引き継ぎ
とあるマイナーミュージシャンの歌詞の一部に、ひどく惹かれる表現があり、それを膨らませて作りました。当時200文字ミニ小説の投稿があり、それに一度出してみたことがある作品です。
音沙汰なし。ま、その程度の内容なんだろうな(^^;
俺が小さい頃、親父の同僚が隣に越してきた。奴との腐れ縁が始まったのはそこからだ。
越してきた翌日から、一緒に幼稚園に通ったよ。俺が年中組、奴が年長組。最初は、苛められたら可哀相だな、と思ったが、転園して即、当時年長で一番喧嘩の強い奴を泣かせ、一気に周りを黙らせていた。でも、そんな風だから、最初は友達がなかなかできず、寂しくて泣いている時もあったっけ。俺の家もそうだったけど、奴の家は共稼ぎだったから。
ある日の夕暮れ、幼稚園の片隅で一人ぽつんと立っている奴を見て、どうしていいかわからなくて咄嗟に渡した菓子のお返しだったのだろうか。奴は翌日、無言で俺に小さな袋を渡したよ。中身は、当時の俺の掌大の綺麗な石。一体どういう意味なんだろう、とは思ったけれど、何か酷く大切な物を託された気がして、粗末に扱うことができなかったな。
それ以後、俺は事あるごとに奴の悩みや自慢話、その日の面白かった話を聞いては、一緒に笑ったり泣いたりしてきた。奴はどう思っていたか知らないが、俺自身は保護者のつもりになっていたのかもしれない。俺の親も奴の親も少し違う目で見ていたようだけれど。
奴は東京の大学に進学し、そのまま東京で就職した。就職活動時は頻繁に電話があって、こっちに帰って来たいと言っていたけれど、看護士になるために東京で勉強をしてたんだし、そっちで就職したらどうだ、と言ったら、本当に東京で就職しちまった。
そして今日。俺は東京のホテル内にある教会で奴が来るのを待っている。奴が昔くれた、綺麗な石。あの時の俺には掌大だったけれど、今は俺の拳の中にすっぽり入ってしまう。
俺は今日、奴の相棒を初めて見る。俺はこの石を相棒に手渡してやろうと思っている。奴が選んだ奴なら安心だからな。けれどその安堵は、同時に心の裏側にチクリと痛みを残していく。
パイプオルガンが薄暗い教会内に響き渡り、背後でゆっくりと扉が開く音がした。