シラサギとクロサギ
*
「チカゲさん、チカゲさーん」
リオンはチカゲを探した。真っ先にあの燃えた洞窟へ行ってみたが見つからなかった。
どこに行ったのか見当もつかない。
あちこちの村を訪ねたり、山奥に別の隠れ家がないか探してみたりした。
アケボノ村の周囲の見回りは隊長のブレッドと同僚のシフォンが担っている。
リオンが一週間おきにふらふらになって帰ってくるのを見るたび、二人は「また見つからなかったのか」という顔をした。
「ダリウスさん……見つからないんです」
リオンはダリウスの横に座り、落ち込んだ様子で俯いた。
「うーん、あいつに前どこから来たのか聞いたことあるけど、答えが要領を得ないというか、どうもふらふらしながら錬金術で生計立ててたみたいなんだよな」
「今回は話が違うんです」
「それは何度も聞いたよ。そのビワって、チカゲ以上にヤバい奴なの?」
「多分……いやチカゲさんも普通じゃないけど、ビワって人も普通じゃなかった。あの人のところへ、きっとチカゲさんは行ったの。どんなに危ないことになってるか分からない。でも場所が分からないんです」
「仕事にかこつけてチカゲを探してるようだけど……自分の命を守るのも大事なことなんじゃないのか」
ダリウスの言葉に、リオンは顔を上げて彼を見た。
「お前はいつも無茶ばかり。チカゲが助けてくれたと言ったって、話を聞く限り奴のせいで崖から落ちたみたいな感じだったじゃん」
「わたしそこまで話しましたっけ」
「チカゲがいなくなった後、血相を変えて俺に色々喋ったろーが。まあ口外しないけどさ」
「…………」
「チカゲのことは、まあ世話の焼ける友人――反抗期の息子みたいに思ってたよ。おじさんは寂しい奴だからね。時折お前のことも娘のように思うこともある。前に言った気がするが――無茶はやめとけって話だ」
「チカゲさんを見捨てろと?」
「あのね嬢ちゃん」
ダリウスは息を吐いた。
「あいつは俺らの手に負える人間じゃないかも。自ら危険に首を突っ込んでんだ。王都からの勅命の詳細は分かんないけど、チカゲを捕まえるなら他の奴に頼んだ方がいい。あの隊長さんとかさ」
「わたしでなければ駄目なんです。隊長はチカゲさんを捕縛対象としてしか見ていない。それが当たり前のことです。でもチカゲさんは――あの人は! 本当はやさしい人だと、わたし思うんです。何かに取り憑かれたようになってるだけだと――その原因が寂しさとかそういうものなら、」
「……俺、お前の死体とか見たくないよ」
「…………」
「でもそこまで言うなら止めはしないさ。餞別に今日は無料」
ジャムを渡してくれた。医療所で会った時と同じだ。
「ありがとうございます」
親切なこの男にリオンは少しだけ元気付けられた。
「休んだらまた探しに行きます」
「まあいいけど、ほどほどにしろよー」
リオンは微笑んで手を降り、その場を立ち去ると、そばの家に入った。
自分の家はやはり心地いい。
王都の文化の影響で、火を起こさなくともお湯が張れるようになっている風呂場。他の村には普及していない技術もある。
風呂にお湯を張ってゆっくり温まる。
実のところ、チカゲを探し続けて一ヶ月が経っていた。
「会いたい……」
湯船の中、リオンはぽつりとこぼした。
*
一面のヒガンバナ。その中央の小屋の中、チカゲは研究にくたびれて眠っていた。
少しずつ研究は進んでいる。でも時折酷く頭がくらくらして、こうして眠りに落ちてしまうのだった。
夢の中で、真っ暗闇を少女が灯りを持って歩いていた。
「チカゲさん、どこなの、チカゲさん」
泣きそうになりながら、少女はあちこちを訪ね歩く。
真っ暗闇を、どこまでも歩いて、走っていくのだ。
「チカゲさん、どこなの!? 帰ってきてよ!!」
涙混じりのその声に、ハッとする。嘲笑しようにもできなかった。
