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トイワホー国における策略 2章

「はーい」アヤメは声のトーンを落として言った。「それでは問題をお配りしますねー。私達は恐竜展にはやって来ましたが、手順は今まで通りなので、よろしくお願いしまーす」

 手元にはせっかく画板があるのにも関わらず、サイズは合わないので、ヤツデは画板をしまって早速に問題用紙の5ページ目に目を通すことにした。しかし、ヤツデはその前に話かけられた。

「私達『SYJ』の命運はヤツデくんにかかっているのよ。ヤツデくんは一生懸命にがんばってね」サフィニアは小声で言った。ここにはせっかくイスがあるので、今のサフィニアはイスに腰を下ろしている。サフィニアはそもそも問題に正解する予定がないのだろうかとヤツデは不思議に思った。

「サフィニアさんはご安心下さい。仮に、ヤツデさんは倒れてもダーク・ホースがいます。ダーク・ホースとはもちろんぼくのことです。ぼくの正答率はなんだかんだいっても50パーセントですからね。サフィニアさんはお忘れのないようにお願いします」ジェラシックは言った。今のところのジェラシックは4問中で二問も正解をしている。ヤツデはジェラシックが口を挟んでくれてほっとしている。

「ああ。そうだったね。それじゃあ、ジェラシックくんは頭でっかちの尻すぼみにならないようにがんばってね」サフィニアは少し棘のある言い方をした。しかし、とりあえず、ジェラシックの性格は単純なので、ジェラシックはエールを受けて闘魂を燃やすことにした。ヤツデは今回もクールである。

 サフィニアは先程から人の応援ばっかりをしているので、ヤツデの方はサフィニアのことを応援してあげようとした。ところが、サフィニアは文章を読み始めてしまったので、ヤツデは機会を逸してしまった。

ヤツデの性格は割と不器用なので、ヤツデは会話の流れに身を投じる際には往々にしてとちってしまうということはよくあるのである。ヤツデはそんなことでも一々落ち込んでしまうのである。

 それはさておくとして今回の問題のタイトルは『増加の謎』である。ヤツデたちの一行はいよいよ恐竜展にやって来たので、今回はその館内に関する問題である。以下はその文面である。


 昔々ではないが、あるところにはラックス翁とクラリス媼という老夫婦がいた。おじいさんの方のラックスは現役で脚本家をしているが、彼はなにかと実生活ではだらしのないところもある好々爺である。

 おばあさんの方のクラリスは料理が好きで割烹着がよく似合うとても家庭的でよくラックスのおじいさんの世話を焼くのが習慣になっている心やさしき老女である。

 ラックスとクラリスはブロイラーとカマボコが大好きで大の仲良しなので、二人はおしどり夫婦と言ってしまっても過言ではない。ラックスとクラリスは共に85歳でエメラルド婚式を迎えたばかりである。

ラックスとクラリスという二人の老夫婦は恐竜展を見て回っていると腰をかけるためのイスを発見した。という訳なので、ラックスとクラリスの二人は休憩を挟むためにイスに座ることにした。

おじいさんの方のラックスは恐竜展のパンフレットを取り出して中を開けて注意深く読み始めた。おばあさんの方のクラリスはそれを見て自分も持っていたパンフレットを取り出した。やがては二つあってもしょうがないからということになったので、おばあさんのクラリスは片方のパンフレットをイスの近くにあった『ご自由にお取り下さい』と表示されたパンフレットの置き場に戻すことにした。

ラックスだけはそうしてパンフレットの一部を持つことになった。その後は何事もなく恐竜展を堪能をすると、細やかな事件はラックスとクラリスの二人が家に帰ってから起きた。

ラックスとクラリスは確かに一部を戻したはずなのにも関わらず、恐竜展のパンフレットはなんと二部も荷物の中から発見されたのである。一度はラックスもクラリスもパンフレットを戻してからは他のパンフレットを貰ったりはしていなかった。老夫婦の二人にはそれに自信はあるし、事実はそれに間違いはない。

それから、ラックスとクラリスは老夫婦だからといって物忘れが激しいので、パンフレットは三部を貰っていたことを忘れていたという訳でもない。それではどこでパンフレットは紛れ込んで二部になったのだろうか?パンフレットは前回に恐竜展に来た時にラックスとクラリスが貰っていたものが紛れ込んでいた訳ではないし、そのパンフレットは誰かしらがラックスの持ち物に紛れ込ませた訳でもない。


