3.もう一つの目的のために
かといって何もしないわけにはいかない。
そこで、菊花の周囲で起こった事件について情報を集めるため、珪己は女官が集う大部屋をのぞいてみることにした。だが、珪己はここでも惨敗を喫したのである。
にぎやかに会話を楽しんでいた女官らは、突如現れた珪己を見るや、とたんに口をつぐんだ。そして肩をすくめ、お互いの顔を突き合わせてぼそぼそと話すと、最後は全員で扉にその背を向け、珪己が室内に立ち入ることを無言で拒否したのである。
こちらも長期戦を覚悟することとし、珪己は引き際よく自室に戻った。だが、まだ明るい時間から後宮の狭い自室にこもるしかないというのでは、元来体を動かすことの好きな珪己には辛い話である。
そこで珪己は持参した数少ない荷物の中からある服を取り出した。
思わずにんまりとしてしまう。
「さっそくこれの出番がきたわ」
堅苦しい女官の服を脱ぎ捨て、いそいそと着替える。華美な化粧をおとし、髪を頭布で一つにまとめる。そして鏡をのぞくと――女官はいなくなり、一転して武官そのものとなっていた。
珪己が身に着けたものは、侑生には内緒で清照に用意してもらった武官の略礼服である。ややゆったりとした、当然男物の服だ。最後にゆるく結んだ腰ひもに武官の証である紅玉の飾りをつければ変装は完成である。
珪己の任務も真意も知らないというのに、清照はどこからかこの服と紅玉を調達してきてくれた。お古をいただいてきたらしい。あのたおやかな美女と武官の諸道具、一体どういうツテがあるのか珪己にもいまだに分からないが、その代わり、と言って清照からとある頼まれごとをされている。
今、珪己がこの装いに身を通したのは、自分のためだけの目的を果たすためであった。年頃である自分が装い一つで男にしか見えないというのも、標準的な女性らしい背丈と華奢な体つきのせいで年よりも若い十三、四歳の少年にしか見えないことも、珪己の目的をくじけさせるものではない。父である玄徳にこの仕事を依頼されたときにひらめいた名案を、珪己は登城初日にしてさっそく実行に移すことにしたのである。
作成済の小説を投稿用に分割していますが、今回はいいところで区切れず、これまで投稿した話に比べて短いです……。
こんな感じで、長いものと短いものが混同すると思いますが、よろしくお願いします。