強い風が吹いて、彼女の持つ灯りをかき消そうとする。まるで希望を消すかのように。
「やだっ!」
彼女は必死で灯りを守った。
ごうごうと風の吹き荒れる中、ぶつぶつ繰り返していた。
「見つけてやる。見つけ出してやる。許さないんだから。――勝手に消えるなんて、赦さない!!」
豪風の中、闇の中で、彼女は希望という名の灯りを守っていた。
チカゲは思わず声をかけたくなった。
「リオンさ、――」
「なにしてるの」
肩に手を置かれる。チカゲはハッと目を覚ました。
どきりとして振り返れば、肩に手を置いたビワと目が合った。
「すみません、いつのまにか眠って――」
「チカゲ、時には休息も必要だ」
ビワは微笑んだが、どこか底知れない恐ろしい目をしていた。
「でも寝落ちなんてよくないんじゃない? 研究してる時くらい集中しなよ」
集中するあまり疲労して寝てしまったのだ。だがこんなこと言い訳にしかならないのかもしれない。
「いいかい、くだらない事象は全部この結界の外だ。君は研究を続ければいい。分かったね?」
どこか気迫のある笑みに、面倒な奴を相手にしてしまったのかもしれないとチカゲは悟ったが、今更だ。
ここに歩いてきたのは自分だ。彼と自分の目的は一致している。
そう、すべては賢者の石を完成させるためなのだ。
*
さらに一ヶ月が過ぎた。チカゲを探し続けてもう二ヶ月。隊長とシフォンにはそもそもそんな人が存在したのかと聞かれる始末。
けれどリオンは諦めなかった。
あちこちに探索に出かけて、時折戦う羽目になり、傷だらけになって帰った日もあった。
傷だらけのリオンは、とうとう疲れ切ってしまった。振り切ろうとした「諦め」の文字が頭に浮かぶ。嫌だ。嫌だと思った。諦めたくない。
あの人にもう一度会いたい。
すがる思いで、捜索の最初に足を運んだあの洞窟までやってきた。燃えてしまったチカゲの隠れ家。時は夜。
灯りを片手にリオンは進んだ。
辺りは不気味に照らされ、燃えて落ちた書物や、割れて溶けた瓶の残骸などがあった。
リオンは進んだ。
彼はどこへ行ったのだ。
「チカゲさん……」
――――会いたい。
胸が痛んだ。会いたい、どこにいるの。
不意に、辺りが開けた。
三日月が美しく微笑む、とろけるような闇夜の中、鮮血のようなヒガンバナが一様に咲いているのだった。
「……!?」
リオンは慌てて振り返る。来た道はなかった。
どうもおかしなところに来たらしいことはあった。幽世(かくりよ?)だか神域だかわからないが、東雲大陸はどうもそういった言い伝えが多かったから、その類だと思った。
そしてなぜか、この先にチカゲはいると、リオンは確信してしまった。
彼の着物に刺繍されていたヒガンバナ。何よりあの洞窟から繋がっていたのだ。
リオンは思わず駆け出した。
赤い花びらが血のように舞う中、一心不乱に駆けた。やがてふと、一軒の小屋がぽつんと立っていることに気づいた。
ぞっとした。
ここが悪い場所なら、そこにいるのはモノノケの類かもしれないし、あるいは神域なら、マレビトと呼ばれる神がいるのかもしれない。
しかし迷っている場合ではなかった。リオンは勇気を出し、足を進めた。ヒガンバナが血に濡れた手のように見えてゾッとしたが、気にしないふりをした。
コンコン、と扉を叩く。
「留守だよ」
中から声が聞こえた。ふざけた返事だ。
「誰です? もしかしてビワとかいう、」
「違うよ、クロサギっていうんだ」
ガラリと扉が開き、若者が顔を出した。黒い翼に髪に着物。人間でないことは分かったが、構っている余裕はなかった。
「中に、チカゲさんがいるんでしょ? 通して」
「なぜ通さなきゃいけないの」
「あの人を助けなくちゃ」
クロサギは目をぱちぱちとさせた。それから少し考えて、肩をすくめた。
