4.ひょろい研究者
真琴とのお茶会以外、桜にはこれといった予定はない。
ご自由にお過ごし下さい、と言われてほったらかし状態だ。
ただし行動範囲はお城の敷地内と決められている。
まず行動するとしたら、情報収集が基本だろう。
でも今の状況で酒場はおろか城の外には出られないのなら、ここしかない。
口数少ない侍女さんからやっと聞きだした暇つぶしスポット、図書館。
慣れない長いスカートをばっさばっさ音たてながら歩き回り、やっとそれらしき建物を見つけた。
重厚な扉は閉ざされていて、勝手に入っていいのかウロウロしていると人が近づいてくるのが見えた。
両手に本を抱え、よろけ気味に歩く男だ。
ターゲット ロックオン、さささっと近づき声をかける。
「重そうですね、お手伝いしましょうか?」
本の重さに悪戦苦闘していたからか、声をかけられて驚いている。
「は、はあ少し持ってもらえると助かります。」
いっぱいいっぱいだったのか、5冊くらい持つと桜の顔を見る余裕が出来た。
「すみません、借りっぱなしの本がたまってしまって…。女性に助けられるなんてかっこ悪いですね。」
肌は白く、髪もぼさぼさ、ひょろひょろな体つき。
典型的な研究者タイプだ。
知的という点ではさっきの魔術師と一緒だが、明らかに人の良さそうな雰囲気はさっきのと大違いだ。
「ずいぶん熱心なんですね、何を調べているんですか?」
「僕は魔獣の生態について研究していて、あ、研究棟の者なんですが…。」
「まあ、魔獣を?どんなことがわかったのか教えて欲しいわ!」
無邪気~なお嬢様を演じながら、話を聞き出す。
専門的なことを調べている研究者は自分の分野を質問されると、饒舌になるのは知っている。
自分の知りたい魔力に対し、魔獣も何かしら関係があるだろう。
わからない単語もいろいろ出てきたが、今はそのまま頭に書き留めることに専念した。
結局、彼と話しながら進み、図書館にはすんなり入れた。
入った後も人気のない室内で、ずっと話し放題だ。
彼の名前はセルジュと言い、自分の調べたこと、それから導き出した仮説のこと、論文にまとめて上司に提出する予定など多く語ってくれた。
普通のお嬢様にはあくびが出る内容だが、自分には解決の糸口をつかめた気がする。
(い~こと聞いちゃった!あとはここでもう少し情報集めたら、行動開始よ!見てなさい、やれば出来る子なんだから私!)
テーブルの下で握りこぶしを固め、やる気をみなぎらせるのだった。