今回ばかりはさすがのヤツデでも一度だけ問題文を読んだだけでは全くちんぷんかんぷんだった。その感想はしかも全く以ってジェラシックとサフィニアも同じだった。今回はちなみに難易度が高めなので、アヤメは自分でも解いてみた時には手も足も出ずに正解することはできなかった。

そのため、この問題については誰かしら答えられるかはアヤメも楽しみなのである。という訳なので、ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人は読み終わってシンキング・タイムが過ぎても正解がわかったのはヤツデだけだった。それに、自信のほどはそのヤツデにしたって絶対的なものではないのである。

「はーい。それでは一つだけ私からヒントを差し上げまーす。おばあさんのクラリスさんはきれい好きでとても几帳面な性格の持ち主でーす。答えはこれでわかっちゃいましたかー?」アヤメは聞いた。

 しかし、ジェラシックとサフィニアはぐうの音も出ない状態である。となると、ヤツデは必然的に一人で答えなければならないという訳である。サフィニアはヤツデに対して大いなる期待をかけた。

「はーい。それではヤツデさんにはご説明をしてもらいましょうねー。私のヒントは役に立ちましたかー?ですが、ヤツデさんは別に不正解だったとしても、トイワホー国の国民は誰もヤツデさんのことを笑ったりしないので、その点は安心をして下さいねー」アヤメはとても思いやりの籠もったセリフを口にした。

「はい。アヤメさんはお気遣いをありがとうございます。ですが、ぼくは確かにアヤメさんのヒントのおかげで自信を持つことができるようになりました。まず、ぼくの最初の着眼点はクラリスさんが世話焼きだというところです。ぼくは『白の推理』によって『クラリスさんは今回もラックスさんの世話を焼いている』と信じてみることにしました。一見すると、パンフレットはラックスさんとクラリスさんの荷物に紛れ込む余地はなさそうですが、ぼくは『黒の推理』によってとことん抜け穴を探しました。ぼくは問題文を信じずにあらゆることを疑ってかかったんです。ぼくにはするとある一つの可能性が思い浮かびました。それは『ラックスさんとクラリスさんは無意識の内にパンフレットをもう一つ持っていたのではないだろうか』という疑いです。ですが、クラリスさんは確かにパンフレットを返却してあとにも先にもパンフレットは貰っていません。それなら、あとは考えられる可能性は一つです。実は元からあったパンフレットの中にはもう一部のパンフレットが挟まっていたんです」ヤツデは少しここで間を開けた。ジェラシックは珍しく無言である。

「え?ちょっと待ってよ」サフィニアは口を挟んだ。「ヤツデくんの説明はよくわかったけど、ヤツデくんの言ったことは起こるはずがないと思う。クラリスさんのパンフレットは戻しちゃったし、ラックスさんはパンフレットを開いて読んでいるのよ。そうすると、パンフレットの紛れ込む余地はどこにもないじゃない。ラックスさんはもしかしてとぼけているから、パンフレットは開いたのにも関わらず、実はパンフレットが挟まっていたことに気づかなかったとでも言うの?もしも、そうなら、この問題は人を小バカにしているみたい」サフィニアは苦情を申し立てた。とはいっても、サフィニアはヤツデが自分の意見に対して反論をするだろうと思っている。結果は案の定だった。ヤツデは論理的にサフィニアの異論を崩しにかかった。

「うん。もし、そうなら、この問題は確かに人をバカにしているね。もしも、それは本当に返却したパンフレットがクラリスさんのものだったとしたらね。つまり、問題文にはクラリスさんがパンフレットを返してその後もラックスさんはパンフレットを持っていると書いてありますが、それは目くらましに過ぎないんです。ここでは先程に申し上げた『白の推理』が生きてくるんです。クラリスさんは世話焼きです。そのクラリスさんはラックスさんの持っていたパンフレットを返して自分の持っていたパンフレットをラックスさんに持たせたという訳です。これはよく問題文を読むとわかりますが、問題文には元々クラリスさんの持っていたパンフレットを返したとはどこにも書いてありませんからね。そう考えれば、ラックスさんとクラリスさんのパンフレット(元々クラリスさんの持っていたパンフレット)は家に帰るまで一度も開かれていないということになるんです。ですから、そのパンフレットの中にはもう一部のパンフレットが入っていたと考えることができるんです。クラリスさんはなぜそんなことをするのかはアヤメさんのヒントでわかりました。クラリスさんはきれい好きで几帳面だから、おそらくはまだ一度も開かれていないパンフレットを取っておきたいと考えたのだと思います。ぼくからの説明は以上ですが、どこか、ぼくの説明には訂正する箇所はありましたか?」