「――無理だよ。ビワと同じ変人だ。研究に執着してる。ほとんど机から動かない」
「……あなたは違うっていうの?」
「――うん、たぶん俺は違う。でもあんたを通す訳には、」
「違うなら通して」
一瞬、彼がためらったのをリオンは見逃さなかった。
「あの人を愛しているの。迎えに来たの。通して!!」
「あ、あいし、」
「あの人には嫌われてる。でも助けないと。ここはおかしい。あなたもおかしいと分かってるなら、中へ入れて、お願い!」
リオンの剣幕に押されたのか、クロサギは静かに横に寄った。
「チカゲさん、チカゲさん!」
リオンは中へ入る。廊下を進んでいけば、ふと障子の向こうに、懐かしい影が見えた。
ぴしゃんと扉を開いて、リオンは泣きそうになった。
チカゲが机の前で、呆気に取られた様子でこちらを見ているのだった。
「チカゲさん!!」
思わず抱きつこうとした。
「やめてください!!」
チカゲが叫んだ。目に隈ができていた。
「今計測中なんです。燃やされた資料も大体作り直しができそうです。邪魔をしないでください、軽量が失敗するとまたこれをやり直し――」
ばちん、とリオンは思い切りその頬を叩いた。派手な音がした。
「どれだけ探したと思ってるの! どれだけ! 二ヶ月だよ!!」
いつのまにか視界がぼやけて、気づけばハラハラと涙が頬を伝った。
「勝手に、いなくなって……」
チカゲは少し我に帰ったようだった。立ち上がり、わずかに後ずさった彼を今度こそ抱きしめた。彼は少しぴくりとして、ただ目を見開いてリオンを見ていた。
「――そうですか、二ヶ月ですか」
「そうだよ」
「帰って、下さい」
また平手打ちしてやろうかと思った。リオンは彼の着物の襟首を掴んで、その目を覗き込んだ。
「今すぐ戻って来て!! でなければ、無理矢理連れ戻す!」
「ワタシにはやる事があるんです」
「こんなおかしなところで、おかしな研究して! あなた頭おかしいんじゃないの!!」
チカゲがおかしいことなんて知っている。精一杯の嫌がらせだ。けれど彼は当たり前のように告げるのだった。
「ここは危険です。ワタシは守られていますが、アナタの存在をビワはよく思わないでしょう。リオンさん、帰りなさい」
まだ言うのか。
「いやだ、帰らない!! 絶対に絶対に、」
「ああうるさいなあ」
開いた襖からビワが入って来た。ぎょっとした。後ろには見知らぬ白い女もいる。その娘も翼が生えていた。
「チカゲの言う通り。シラサギが邪魔者が入って来たと教えてくれたから戻ってきたんだ。よくもまあここへ入れたね、リオン」
リオンは警戒したが、なぜかチカゲも同じだった。
「ビワ、リオンさんは、迷い込んだだけのようです」
「庇ってるの? 君らしくもない。僕がこの子をどうにかするとでも? キョーミないし」
チカゲが少しだけほっとしたように告げた。
「では結界の外へ返してやって下さい」
「んー、どうしようかな」
ビワはちらりとリオンを見た。リオンは睨み返す。
「その分じゃ君はまたここへ来るかも。邪魔だよ、竜の娘」
「だからわたしはそんなんじゃ――」
「そんなんじゃなくてもどうでもいい。チカゲ、最近研究が捗ってないじゃないか。この娘のせいじゃないの?」
チカゲがかすかに喉を詰まらせた。訳が分からなかった。リオンは二ヶ月この結界に入っていなかったのだ。邪魔をするも何もない。
「君はこの娘を気にかけてるようだ。違うか?」
「っ、違います!」
「はは、そんな顔で言われてもねえ」
ビワが笑ったかと思うと、リオンの襟首を掴んだ。リオンはすかさず刀を抜こうとしたが、手を押さえつけられてしまった。
「っ」
「チカゲ、君時折寝落ちしてうなされてるよねえ。それに考え事に耽っている時もある。研究の邪魔だ。この子が関係してるんじゃないの」
「疲れていただけですっ」
