あたしたちの一幕。
お題
「偶にはふざけてもいいだろ」
「大人しくしていればよかったのに」
「すぐには無理だとしても、それでも」
××年○月□日(光)
今日の話。
「な、な、ななな、なんじゃそりゃー!? 冗談じゃねぇぇぇえええー!!!!」
あたしたちの1日は、その叫びから始まった。
……と、言っても過言ではないだろう。
まぁ、寝ていたのは2人だったから、言い換えるなら“あたしたちのギルド”だけれども。
「……朝っぱらから何だ。 また猫にでも襲われたのか?」
日課を終えたあたしが、シャワー室からのんびり団欒部屋の方へ近づけば、既に部屋についていたであろう冷静沈着な我らのギルマスのお声がいらっしゃる。
「おはよう」
「あ、おはよ。 眠そうね」
「んー……昨日、買った本読んでて……」
「ほどほどにしなさいよねー。 美容の敵なんだから」
「新作ゲームをクリアするまで徹夜する人に言われたくないけどね……くぁあ」
そんな眠そうな親友に苦笑しつつ、ドアに手をかけて、どぱーん、と中の光景を大公開。
「おはよー。 なになにどうした、の……?」
「おーはーよー。 叫び声の元を聞きに来まし、た……」
「おはよう、二人とも。 いや、こいつがな」
「……………」
真っ白だった。
ギルマスが親指をクイッと向けた先に、明日のジョーさんみたいな座り方をして、燃え尽きてる姿のバカがいた。
「お、おおぅ……」
「え、えーと……」
「手紙が来たらしい。 内容だが、どうやら」
「妹が来る」
「…………はい?」
「あ、そう……」
「妹が来る」
ぽつりと奴は再び呟いて、うわぁあああああ!と頭を抱え始めた。
あれかな。
異世界ではリーサルウェポンの名前なのかな、妹。
―○―
で。
「嫌だぁ……もう駄目だぁ……おしまいだぁ……」
いつもはおちゃらけムードで楽しんでるバカが大変なテンションにまで落ち込んでいるので、とてとてやってきた癒し娘を加えて急遽対策会議を開くことに。
「で、なんなのいったい。 あいつの妹は最終兵器みたいなもんなの? 誰か見たことある?」
「私は見たことないなぁ。 というか、存在をさっき知った」
「俺もだ。 なんであんなに怖がってるんだろうな」
「そうですね…………あ!」
癒しさんの頭に!を幻視した。
「もしかして、婚約者なのでは!」
「有力なのは家出を連れ戻しに来た、とか?」
「家とはちゃんとケリつけてたはずだよ、アイツ」
「もしかしたら、借金とか案外してるのかもな」
「えー、博打すれば一生生きていられるぐらい稼げそうなアイツが?」
「…………いいじゃないですか、たまにぐらいふざけても」
「「「いや、流石に妹が婚約者説は無い(わ)」」」
「うう……」
妹が婚約者とかSNE。
……あれ。
あれ、待てよ?
