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作戦は、こうだ。
世に梅雨前線というものがあることは確かであるからして、ならば夏入り前線なるものがあることは当然の帰結である。それは、梅雨前線の例にもれず、基本的には、南から北、西から東に進行していく、右肩上がりの経路をとる。つまり、沖縄から始まり、北海道が終着駅である。
だから、これから逃げる。
移動手段には、自転車が採用された。俺はバイトの給料日前で、夏江は前日彼氏と飲んだ結果として文無しだった。そして、コンビニのATMは、朝、地方銀行の窓口を閉ざしている。
自転車は夏江の持参だった。いかにも女子が乗りそうな小ぶりの自転車で、俺がサドルに座ると、金属製のフォルムが一瞬たわんだような気がした。が、夏江が後輪に立ち乗ることで、再び、たわんだ状態から持ちなおって、もとのフォルムをキープした。ように見えた。重心がばらけたせいだろうか。科学の神秘だ。
とにかく、それで準備は整って。俺たちは夏から逃げることにした。