「いいえ。ありませーん。ヤツデさんの解答はパーフェクトなものでしたー。ヤツデさんの推理はとてもすばらしかったでーす」アヤメは言った。アヤメは自分のことのようにしてヤツデの誉れを喜んでいる。ジェラシックはするとTPOを踏まえて惜しみなく小さな音で拍手をした。ジェラシックは言った。

「今の『YSJ』は絶好調ですね。というか、それはヤツデさんだけなのかもしれませんが」

「とにかく『YSJ』はいよいよエンジンもかかってきましたね」ジェラシックはこの上なくうれしそうである。「ヤツデさんの正解は5問中で5問ですね。正解率は100パーセントじゃないですか。ぼくなんかは50パーセントを切っちゃいましたよ」ジェラシックは言った。ジェラシックは人の幸福を喜べるのである。

「それって私への当てつけかしら?なんてね。それはもちろん冗談よ。私は怒ってないよ。私はヤツデくんが正解してうれしいの。アヤメさんはちょっと座って下さいませんか?」サフィニアは促した。

「はーい。わかりましたー」アヤメはそう言うとサフィニアの横に腰をかけた。ジェラシックは傍で立ったままだが、いつの間にか、ヤツデはアヤメとサフィニアとジェラシックから離れて展示されているものをしきりに観察している。ヤツデはやはり団体行動には向いていないのである。

 内心ではヤツデの自由奔放さに呆れたが、サフィニアは止むを得ずに放任主義を取ることにした。ジェラシックとアヤメの二人はちなみにやさしいので、ヤツデの行動に対しては特になにも感想は持っていない。それに、ヤツデとしては別に悪気がある訳ではないのである。ただし、ヤツデの十八番は勝手な行動である。

「ねえ。もしも、アヤメさんは『愛の伝道師』になっていなかったら、他の職業では何になっていたと思いますか?」サフィニアは質問を開始した、ジェラシックはなんとなくそれを傍観している。

「うーん。そうですねー。『愛の伝道師』は子供の頃からの夢だったのですが、そうでなければ、私はネイル・サロンに勤めたいですねー。転職の予定はもちろんないですし、私はネイル・ケアの高度な技術を持っている訳でもないんですよー」アヤメはあくまでも明るい。とりあえず、アヤメは思ったことを口にしている。

「もしも、アヤメさんはネイル・サロンで働いていたら、私は絶対にそのお店に行きます。アヤメさんはだってすっごいセンスがありそうですもの。でも、アヤメさんはやっぱり『愛の伝道師』の仕事が好きでそれを誇りに思っているんですね。それってとってもすばらしいことだと思います」サフィニアはそう言うとアヤメの爪を見てみた。サフィニアの思ったとおり、アヤメはネイル・エナメルでマニキュアとペディキュアをしている。もっとも、それはサフィニアも右に同じである。アヤメは『愛の伝道師』の試験を受けて一発で合格をしたので、他の会社の入社試験は受けなかったのである。一応は付け足しておくと、こちらはヤツデと全く同じ事情である。アヤメはサフィニアの突然の質問に少しばかり疑問を感じている。

「それじゃあ、話は変わりますけど、アヤメさんは大洪水や大地震で家から逃げる時にはなにを持っていきますか?」サフィニアは相も変わらずにアヤメに対するインタビューを続けている。

「私の場合はカチューシャとプロペラつきの航空機の模型ですかねー。ですが、普通の人はこれだけを聞いたら、このお話は少し突飛に思えますよねー?」アヤメは好意的な態度で問いかけた。

「いいえ。私にはちゃんとわかりますよ。私は『黒の推理』によって考えたのですが、カチューシャはアヤメさんの必需品だと考えられます。一方の模型は『白の推理』によって考えるとアヤメさんが航空機マニアだとも推測できます」サフィニアは気取った態度を取りながら自信を持って言った。

「それって滅茶苦茶に適当ですよね?関連性はもはや意味不明ですよ。サフィニアさんはもしかしてヤツデさんのことをバカにしていませんか?」ジェラシックは鋭く指摘をした。

「バカにはしてないよ。ヤツデくんの推理には憧れているから、私はむしろ『白と黒の推理』を模倣しているのよ。でも、私の推理は当たっていたりして」サフィニアは何気にも期待をしている。

