3.冷たい魔術師 side S
「話が弾んでいるようですね。」
生垣からゆったり姿を現したのは、宰相の次男と確か言われていた男。
黒のストレートの髪を片側の肩位で束ね、薄い水色の瞳のほっそりした姿をしている。
大人しく知的な文学青年といったところだ。
今回の召喚では術師を請け負った魔術師でもある。
「そろそろ時間ではないですか?」
真琴の隣に進み、穏やかにそう告げる。
「もう、そんな時間?もっと話したいけど、また会って下さいね!」
真琴は慌てて立ち上がり、別れの挨拶をして建物へ小走りで向かった。
「それでは、私も失礼します。」
目線を真琴から外さず、そう言って立ち去ろうとする男の背に声がかかる。
「あの子に何をやらせる気?」
ついさっきまでの声のトーンとは違う冷え切った声で桜は問う。
「何をおっしゃっているのですか?」
初めて桜と交わす視線は熱がなく、まったく興味を持たないものだった。
感情を表さない相手にやりにくさを感じながらも、ここで食い下がらなければ話す機会がない。
桜と真琴は離れて過ごしており、真琴は王宮の中枢に関わり、桜は離宮でお客様待遇だ。
今日まで関わったこの国の人間は侍女ばかりで、きちんと対応されているが話すことは必要最小限で情報が入ってこない。
ここに来てからなぜ召喚したかの説明もされず、何も求められず、まるっきりの蚊帳の外だ。
ならば召喚の理由も目的も真琴に関わるのだろう。
二人の対応のこのあからさまな違いをはっきりしないと気がすまない。
「あなたにも魔力があれば良かったのですけどね。」
「言ってもしょうがないことでした。」
時間がもったいないとばかりに言い捨てて去っていく。
「ちょっとっ!それって…。」
今度は止まらず、王宮へと帰って行った。
どうやら自分は役立たずと公式認定されたようだ。
何かしろ、と強制されるのも嫌だけど、要らない子扱いも不愉快だ。
この国は何かを隠している。
その手がかりは手に入れた。
「魔力とやらがあるかないかが鍵なんだ。ふーん…。」
立ちあがって王宮のあるお城の建物を見つめ、決意する。
「仲間外れなんてひどいよね。絶対、なんとかしてみせるから。」