叶ってはいけない夢
叶ってはいけない夢
久々の、休み。一人でピアノを弾くことが許される時間。それも、誰の嫌味も文句も聞かずに静かな防音室で。
ずっと、弾いていたいと思う。勉強は好きじゃなかった。家庭教師の仕事も、会社で働くのだって、本当は好きじゃない。
音楽で生きていくこと。叶わぬ願いだと諦めてきた。今更だと言い聞かせてわざと楽典にも手を付けていない。引っ越してきて、夜中にこの防音室で弾く度、微かに夢を見てしまう。
ピアノを始めたのは五歳の時。才能があると言われて気持ちよく伸びていった。
『セラちゃんの演奏は癒されるわあ』
発表会に来て、そう言ってくれる人も少なくなかった。両親が離婚してからも、ピアノは続けていた。だが幼いながらも家事を手伝ったり、働き始めたことにより練習時間は愚か、発表会やコンクールに出る余裕などなくなった。先生のところに行けるのなんて年数回。それ以上行くのは贅沢だと思った。私の趣味に、そんなお金はかけられない。それならせめてライをどこかいい学校へ。そう、思っていた。
だけど気づけば環境は変わっていた。ライは就職先が決まり、家も移り、以前ほど働かなくていい環境。日が経つに連れ感じる実感は、喜びと罪悪感をセラの元へと運んできた。
こんな中途半端になるくらいなら働いた方がいい。そう思った。
自分なりに熱心に仕上げたレポートは使い物になるだろうか。もしならなくてもお情けで置いてもらうぐらいならほかで仕事をして、レオに会えなくてもいいとすら思った。
レオは、セラの生活を変えてしまった。純粋な愛を持ってしてくれる彼の好意が有難くて、息苦しかった。