「すみませーん」アヤメは明るい口調で言った。「残念ながら、サフィニアさんの推理はどちらも少し違いまーす。カチューシャは父と母から貰った初めての誕生日プレゼントなんですー。模型は旅行をした時に友達とお揃いで勝った一品なんですよー。どちらにしても、私にとっては大切な宝物なんですー」

「そうでしたか。それはいいお話を聞かせてもらいました。ぼくの宝物はちなみに衣服です。衣服はいい福を呼び込みますからね。って、それは招き猫だろう!いや。これは悪ノリでした。すみません。ぼくの宝物はしかも衣服ではなくて家族です。あ、これはまた聞かれていないことでした。ぼくはようするにダジャレを言いたかっただけです。それより、サフィニアさんはやたらとアヤメさんに対して尋問をされますね。それにはなにかしらの訳はあるのですか?」ジェラシックは気恥ずかしさから話題を変えた。

「それには別に大した理由はないけど、私達はただ単に参加者だけで好き勝手なことを話していることに気が引けちゃったのよ。私達はアヤメさんのことも聞いてあげないと、アヤメさんはかわいそうじゃない」サフィニアは思いやりを見せた。サフィニアはトイワホー国のらしくしおらしいのである。

「そうだったんですかー?」アヤメは言った。「私は添乗員なのにも関わらず、サフィニアさんには気を使わせてしまってすみませーん。ですが、サフィニアさんのその気持ちはとってもうれしいですよー。ありがとうございまーす」アヤメはお礼を言った。サフィニアは漫言を口にしただけだが、その言の葉は人の気持ちを考えてその人の立場にならないと出てこないものである。これこそはやさしさでは群を抜くトイワホー国の国民の真骨頂である。やがてはアヤメによって一人でうろうろとしていたヤツデは呼び戻された。ヤツデはちなみにアヤメとサフィニアとジェラシックが話している間もたくさんのメモを取って勉強をすることができた。

 ただし、ヤツデはそのことを怒られるのではないだろうかと心配をした。しかし、アヤメはもちろん怒らなかった。アヤメはむしろヤツデの意欲的な姿勢について褒めてくれたくらいである。

 アヤメはヤツデを呼び戻しても中々歩き出さないので、サフィニアは不思議に思った。という訳なので、アヤメにはなにやら相談事があるみたいなので、ジェラシックはイスに腰をかけた。

 現在のところ、アヤメとヤツデとサフィニアは立っている。これにはしかもとても些細なこととはいうものの、実はジェラシックが腰を下ろしたことにはある理由がある。

「はーい」アヤメは明るく言った。「ここからは実を言うと自由行動もありなんですよー。ここからはレストランのあるところまでミステリー・ツアーの問題は出題されないので、ここでは短い間だけですが、皆さんは個人のペースで展示されているものをご覧になられてもいいんですよー。皆さんはどうしますかー?」

「どうしようかな。私達はせっかく『仲良しトラベル』で恐竜展にきたんだから、私としては皆と一緒にきたんだし、ん?ちょっと!ヤツデくんは薄情者ね!」サフィニアは小声で罵った。

 ヤツデはアヤメの話を聞き終えるとアヤメとサフィニアとジェラシックの三人に背を向けて早速に展示物の説明をしてくれるコンパニオンの女性から話を聞いて単独行動を取っていたのである。ヤツデは自由奔放なのである。やがては最後までコンパニオンの話を聞き終えると、ヤツデはアヤメとサフィニアとジェラシックの元へと帰って来た。ジェラシックはすでにヤツデの勝手な行動にも慣れっこになって来ている。

「ごめんなさい」ヤツデは謝った。「お話はまだ終わってなかったみたいですね。あれ?サフィニアはさっきぼくのことを薄情者って言っていたね。サフィニアはそんなにも傷ついたの?それなら、ぼくは本当にごめんね」ヤツデは低姿勢である。サフィニアからの攻撃には愛情が含まれているということに気付いたので、ヤツデはサフィニアによって冷たくされても今となっては傷つかなくなって来ている。

「いいえ。それくらいは別にいいのよ。ヤツデくんにはそんなにも恐縮されると私の方がひどい女みたいじゃない。私としてはヤツデくんが単独行動をとった時の不安要素を考えてみただけなのよ。もし、ヤツデくんは私とアヤメさんの元を離れると、ジェラシックくんは両手に花の状態になって理性を保っていられるかっていう不安を考えたの」サフィニアはさらっと自意識過剰なことを言った。

