生贄少女の作られ方
「合い席、いいでしょうか?」
「えぇ。どうぞどうぞ!良いわよね?貴方。」
「もちろんですとも。」
僕は60歳になろうかというご老人2人組の前にすわる。
「いまからどちらへ?」
「私達、今年で結婚40年目なんですよ。」
「ほぉ。それはおめでたい。」
僕はよくあるテンプレートな言葉を返す。
「それでねぇ。今から行き先の決めてない旅行でもしようかなーなんて思ってる所なんですよ。」
「行き先の決めてない旅行ですか.......」
まぁ、僕も同じような感じなのだが。
「貴方はどちらへいかれるのですか?」
「そうですねぇ......僕も同じような感じですよ。」
僕はかぶっていたシルクハットを脱ぎ、その中から一本の赤いバラを取り出す。
「こんな風にマジックができるので、旅芸道という感じでしょうかね。」
そのバラをご婦人の方に差し出す。
「あら!」
夫である男性の方には、青いバラを取り出し手渡す。
「おや。ありがとねぇ。」
「ところで質問なのですが、ここの近くで何か面白いお祭りなどは無いでしょうか?」
「ここらへんと言っても、私達はロシアからこの列車に乗ってますから.......私は知ら無いわねぇ。」
ご婦人は夫の方を見て質問を促す。
「あまり面白そうでは無いですが。もう少し向こうに行ったアカネイと行った村で儀式があると聞いた事がありますな。」
「ぜひ詳しく。」
身を乗り出しご老人の話に聞き入る。
「といっても、あまり覚えていないのですがなぁ......。
その村はずっとずっと昔から『蝉神様』という神様に守られているそうですな。
蝉神様は70年に一度だけ目覚めて、人間の少女の生贄を求めるそうです。
そしてその生贄に子供を孕まして自らは70年の命を落とし、新しく孕んだ虫に魂を移すのだとか。
そして人間の子供が産まれるように、孕んだ蝉神様の幼虫も同じように産まれ、祀られている本殿に次の70年後まで眠るそうです。
そうして眠っている間は村は蝉神様の結界で悪霊からは守られて、毎年農業は豊作。井戸の水は透き通る程に綺麗で、安全な村を70年間続くらしいですわい。
母体となった生贄は幼虫を孕む瞬間に命を落とすらしく、生贄に選ばれる少女はその祭りまで、生まれた時から大切に育てられるそうですわい。 」
「それは興味深い.......」
何処かに行くつもりは無く、適当に乗り合わせた列車で面白そうな事を教えて貰った。
「これは行くしかないっしょ。」
「ん?如何されましたか?」
ご婦人が心配してくる。
「あぁ!失敬。
失礼ですが、僕は急用を思い出してしまいました。」
そう言って列車の窓を開け、窓の淵に足をかける。
「それでは!また縁が有りましたらお会いしましょう!」
次の瞬間には窓から列車が走っていた橋の下の湖に飛び込んでいった......
「あら!!」
「がんばれよーい!」
ご老人2人が窓から顔を出した頃には僕の体は既に見えていなかったであろう。
どすん。
という音と共に草の生えた地面に足をつく。
ん?なぜ湖に落ちたのに地面にいるのか?
