるために部屋に戻った。

だから、ゴードンさんの言葉を聞き逃してしまった。


「お前たちは相手を思いやりすぎて、言葉が足りないと思うのだが。」














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