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王弟が愛した娘ー音に響く運命ー現代パロ  作者:


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言ってはいけない言葉

言ってはいけない言葉

ピアノを弾いているとケータイが鳴った。

『家の前いる。いるか?』

防音室にいるとインターホンが聞こえない。きっと以前インターホンを押しても反応がなかったのだろう。レオはメッセージで到着を知らせるようになっていた。

「いらっしゃい。今日はご飯食べてく?」

レオは難しい顔をして、少しの逡巡の後に顔を上げた。その顔はどう見てもご飯の質問に答える顔ではない。

「ライ、まだだよな?」

「うん、今日レオ早いから……」

「お前と、話すために早く上がった。話せるか?」

嫌だ。瞬時に反応した心はそう言った。だって、この話が楽しい話でないことはレオの顔を見ても、自分の心を見ても明らかだったから。でも断るなんてできなかった。レオの、真剣な目を見れば。

「……うん。入って。」

入ったレオはいつものようにソファには座らずテーブルの椅子に腰かける。これじゃあまるで今から面接でも始まるみたいだ。

「茶はいいから気にすんなよ。お前も座れ。」

なんとなく座りたくなかった。だって座れば話したくない話が始まってしまうから。

セラの、悪い逃げ癖がここでも顔を出す。

意を決して座る。レオの目は、迷いに満ち、それでも愛に満ちていた。

「……なあ、お前が、本当にしたいことは何だ?」

……一番、聞かれたくないこと。てっきり仕事の話だと思ったのに。

「それを聞いてどうするの?それよりあのレポート、問題あった?」

「あのレポートは120点だとグレータが言っていた。正社員にして、教育すればさぞ伸びるだろうと。とても18歳が書いたとは思えない出来だった。俺も読んでそう思ったし、グレータは優しいが仕事で嘘はつかない。お前が心配するようなことは何一つ起きてない。ただ……」

「ただ?」

「俺は、お前を見誤っていた。舐めていたわけじゃない。ただ純粋に未来の嫁として、仕事で守られて、丁重に扱われて欲しい。そう思っていた。だがお前は会社にいれば否応なく必要とされる存在だ。お前の能力を、俺は低く見積もった。悪かった。」

「それは……私もそんなに評価してもらえるなんて思ってなかったから別にいいけど。仕事が増えたらレオには問題があるの?」

「……だから聞いたんだ。お前は、本当は何がしたい?」

だから、答えたくない。答えて、どうなるの。諦めた夢を、蒸し返したくなんかないのに。

レオの目は、逃げるセラを捉えて離さない。誤魔化しても、噓をついても、今日はきっと許してくれない。それに……

この目に、嘘を吐くのはあまりにも不誠実だ。セラには逃げ癖がある。でも誠実ではありたかった。

「……正直、答えたくない。」

「知ってる。そして俺は恐らくその答えを知ってる。それでもお前の口から聞きたい。」

一度だけ屋上でぽろりと零した本音を忘れるような人じゃない。来るたびに防音室にいることも、レオはきっと知っている。諦めたように、本当の答えが口から漏れた。

「……ピアノ。レオは、分かってるんでしょ。」

「……ああ。だってお前、学校にいる時楽しそうじゃない。仕事の話をする時も、家事をする時も、俺といる時だって、何か満たされないような顔してる。そんなお前が、ピアノを弾いていた時、あんなに穏やかな顔をしていた。」

レオはセラが思うよりセラをよく見ている。それをどこか嬉しく思う自分がいることも。

「……そうだね。でも前にも言った通り今更なの。蒸し返したくない。どうしたってうずくから。」

「……本当に、今更か?」

「今更よ。時間も、お金もどこから出てくるの?」

「俺が、それを作ると言えばお前は納得してくれるのか?」

「それは……」

「来年、同棲に異論がないなら生活費は元々俺が負担するつもりだった。この言い方は傲慢に聞こえるかもしれないがお前は働きたいなら働いたらいいし大学に行きたいなら行ったらいい。」

「でも……」

「分かってる。お前が俺の手を借りたくないことくらい。お前を囲っておきたいのも、俺の我儘だ。だけどお前はそんな俺の我儘に振り回されるようなやつじゃない。俺はそんなことにも気づかずお前を守っているつもりでいた。」

この人は、誠実だ。とても傲慢で自分勝手に見えるのに、誰よりもセラを優先し、考えようとしてくれている。それが分かっていて、怒る気にはとてもならなかった。

「……私は怒ってないよ。レオが守ろうとしてくれたのも知ってる。」

「……お前は寛容だ。だがそれが今のままでいいという意味にはならない。俺は、お前に幸せになって欲しい。ほかの誰でもない、お前にだ。そのために惜しむものなんて何もない。だから……」

「……でもそうやって音楽を選んだら私はまた自立の出来ない人間に逆戻りよ。」

「18の女の子が自立を求められること自体が間違っているんだ。間違うな。それは弱さじゃない。お前の環境が招いた諦めだ。」

その通りだと、頭では分かる。それでも胸に巣食う罪悪感は消えない。ましてや――――

「親でもなければ同じ18なのよ……そんな人に、頼めるわけないでしょう……」

レオが、傷ついた顔をした。言ったらダメなことを言った。分かってて、止められなかった。

「違うの、ごめん、そういう意味じゃ……」

「分かってる。お前にとって、俺は頼りない他人の男だ。」

「違う、レオはそんなんじゃない……」

「なら……!……いや、いい。俺が悪かった。俺は帰る。明日、迎えに来るから。」

傷つけた。だけど人を傷つけたり喧嘩をしたことがないセラはどうしていいか分からない

出て行ってしまったレオの背に、後悔の涙が頬を伝って流れ落ちた。


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