そう言えば行ってなかったようだが、僕はマジシャンではない。
いや、職業上そう名乗っているだけであって実際のところ種も仕掛けもあるようなマジックはできない。
僕の母親は生まれつき素晴らしい能力を持っていた。自分がいる世界とは全く別の空間.......僕は『ホール』と呼んでいるが、そのホールに行くためのドアのようなものを指定した場所に開くことができる。それが僕にも遺伝してしまったらしい。
つまり僕の手品の種は簡単だ。
シルクハットの中にそのドアを作り、そこから取り出したい物を取り出す。
まぁ言うなれば、ドラ⚫︎もんの4次元ポケットのようなものだ。
ドラえ⚫︎んの4次元ポケットと違うところといえばどこにでも開けるというぐらいだろう。
因みに僕の母親はその能力を存分に発揮し、買い物をした時などはすぐにホールの中にぶち込んでいた。
「ここがアカネイ村......か?」
歩きだして6時間ぐらい経過しただろうか。もう日は落ち始め月が登り始めている。
僕の前に姿を現したのは、村というより国と言ったほうがいいかもしれないレベルの大きさの村だった。
「おじゃましまーす......」
村に入りまた少し歩くと今度は明かりが見え始めだした。
僕は数人の人とすれ違い、その度に物珍しそうな目で見られていた。
すれ違う人々皆んな僕のような最近の服装ではなく、昔の人が来ていた服装だった。
「あのーもしかして別の村から来た人ですかい?」
いきなり村の人に話しかけられ、びくっとなる。
「あ、あぁー。そうです。一人旅をしているんですが偶然にもこの村の近くを通ったもので........。もしかして、入国許可証とか必要ですか?」
「そうでしたかい!いやいや!珍しい服装なもんでどこからきたのかなーと思いましてな。
入国許可証なるものがなにかはわかりやせんが、一応村長には挨拶をしておいたほうがいいでしょうかな!」
「なるほど、ご親切にありがとうございます。
それで、村長さんの御家はどちらでしょうか?」
「いや、あっしが案内しますよ!付いてきてください!」
親切な中年の男性に連れられ村長の家へと向かった。
その間、中年の男性がこの村の歴史について教えてくれた。
まぁ、殆どが列車で出会ったご老人が教えてくれたことだったが.......。
「つきやした!それではあっしはこれで!」
「ありがとうございました。最後に質問なんですが、この村は毎日こんな時間まで皆さん働いておられるのですか?」
「いやいや、いつもなら皆んな家の中に篭ってますよ。
ただ、もうすぐ70年に一度の大祭がありやすからねー。あっしも始めてだからワクワクしてやす!
それではあっしもやることあるんで!」
そう言って中年の男性は走ってどこかへ行ってしまった。
「村長さんはおられるでしょうか?」
村長の家のドアをノックし教えて貰ったとおりの言葉を発する。
「おぉー。わしが村長のアリアトと言いますわい。」
何分後かによぼよぼの杖をついたご老人が僕の前に現れた。
「初めまして。僕は旅のものなのですが先ほど村長にご挨拶をした方が良いと言われましたのでやってまいりました。」
「旅のかたでしたか。どうぞ上がってくだされ。
わたくしどもの村には宿というものはありませんので、この村をでるまではわしの家で寝泊まりをしてくだされ。」
「助かります。」
感謝の気持ちを込め頭を下げる。
「いえいえ。この村に旅のかたが足を運んでくださるのは久しぶりですわい。
どうぞごゆっくり。」
その後村長と一緒に杯かわし、3度目のこの村の歴史を長々と聞かされ、お風呂に入り村のかたが着ていた服をお借りし、すぐに寝床についた。
さてここまでが前置きであり、言葉始めであり、プロローグである。
つまりここからが僕の受けた依頼の本番ということである。
夜の2時を超えたところだろう。
「さん、に、いちでやるぞ。」
「あぁまかせろ。俺はあいつの動きを止める。
その間におまえをあいつ首をはねろ。」
襖をあけ、忍び足で二人の男性と思われる人間が忍び込んでくる。
ガタイの良いほうの男が寝ている俺の上にのし掛かったと思えば、次の瞬間には刀を持った男が俺の首を跳ね飛ばす。
何が起こったのか分からないような俺の顔が鮮血とともに飛び散り、ごとりと床に落ちる。
タイミングを見計らったように天井裏にいた僕はそのまま床に着地する。
そして手に持っていたサブプレッサー付きのM92Fを構え、一発、二発と至近距離で二人の男の脳天にぶち込む。
少し音が響いたが支障はない。 どさりと血を流しながら倒れる二人。その片方は今日俺を案内してくれた中年の男だった。
「全く、止めてほしいもんだ。
いくらそこに寝てたのが僕のマネキンだからって、首が跳ね飛ばされたのを見てると流石に寒気がしてくる。」
ハンドガンをホールの中に戻す。
「さて、さっさと仕事を終わらせて美味しい報酬でも貰いに行くとするか。」
依頼?仕事?