「って、それはちょっと待って下さいよ。それはなんですか?サフィニアさんは言いたい放題ですが、ぼくはもの申しますよ。ここでははっきりと言っておきますが、ぼくはそんなに軟派な男ではありませんからね。しまった。サフィニアさんには乗せられた。おふとんは『パンパン』でフライパン」ジェラシックは悔しそうである。ヤツデは先程から反応に困ってしまっている。サフィニアは手厳しかった。

「そのダジャレはなんなの?それはその果てしなく下らないよ。まあ、そんなことはどうでもいいけど、よかったら、ヤツデくんは一緒に皆と行動をしない?私はヤツデくんが一人で行動しているところを見ていると寂しいもの」サフィニアは言った。サフィニアはヤツデに対しては慈悲の心を見せた。

「それじゃあ、ぼくは皆と一緒にいさせてね」ヤツデはそう言うと当然のことながらアヤメとジェラシックも同意をした。この場の者は三文芝居のようなやり取りだなとは誰も思わなかった。

 という訳なので、ヤツデたちの一行は再び恐竜展を歩くことになった。ジェラシックは名残惜しげにして腕組みをしていたが、やがては渋々と立ち上がった。さっきのジェラシックは『しまった』と言っていたが、その理由は下らないものである。実は寝たふりをしていて誰かに話しかけられたら『ぼくは睡魔に負けてすいません』と言おうとしていたので、ジェラシックはそれがフイになってがっかりしていたのである。

「ねえ。サフィニアは誰に対してもざっくばらんで大らかに接する性格なの?」ヤツデは小声で聞いた。ヤツデは先程のサフィニアの提案を本当にうれしく思っているのである。

「自分ではそんなつもりはないけど、実際はそうかもしれない。人からはおせっかいって言われるかもしれないけど、私はつい内向的な人にもちょっかいを出したくなっちゃうのよね」サフィニアは言った。

「そうなんだ。ぼくはそんな性格が好きだよ」ヤツデは臆面もなく言った。

「ん?」ジェラシックは言った。「なんだか、ヤツデさんは愛の告白みたいなことを平気で言いますね。ヤツデさんはサフィニアさんをぼくよりも先にナンパするなんてやるじゃないですか」ジェラシックはふざけながら茶々を入れた。察しのとおり、ジェラシックの性格は三枚目なのである。

「いや。今のセリフはもちろん愛の告白じゃないよ。ぼくはどんな人も色眼鏡で見ないでできるだけ偏見なく接することを心がけている人に対していつでも敬意を表しているだけだよ」ヤツデはジェラシックとは打って変わって紳士的な態度で話をした。アヤメは黙ってそれを聞いている。

「なるほど。ヤツデくんのいいところは普通の人が恥ずかしくて言えないようなこともさらっと言っちゃうところなのかもね。それなら、ある意味では私よりもヤツデくんの方があけっぴろげじゃない?それはさておきジェラシックくんのさっきのセリフが気になるんだけど」サフィニアは指摘をした。

「え?なにか、ぼくは言っていましたか?ああ。ナンパの話はジョークのつもりで言っただけですから、どうか、サフィニアさんはお気になさらないで下さい。アニマルの『ア』に丸をしよう。なんちゃって」ジェラシックはどこ吹く風である。ジェラシックはそれこそお気楽モードである。それにしても、ジェラシックはあんなセリフを軽々しく言うのなら、それはもう十分に軟派な男なのではないだろうかとサフィニアは内心で思ったが、それではジェラシックが不憫なので、口にはしなかった。それに、悪意はジェラシックにだってなくただ単に馴れ馴れしい性格をしているだけなのである。サフィニアはそのことには気づいている。

その後のヤツデはメモを取りながら恐竜展を歩いた。始めはアヤメとサフィニアとジェラシックの他の三人に対して申し訳ないから、ヤツデはメモを取ることを止めようとしたのだが、アヤメには気を使う必要はないと言われたので、結局はその言葉に甘えてメモを取りながら歩かせてもらうことにした。

