金魚の飴細工
夏祭りの当日は実に賑やかだった。
出店が立ち並び提灯がかざられている。華やかだ。シフォンは初めてのお祭りにそれはもううきうきしていた。
セザールの連れてきた男に確かに見覚えはあったが、どこで会ったか思い出せない。
セザールに紹介され、カガリはにっこり微笑んだ。
「俺はカガリ、よろしく。リオンは一回あったことあるな?」
「ええ。そのはずですけど……ごめんなさい、どこで会ったんだっけ……」
「これ」
カガリが包みを渡してくる。中には金平糖が入っていた。
金平糖――金平糖。そうだ、入院中に渡してくれた人がいたかもしれない。
「もしかしてお見舞いに来てくれた……?」
「そーそー。まあ今日は俺はシフォンとお話ししに来たんだけど。よろしく」
そう言って彼はシフォンにも包みをやった。
シフォンは包みを開けて目をキラキラさせた。
「王都にこんなお菓子ないよ! お星様みたい!」
「そいつは金平糖。気に入った?」
「とっても!」
悪くない雰囲気だ。シフォンはにこにこしているし、この男――カガリも、入院中見舞いに来てくれたことを考えると、悪いやつではなさそうだ。セザールが微笑んで告げた。
「どう? ここは二組に分かれるっていうのは」
「うーん、まあシフォンがそれでいいなら……」
シフォンは金平糖を食べて嬉しそうだ。二人になる意見にも珍しく賛成している。どこかわくわくしている彼女に、異を唱えることはできなかった。一応リオンは念押しをしておいた。
「カガリさん、シフォンに手を出したら駄目ですからね!」
「しねえよ、一緒に祭り楽しむだけだ」
そんなこんなでシフォンとカガリは行ってしまった。
人のざわめきの中、セザールがひとりごちた。
「ふぅ……やっと二人きりになれた」
「…………」
リオンは思わずセザールを睨んだ。
「わたしと二人になるためにシフォンに彼を当てがったんじゃないでしょうね!」
「ち、違うよ!」
言いながら、彼は真面目に告げた。
「彼から僕に仲介してと頼まれたんだ。本当だよ。――だから心配しないで。僕と回ろう、リオン?」
リオンは少し険しい顔で考え込んだものの、まあカガリなら心配ないかと踏んでセザールと回ることにした。
本当は赤い目の男と回りたかったが、彼は案の定お祭りには現れず、影も形もなかった。
せっかくの浴衣を見てもらえないのは寂しい。
「それにしてもその浴衣、すっごく似合ってるよ、綺麗だ」
「ああ、どうも……」
セザールに褒められても嬉しくない。全然。
チカゲは今も家で人工宝石でも作ってるんじゃないだろうか。誘っても断られるだろう。リオンはため息をついた。
「ねえそんな顔しないで。何か楽しいことしよう? たこ焼きが売ってるよ。どう?」
ここは港に近い村だ。海産物は立派な物が多い。まあ突っ立ってるのもなんだしと思い、リオンはセザールとたこ焼きを買うことにした。
「おいしいね」
「うん」
リオンの心はここにあらずであった。容器に八個入ったたこ焼きをセザールが買ってくれたものの、二個食べてぼーっとするだけだ。
「ほら見て、具の大きさもしっかりして……リオン……?」
セザールは容器をしまって真面目に見つめてくる。
「どうしたら君を楽しませられる?」
「えっと……」
「僕はね、この日をずっと楽しみにしてたんだ」
彼が両手を握ってくる。リオンは少しぎょっとした。
「セザール!」
「浴衣姿の君はとても素敵だ。悩み事があるなら僕に教えて?」
悩み事? それはチカゲのことだ。言っても彼を不快にさせるだけだ。
それにしても近い。
「あの、手を離して」
「いやだと言ったら?」
無理やり振り解こうにも、今日は一段と強く掴まれている。本気で刀を抜こうとしたらできただろう。だがそんな気分ですらなかった。たくさんの人々がお祭りを楽しんでいる中で、自分だけがはぐれたクラゲのように、虚しく浮いている心地だった。
