『伝説』の土台の憂鬱
遥か昔、まだほぼ全ての人間が神々の声を聞けた頃の話。
魔物を従え、世界を滅ぼそうと目論む魔王が誕生した。
破壊の限りを尽くす魔王の余りにも強大な力の前に
世界はなすすべもなく滅びようとしていた。
ところがそのとき、世界に一筋の光がさした
創造神、ティアレシアは選ばれし者に加護をさずけた。
そうして神に選ばれた勇者は数人の仲間と共に魔王を打ち倒したのである。
故郷に帰った勇者は、険しい山の頂上にある平らな岩に剣を突き刺して封じた。
驚いた人間達は勇者に聞いた、「何故封じるのか」と。
勇者は答えた。
「強い力は争いを引き寄せるからだ」と。
そして続けてこう言った。
「魔王が再び現れたとき、この剣は選ばれし者の手によって封じを解かれるであろう」と。
こうして伝説の剣はかの山に眠るのである。
子供から大人までこの国に住む人間ならば知っている有名な物語だ。
そしてそろそろ過疎が問題になりそうな村に
いや、正確には村の外れに、神々しい山がある。
その頂上に伝説の剣は実際にぶっ刺さっている。
ちなみに剣がぶっ刺さっているのは
神々しい山にあって唯一の闇色を宿す岩。
すなわち俺である。
俺はただの岩じゃない。精霊の一種である。
精霊には細かく分けると数種類、大まかに分けると二種類ある。
可視干渉型と不可視傍観型
わかりやすくすると人間に積極的に関わるタイプと意思の無いそこにあるだけのタイプである。
前者は妖精、後者は神精という。
ちなみに俺は『岩に干渉した妖精』が不幸な事故で岩に留められ、長い年月をかけて身体が岩に同化してしまった哀れな妖精の成れの果てである。
俺に刺さった剣を引き抜きに、毎年人がやってくる。
王であれば王子の頃に。
有力貴族であれば、ある程度成長した頃に。
騎士であれば、騎士の位を与えられてからすぐに。
そして偶に腕利きの冒険者が。
わいわいと剣を握って行く姿は、動けない俺にとって癒やしではある。
期待や不安を持って挑む顔は結構好きだ、が。
……この剣の適合者、すなわち勇者はとうの昔に決まっている。
「なんでだろうね、お前の持ち主はなかなか現れないねぇ」
そう言って剣や、その周りを清掃する老婆。
ここの管理を長年任されている、この村生まれの女性だ。
せっせと動かされる手は手馴れた様子で、剥き出しの刃に触れないように汚れをぬぐっていく。
黙って作業というのが性に合わないと、俺に話しかけながら掃除をする愉快なお婆ちゃんだ。
俺からも一応返答はしているのだが聞こえていないようなのに話しかけてきてくれる人。
退屈しないのでいいけど、はたから見れば完全なる変人である。
「魔王は復活したらしいのにのぅ……襲って来ないから抜けないのかねぇ」
……いや、違う。
魔王が誕生した時点でこの剣の持ち主は決まった。
争いがあろうがなかろうが必ず抜ける様に前の勇者が封じたのだ。
封印が解除されたのは今から約50年前。
この老婆がまだ6つの頃に解除されたのである。……だいぶん昔だ。
人の時の流れは本当に早い。
老婆とて、最初来たときはまだ小さなお嬢さんだったのに、だんだんと歳をとった。
本当に人の時の流れは早いな。
そう、だからこそ。
早く剣を抜いてくれないか!?
「勇者様ものんびりやだねぇ」
いやアンタだよ!
のほほんと50年近く俺を掃除する役目担ってるけど、勇者アンタだからね!?
てか『抜いてみたい』とか『手にぴったり合う』とかさ、剣の柄を拭いたときに感じてるだろう!?
それにただの村娘がなんで一人で村周辺の魔物一掃できると思ってるんだ村長この野郎!
前勇者の血族は確かに皆さん規格外すぎる力を持ってるけど、この人血族じゃないから!
くそう、なんで前勇者血族がいる村に生まれたんだ今代勇者……ッ。
ほかの村生まれなら気づいただろうに、周りに超人どもがいるせいで気づかないとか!
てかこれだけ近くにいながら気づかないとか鈍い、鈍すぎるぞアンタ。
「さぁて、わたしは帰って魔物掃除でもするとしようかねぇ」
(その前に剣をぬいてけよぉぉぉッ剣が泣くぞこらぁ!)
こうして元妖精の岩の日常は繰り返されているのである。
『早く剣を抜いてくれ』という願いが叶う日はくるのだろうか。
サイトの改装中&連載の続きが思いつかない
なのでたまには違うものを。
連載だと続きを考えられないので、短編です。
パパッと書き上げたので誤字・脱字があるかもしれません。
もし見つけたら指摘していただけると嬉しいです。
追記 ジャンル思い切り間違えていますねすいません(-_-;)