無題
誰かに触れたり、誰かのあたたかさを感じることがこれほど嬉しいとは。そしてこれほどどきどきするとは。
人には人にしかない温度がある。それは全く不思議なもので、他のものでは再現しようもない。あたたかく身を切るような切なさがあわく霞んでとけている。
それはぼくを幸福にもするし絶望させもする。ときに恐怖を覚えることもある。千変万化してぼくを惑わす。
普通に過ごしていたら普通は体験しないような不思議な世界がそこにはあるのだ。まさに、あなたに触れるとき。
人には、未来を見る目と過去を見る目があるという。君といるとき、僕はいつも片方の目を閉じている。必死にかたくつぶっている。そちらの目は永遠に失明してしまえばいい。明日あたり、潰してしまおうかとも。
いつかお別れが来ることを、ぼくも君も知っている。お互い、それに向かって進んでいるのだということも、無言のうちに理解し合っている。だから要らないのだ。未来など見たくないのだ。
声も言葉も体も、誰かを愛するときは全て僕の心に歯向かってくる。自分が最も大きな壁として存在する。そういうとき、ぼ くはぼくを殺したくなる。というかむしろいっそのこと、君に殺されたらいいのに。
体のどこもおかしくないのに、ほんとうに胸は痛くなって、重たくなって、締め付けられるということを知った。君がいないと解決しない。君がいないと動けない。
でもだからといって、君といるときが最も楽しいのかと言われればそれは違う。この気持ちはどうにも名前がつかないように思う。あまりにもわがままで、手に負えない…。
思い出してはしあわせになって、また思い出してはどきどきして。君がいないところでこんなことしてるこんな汚いぼくをどうか許してほしい。
君のせいだなんていう正当に聞こえる理由を振りかざして、今日もまた君を思い浮かべて。
しかし、あえてもう一度言うけれど、これは君のせいなのだ。どうがんばっても君がぼくを邪魔する。
あなたは、すてきな人だ。そして、なんておそろしい人なのだろう。