守りたいという我儘
翌日、仕事が一段落すると開発部門へ向かう。
「あら坊ちゃん、どうされました?」
「セラの、仕事はどうだ?」
グレータが少し目を伏せる。余程問題があったのだろうか。
「何かあったのか?」
「若社長は、セラをどう扱いたいのです?」
「それは……」
自分といる時間を作って欲しいなんてとんでもない我儘のために会社に入れた。レオが頭を下げてまで入れてもらえるよう頼み込んだことから、社員たちもセラの立場は理解しているはずだ。
どう扱いたいか。そんなの決まってる。将来の嫁として、丁重に扱ってほしい。
「……能力のあるものは、特別扱いして丁重になどとは望んでいないと思いますよ。」
グレータには幼い頃から付き合いがある。よく叱られたたこともあった。今はまるでそんな気分だ。
「……どういう意味だ。」
「提出されたレポートは18歳の領域を容易く超えています。正直正式に社員として教育すれば相当伸びるでしょう。」
「……内容は」
「薄焼きサブレの試食をさせました。味や素材、形などについてのターゲットに合わせた観点からの細かい評価と現状の良さ、それに対して改善案として全粒粉の使用と形をリーフ型への変更がありましたが、ただの案ではなく原価計算、製造効率まで出来る範囲でですが計算して出されています。初仕事として考えれば120点あげるところです。」
学校でもあれだけロクに勉強せずそれなりに上位にいる頭は伊達ではないらしい。甘く見積もっていたのはレオの方ということか。
「参ったな……そこまでしてもらうつもりじゃなかったんだ。」
「何故そこまで否定的なのです?未来の嫁を大事にしたい気持ちは分かりますが、本人がやる気ならもう少しやらせてしまえばいいのでは?」
「セラは…………本当は音楽がやりたいはずだ。それを仕事のために諦めてる。俺の本音を言えば俺の援助を受けて仕事なんてせずにやりたいことに打ち込んで欲しい。」
「ではハッキリお伝えされた方がいいですわ。このままではセラを追い詰める一方です。私としてはこれほどの精度でレポートを書いてくれるのであれば出勤日数なんて気にしません。」
「……分かった。お前の言葉も伝えたうえでセラと話す。」
「ええ、そうしてくださいな。私は坊ちゃんはとてもいい方を選ばれたと思いますよ。」
「知ってる。俺には勿体ないほどだ。逃げられないようにしないとな。」
「お気を付けください。坊ちゃんはたまに鈍いところがおありですからねえ。」
「グレータ……!」
「ほほほ。老婆心からのアドバイスです。坊ちゃんはかっこつけようとするのをやめられた方がいいですわ。」
グサリと刺さるアドバイスをくれたグレータを残し、仕事に戻る。
セラに、自由に、幸せに生きて欲しい。
そう願うのは俺の我儘なんだろうか。
考えに更ける午後は静かで、時計の針が打つ音が部屋にこだましていた。