「リオン、僕はね……僕は君が」
「おい若造。俺の部下が困ってるじゃねえか」
運のいいことに現れたのはブレッドだった。
「お前もう一人の部下にも男をけしかけたな? 無害なやつだと思っていたのに……」
「えっと、待って下さい。カガリはちゃんと真面目な男で」
「調べはついてるんだ。奴は帝都から来た。何か探っているらしい」
初耳だ。セザールも初耳だったらしい。
「えっ、ちょ、ちょっと待って下さい初耳です! 僕本当に知らなくて、」
「お前の紳士的な姿勢は理解しているが、今日の行いはそれなりに目に余る。シフォンに何かあったらどうするつもりだ、来い」
セザールの首根っこを掴むようにしてブレッドは連れて行ってしまう。
「あ……」
呆気に取られるリオンを前に、ブレッドは振り返った。
「悪いが祭り一人で楽しめー。俺はこいつとシフォンを探す、これだから若造はまったく!」
言いながらセザールからたこ焼きを没収し、「うまそうなもん食ってるじゃねえか、いらないなら貰うぞ」とか言っている。セザールはすっかり意気消沈して「どうぞ」と言いながらたこ焼きを渡した。これではどっちが盗賊なんだか、と思いながら見ていれば、セザールはそのまま連れて行かれてしまった。
リオンは呆けたまま突っ立っていた。正真正銘一人になってしまった。大海に流されたクラゲのように、ひとりぼっち。
さて、どこを回ろうか。
せっかく浴衣を纏って着飾ったのに馬鹿みたい。何も買う気になれない。惨めだった。
ぼーっと歩いていると、熱心にどこかの店の人間に話しかけている見慣れた男の姿があった。
そこは飴細工の出店で、様々な生き物を模した飴を職人が作っていた。
「見事な手腕ですね! その飴の熱が冷めぬうちに加工する術を教えて頂きたいぐらいです! それは金属にも応用できますか!? 冷えるまでの猶予はどれくらいですか? 湾曲性は金属とどれほど違うのでしょう?」
ぺらぺら喋る男に職人は辟易とした顔で黙々と何か作っていた。他の客用のうさぎやら猫やらだ。
「買わないなら他の店行ってくれませんか? お客さんが寄り付かなくなりますので」
「買えば教えてくれますか?」
「だから金属と飴は全然違うことぐらいわかるでしょう?」
「承知の上です。その加工の腕は見事です。技術を知りたいんですよ。もしかしたら人工宝石に応用できるかもしれません。そうすれば売り上げが伸びるかも」
リオンは若干――というよりかなり引きながらも話しかけた。
「こんばんはチカゲさん――お店の人困ってますよ」
「ああアナタですか、これは随分と――」
彼はそこまで言って目を細めた。その視線の先はリオンの浴衣に留められている。
「なんですか? ああこの浴衣ですか。似合います?」
勇気を出して言ってみるが半分は皮肉だった。この男の答えなんて分かりきっているから。
「…………」
彼はひとしきり考え込んでいた。考え込んだ後、口を開いて、また閉じて、そうして開いた。
「……綺麗だと思います」
「お世辞どーも」
「っ」
彼の瞳が燃え上がる。なんだ、何か間違えたらしい。
「ちがっ、――髪紐を受け取った時、アナタ喜んでいたじゃないですか!」
「ええ、これはとっても嬉しかった」
リオンは目を細めて髪紐に触れた。今日もつけている。
チカゲが唇をわななかせる。
「あの時、アナタは賛辞を素直に受け取ったではありませんか」
「つまり……お世辞じゃないってこと?」
「そ、そう言ってる」
リオンは破顔した。それはもう、言葉にできないくらい嬉しかった。
「に、似合ってるの? これ似合ってます!?」
あんまり嬉しくてくるっと回ってみせる。笑いかければ思いっきり目を逸らされた。
「チカゲさん?」
「か……」
言いかけて、彼は自分の言葉に驚いたように口元を抑えた。