そのため、恐竜展はアヤメだけではなくてサフィニアとジェラシックもヤツデのせいでゆっくり展内を歩くことになってしまったが、サフィニアとジェラシックは微塵も不愉快そうにはしなかったし、アヤメとサフィニアとジェラシックの三人は気を悪くなどしてはいないのである。それでも、ヤツデは恐縮をしてしまったので、とりあえずは目に入ったところだけをメモに取ることにした。ヤツデは他人にやさしくすることは日頃から心がけているが、実は他人にやさしくされるとたまに動揺してしまうのである。とはいっても、ヤツデは当然のことながら好意を素直に受け取る姿勢が大事だということは重々承知をしている。

ようはせっかくやさしくしてくれる人に対して『大丈夫です』とばかり言って拒否していたら、それでは逆に失礼に当たる場合もあるという訳である。アヤメとヤツデとサフィニアとジェラシックの4人の見て回る恐竜展はいよいよ前半の終わりに差しかかることになった。ヤツデたちの一行は十分にこの恐竜展を楽しめている。恐竜展の前半の最後は恐竜の戦いについてのセクションである。

 まず、肉食の恐竜は草食の恐竜よりも動きが早くて脳も大きいものが多かった。そればかりか、肉食の恐竜はナイフのような歯や鋭い鉤爪で武装していたのである。

 一方の草食の恐竜は骨の鎧や棘で体を覆ったり武器のついた尾や角を発達させたり大きな群れを作って集団で身を守ったり肉食の恐竜を凌ぐようなとても大きな体に進化したりして肉食の恐竜に対抗していたのである。ジェラシックはそれについて大いに感心をした。

 恐竜の格闘シーンは風成層で見つかる。風成層というのは風の作用によって砂や粘土や火山灰や岩石の細片などが陸上に堆積してできた地層のことを言うのである。

 アヤメとヤツデとサフィニアとジェラシックの4人は恐竜展の前半を見終えるとトイレ休憩を挟むことになった。しかし、女子トイレは混んでいたので、ヤツデとジェラシックはアヤメとサフィニアを残して外へと出て自動販売機のあるところへとやって来た。ここは人気のない場所なので、今のところはここにはヤツデとジェラシックの二人しかいない。ヤツデとジェラシックの男性の二人は外へ出たということはサフィニアとアヤメの女性の二人が利用しているトイレも地上にあるということである。つまり、アヤメとヤツデとサフィニアとジェラシックの4人は地上に上がってきたのである。ヤツデたちの一行はこれから昼食を取ることにはなるが、外は寒いし、ここにはせっかく自動販売機があるので、ジェラシックは缶に入ったコーン・スープを購入した。ヤツデはけちん坊なので、この自動販売機ではなにも買わなかった。

ポタージュとはとろみのある濃いスープのことを指している。コンソメは澄んだスープのことを指すのである。ヤツデとジェラシックはやがて傍にあったベンチに腰を下ろすことにした。

「ヤツデさんはたくさんのメモを取っていましたね。ヤツデさんは勉強熱心で推理力もあるし、ぼくはヤツデさんが羨ましいです。ヤツデさんは学校の勉強もよくできたんでしょうね?」ジェラシックは聞いた。

「いや。そんなことはないよ。大学は無名だし、ぼくは自分の好きなことしか勉強をしたくないっていう我がままな主義の持ち主だからね」ヤツデはあっけらかんとしている。

ただし、一応は付け足しておくと、大学生の時のヤツデは無名の大学ながらも特待生だった。ことわざでは鶏口となるも牛後となるなかれとは言うものの、ヤツデはあまりそのことを自慢になるとは思ってはいない。そのため、ヤツデはそのことを親友のビャクブにも言ってないのである。

「ヤツデさんは謙虚だから、ぼくはそれを鵜呑みにはしませんよ。それよりも、ヤツデさんは詩をぼくのために作ってくれるっていう件ですが、ぼくはよく考えてみると少し言い過ぎました。すみません。どうか、ヤツデさんは深く考えずに気楽でいて下さい。ヤツデさんは詩を書いてくれるのなら、ぼくはもちろんそれを採用するっていう言葉に嘘はありませんよ。そうだ。ヤツデさんはスマホの電話番号を教えてくれませんか?ぼくは『仲良しトラベル』が終わってもヤツデさんとは仲良しでいたいんです」ジェラシックは言った。

「そっか。ありがとう。ぼくはジェラシックくんと同じ気持ちだよ」ヤツデはそう言うと自分のスマホを取り出して赤外線で自分とジェラシックの連絡先を交換し合った。ジェラシックはとても満足そうである。一度は話にあったが、ヤツデには友達が少ないので、実は内心ではヤツデも大喜びをしている。