僕がいつそんなものを引き受けたかって?
いやいや、さっき前置きの一番最初に引き受けたじゃないか。ぜひとも戻って見てきて欲しいものだね。
さて、見に行かない人の為に言っておくと依頼者はおじいさんの方だ。
2ヶ月前の早朝に電話があった。
依頼内容はアカネイ村の終焉だった気がする。
部屋の窓を開け夜の村へ飛び出していく。村長の家にいちいち泊まりに来たのはここからいけば僕の目的地まで近いからである。
村の外れの小さな神社まで来た。
毎日掃除をされているのかまだ綺麗な方だ。
「お前が死神だな!?」
ついた瞬間にそんなことを少年に言われた気がする。
「少年。僕のことを死神だなんて呼ばないでくれ!
それは本当の死神様に失礼じゃないか!」
「だまれ死神!4日前に大お祖母様が予言してくださったんだ!この村が崩壊するって!
お前がいなくなれば崩壊は止まるって!」
仇を見るかのような目で僕を睨んでくる少年。
目の色は緑色で透き通ったような眼をしている。
おぉー。怖い怖い。
「まぁ、確かに元凶は僕だね。僕がこの村に来たから村が終わる。
でも僕自体が村を滅ぼすわけじゃない。出来ないこともないだろうが、生憎僕はそんな面倒くさいことをする気じゃないんでね。」
「そんなの知ったことじゃない!お前を殺せば問題ないじゃないかぁ!」
腰に帯びていた長刀を抜刀し斬りかかってくる。
その瞬間に少年の眼の色が真っ赤になったのを確認する。
「危ないじゃないか!」
「うるせぇ!だまれ!コロスコロスコロス!」
さっきと同じように思えるかもしれないが全く雰囲気が違う。
僕もホールから刀を二本取り出した構える。
ついでに防毒マスクを装着する。
カンっ!
刀と刀がぶつかり合う音が響く。
右、左、右、左、斜め。
少年はどんどん僕を殺すつもりで刀を打ってくる。
僕はそれを一生懸命受け流す。弾きかえすのではなく、受け流しているのは最悪の自体を避けているからだ。
「シネシネシネシエ!」
「正気に戻りたまえ!少年!じゃないと.......」
確実に僕は君を殺してしまう。
「シネシネシ.......」
右の刀で相手の刀を弾き飛ばし左刀で少年の心臓の右斜め上を貫いてしまう。
その瞬間に少年の眼が元の緑色に戻るのがわかった。
「ぐっ.......!」
正気に戻ったのか体を貫かれた痛みが回ってきたらしい。口から血をはき始めた。
「俺......負けちゃったんですね。」
「そうだ少年。君の負けだ。」
「あーぁ.......弱いなー俺......守れなかったなー俺.......」
「村をか?」
「それもあるけど、一番は俺の大好きな女の子を守れなかったよ......」
「少年。君の言った通り僕は死神かもしれない。
死神には『神』という言葉がつくだろう?
神様っていうのは人の願いを叶えてやらなきゃいけないらしい。
70年に一回復活し、女の子に自らの子を孕ませて自分は死ぬ。
これは神ではなく妖怪の部類に入るんだ。
まぁ、俺の死神だから神だ。少年の好きな女の子を助けたいという願い......かなえてやろ.......ってもう聞いてないか。」
目の前の少年はぐったりともう目覚めることのない眠りについていた。
僕は少年の死体を優しく地面に横たわらせ本殿へと向かう。
「ったく。とんだ貧乏くじをひかされたもんだ。」
つけていた防毒マスクを外す。
ばんっ!
襖を思いっきり開けると、そこには15歳程の少女が座っていた。
「貴方が大お祖母様の言っていた死神様ですね?」
「ですから、さっきも表に居た少年に言った通り、僕は死神ではなく元凶というだけです。」
「そんなこと知りません。」
「それよりどうします?君は今右手に持っている短刀で僕を斬り殺しますか?それとも、諦めて僕について来てこの村を見捨てますか?」
「どちらも選びません!もうすぐ蝉神様が復活してくださいます!