よく分からずに見つめれば睨み返される。
「なんでもないですよ! 人の世辞――じゃなくて、あー、賛辞は、素直に受け取るべきです!」
リオンは頬を染めた。嬉しさが抑えきれなくて、言葉にできない代わりにぴょんぴょん飛び跳ねた。
「やめなさい、着崩れしますよ」
呆れたような、どこか柔らかい目をしたチカゲが言った。
「……まるで金魚みたいだ」
「金魚」
確かにそう見えるのかもしれない。赤い浴衣に帯は金魚の尾鰭みたいな作りだ。
彼は飴細工の店員が生温かい視線で見ているのに気づいて、ごほんと一つ息をした。
「ええと、じゃあ、金魚を下さい」
そう言ってお金を渡す。普通のお菓子より高めだが、この並んでいる飴細工なら相応の値段だろう。
「……はあ、分かりました」
言うなり店員は飴細工を作り始めた。よく分からないガラスのような塊が伸びていくのをリオンは見た。その端っこをペンチのようなもので伸ばして、形作っていく。みるみるうちに美しい尾鰭やら何やらが出来上がっていった。一つ一つの鱗を丁寧に作る。
やがて職人は紅を載せて金魚に色をつけていく。それはそれは見事な腕前だった。最後に黒で目をちょんちょん、とつけて出来上がりだ。
「わぁ……!」
リオンは目を輝かせた。
「本物みたい! すごく綺麗!」
店員が少しだけ微笑むと、それをチカゲに手渡した。
リオンはじっとその金魚を見る。
「――なんですか。アナタにやるなんて一言も言ってませんよ」
なんとなくそういう流れかと思ったのだが違ったようだ。ちょっと残念、と思う間もなく、リオンの目の前で彼はそれをばきりぼきりと齧った。美しい金魚が粉々に食べられていく。
まるでヤケ食いみたいな食べ方だ。さすがにリオンはびっくりした。
「ちょ、ちょっとそんな食べ方しなくても……!」
チカゲは聞いちゃいなかった。
ばきばき、べきり、ぼきり。
チカゲの食べ方にリオンは愚か店員もドン引きしている。
「……あー甘い。少しだけ気が晴れました」
ガリっと奥歯で最後の飴を齧り潰したチカゲはそう言った。悪役みたいな顔をしている。
「ご馳走さまでした。最高でしたよ」
店員にそう言うものの、店員は困惑した顔をしている。それはそうだろう。
リオンはチカゲを引っ張って行った。
「あんなに丁寧に作っていたのに、目の前であんな食べ方をするなんて……」
「別に見せつけたかったわけじゃありませんよ。ただ……食べたいように食べただけです」
彼は目を細めてリオンを見つめた。意味が不明だ。その上こう告げた。
「――セザールはどうしたんですか」
「え?」
「そんな格好のアナタを祭りに誘うとしたら彼でしょう? 一緒じゃないのですか?」
「なんか誤解してない? その、色々あって」
「ではシフォンは? あなたにいつも引っ付いてるあの娘」
「彼女は別の人と回っています。隊長がいるから大丈夫だと思うけど」
「――ではアナタお一人ですか」
「……そうです」
ハッと彼は笑った。
「ワタシと同じですね」
そう言って物言いたげにリオンを見る。リオンは口を開いた。
「もしかして一緒に回ろうってこと?」
「…………」
どうも彼は人の誘い方を知らないようだ。いやそんなはずはないのだが。まあとにかくリオンにとっては好都合だった。
「シフォンと回るつもりでした。でも本当はチカゲさんにも会いたかった。あなたはお祭りに来ないかと――」
「まあそのつもりでしたが、珍しい出店には興味があったので」
「そうみたいですね。お祭り一緒に回りませんか」
まっすぐに見つめる。彼はやっぱり目を細めるだけだ。
「断れないとわかって言ってます?」
「断れないんですか? 別に無理にとは言ってませんが」
「っ、……ああいえばこう言う」
「それはこっちのセリフです!」