 ヤツデはちなみに小学校から大学までビャクブの他には友達と言えるほどに親しい者はいなかった。もっとも、ヤツデは誰に対してでも気軽に話しかけることは得意なので、学生時代は常に一人ぼっちだったという訳ではない。トイワホー国の国民はそもそも差別や村八分なんてことはしないのである。

 ヤツデはようするに深く付き合わずに色々な同級生と浅い関係を維持していたという訳である。ただし、ヤツデは学校を卒業してからはクリーブランド・ホテルというところでビャクブと一緒にイチハツとエノキという男性と友達になることはできた。もう一つの忘れてはならないことはカラタチもクリーブランド・ホテルで出会ったヤツデとビャクブの大切な友達の一人であるということである。

「よし。ぼくはこれでジェラシックくんの歌声が聴ける可能性はアップしたね。このことはアヤメさんも言っていたけど、ぼくはジェラシックくんの歌声を聴きたかったんだよ。ぼくは歌手のコンサートに行ったことがないから、美声はそうそう生で聴くチャンスはないんだよ」ヤツデは心からうれしそうである。

「そうですか?」ジェラシックは応じた。「ぼくとしては別に次にヤツデさんと会った時ではなくてもご要望とあれば、ぼくは歌いますよ。今はアヤメさんがいないし、時間はあまりありませんけどね。話は戻りますけれど、ヤツデさんの推理力は桁外れですね。ヤツデさんは推理小説を読んでいて『白と黒の推理』を考えたとおっしゃっていましたが、ヤツデさんにはやっぱり結末を読まなくても推理小説の犯人はわかってしまうのですか?」ジェラシックはヤツデに対して羨望のまなざしを向けている。

「うん。実際にはそういう時もあったよ。ぼくは『白と黒の推理』を考え出した時にこれをものにしようと思って躍起になって推理小説を読んでいたら、二冊くらいはどうにかこうにかして途中で結末がわかっちゃったよ。作者はもちろん工夫をしているから、ぼくは推理をしても、いくつか、結局は結末のわからなかった本もあったけどね。ただ、今はそういうことをしていないんだよ。推理小説はやっぱり娯楽のものだから、ぼくは深く考えずに最後まで騙されて大いにびっくりする方が楽しいって悟ったからね」ヤツデは言った。

「そうでしたか。なんだか、ぼくは高論を聞かせてもらった気がします。世界は広しと言えどもそういう考えを持っている人はほんのわずかなんじゃないですかね。ヤツデさんにはやっぱり推理の才能があるという訳ですね。ヤツデさんにはもちろん努力した面もあるとは思いますけどね。さてと、ぼくたちはそろそろ室中へ入りましょうか。すみません。ぼくは飲み物を飲んでいたから、外は寒いのにも関わらず、ヤツデさんはやさしいから、今までは付き合って下さっていたんですよね?ありがとうございます」ジェラシックは律儀にお礼を言った。ジェラシックは礼儀と作法をしっかりと身につけた若人なのである。

「ううん。そのくらいは大丈夫だよ」ヤツデは当然のことながら気楽に取り成した。ヤツデの言葉づかいはソフトだから、ヤツデは他人からは初対面でもよくやさしそうな人だという印象を与えることは多々ある。しかし『ごめんなさい』と『ありがとう』はジェラシックだって素直に言えるし、ジェラシックは絶対に人の悪口は言わない。ジェラシックはその上に思いやりの気持ちも持ち合わせている。ジェラシックはようするにヤツデに負けないくらいにやさしい気立てをしているのである。

 ただし、ヤツデとジェラシックには当然のことながら違うところもある。ジェラシックは滅多なことでは落ち込まない明るい性格をしているが、ヤツデはやさしすぎるあまりにちょっとしたことでも相手を不愉快にさせてしまったのではないだろうかと不安に駆られてすぐに落ち込んでしまうのである。

 やがては空き缶を指定の場所に捨てると、ジェラシックはヤツデと共に恐竜展の中に入ってトイレの前に戻ってきた。ヤツデの足元にはするとコロコロとホット・ココアの缶が転がって来た。

 ヤツデはその缶を拾い上げると缶の転がって来た方を見た。ヤツデの目の先には乳母車ベビー・カーに乗った二才の男の子がいた。そのため、ヤツデはその男の子に対して缶をカイロの代わりにするか、もしくはココアを飲むかと聞いた。男の子は飲みたいと答えたので、ヤツデはプル・タブを引いて男の子に対して缶を返して上げた。ジェラシックはちなみに手持ち無沙汰でそれを見つめていた。