そしたら貴方はすぐにでも.......」
僕はその言葉にぴんときた。
もしかしてこの少女は蝉神の姿を知らないんだと。
この様子だと村の人間も殆ど知らないのでは無いか?
「わかった。その蝉神様が来る前に君にひとつ質問がある。
蝉神様はどんな格好をしていると思う?」
「えっ?
そんなの決まってます!凄くカッコ良くて現れる時は20歳程の男性の姿で来られるんです!」
「それは違うな。」
間髪をいれずに僕は拒否する。
そしてさっき一番ここにたどり着くのが早かっ他のであろう特大サイズの蟲の幼虫をホールから取り出し、少女の方に投げる。
「ひっ!?」
少女は後ずさり壁にぶつかる。
「これが君たちが心から崇め信仰してきたであろう『蝉神』だ。
正確にはこの蟲があと100匹以上はいるだろうな。
いいか、これは僕の憶測に過ぎないがこの蟲は言うなれば性欲の塊みたいなもんだ。
こいつらは地面から出てくるとともに近くにいる『女』に寄っていく。そして
あとは知っての通り神の子(蟲)を孕み、そいつが産まれるとともにそいつは母体を喰らい始める。
名前は確か『盧蟲』だったかな?吸血鬼なんかがこいつを詠唱魔法なんかの媒体にするらしい。
そしてこいつは一回動物の雌を孕ましたと分かった時点で体内爆発をするんだ。そしてその死体を地面に埋める事によって『妖樹』という樹が育つ。
まぁ、この樹は70年で寿命を落とす。それまでの間は半径100キロ以内の植物の育ちは良くなり。水は聖水と同じレベルで浄化されるんだ。」
長いセリフは喉が渇いてくるな。
「そ、それでは私たちはこんな蟲を祀っていたんですか.......?」
「だからさっきからそう言ってるじゃないか。
それで、最後にもう一回だけ聞く。君は今右手に持っている短刀で僕を斬り殺しますか?それとも、諦めて僕について来てこの村を見捨てますか?」
「.......私が村を見捨てても村の方々は助かるんですか?」
「それは無い。」
またも僕は即答で答えた。
「君が孕まない時点でこの村は助からない。
まぁ、たとえ君がここに残って孕んだとしても同じように村は滅びるだろうけどね。」
「どういうことですか?」
「いいか?
妖樹は何も植物が育ちやすくなる樹というわけではないんだ。
それは敢えて言うなら副作用の効果であって、本当の作用は半径100キロ以内に結界を張るというのがもとの効果なんだ。
この村に結界が無くなると周囲に溜まっていた蟲共がよってくる。
そしてもう村の人間の殆どが蟲の匂いでイカれてるだろう。
妖樹というのはある日を境にどんどん力が弱くなっていくんだ。弱くなっていくというだけ力が無くなると言うわけではない。少なくともこの本殿は永久的に安全だろうね。
この村を作ったやつはバカだったんだろうよ。
もともと妖樹というのは70年.......25550日丁度でその力が弱まる。
質問だ。わかっているなら教えて欲しい。開かれる予定だった大祭は何回目だったんだ?」
「今年で3回目と聞きました。」
少女はきょとんとした顔で答えた。
「なるほど。
いいかい?この世界には4年に一回一年が366日になる年があるんだ。」
そこで少女が何かに気づいたように顔を上げる。
「もう気づいたようだね。
この大祭の周期は25550日に一回ではなく、25567日に一回の周期なんだ。」
「つ、つまり今年で3回目......既に妖樹の力が弱まり出して既に、ご、51日は過ぎてるってこと........?」
「正解だ。この村を作った人間はそのことを考えなかったらしい。
妖樹の力が弱まっても50日目......つまり昨日までは殆どの村人に影響は無かった。
が、生憎今日はもう51日目だ。さっきの表の少年も殆ど操られている状態だったよ。」
「でも!イカれてても死ぬことは......」
「無いだろうね。でも殺されることはあります。
大お祖母様という人は拳銃を持った黒い服を着た男の人が街を滅ぼすと言ったのではないですか?」
「そ、そうですよ!まるっきる貴方じゃありませんか!」
その通りだ。確かに僕は黒い服を着ている。だが.......
