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王弟が愛した娘ー音に響く運命ー現代パロ  作者:


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断れない誘い

断れない誘い


「レオ様が女を....?」

「もしや未来の奥様か....」

方々から聞こえる噂にこれは安易に入ってはいけないところに来てしまったのではないかと後悔した。

仕事場で社員に指示を出すレオは普段とは違って大人に見える。

今まで思ったことはなかったが真面目な顔は確かに.....

(かっこいい、と言って差し支えないんだろうな。)

あんまり考えたくない。こんなことを考えたところでいい未来は見えない。今日はお菓子を見て食べれてラッキーだったで帰ろう。

「こっちが原材料の保管庫だな。カカオ豆、小麦粉、砂糖なんかが入ってる。」

ドアを開けるとまさにそれらが入り混じった匂いがした。

「これぞチョコレートの原型!って匂いだねえ。」

「そうだろ。こっちが製造ライン。このラインは新調して歩留まりが20%上がった。」

「価値ある投資なわけだ。」

「どこに投資する価値があるかを見極めるのが大事だな。で、ここがお待ちかねの....」

「あら、レオ坊ちゃん、いらっしゃい。彼女連れかしら?」

「試作室だ.....グレータ、彼女じゃない。」

「あら、違いますの?お名前は?」

「セラと申します。」

「セラちゃん!綺麗な子ね。坊ちゃんたらほんと昔から......」

「グレータ!」

グレータと言うのは昔からの社員なのだろう。なんとも微笑ましい光景だ。

「まあまあそんなに必死にならなくても。セラちゃん、今度の新作、味見してみる?」

「いいんですか?」

「勿論よ。これはチョコレートを二層にしてチップまで埋め込んだ正にチョコ尽くしの一品よ。」

「わあ、いただきます....!」

このために来たと言っても過言ではない。期待通りの美味しさに舌が溶けていく。

「うわぁ美味しすぎる....!これ、発売されたら絶対買います!」

「わざわざ買わなくても坊ちゃんが持っていくんじゃないかしら?」

「それは....貰ってばかりでは落ち着かないので。」

「男は女が喜ぶと嬉しいのよ。坊ちゃんのこと、よろしくね。」

何か勘違いされている気がする。後ろで百面相をしているレオは諦めたように一息つくと案内を再開した。

「こっちがラッピングと検品ラインな。ここは人の手で一つ一つ確認してる。案外機会が見落とすこともゼロじゃない。」

人気のある会社は仕事も丁寧なものだ。社員の態度といい、待遇も悪くないのだろう。

「で、ここが社長室.....まあ無視してもいいんだけどな。」

「誰を無視してもいいって?」

後ろから低い声が聞こえてくる。

「げっ父さん....聞いてたのか。」

「折角可愛いお嬢さんを連れてきて挨拶もなしかい?」

レオによく似た風貌の社長もといレオの父は社長らしい威厳を持ちながらも息子より柔らかい雰囲気の持ち主だった。

「こちとら朝から散々シャッツたちにやられてんだよ....」

「申し遅れました、セラと申します。」

今日何度目か分からない挨拶を口にする。

「いいお嬢さんじゃないか。しっかり案内するんだよ。」

「分かってるよ。」

足早に逃げるように去るレオ。父親との関係はどうなんだろう。

「はぁ....悪いな。家族で寄ってたかって。」

「そりゃ挨拶ぐらいしなきゃ。工場見せてもらってるんだし....あ、あれは?」

「ん?ああ...あれは創業者の夫婦、まあ俺の先祖だな。まだチョコレートが貴族のものだった頃、試行錯誤してチョコレートが庶民に届くことを願い続けた。それを支えたのが妻の方らしい。」

「普通こういうの創業者だけなのに奥さんも入ってるの珍しいよね。」

「家の家訓的に家族なしで仕事は生まれないだからな。だから代々恋愛結婚なんだよ。」

「へぇ、もっと良家との良縁を!って感じなのかとおもってた。」

「いや、違うから安心......は違うな。まあいいや。工場はこんな感じだが、楽しかったか?」

「うん!食べてるお菓子に感謝の意が湧いたよ。」

「そうか。ところで言ってたシーワールドの件なんだが....」

「ああ、妹さんが言ってた。」

何だか嫌な予感がする。

「丁度2枚あるんだ。一緒に行かないか?」

予感とは当たるもので侮れない。今日限りにしておきたかったのに。

「えっと....レオくん、他に行く人いないの?」

「こういうのは野郎と行っても楽しくないだろ。」

「女の子。いくらでもいるでしょう?」

「....お前となら楽だ。嫌なら気にしなくていい。」

そう言うレオが断れば大いに気にするであろうことは表情から分かる。セラだってシーワールド自体に行きたくないわけではないのだが....

「まあ私もレオくんは楽だけど、見られたら面倒くさそうだなあとは思う。」

仮にも学園の王子様だ。そんな人物と気楽だからなんて気軽にデート現場を見られれば何を言われるかなど分かったものではない。

「万が一お前に何かあったら俺が殺すからそこは心配するな。」

「物騒だな。」

「社会的にと言う意味だ。本当に殺しはしない。」

顔はあまりにも本気だが。何となく断るのも気が重い。それに少し行きたいと思っている自分にも気づいていた。

「程々にしてよ...いつ?バイトがあるから....」

「バイト?」

「うん。」

「何やってるんだ?」

「家庭教師。向いてないけど、1番稼ぎがいいのよ。」

「....そうか。なら今度の日曜はどうだ?」

聞きたいことがある。と言った顔だ。飲み込んでくれたらしい。

「ちょっとこの2週は全滅で...その後なら。」

「ならそれでいい。楽しみにしてる。」

また、この優しい顔。この顔は狡いなあと思う。

「送る。待ってろ。」

そう言って歩くレオが何だか大人に見えた。

 

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