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特進コースの体質と疑惑の教師

ホテルの従業員が警察を呼んで、二年生の特進コースの生徒と特別に参加している篤史達三人は、教師と共に従業員が使用している大きな会議室に呼ばれた。

「またあなた方ですか?」

所轄の刑事である松尾刑事が、去年の奇妙な出来事の時も担当したのか、教師達の顔を見るとウンザリした表情で言った。

「別に何か起こそうとしたわけでは...」

幸太郎は申し訳ないという思いを松尾刑事に伝える。

「しかし、あなた方の学校は去年とい色んな事件が起こりますなぁ」

嫌味の一つを言う松尾刑事は深い溜息をつく。

「仕方ないでしょ? 由良先生の言うとおり、何か問題を起こすつもりはないんですから...」

幸太郎同様、普通コースの担任で社会科担当の浅田一也が努めて穏やかな口調で言った。

「第一発見者は誰ですか?」

松尾刑事は起こってしまった事件は仕方ないという表情をして聞く。

「私です」

恵子は憔悴した表情で自分だと答える。

「発見した状況を教えて下さい」

「私は生徒達が夕食中に部屋の見回りをしていたんです。そうしたら宮本君の部屋のドアが開いていたのできちんと閉めておこうと思い、開いているドアから中が見えたんです。そこに宮本君が...」

恵子は途中まで言うと、顔を両手で覆ってしまった。

「わかりました。由良先生と浅田先生は食堂にいたんですか?」

「はい。由良先生と一緒に夕食を食べていました」

一也は幸太郎と一緒にいたと答えると、幸太郎もそのとおりだと頷く。

「宮本って食堂に来てたやんな?」

一番前に座っていた篤史は、特進コースの生徒達に聞く。

「来てたで。でも、宮本、食べるの早いから食べてすぐ部屋に戻ったんやないかな」

篤史の近くに座っていた男子生徒が答える。

「君は誰や?」

突然、捜査に加わった篤史に松尾刑事は不穏な表情を見せた。

「オレは小川篤史です。夕食が始まったのが午後六時。市村先生の叫び声が聞こえたのが六時四十分。オレが駆けつけたのがその五分後。食堂は一年から三年の特進コースの生徒で賑わっていたから、宮本以外にも誰かが食堂を抜け出したとしてもわからへんな」

篤史は食堂の事を思い出しながら、誰でも犯行が行えると言った。

「市村先生は部屋の見回りっていつからしてたん? 夕食は?」

篤史は松尾刑事がいるにも関わらず、勝手に捜査を始めてしまう。

それを見た松尾刑事は勝手にするなという態度を出す。

「夕食は簡単に済ませた後に部屋の見回りをしていたの」

恵子は篤史の問いに答える。

松尾刑事はさらに慌てふためいている。

「あの...勝手な事をしないでくれるかな?」

松尾刑事は篤史にやんわりと注意をする。

注意された篤史は、そういえば警察がいたなと思う。

「宮本は殺害されたんですか?」

一也は不安になりながらも松尾刑事に聞く。

「事情聴取の前に現場を見てきたのですが、恐らく自殺ではないかと思われます」

松尾刑事は現場で正の遺体を見た印象を伝える。

(自殺...?)