「その後に仲間引き連れて.....なんて言いませんでしたか?」
「?!」
どうや図星のようだ。
「確かに僕にも仲間はいます。だけど、僕は基本的に一人でしか行動しません。
多分その予言の奴は、ハーフ吸血鬼の少年とバイトの女店員を二人引き連れてやって来ると僕は思います。」
「知り合いなんですか?」
「まぁ.......昔のよしみでしょうかね。」
「........」
すると少女は黙ってしまった。
が、数分後に涙を流しながら口を開いた。
「........ついて....いきます.....!」
「その言葉を待っていたんです。」
ホールから防毒マスクもうひとつ取り出し少女につける。
「そのマスクをはずしたら、君も他の村人と同じようになってしまう。」
「わ、わかりました。」
次に少し大きめにホールを開け、スマホで大型ドローンを操作する。
大型ドローンから梯子を垂らし、それに捕まる。
少女は僕の体に抱きつき落ちまいと頑張っている。
そのまま上空に上がり下でゾンビ状態になっている村人達を少女に見せると、もう完全に納得したらしく泣きじゃくりそのまま寝てしまった。
そして村を離れ近くの街に着陸し、大型ドローンを仕舞って予定通りくるはずの列車を待つことにした。
その頃のとある村。
「ここがアカネイ村か!!」
「て、店長!!マスク付けないと危ないですよ〜!」
右手に謎の紅い紋章がある少年にいわれ、黒いスーツを着た男が指摘通り防毒マスクを着用する。
「にしても酷い有様だな。さすがは昔の同士.......いまクソペテン師だが、まぁ、後先考えずにやった結果がこれか。」
「本当......。跡かたずけをする私達の身にもなって欲しい........。」
スーツ男に同意するように黒い髪をポニーテールで結んだ女性が答える。
「わたしはっ!楽しそうだから良いかな!なんてっ!」
赤い髪を肩まで伸ばした女性が楽しそうに答える。
「ぼ、ぼくはあんまり乗り気じゃないかな〜........」
最後にハーフ吸血鬼の少年が申し訳なさそうに答えた。
「いいか!ここからは戦場だ!気を引き締めてかかれ!!」
「「「らじゃ!」」」
先頭を走っていく三人の後ろでスーツ男はニヤリと笑った。
「さぁて遊ぶとするか.....」
「相席。よろしいでしょうか?」
「あら!貴方は......」
ぼくは60歳過ぎたであろうご老人夫婦の前に座る。
「旅行はどうでしたか?」
「えぇ!とっても楽しかったわ〜。もうたくさん良いものが見れたもの!」
「それは良かった。そういえば.......」
僕はシルクハットの中にホールを作りそこからある袋を取り出した。
「ぶらりぶらりと歩いていると昔の友人と会いましてね。
相席した事を話すとこれをそこのお爺さんに渡して欲しいと言われましてね。」
僕が袋を渡すと確認するかのように袋の中身を確認した。
「おぉ!確かに受け取りましたぞ。」
「貴方?なーにそれ?」
「これか?これはな、わしが知り合いの収集家に頼んでおいた標本用の蟲じゃよ。」
「貴方も好きね〜。」
「ハハハ...。そう言えば私も旅行前に怪しい男に会いましてな。
その男が旅行中に2度相席するはずの男にこれを渡して欲しいと言われましてな.....」
するとお爺さんはジュラルミン性のケースを僕に渡してくる。
僕も中を確認し、ケース閉じる。
「成る程。ありがとうございました。」
しばらくするとご婦人が僕に質問をしてきた。
「そういえば、そちらにいる女の子......前に会った時は連れて居なかった様な気がしたんだけど........」
「はい。旅先でどうしても僕の弟子になりたいと言われましてね.........。
この娘の親と話し合った結果、僕に弟子入りをしたんですよ。」
「あらそうなの!........あなたお名前は?」
「神凪 夕.......です。」
「夕ちゃん?これからがんばってそこのお兄ちゃんに近づける様に頑張ってねぇ!」
僕の一番弟子は僕の袖をギュッ掴みながらコクリ頷いた。