「あそ。前にこの娘殺そうとしてたよね。まあ神力の心臓の持ち主じゃなかったけど。関係ないなら殺してもいいよね?」
「っ――、やめて下さい!」
叫んだチカゲは自分でもハッとしたように瞳を揺らした。彼自身も動揺しているらしかった。
リオンもこんなところで殺されるわけには行かない。必死にビワの手を引き剥がした。
「わたしはこんなところで――」
「シラサギ」
「はい」
一瞬、視界が白で覆い尽くされる。美しい羽だ。しかし邪魔をするなら切り裂くしかないと思った瞬間、喉元を締められた。
握りしめていた刀が宙を舞って下に落ちた。手放したのではない。妖術だ。
気づけば後ろにいた白い娘がリオンを捕まえていた。ビワがすかさず告げる。
「やめろ。殺せとは言ってない。生捕りだ」
「分かりました」
喉元をしめつけた手が離れたかと思えば、呼吸を整える間もなくてきぱきと当たり前のように両腕を縛られてしまった。
「リオンさん!」
「鳥はね、籠に入れておくものだよチカゲ。リオンが君の小鳥なら、そばに置いておけば心配ないだろ?」
「何馬鹿なこと言って、」
「シラサギも籠にいるようなもの。いつも僕の結界の中で大人しく待っててくれるのだから。君の小鳥は動き回るみたいで迷惑だ。座敷牢に入れておくよ。ちゃんと餌付けもするし、問題ないだろ」
チカゲが絶句している。
リオンも混乱していた。刀をこんな形で封じられるとは思っていなかった。
「ふうん、随分いい刀。貰っておこうか」
「やめて返して!」
言いながらもリオンは引きずられて行った。
「くく、小鳥とは、大人しく籠の中で囀っているものだよ。翼を切り取られたくなければ、大人しくしているといい」
リオンはシラサギと違って翼なんかない。それはきっと比喩だ。逃げ出したら手足なりなんなり、切り落とすつもりなのだ。彼の言い方から本気なのだろうと分かった。さすがに危険だと悟り、リオンは抵抗を諦めた。
そのままずるずると引きずられ、縛られたまま座敷牢へ放り込まれたのだった。
*
チカゲは珍しく焦っていた。
リオン――あの馬鹿な娘は、自分を探し続けていたらしい。そして捕まってしまった。
なぜこんなに焦燥感が募るのかも分からない。
思わずビワに向かって声を荒げた。
「待ってください! 彼女は無関係です! なぜ捕まえる必要が? 結界の外へ放り出せばいい話ではないですか!」
「でもまた来るだろうと言ってるんだ。結界は普通の人間には入り込めない。だが強い意志があれば迷い込むことができてしまう」
強い意志――きっとそれほどに自分を探し続けたのだろう。なんて愚かな。
何かがつきりと痛む。その正体さえ分からない。
「チカゲ、君はなんだかんだ言いながら、あの子を気にするだろう? それは研究の邪魔だ。放っといて、今日のように邪魔されるのもね。いいかい、手元に置いとけば気が散らなくて済むはずだ。それとも――」
恐ろしい目でビワが嗤った。
「それとも、研究を放棄して、あの子が殺されるところを見たい?」
「何を――」
目を見開いたチカゲに、彼は愉しそうに笑った。
「馬鹿だね、この前は自分で殺そうとしてたじゃないか。くく、庇うの? 矛盾していることに気づかない?」
不愉快だ。不愉快だが彼の言う通りであった。
言い返してやろうにも、何もかも見通したような彼の目に、すうっと何かが冷えていくのが分かった。わずかに顔色をなくしたチカゲに、ビワは言った。
「そう、人質だよ」
「な、」
「邪魔なんだよあの娘。殺したっていい。でも殺したら、余計君は研究に身が入らなくなりそうだし。だから――ね? 全部燃やしちゃったことは謝るよ。でもこれだけ時間を与えてるんだ。それに貴重な材料を二つ用意したんだ。君は十年くらいかけても無理だったようだけど、僕だってこれを手に入れるのに、数年かけたんだ。研究にきちんと集中してくれないと困るんだよ」
