聞こえる声が変わった朝
聞こえる声が、変わった朝
鏡の前で、着替えをした。
『綺麗だ。』
ふと、聞こえたのはレオの声。あの甘くて優しい顔と声。
聞こえた言葉に温かさを感じていると、気付いたのは背後にいた母の声がいつの間にか消えていたこと。
背後でいつも私を醜いと言った声は、いつの間にか聞こえなくなった。
背中の重荷が、少しずつ降りていく感覚。
朝、迎えに来てくれた人の顔を見て朝の声を蘇らせるように言ってくれる言葉。
「今日も綺麗だな。」
いつも気恥ずかしいその言葉が、今日は純粋に嬉しかった。
「なんだ、何かあったのか?」
「うーん……朝、着替えをしててね。そしたらレオの声が聞こえたの。お母さんじゃなくて。」
「……モーニングコールでもしてやろうか?」
「それはいい。」
「なんだ、一瞬素直になったと思ったのに。」
「はいはい、行こ。」
仕事で新しいお菓子の試食とレポート。頭と感覚を使うこの仕事は嫌いじゃない。グレータはまた最後にお菓子をくれた。
レオがくれる言葉が、グレータがくれるお菓子が、ライの言葉が、少しずつ天秤を傾けていく。そのことが、怖くて、でも願いに手が届く希望と混ざり合って心は忙しなく動き続けている。
すっかり減った家庭教師の仕事。未練も何もない仕事。
空いた日にピアノを弾いて、その手がさらに近くなる気がしていく。本屋に行けば目に入る楽典の本。意識が、どうしたってそこへ向かっていることを否定するのは難しかった。
夏休みに入って仕事が忙しいレオは中々家には来られない。それともあの日以来セラを気遣っているのかもしれない。
どちらかは分からないけれど。明後日はデートだ。そのデートはセラの天秤を傾けるのだろうか。
何か、心が期待していることを誰にも悟られないよう内側にしまい込んだ。