篤史は松尾刑事が掲げた自殺という断定には納得しなかった。

「宮本君はどういう生徒でしたか?」

松尾刑事は担任である恵子に聞く。

「委員会もしっかりやってくれていて、成績優秀な生徒でした」

「そうですか。由良先生にもお聞きしますが、由良先生から見て宮本君はどんな生徒でしたか?」

松尾刑事は幸太郎にも正がどんな生徒なのか何かを試すように聞いてみた。

「今まで特進コースにはいない生徒でした。見た目がということなんですが、チャラチャラとした感じでも成績が良くて、意外な感じがしていました」

幸太郎は松尾刑事の試すような質問にも屈せず、今まで教えていた特進コースの生徒とは違うと答えた。

「去年もそうでしたが、確かにみなさん真面目そうですもんね」

松尾刑事も幸太郎の答えに納得しているようだ。

「宮本君の死は、去年自殺した生徒と小野さんの復讐やないの?」

朝可が去年の自殺と一ヶ月前に自殺した生徒との関連を疑うような口調で言った。

朝可が言った言葉に、特進コースの生徒達の顔色が変わってしまい、会議室の空気が凍りついたように変わってしまった。

「あれは関係ないんや! 倉本、余計な事を言うな!」

一也が動揺して、自殺した生徒の話をするなと言わんばかりに朝可を怒鳴りつける。

「小野さんは宮本君からイジメを受けてたやない」

朝可は一也の怒鳴る声に動じず冷静でいる。

「倉本!」

自分の言う事を聞かない朝可に、一也はさらに怒りを覚えたようだ。

「先生、落ち着いて下さい。倉本、その話はよそう。宮本が亡くなったんだ。今は自殺者が出た事とは切り離そう」

一也と朝可の間に幸太郎が入り、二人をなだめる。

「倉本が言ってる事も関係ないことはないんやないかな」

篤史は朝可の肩を持つわけではないがという事を前提で話し出す。

「小川まで...」

幸太郎はせっかく二人を止めたのに...という思いを声に含めた。

「でも、去年のは関係ないんやないか?」

晶彦は正の自殺とは関係ないのではないかと意見する。

「確かに去年の出来事と今回のは切り離したほうがいいのかもしれへん。でも、去年の出来事を知ってる特進コースの生徒や特進コースを教えてる先生達なら、今回の事をそういうふうに見せかけたのかもしれへんで。理由はわからへんけどな」

篤史は正が自殺ではないということを隠して全員に自分の考えを伝える。

「そこまでにして下さい。生徒がこういうこと勝手な事を発言するからこういうことが起こるんじゃないですか? 今日はここまでにするので、みなさん部屋に戻って下さい。また何かあればこちらから報告するので、勝手に部屋を出たりしないようにして下さい」

松尾刑事はこれ以上、反岡高校の生徒には話を聞いていられないと思ったのか、手短に事情聴取を終えた。













全員が部屋に戻ると午後七時半が過ぎていた。

七時半から夜の授業が二時間行われるはずだったが、それがなしとなり、各自部屋で自習になった。

正と同室だった二人の男子生徒は違う部屋に移された。

晶彦と同室の篤史は、事件が起きた以上どうしても自習をするといった気分ではなく、ベッドに寝転んで事件の事を考えていた。

(松尾刑事も部屋の状況を見たって言うてたけど、自殺というには違和感がありすぎる。宮本の部屋、自殺という感じの状況ではなかったような気がするけどな。それに、さっき倉本が言った、宮本が小野っていう生徒をイジメていた事も気になるな。去年の出来事と結びつけるのもどうなのかという点もあるけどな)

どこにどう違和感があるのかわからないまま、モヤモヤとした感じだけが残っていた。

「事件の事、考えてるのか?」

一旦、勉強にキリがついた晶彦が寝転んでいる篤史に近付いてきた。

「うん、まあな」

篤史は寝転んだまま返事をする。

「去年に引き続いて今年もこんなことが起きるなんてな。来年はこんなことが起きひんかったらいいのにな」

晶彦は来年こそは奇妙な出来事が起きなければいいのに...と呟く。

来年は受験でピリピリムードになる三年生の大切は時期に今日みたいな事が起こってしまえば、受験勉強に影響してしまうと考えていたからだ。

ましてや、国公立を狙っている生徒からすれば、受験勉強だけに専念したいと思っているのだ。

これ以上、特進コースの生徒を惑わすような事をして欲しくないというのが晶彦の正直な気持ちだった。

「そういえば、井沢が食堂で小野っていう生徒が特進コースに何がなんでも...って言うてたのは、どういう意味なんや?」

篤史は急に思い出したように学が言った言葉を思い出して晶彦に聞いた。

「そのことか。小野はクラスでの成績は一番下やったんや。普通コースの赤点って35点未満やろ? 特進コースは50点未満が赤点なんや。小野はほとんどの教科が赤点やった。そこで市村先生の提案で、二学期から普通コースにコース替えしたらどうやという事を小野に言うてたんや。でも、小野は特進コースにいたいって言い張ってて...」