チカゲはわずかに眉を顰めた。
「あの娘に何をするつもりですか。ワタシは逃げやしません」
「いつ気を変えるか分からない。あの娘のせいでね! だからここにいろと言ってる。さあ座れ! 座って研究を続けろ。でないと」
――あの子の指を一本ずつ切り落としていくよ。
彼はそう言って嗤った。邪悪な笑みだった。
チカゲはゾッとして座った。研究を続けることにした。混乱しながらも、どうにか続行を試みた。
そう、探し続けた二つの原石はここにある。だから、――だから、続けなければならない。ツクヨミ様に会うためにも。
それに満足した様子でビワはどこかへ行ってしまった。
しばらくして、どこからか叫び声が聞こえた。リオンのものではない。若い男の声だった。
「ごめんなさい、ごめんなさ――」
「クロサギ、よくもあの娘を通したな。お前は僕の邪魔をしてばかり! この失敗作め!」
「やめて! やめてよ!!」
「これはただの仕置きだ。あんまり不祥事が続くようなら、本当に鳥の丸焼きにしてやるからな!」
そんな声がして、いつしか騒音は消えてなくなった。
チカゲはしばらく研究資料と睨めっこをしていたが、頭がごちゃごちゃして、集中できるような状況でもなかった。
こっそりと抜け出し、入り口の近くの部屋に行くと、クロサギが――鳥の姿で吊るされていた。どうも人間じゃない姿になれるらしい。まあ最初から羽根があったから、妖には間違いなさそうだが。力が上のビワに無理矢理姿を変えられた、と言ったところだろうか。
とにかくその哀れな鳥は、囲炉裏の上に逆さまに吊るされて、熱い熱いと泣いていた。
「……アナタが彼を嫌う理由が分かりました」
チカゲは目を細めて言った。
「だから言ったじゃないかぁ! アイツは恐ろしい奴だって! あんたを探しにきた小娘、捕まっちまった。俺が中に入れたから――ビワは怒ってるし、俺、もういやだよ……」
「こうなることが分かっていたのでは? なぜ彼女を中に? アナタ見張りを任されていたのでは?」
「あんたを探しにきたって、あんまり必死だったんだ。本当に。だから、つい……」
「…………」
チカゲはわずかに眉を顰めただけだった。
「あの娘は愚かだ。アナタも」
「あんたも、あんたもビワと同じなの?」
逆さに吊るされた黒い鳥はぽとりぽとりと涙をこぼした。
「熱いんだ……火が、俺そのうち本当に丸焼きにされちゃうかも」
「そんな愚行を続けていればいずれなるかもしれませんね」
言いながら、チカゲは静かに縄を解いてやった。
クロサギが涙の張った目で、呆気にとられたようにチカゲを見た。
「なんで?」
「さあ。胸糞が悪いからです」
言いながら解けた縄の一端を燃やし、火を消して床に投げ捨てた。
「こうしておけば、火で縄が炙れて落ちたと説明できるでしょう。まあ彼が信じるかは知りませんが」
「なぜ、なぜ助けてくれたの?」
「うるさいです。近寄らないで下さい。あとアナタ、さっさとここから出た方がいいですよ。仮に結界を出られるのでしたらね」
「俺は出られるよ。だけどあんたは、」
「ワタシはやるべきことに戻ります」
言いながらチカゲは執務室に戻り、研究に戻った。あまり釈然としなかったが、研究を続けた。ビワはリオンが手元にいれば、研究に身が入るだろうと言った。その逆だ。
確かに目的は一致している。ビワの与えた二つの原石がどれほど貴重なものかも分かる。ここから太陽と月の雫を抽出するのだ。
そしてビワが、仮に本当に帝の心臓を取ってきたのなら――賢者の石は完成する。そしてツクヨミ様に再び会えるだろう。
だがどうにも、自分の頬を張り飛ばしたあの娘のことが気になった。座敷牢へ放り込まれたと聞いたが、リオンは今頃どうなっているだろう。




