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王弟が愛した娘ー音に響く運命ー現代パロ  作者:


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解かれてしまっていく心

解かれてしまっていく心

「何、着ればいいの....」

部屋に1人、呟く声に答えてくれる声はいない。

暴力を振るう父に耐えかね両親が離婚したのは10年前。母は3人の子供を育てるのに働き詰めだった。結婚の後悔と不満を言いながらも働く母の苦労を減らすため14歳から働いている。セラが学校を辞めれば楽になるのだろうが....

『お前が学校を辞めるなら養育費は入れない』

父は学歴にこだわりがあった。妹や弟にもいい学校に行かせてやりたい。そう思って働いていたのだが。

『あんたが働いたら私は働く必要ないじゃない』

何故その思考になるのかは理解できない。だから倍働くしかないのだ。本来はこんな遊びに出かけている場合ではない。

「はぁ......」

あの顔を見ると、断れなかった。今日だけ。今日だけだ。

「この間と同じ服はなあ。スカートはちょっと....。」

ぶつぶつと言っていたら本当にデートに行くみたいだ。

『スカートでもいいからな。』

見たいと、言う意味なんだろうか。

「ああもう....」

なんでこんなに悩まなきゃならないんだ。これ以上悩むのは癪に触った。結局ベージュのワンピースに淡いグリーンのカーディガンを羽織る。化粧.....もそんなにしなくていい。気合いが入ってるなんて、思われたくない。

「あれ、お姉ちゃんどこか行くの?」

眠たい目をこすりながら起きてきたのは妹のメアベルだ。

「うん。ちょっと。メアは今日は用事は?」

「あたしはデート。ライは仕事に行くって。」

「そう。」

妹と折り合いが悪い理由。私もライも働いているのにメアはデートばかりで家事も手伝わない。

『着いたぞ。』

見えたメッセージに外に出る。

「え、あの人と行くの!?」

「そうだけど...」

「挨拶させて!」

「何言って....」

言うが早いメアベルはさっさとレオの元へ降りていってしまった。

(嫌だな....)

男は大抵愛嬌のあって可愛いメアベルを好きになる。セラが自分が高嶺の花と言われても分からない理由はこれだ。

「初めまして、セラの妹のメアベルです!」

「ああ、君が.....セラとは似てないな。」

知ってる。私とメアが似てないことぐらい。私にはメアのような可愛さも愛嬌もない。

「そうでしょう?姉は強いから何でも1人でやってしまって....」

「お前が何もしないの間違いじゃないか?」

場が凍りついた。見たことのないレオの冷たい顔と声。それが妹に向けられたものであると信じるのに一時を要した。

「そんな.....私だって家を手伝ってます。」

「セラの顔と手を見ればそんな嘘通用しないがな。セラ、行くぞ。気分が悪い。」

「う、うん....」


車に乗ると、気まずい沈黙が流れる。

「あ、あの。ごめんね、妹が....」

「いや。俺の言い方も悪かった。お前を卑下するように言うからついな。」

「別にほんとのことだから....私は強いけどメアは助けがないといけないだけで。」

「だからお前に全て負担を押し付けるのか?」

「私は...姉だから....」

「そんなふざけた理屈はない。兄妹である程度の年齢だ。男に助けられて生きてきたんだろうが、その皺寄せを全てお前が受けてきたんだろう。」

「それはそうだけどうちの問題だから.....レオくんがそんなに怒る必要ないよ。」

「俺は。」

レオが車を停めた。

「お前が低く扱われるのには耐えられない。お前の能力も、美しさも、正当に評価されるべきだ。利用されていい存在じゃない。」

レオは怒っているのだ。セラにではなく、セラを不当に扱う者たちに。そんなことは初めてだった。

気づけば流れている涙にハッとする。

「....ごめっ....」

「いいから。俺の前で泣いたって誰も困らない。」

人前で泣いたのはいつ以来だろう。幼稚園の時以来だ。それも、男の前で。

「.....レオくん、ありがとう。」

「着いたら化粧室入れ。折角綺麗にしてきてくれたのに。」

「.....ありがとう。」

「苛立って言い損ねたが今日凄い可愛い。まさか本当にスカートで来てくれると思ってなかった。」

「だってレオくんが....」

「意識してくれたのか?それなら嬉しいな。」

不思議だ。メアのことで濁った心をレオが一瞬で晴らしてしまった。

いつも、そうなのだ。屋上に来る時、レオが隣にいるとなんとなく安心してしまう。

守られたことがないセラが、まるで守られているみたいな気がしてしまう。

「着いた。ちょっと下向いとけよ。泣いたって分かるから。」

そう言いながら前に立って顔を隠してくれる。セラが貶されたら本気で怒ってくれて、これじゃあまるで――――

(恋人、みたいじゃない。)

化粧を直しながら赤くなった頬にチークはいらないなとため息をついた。

「ごめんね、お待たせ。」

「気にするな。やっぱり、綺麗だな。」

さっきとはまるで違う緩んだ顔。この顔に何人の女の子が騙されてきたんだろう。

「....ありがとう。」

「行くか。何から見る?ショーは昼頃だし先に近いところから行くか。」

「そうだね。大きい水槽から見て、適当に回ろ。」

「予定は適当で気にしない派か?」

「私はそうかな。ある程度押さえられてれば。」

「俺もだな。ならあそこから行くぞ。」

薄暗い館内の廊下を水槽の灯が照らす。照らされた影は隣にレオがいることを明確に示しているようで落ち着かない。走り回る子供が落ち着かない心を現実に引き戻してくれるようだ。