結局二人は一緒に回ることになった。とは言っても嬉しくなってしまったリオンがあちこち回るのを、目を細めたチカゲがついて回るだけだったが。
「射的! 射的やりましょう! シフォンがやりたいって言ってたけど結局一緒にできなかったから……」
「子どもですね、構いませんよ」
リオンは笑ってお金を払うと、銃を持った。
的には数字が書いてある。数字の合計で景品がもらえるようだ。
三回撃てるようだったが、結果は二十と三十の的に当たっただけだった。一発は外れ、合計五十。
「はい、健闘賞」
渡されたのはよく見るお菓子をいくつか。リオンはまあ悪くないかと思いつつも、ちょっと残念に思った。刀の腕は自信がそれなりにあるが銃は得意じゃない。真ん中の的には百と書かれている。百八十の番号札が置かれた景品は取れそうにない。
「なんですか、何が欲しいんですか」
「…………」
口には出せなかったけれど、赤い目のうさぎのぬいぐるみが欲しいと思った。
誰かさんに似ていたから。
「ハァ……あの白うさぎ? まったく――」
言いながらチカゲはお金を払うと銃を構えた。
二発は五十、残り一発は中央の百に当たった。
リオンは目を丸くする。
店員に渡されたぬいぐるみをチカゲは当たり前のように渡してよこした。
「チカゲさん、こういうの得意なの?」
「さあ……運が良かっただけです。得意でしたら全部真ん中に当ててますよ」
言いながらうさぎを押し付けてくる。
「欲しかったんでしょう、ほら」
「いいの?」
「正直アナタに付き合って遊んだだけです。ワタシがもらっても困るのですが」
「そっか」
リオンは笑った。
「これチカゲさんにちょっと似てるなと思ってね」
「は?」
「赤いおめめが綺麗。寂しい時は一緒に寝ることにします」
チカゲが眉を顰めてぬいぐるみを取り上げる。
「やっぱり気が変わりました」
「な、なんで!」
「酔狂ですねアナタはほんとに! その言い方じゃまるで……」
「チカゲさんが冷たいからでしょ! だからこのうさぎと寝るの!」
正直に言えば彼は唇を引き結んだ。リオンはムッとする。
「くれたんじゃないの? 返してください」
「……このガキ」
「捨てるつもり? やめてよ!」
チッと舌打ちして彼はうさぎを突き返した。
「まったく……くれてやりますよ、好きにしなさい」
「……ありがと」
リオンはうさぎを抱きしめた。やさしくその頭を撫でる。
居心地悪そうに彼は目を逸らした。
「それで? 他はどこにいきたいんです?」
明るい顔のリオンはあちこちの屋台を見ながら、頬を緩ませた。
「金魚掬いだ! やってみたかった、んだよね……」
言いながらさっき金魚の飴細工をばりばり食べていたチカゲを思い出した。尋常じゃない食べ方だった。もしかして金魚が嫌いなのだろうか。
「どうしました? やりたいんじゃないんですか?」
「……チカゲさんって金魚もしかして嫌い?」
「? いえ別に。――ああ」
ふとリオンを見つめて彼は告げた。
「無防備な金魚は嫌いです」
「は?」
「なんでもありません」
よく分からない。屋台の金魚なんだから無防備もクソもないだろう。
「じゃあこの屋台の金魚嫌いなの?」
「いえ……もういいです」
ぽん、と頭に手を置かれた。
リオンは彼に撫でられるのが好きだ。思わずはにかむと彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……最近、アナタといるとどうしたらいいか分からないことが増えました」
「どうしたらって……嫌じゃないならチカゲさんも金魚掬いしなよ」
リオンが返せば彼は目を細めた。
「そうですね」
二人はそれぞれお金を払った。まずはリオンから金魚掬いを始めた。うさぎのぬいぐるみは濡れないように屋台のそばの台の上に置かせてもらう。
