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第1回なろう文芸部@競作祭 『キーワード:夏』投稿作品
インターホンが鳴って、扉を開けると、そこに夏江が立っていた。大層面喰った。終電もとっくに終わって日付も変わったこんな夜更けに、何の用か。
雨に降られたのか、頭から肩までじっとりと濡れている。傘を持っている様子もない。
「どうした」
訪れた時刻といい、恰好といい、ただ事ではなかったが、俺がどうしたと訊いたのは、そういう意味ではなかった。
我々は、互いに互いのプライベートに関わらない。それがサークルの不文律ではなかったか。俺たちの活動は、大学の中でも異端の部類に入り、個々人の関係性は秘する限り秘すのが望ましかったはずだ。
しかし、夏江はそんな俺の疑問に斟酌の様子を見せない。
「泊めて」
何かあったな、と俺は直感する。
「わかった。あがれ」
濡れた前髪の向こうで、仏頂面がこくりとうなずいた。