「大丈夫か?はぐれるなよ。」

「子供じゃないんだから。」

「なんかお前危なっかしく見えるんだよ。」

ついつい目移りして走り出したくなる衝動を持つセラなだけにあながち間違ってはないと言えよう。

「大丈夫だから....わあ、綺麗な魚の群れ!行こう!」

「あ、おいちょっと....」

「サメもいる。食べられないのかな?」

「基本は餌を十分に与えられてるから食べないらしいが、たまに少し食べるみたいだな。」

「えっそうなの....」

「まあリアルな自然の摂理だ。」

「確かにそうかもね。あっちはなんだろ?」

「アザラシらしいぞ。見るか?」

「アザラシ!見たい!」

「可愛いねぇ......」

まんまるとしたフォルムが可愛くて昔からアザラシは大好きだ。

「....そんなにか?」

「あのまんまるな感じが可愛いじゃない。模様も可愛い。」

「.....帰りはアザラシのぬいぐるみでも買うか。」

アザラシに張り付いては離れないセラに、レオは付き合ってくれた。

「そろそろショー行かないと席無くなるぞ。」

「それは大変だ。」

可愛いアザラシとは名残惜しいが別れを告げなければならない。

弾ける音楽と共に始まるショーはシーワールドの醍醐味の一つのようだ。曲芸師のように飛び回るイルカたちについつい興奮してしまう。

「わ、すごい!レオくん見た!?」

「見てる。面白いな。」

「もう。なんでそんなテンション低いの。」

「低くないぞ。お前見てる方が楽しいだけで。」

「何よそれ。あ、また飛んだ!」

楽しい時間なんてあっという間に過ぎてしまう。

ショーが終わる頃にはお昼をとうに過ぎていた。

「お腹空いたか?」

「少し。レオくんは?」

「俺は減った。なんか食べるか。」

「うん、そうしよ。」

いくつも並んだ店のメニューを眺めていると、どれも美味しそうで迷ってしまう。

「あ、あれ美味しそう!」

「馬鹿、先にデザート食べてどうする。何かちゃんとしたのを食べろ。」

「はあい。」

結局セラはクラムチャウダーを、レオはフィッシュアンドチップスを食べるに収まった。

「熱っ」

「ちゃんと冷ましてから食べろ。今日は妙に子供っぽいな。....可愛いけど。」

なんで一々そういうことを言うんだろう。いらぬ勘違いはしたくない。

「.....シーワールドなんて、子供の時来て以来だもん。テンション上がっちゃったの。」

「責めてないだろ。好きなだけ楽しめばいい。火傷はするなよ?」

「分かってるよ.....」

冷ましながら食べるクラムチャウダーはシーワールド効果もあってか美味しく感じた。

「ね、デザート!」

「はいはい。どれにするんだ?」

「あのパフェが可愛いかなあ。」

「ならあれにするか。買ってくるから待ってろ。」

「え、いいよ。」

「ダメだ。昼飯は譲歩しただろ。これくらい奢らせろ。」

「....ありがとう。」

「ん」

ゼリーにクリーム、アイスにクッキーだろうか。そのビジュアルはさっき満たされたはずのお腹をもう一度鳴らすに十分だった。

「可愛い....!美味しそう....!」

「セラ」

「?」

パシャッ

目の前でシャッター音が鳴る。

「え、撮ったの?」

「1枚ぐらいいいだろ。パフェも可愛いし記念だ。」

「絶対酷い顔してるじゃん...」

「どんな顔でも可愛いから心配するな。俺しか見ない。」

あんまり優しい顔で、甘い言葉を言うからつい、言いたくなった。

「......今まで何人そうやって落としてきたの。」

「は?」

「....女の子がそう言われたら照れて何も言えないと思ってるんでしょ。」

「は、いや、お前何言ってるんだ。」

「......違うの?」

「俺がこんなこと他の女にすると思ってるのか?」

「してきたからこんなに慣れてるんでしょ。」

「待て。勘違いするな。俺は誰にでもこんなことはしない。お前が初めてだ。デートに連れてきて写真まで自分から撮るなんて。」

「それなら.......いい、けど。」

気まずい。ちょっと意地悪を言うつもりだったのにこれじゃ逆効果だ。

「.....俺が遊んでたのは俺が1番よく知ってる。だから簡単に信じろなんて言う方が無茶なのは分かるんだが。……少なくとも遊びの女を貶されたぐらいで怒るほど俺は優しい男じゃない。」

それは、どう言う意味?せり上がってくる言葉を押し込んだ。

「写真、見てみるか?」

そう言われて恐る恐る覗いた写真に少し、驚いてしまった。

(私、こんな顔してるの.....)

そこには安心し切った笑顔の女の子がいた。自分なのに、自分じゃないみたいで恥ずかしくなる。

「な?悪くないだろ。」

「確かに思ったほどじゃなかったけど.....」

美味しいパフェの味が入ってこない。どうしたって、乱されてしまう。

「セラ、付いてる。」

「え?」

指で口の端についたクリームを舐める仕草は嫌に艶かしい。こいつ、まだ高校生じゃないのか。

「さて、行くか。」

自然に繋がれる手に動揺しているのはセラだけなんだろうか。

「手.....」

「お前、さっきから勝手にどっか行きそうだろ。」

俯いて、言葉も出せない。認めたくなくとも、認めざるを得なかった。

この男を、意識してしまっていることを。

 

ちょっと長い、デート編です。

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