絞り出した誘いと、夕日に響く音
絞り出した誘いと、夕陽に響く音
「....おい。」
屋上に行けばいつもと変わらず空を眺めているセラがいた。
「あれ、レオくんどうしたの?」
振り向く顔もいつもと変わらない。俺が緊張していることも知らないで。
「昨日、見たか?」
「昨日?」
「いや、だからアイスクリーム屋のとこ...いただろ。」
「あ、うん。見てたの?」
「美味そうに食べてたから。俺も妹と歩いてたんだよ。」
「妹?」
「そう、妹な。」
できる限り強調しておく。恋人がいるとでも思われたらお終いだ。
「あー、なるほど。なんか似てるなあと思った。」
「....彼女だと、思わなかったか?」
「思ったけど。あんだけ可愛いならどっかの令嬢かなあって噂してたのよ。確かに令嬢はあってたね。」
「.....まあ誤解が解けたならいい。なあ、今度うちの工場見に来ないか?」
「行っていい場所なの?」
「俺がいれば別にいい。ついでに菓子も貰える。」
「ほんと!....でも迷惑じゃない?」
菓子の言葉に釣られそうになったセラはすぐに落ち着きを取り戻した。
「見るだけで迷惑はないから大丈夫だ。俺が一緒に回るから。」
「それなら....行ってみたいかも。」
「なら今度土曜日迎えに行く。家の場所....の前に連絡先だな。」
「あ、うん。私のこれ。」
「よし、住所送れよ。迎えに行くから。」
「別に場所教えてくれたら自分で行けるよ?」
「...そういうわけにはいかないんだよ。いいから大人しく待ってろ。」
「了解しました。」
少なくともセラは多少気を許してくれている。でも心の中で跳ねているレオとはどう考えても温度差があった。
放課後。職員室に用がある事を思い出し廊下を進んでいるとピアノの音色が聞こえてきた。姉がピアノを弾いていた。その関係でピアノはよく聴いたことがある。だがこれは――――
音に誘われるように歩いて行った。着いた先は音楽室。ピアノの前に座る姿はレオが想像した通り、美しい精のようだった。
「あれ、レオくん?何かあった?」
「いや....綺麗だな。」
「へ?」
「ピアノ。つい誘われて来てた。」
「あ、ありがとう。」
赤くなって視線を逸らすセラはどうしてこんなに可愛いんだろう。
「もう弾かないのか?」
「今から帰るから...」
「また聴かせろよ。お前の音は落ち着く。」
「.....気が向いたらね。」
「...ああ。土曜日、可愛くして来いよ。」
「必要あるの?」
「ある。....俺がな。」
「なにそれ。変なの。」
「なんとでも言えよ。」
窓から刺す夕日に揺れるセラの顔を、いつまでも眺めていたいと思った。
セラのタメ口が書きたかったんです。




