譲れない背に、手を伸ばした
譲れない背に、手を伸ばした。
「おはよ、セラ」
「エリシア、おはよう。」
「あらセラ、今日なんか雰囲気違うわね?」
「そう?」
「何だか柔らかいわ。いつも裏の高嶺の花らしく誰も近寄らせない雰囲気なのに。これじゃ男が寄ってくるんじゃない?」
「こなくていいよ。」
セラにはよくわからない。ただ、なんとなく。学校に来るのが少しだけ楽しみだっただけ。そんなこと初めてだけど。
昼までいつものように本を読んで過ごす。1人が心地よかった屋上で、誰かを待っている自分に気づいてしまった。
「セラ」
聞こえた声に安心することも。
「レオくん」
「昨日、眠れたか?」
「うん。あのぬいぐるみ抱いて寝たらほんとに寂しくなくなっちゃった。不思議。」
「抱いて寝たのか?」
「うん。」
レオの耳が赤い気がするのはきっと気のせいだ。
遊び人でチャラい学園の王子様は意外にも照れたり焦ったり怒ったりと表情豊かだった。
その時ふとメアとの昨晩の会話が蘇る。
(そうだ、聞くって言っちゃったんだ.....)
「あ、あのレオくん」
「何だ?」
花でも愛でるかのような顔。自分がそんな顔してるって分かってるのか、聞きたくなる。
「メア、妹が.....」
「ああ、あの妹か。また何か言われたのか?」
途端に険しくなる声と表情。これでもまだメアはこの人がいいと言うんだろうか。
「いや、えっと.....その、レオくんを紹介してくれ、と。頼まれて....」
「....で?お前は何て言ったんだ?」
「一度聞いてみるけど期待しないでねって....」
「俺が、喜ぶと思ったのか?」
怒ってる。でもレオがそこまで怒る理由がセラには分からなかった。
「メアは可愛いし...昨日はちょっとアレだったけど、話したら愛嬌あるし、悪い子じゃないのよ。」
「....俺がその妹と話せばお前は嬉しいか?」
「私は......」
なんて、言うのが正解なんだろう。嬉しくないと言えば好きだと言ってるみたいだし、嬉しいと言ったらレオは行ってしまう。
「もしレオくんがそうしたい、なら。」
レオは何も言わない。やっぱり迷惑だっただろうか。
泣きたい。
レオの前になるといつも容易く制御出来る感情が溢れてしまいそうになる。
「セラ?」
「ごめん、余計なこと聞いちゃった...」
「違う。俺は怒ってない。お前には怒ってないから泣くな。」
「じゃあ何で怒ってるの....?」
「お前を踏み躙る妹にだ。俺は正直死んでも会いたくないがお前の妹は無碍に出来ん。だから困ってた。」
何で、レオが怒るんだろう。あの朝と同じ。レオはセラを守りながら、家族も尊重しようとしてくれている。
「会わなくてもいいよ。どうせすぐに次の彼氏見つけてくるもの。」
「今度俺が直接言ってやる。俺はお前以外興味はない。」
「それって.....」
その先を、聞きたくて聞きたくない。心地良いこの関係を壊したくなんかないのに。
「お前に惚れてる。遊びじゃない。本気でだ。」
揶揄うにはあまりにも真剣な目。だから、聞きたくなかったのに。
「何で私なの?メアの方がずっと可愛いしレオくんなら他にいくらでもいるじゃない。」
「俺にとったらお前が1番可愛い。菓子で素直に喜ぶところも、話せば面白いところも、表情も全部含めてお前が好きだ。それ以上に理由がいるのか?」
「だって....分からないのよ。私がいなくなったらレオくんは他の人と付き合うでしょう?」
また、怒った目。別に怒らせたいわけじゃない。ただ、分からないだけなのだ。
「なあ。......俺が遊んできたことは誰よりも俺が知ってるよ。....だけど俺はこの先お前以外考えられない。お前がいなくなりでもしたら地の果てまででも探しに行ってやる。」
「何で....そこまで....」
「お前は自分のことを何も分かってない。どれ程魅力的で、俺を狂わせてるのか。少なくとも俺にとったらその可愛い妹とやらの100倍お前は可愛い。」
きっと、私が頷くまでこの甘い言葉はやめてもらえない。レオがここまで思う理由なんて正直1ミリも理解できないけれど。
「私が、レオくんを好きだと思ったら迷惑じゃない...?」
「迷惑どころか俺は喜びでクシェルに呆れられるだろうよ。俺の家族もお前を気に入ってる。お前が少しでも俺を好きでいてくれるなら。」
赤くなっていた顔が甘い男の顔に変わる。
「俺に溺れろ。後悔させない。」
ごめんね、メア。私はこの人を貴女に譲れそうにない。
抱きしめられた背に、腕を伸ばした。




