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俺は、そのサークルの存在を先輩から聞いた。先輩が卒業して上京するので、メンバーの欠員を埋めるため、俺にお声がかかった形だ。俺と先輩は共通の悩みを抱えており、その意味で先輩が俺を後継者に指名したのは、ある意味当然だったといえた。
はじめて参加した時、サークルの会合は大学構内の小さな講義室でおこなわれた。サークルというより、ほとんど秘密クラブだった。分厚いカーテンで完全に窓からの陽ざしを遮り、クーラーがガンガンにかかっていた。
「君が上島くんの推薦の?」
ひょろりとした眼鏡の男が俺を迎えてくれた。卒業する先輩をくん付けで呼ぶということは、この男は先輩より目上の人物なのだろう。院生か、それとも留年をライフワークにしているキャンパス内の牢名主か。俺にとっては、どうでもいいことだが。
「そういう話で聞いています」
「ありがたい。欠員が二名出てサークルの存続を危ぶんでいたところだ。しかし、こうしてなんとか枠が埋まった。馬鹿馬鹿しいと思うかもしれないけれど、これでも伝統あるサークルだからね。僕の代で途絶えさせるわけにはいかない」
「二名、ですか?」
二名抜けて、枠が埋まったのであれば、新入部員は二人いるということになる。
「ちょうど彼女も今来たところだよ。よろしい。では、お互いに自己紹介といこう」
男の言葉に、それまで長机に腰かけ、文庫本に目を落としていた少年が、がたりと立ち上がった。
向き合ってみると、少年ではなく、少女だった。厚手のサマーセーターで手の甲までを隠し、下も踵まで隠れるパンツルックだったので、女だと気づかなかった。この暑いさなか、こんな恰好をしているということは、彼女もそうなんだろうか。
「夏江です」
「原畑です」
互いに一礼する俺と彼女。
にこにことひょろひょろ眼鏡は、両手を子広げる。
「ようこそ、我が『夏を滅ぼす会』へ」
それが夏江との出会いだった。