「婚約者?」
「どしたの?」
「そういえばアイツ、一応名家の生まれよね?」
「そうですね。 それなりのところのお坊ちゃんです」
「ってことはさ。 跡継ぐ訳よね?」
「……あー、わかった」
「……なるほど。 そういうことか」
「?」
親友はうわあ、という表情をし、ギルマスは納得がいったような表情をする。
この場で一番詳しそうな癒し娘が首をかしげているのがあたしは一番不思議です。
とりあえず、指をピンと立てて可能性を指摘してみる。
「嫁、とか。関係あるんじゃない?」
「うわぁあああああ!!!!!」
「当たりみたいだねー」
「しかし、アイツが嫌がりそうなのは実家関係だとは思ってたけどここまでとは」
「すごい叫び声です……」
「精神崩壊しかけなんじゃないのアレ。 おーい、大丈夫、かッ!」
手頃な鈍器で顔面を狙うテスト。
がばりと惜しいタイミングで頭を下げたせいで空振った。
「うらわっひょひょーい!」
「ぶふっ、あっ」
別に本気だったりしない。
別に今までの恨みが篭ってたりもしない。
別にマジで殴ろうとなんて思ってない。
ただ横に振る際、力を入れすぎただけなのだ。
具体的にいいますと手から鈍器が吹っ飛びました。
まぁ、壁が砕けただけですんで良かった良かった。
代わりにすごい剣幕でバカが近寄ってきたけど。
「何が良かったんだよ全然良くねーよテメーオレを殺す気だっただろフザケンナよ」
「その場で大人しくしてれば良かったのに……」
「スゲー残念そうだな、俺はマジでビックリだよ。 お前の本気っぷりにな!」
「手が滑っちゃった、ごめんね☆」
「おうおう面白いなオイ。 命懸けのジョークとかマジで笑えるぜHAHAHAHAHA!」
「あー、はーいはい、わたしがわるーござんしたー。 責任はぜーんぶ秘書がとりますー」
「反省の色、ナッスィング!」
「黙れ」
「はい」
調子取り戻してきたかな?と一息つけばかぶりを振ってあたしと同じように息をつくバカがいた。
ちょっとは落ち着いたようで何より。
ぐい、と肩を掴んで顔を寄せる。
The 密談。
「妹が来るのよね?」
「……あー、うん、まあ、はい」
「何しに?」
「オレの視察か、もしかしたら冒険者に成りに来たのかもしれない。 もしオレの視察なら実家への強制送還も有り得るし、冒険者に成るとしたらオレらのギルドに来るかもしれん」
「マジで!?」
「マジ。 俺より隠密能力高ぇーしな」
隠密も何もアンタはスタイリッシュかつ派手に避けて撃って暴れるだけじゃん。
「有望ね」
「だけどまだ小せぇんだ。 友達作って遊んでりゃ良いぐらいの歳だしな」
「…………」
思わずキョトンとしてしまった。
真面目になったコイツなんてあんまり見たことなかったし。
目を少し擦ってみても、目の前にはバカの何気イケメンな真面目面しか残ってない。
「……なんだよ」
「凄い、バカが真面目だ」
「茶化すな。 アイツが冒険者になるのは止めねーよ。 オレだってすぐには無理だとしても、それでも才能の有るアイツと冒険したいとは思うしな」
「ふーん……」
才能の有る、か。
はいしょーどーく。
ばんそーこーはっとくねー。
ちくりと痛んだ何かは、するりと心の中にいる親友が消してくれた。
「ただ、早すぎるって思っただけだ。 倫理観もしっかりしてんのかわかんねーからな」
「何年前よ、最後に会ったのは」
「3年」
「うわぁ……そりゃ来るわ。 あたしでもその立場に立たされたら行く」
「マジかよ……」
「大マジ。 ってことはあれなの? 視察が嫌で冒険者に成ってほしくないだけ?」
「いや、ちょっと違う……」
「んじゃ、一体何が嫌なのよ」
「それは――――」
「わたくしが説明いたしますわ」
「 」
「ムンク!」
「いや、もっと違うツッコミ入れよーよ」
かの有名な絵画のような顔で、ピシッと立ち尽くすバカの背後に、長い金髪をたなびかせ、強い意思を持った目をした小さな美人さんが、これまた綺麗な姿勢で立っていた。
「ふぅ……さて。 やっとお逢いできましたね、お兄様。 あの約束の通りわたくしはキチンとしたレディに成りましたので」
優雅に、あくまで静かに。
髪を少し揺らしてバカの前へと移動する妹さん。
そして、満面の笑みを浮かべて、彼女はこう言い放ったのだ。
「わたくしと、結婚してくださいますね?」
この美少女さん――――チャイムちゃんが、あたしたちにさらなる大きな火種をブッコムのはそう遠くない未来の話。
twitterで引いたお題を、のんびり書いてみた。
最期のほうが疲れたせいで適当になっているのがお分かりいただけるだろうか。