晶彦は小野という女子生徒の事を話し出す。

「市村先生がその提案をしたのっていつなん?」

「中間テストが終わってからや。テストの点数を見て判断したそうや。最初は小野だけに言うてたけど、小野が断固として拒否したから、クラス全員にその話をしたんや。話し合った結果、賛成で決まったんやけど、そのでも嫌やって言い張ってて...。大人しいだけじゃなくて、そういう小野の成績の悪さも手伝って、宮本はイジメをしてたんや。オレらもイジメの事は知ってたけど、関わるのが嫌で見て見ぬフリをしてたんや。みんな、自分の受験の事しか考えてへんからな。まぁ、そういうのもイジメの一種なんやろうけどな」

晶彦は自分達も小野という女子生徒のイジメに加担していたという認識でいたようだ。

「イジメの事は市村先生は知ってたん?」

「知ってたで。でも、止めようとはしなかった。理由はわからへんけど...」

「知ってて止めへんかったんか...」

篤史は晶彦の答えに、なんだかやるせない思いになっていた。

「でも、その生徒って期末テストの後に自殺したんやろ? オレ、聞いてへんねんけど...」

篤史は自殺した生徒がいたという情報を知らないというふうに聞く。

そんなショッキングな事が起きれば、必ず耳に入るからだ。

「それは内輪で内緒にしておこうということになってるんや。だから、普通コースの生徒の耳には入らへんかったんや。これは校長の判断や。小野は団地住まいで、その団地の屋上から飛び降り自殺をしたんや」

晶彦は篤史が事件を解くために何かの情報になると思い、詳細を教える。

「これは校長や市村先生から口止めされてるから口外しないでくれよ」

晶彦はここだけの話で誰にも言わないでくれと篤史にも口止めする。

そういうことはあまり納得していない篤史だったが、晶彦の立場もあると思い、渋々承諾した。

(オレに奇妙な出来事に関してどうにかして欲しいってお願いしてきた市村先生とかなり違うな。なんとか解明して欲しいっていう感じやったのに...。宮本の件も気になるし、ちゃんと調べたほうが良さそうやな)

篤史は自殺の件を口止めした恵子と篤史に奇妙な出来事の解明をして欲しいと必死にお願いをしてきた恵子とかなり違うという印象を持った篤史は、恵子は二面性を持つ人物なのではないかと思っていた。

そして、今まで強化合宿に来るまで恵子の授業を受けた事がなかった篤史は、恵子がどんな教師なのか気になってしまい、正の事も含め、恵子の事も調べてみようと思っていた。












しばらく晶彦と話をすると、篤史は正の部屋に行く事にした。

部屋から出るなと言われていたが、こんな事態になった以上、調べないわけにはいかないと怒られるのを覚悟で部屋を出た。

正の部屋に行くと、鑑識官がいて数人の警官が捜査に当たっている。

その中に松尾刑事もいた。

「鑑識さん、死因はなんですか?」

松尾刑事は鑑識官に死因が何かを聞く。

「首吊りによる窒息死になります」

「そうか。自殺か?」

鑑識官の答えに納得すると、自殺の有無を聞く。

「いや、違う」

松尾刑事の背後から鑑識官の代わりに答える篤史。

自分の背後から声が聞こえた松尾刑事はギョッという表情をした。

「き、君!? 部屋で自習ってことになってるだろう?」

松尾刑事はあたふたした様子で言う。

「オレは特進コースの生徒やないんです」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味ですよ。宮本は殺害されたんやと思います」

篤史は部屋を見ながら言う。

「オレが市村先生の叫び声で駆けつけたけど、宮本の足元に台とかそういう類の物はなかった。自殺やったら台か何かがないと天井に紐をくくりつけて自殺なんて出来ひんと思う。部屋を見る限り、椅子は動かされた形跡はないから他殺の可能性が高いかと...」

篤史は松尾刑事が言った違和感が何かわかったため、そう伝える。

「言われてみれば...」

松尾刑事は椅子はもちろん机も動かされていないのを確認すると納得してしまった。

その松尾刑事の様子を見て、警察官なんだからもう少ししっかりと現場を見てくれよと篤史は思っていた。

「君の言う事はわかった。早く部屋に戻ってくれ」

松尾刑事は篤史に早く部屋に戻るように促す。

篤史は何かわかるかもしれないのに...と思っていたが、また改めて来ようと部屋を出ると、正が使っていたと思われるベッドの掛け布団にシーツに何か赤いものが付いていた。

(ん? なんやろ?)

