嵐の後に手にした平和
嵐の後に手にした平和
『大好きだよ、レオ』
あんなこと言われて、我慢できる男がどこにいる。
極め付けは聞こえたシャッツェルの声だった。
気を利かせたのか外食に出かけるという声。完全に2人きりになったという事実にたかが外れた。
声を我慢させなくてよくなったのもよくなかった。セラの嬌声は我慢し続けたレオの理性を剥ぐのには十分過ぎた。
快感に泣く姿に、歯止めが効かなかった。
気づけばセラが気を失っていて己の失態に気づいた時にはもう遅い。
蒼白になっているレオに、電話の着信音が聞こえた。
セラの携帯だ。かけてくる主など1人しかいない。
「……もしもし」
「あれ、レオさん?セラ姉とまだ一緒にいるんですか?」
「……家にいる。すまん、たかが外れた。」
「ああ……」
全て察したライに怒られても文句は言えまい。
「まあセラ姉は怒らないと思いますよ。俺はセラ姉が幸せなら何でもいいんで。泊まってもらって構いません。」
「お前……寛容すぎないか」
「俺の基準はセラ姉です。セラ姉が怒ったら俺も怒ります。」
「……目覚めた時に聞いておく。」
「そうしてください。じゃ。」
眠っている愛しい人に目を向けた。本音を言えばホテルにでも連れて行って全てを整えてしたかった。でもセラはそんなこと望んでいないだろう。
気を飛ばすまでしてしまったことで幻滅されやしないか。もう今更かもしれない。半ば諦めにも似た感情と共に、愛しい人を抱きしめた。
目を覚ますと、愛する人の寝顔があった。
そのことがなんだか嬉しくて、顔が綻んだ。
(あれ、でも私なんで……)
徐々に冷静になる頭に昨晩を思い出した。そうだ、気を失ったのだ。
(こんな、ものなのかな……)
セラには経験がなければ知識も大してない。それが功を奏したと言うべきか昨晩のレオがやりすぎだということに気がつかなかった。
それよりも結ばれた喜びと感じた快感への羞恥心が勝り、目の前の胸に顔を埋めた。
「ん……セラ?」
寝ぼけた顔。その顔が愛しく感じる。
「レオ」
覚醒した恋人は寝ぼけた顔から一瞬にして蒼白になった。
「レオ、どうしたの?」
「いや、昨日は悪かった……歯止めが効かなくてつい……怖かったり、嫌じゃなかったか?」
「起きたらびっくりしたけど、怖くはなかったよ?レオずっと優しくしてくれたし……」
「身体も、痛くはないか?」
「確かに身体は重いけど大丈夫だよ?」
そう言うと心底安心した表情になった。意外に表情筋豊かな恋人は地獄と天国みたいな顔をよくしている。
「そうか。それならいいんだ……今日は学校も休みだからゆっくりしていけ。」
「ごめんね、急に泊まっちゃって。ご家族にも、迷惑かけたよね。」
「いや、それは俺のせいだからマジで気にするな。あいつらも気にしてないどころか多分喜んでる。」
「そうなの?」
この家族は少し変わっている気がする。喜ぶポイントがよく分からない。
「朝ごはん、食べるか?腰痛くないなら……」
「うん、ちょっと痛いけど……って服……」
起き上がると着ている服が見慣れないものであることに気づく。
「すまん、俺のをとりあえず着せた……ちょっと……やばい……」
「これレオの?ぶかぶか。」
「いや、流石に朝からは……ダメだろ。」
「何言ってるの?」
「俺の事情だ……下、スカートだけ履いとけ。」
「うん、そうする。」
下に行ってジーナの顔を見ると突然恥ずかしくなった。よく考えたら皆昨晩何をしていたかぐらい知っているはずだ。
「あら、セラちゃんおはよう。朝ごはん出来てるわよ。」
「え……」
「セラちゃん、これからたまに泊まってくれるんでしょ?私の部屋で寝てもいいよ!」
「それも楽しいかも……」
あまりにも普通に接してくれる人たち。それどころかセラが気まずくないように気遣ってくれている。
「シャッツ、まずは朝ごはんでも食べさせてやれ。昨晩ご飯も食べれないままだったんだ。あの馬鹿な弟のせいで。」
「マジでお前覚えとけよ……」
「セラを不安にさせた上歯止めも効かない愚かな弟なんぞ怖くもないな。」
姉は容赦ない。あのレオが返す言葉もなく黙っている。その光景が面白くてつい笑ってしまった。
「セラ、笑うな……」
「セラちゃん、うちのお姉ちゃん最強だよ。」
「それは分かる……」
平和だ。あの嵐に吹き飛ばされてしまわなくてよかった。
生まれて、初めて手にした幸せな世界。手放したくないと、強く思った。




