◆第一章 穢れし地上六厄災1◆
◆第一章 穢れし地上六厄災1◆
真っ暗な闇。それは余りに暗すぎて目が開いてるのか開いていないのか、分からなくなる程。そこら中から黴びの匂いがする。
床は柔らかくほんのり暖かい、何だか気持ち悪い感覚だ。辺りを確かめたくて伸ばした手に当たるのは、ゴツゴツとした固い壁の感触。その時だった、自らの下で何かがもぞもぞと動き始める。
「なっ、何よこれ!」
その場所から退こうとしても、どうやら狭い空間の様で動く事もままならない。
「動くな、ってぇ、まじ、動くな!」
聞き覚えのある声。その声の主が、自らの下で呻いている。試しに、思い切り叩いてみた。
「動くなって言ってるだろう!」
案の定、予想通りの返答だった。
「あら、椎叉?」
「憐華、俺以外に誰だって言うんだ」
ガラリッ
暗い空間内に差し込む眩し過ぎる光。暗闇に長い間居た為に慣れてしまった目には、その光はあまりに強烈過ぎる。少し時間が経ち、光に目が慣れてきたおかげで一人の男が見えた。
「お邪魔でしたか?」
押し入れの中の様子を見るや否や、一言呟いた男。
少し日に焼けた肌に明るい茶色の瞳。その瞳の色よりは黒に近い茶髪の髪を一つに纏め、後ろで縛っている。
その彼が押し入れを開け一番初めに見たのは、仰向けになった男。そしてその上に、のし掛かるように馬乗りになっている女だった。
「本当よぉ」
嬌笑を浮かべ悪戯っぽく憐華が呟くと、押し入れの戸がゆっくりと閉じられていく。
「って、おい!閉めるな」
慌てた椎叉が、戸を抑えて言った。
「あら、残念」
人の悪い笑みを浮かべ、椎叉の耳元でそう囁く憐華。椎叉の上から退くと、外へとでる。
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「地上のこんな狭い場所に落とすなんて、元帥も何考えてるのかしら」
そうぼやきながら、服に付いてしまった埃を両手で払っていく。
「……良し。さてと、あなたは誰?」
「地上でのサポートを致します、観察使の紀堂笠音[キドウ カサネ]です」
地上中間所員である証、灰色ダイヤの指輪を見せる
「それで?今の地上の流れは?」
傍から見れば大変不自然な質問だが、これはとても重要な質問である。
異空間に値する三つの領域、そこではそれぞれ別々の時間や暦が流れて進んでいる。造られたときは同じでも、地と天と獄の領域それぞれには全く異なる時が流れているのだ。
「ここはニホン国、西暦2006年。三領域である地上に置かれている中間所の総本部です」