リオンはポイを持ったまま必死に目で金魚を追っていた。実際ずっとやってみたかったのだ。自分の生まれ故郷にはこんな大きなお祭りはなかったし、アケボノ村に来てからは毎年見回りで素通りするだけだった。
貴重な機会だ。一匹もすくえないなんてことは避けたい。ポイを持ったまま真剣に目で追い続けるリオンをチカゲは面白そうに眺めていたが、急かすことはしなかった。
「えい、」
思い切ってポイを入れる。なんとかかんとか掬う。
「あ、破けてきちゃった」
そのまま勢いで他の金魚も追いかける。
結局三匹を掬うことができた。少ない方かもしれないが、初めてにしては上出来だとリオンは思った。
袋に入れてもらい目を輝かせるリオンを見てふっとチカゲは笑った。珍しいことだ。
「アナタは本当に楽しそうですね」
彼の言葉ににっと、リオンは笑った。
「金魚掬い、ずっとやってみたかったんですもん。この子達はお家で飼います」
「そうですか、ではワタシも」
彼はあまり金魚に興味はなさそうだが、静かにポイを受け取ると、馬鹿みたいにさっさと金魚を掬って行った。見事な腕だったが、店主はちょっと顔を引き攣らせている。
十二匹とったところでポイが使えなくなり、チカゲは金魚を入れた袋をもらった。十二匹雑にまとめられている。
「他のところも回るといいよ。それじゃあね」
言外にもう来るなと言われているようでリオンはちょっと笑った。うさぎのぬいぐるみを抱えて、金魚の三匹入った袋を持ったリオンの姿は、まさしくお祭りを堪能する少女のそれだった。
「チカゲさん金魚掬いうまいんですね。びっくりしました」
「はあ、あの手のものは縦向きにせず、表面を使えば水の抵抗が少ないと思っただけです」
存外真面目な答えが返ってきた。そういえばあまりポイを深くまで突っ込んでいなかった気がする。
「それにしてもたくさん掬いましたね!」
「ええまあ」
彼は金魚を見て微妙な顔をしていた。なぜこんなに掬ったのだろうと自分でも言いたげだった。チカゲの思考は時折――というかよく分からないことが多い。リオンはそれ以上深くは聞かないことにした。
「あちこち動いてたらお腹空きました」
「まだ何も食べてないんですか」
「セザールとたこ焼きは食べましたけど、二つだけです」
「…………」
彼の目が鋭くなる。
「結局回ったんじゃないですか、彼と」
「少しだけです。本当はシフォンと回るつもりだったけど、あの子カガリさんと行っちゃったから。あとそのカガリって人、セザールが連れてきたんですけど、なんか問題ありな人らしくて、セザールは隊長に連行されて行きましたよ」
「追いかけなかったのですか?」
「なんで? 別に彼と回りたかった訳じゃないし」
真剣に返すとチカゲは目を細めた。
「ワタシと回りたかったと?」
「そう言ってるじゃないですか。家にこもってると思ってたけど、こんなことなら最初から声かければ良かった」
まあ最近のチカゲには微妙に距離を置かれている気がして、声がかけづらかったというのもあるが。こうして実際に話してみるといつもと同じ――いやいつもより少しだけ雰囲気が柔らかい気がした。気のせいだろうか。
「何が食べたいのですか」
「わたしの行きたいところばっかり。チカゲさんも選びなよ」
「見たいものはもう見ました」
あの飴か。リオンはちょっと半目になった。彼の頭には技術やら何やらへの興味しかないらしい。おまけに丁寧に作られた飴を店員の前で乱暴に貪る始末。何がしたいのかよく分からない。
「そうだ、わたしも飴食べようかな」
あの飴細工の店は興味があったが、この男がいる手前もう一度行くのは気が引けた。近くにあったりんご飴の店を示す。
「お好きなのは苺では?」
「苺は格別だけど、りんごも好きなの!」
言いながらリオンはお金を払う。並んでいるりんご飴はどれも大きくて綺麗だ。赤く美しい。
「あなたの目の色だ」
うっとり飴を眺めれば舌打ちされた。失言だったか。