篤史はかがんで確認する。

(口紅...? なんでこんなところに付いてるんや? この部屋、宮本を含めて男子三人の部屋やのに口紅なんか付くはずないやん。もしかして、犯人の口紅か?)

篤史は口紅が犯人の物か疑問に思っていた。

次に篤史は幸太郎の部屋に行った。

一也と同室のため、篤史が来たところで場所を変えようと言い出した幸太郎はロビーに向かった。

「なんや? 何かわかったんか?」

幸太郎は椅子に腰を掛けてから聞いた。

「そういうわけではないねんけど、市村先生ってどんな先生なん?」

篤史は恵子の事を聞いた。

「なんやねん? 急に...」

事件の事を聞かれるのかと思っていた幸太郎は、見当違いの質問に拍子抜けをする。

「ちょっと気になってな」

篤史は晶彦にイジメの事を口止めされているため、気になるという言葉で濁した。

「生徒にためになるわかりやすい授業やで。人柄は女性らしい人や」

「性格はヒステリックとかそういうのは?」

「ないで。どちらかというと穏やかやで。しっかりとしているというのもあって特進コースの担任に選ばれたんや」

幸太郎の答えに、しっかりしているというのは篤史も納得していた。

恵子の事を話す幸太郎は少し嬉しそうだ。

「市村先生の事、好きなんか?」

思わず、ニヤリとして篤史は幸太郎を見る。

「そ、そんなわけないやんか!」

顔を赤くさせてあたふたして否定する。

「図星やな」

篤史は幸太郎の心の気持ちを呼んだかのように言う。

「まったく小川といると油断出来ひんな」

幸太郎は溜息混じりに呟く。

そして、篤史のほうを見る。

「宮本の事で市村先生が何か関係してるのか?」

さっきまでのあたふたした様子からキリッとした表情になる幸太郎。

「いいや、まだわからへん。ただ市村先生ってどんな先生なのかなと思って...」

篤史は正直に恵子の事が聞きたかっただけだと答える。

「そうか。それならいいんや」

幸太郎は恵子が好きだという感情以外に、同じ教師として一緒に仕事をしてきた仲間として生徒を殺めたなんて思いたくなかったからだ。

「市村先生は宮本を殺めてへんと思うで」

なんとなく幸太郎の思っている事がわかった篤史は、恵子は今のところ何もしていないと否定する。

「まぁ、証拠がないからなんともいえへんけどな。市村先生って意見がコロコロ変わったりする事ってない?」

「ないな。なんでや?」

「いや、なんでもない」

篤史はこれ以上、幸太郎を心配かけたくないと思い、首を横に振って答える。

そして、正の部屋で見た口紅が誰のものだかわかっていた。

篤史は幸太郎と別れると、もう一度、正の部屋に向かった。

中に入ると、ほとんどの操作が終わっていて、数人の鑑識官だけしかいなかった。

部屋に入った篤史はゆっくりと部屋を見る。

「鑑識さん、シーツに付いていた口紅は誰にものだかわかったんですか?」

近くにいた鑑識官に聞く。

「わかったよ。市村先生のものなんだ。さっき市村先生とホテルの女性従業全員の口紅を調べた結果、市村先生が使用している口紅の色とメーカーも一致したよ。市村先生が遺体を発見した時、部屋に入ってないし、口紅を誰かに貸した覚えもないのにって言ってたよ」

鑑識官は篤史が誰だか知った上で答えた。

「そうですか」

(やっぱり...。恐らく、犯人が夕食時に市村先生が口紅を塗り、市村先生の犯行に見せかけたんや)

篤史は恵子が犯人ではないと確信していた。

「宮本のカバンの中は勉強道具と着替えしか入ってないですよね?」

「ほとんどはね」

鑑識官は頷いて答える。

篤史はありがとうと礼を言うと、再び事件の事を考える。

そして、事件が起こる前の事を思い返していた。

事件の事を考える篤史に噂で聞いた去年の出来事を思い出していた。

(去年のの奇妙な出来事を起こした背景ってもしかして...。去年のイジメの件とあの人は無関係やなかったんやな。これで犯人はわかった。あの人や!)

篤史は脳裏に色んな事がスパーリングした。

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