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 実は、大方予想がついていたのだが、夏江が予約した温泉というのは、いわゆる家族風呂だった。石が敷かれた小さな湯船に我々は向かい合って座らなければならなかった。互いにバスタオルを体に巻いているので、冷静に対処すればなんということはない。なんということはないはずなのだが、俺は居住まいが悪かった。夏江の顔を直視できない。すぐにでも湯船から逃げ出してしまいたかったが、何しろ我が身の巨体さはよくわかっている。湯船に浸かるだけでどれだけの湯が外にこぼれだしてしまったことか。今、自分があがったら湯船の水位は著しく下落し、せっかくの温泉だというのに、夏江に半身浴を強いることになってしまうだろう。それはそれで避けたかった。つまり、俺は狭い湯船の中、小さく縮こまる(比喩だ)しかなかった。


「原畑」


 湯気の向こうで俯いたまま、夏江が言った。そのしっとりと湿った前髪の奥で、彼女がどんな表情をしているか、俺には測りかねた。


「……うん」


「ごめん。路銀が尽きた。もう旅を続けられない」


「……うん」


 それで俺たちの馬鹿げた夏からの逃避行は終わりを迎えることとなった。


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