 サフィニアはそうしている間に戻って来た。そのため、ジェラシックはサフィニアに対して事情を話していると、先程の男の子の母親はサフィニアと同じくトイレから戻って来て事情を把握した。

 その母親はするとヤツデに対して『親切スタンプ』を押させてくれるようにとお願いをした。ヤツデはもちろんそれを了承して素直にカードを出して先程の母親からスタンプを押してもらった。

 という訳なので、母親はそれが終わるとヤツデに対して重ねてお礼を言ってベビー・カーを押して去って行った。なお、他国民は小さい子供を一人にするなんて不用心ではないかと思うかもしれないが、トイワホー国では犯罪の発生率は世界最低を誇るので、そのことは特に心配をしなくてもいいのである。

「なるほどね。ヤツデくんはやさしいから、さぞかし『親切スタンプ』は溜まるんでしょうね。それに、ヤツデくんって話しかけやすいものね」サフィニアは評価をした。

「そうかな?」ヤツデは言った。「そんなことはないと思うけど」ヤツデは否定をした。

しかし、これは謙遜かもしれない。なぜなら、ヤツデの風貌は目つきの多少の鋭さを除くと全体的にやさしそうという表現がぴったりだからである。そのため、ヤツデはよく人に道を聞かれる。

 説明は少しばかり遅れたが、ここでは『親切スタンプ』についての説明をしておくことにする。大抵のトイワホー国の国民は『親切スタンプ』という制度のスタンプとその台紙を携行していている。もしも、トイワホー国では誰かに親切にしてもらったならば、その相手の台紙には自分のスタンプを押してあげることになっているのである。そのスタンプは10個に達するとそのシーズンに見合った景品がトイワホー国から贈呈されることになっている。例えば、今は冬だから、国民はリップ・クリームや入浴剤をもらえることができる。『親切スタンプ』はもので釣ると言ってしまうと、聞こえは悪いが、トイワホー国はようするに国民に対して『積極的に他人に対してやさしくしましょう』と呼びかけているという訳なのである。

 つまり『親切スタンプ』は『情けは人のためならず』ということわざをわかりやすく実現しているのである。さて、やがては例の母親が去ったあとにはすぐにアヤメもこの場に戻って来た。

「どうもすみませーん。お待たせしましたー。それでは早速に問題をお配りしますねー。今回はこれが終わるとレストランでのお昼ご飯なので、休戦まではもう少しですよー」アヤメはそう言いながらも問題を配っている。今回はトイレの前での出題なので、ここではトイレに関した問題が出題される。

 これは蛇足になるが、トイレには色々な別称がある。ここではそれを列挙してみるとはばかりや手洗いや便所や厠やご不浄や化粧室や雪隠や後架やトイレット・ルームやWCといった感じである。

「そうでした。ぼくは肝心なことを言い忘れていました。イクラはいくらですか?イカとゾウのケンカはいかんぞう。胃腸は快調です。ぼくはこれでもう安心です」ジェラシックはようやく落ち着きを取り戻した。

「それってもしかして10分に一回はダジャレを言わないと死んじゃう病のこと?ジェラシックくんはそんな下らないことをまだやっていたの?」サフィニアは軽い口調のまま冗談を言った。

「いや。今回ばかりは違います。先程はヤツデさんと二人で話をしていたのにも関わらず、ぼくはダジャレを言い忘れていたんです。ぼくはダジャレを求められていたのにも関わらず、どうもすみませんでした」ジェラシックは謝った。ジェラシックは妙なところでも律儀な男なのである。

「いや。ぼくは別にいいよ。ジェラシックくんはそうやってぼくのことを気づかってくれる気持ちがうれしいから、ぼくはそれで満足だよ。ああ。ぼくはもちろんダジャレにも満足したよ」ヤツデは付け足した。

 今はなにはともあれ問題を解く前だが、ヤツデたちの一行はとてもリラックスしている。ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人のムードは良好であることには早い内から見巧者のアヤメには気づいていたので、アヤメはとても助かっている。ジェラシックには特にムード・メーカーの素質があるのである。

 ちょっとした気づかいは人と人との精神的な距離をぐっと近くすることがあるが、今のヤツデたちの一行はまさしくその積み重ねによって高速で親しさを増して行っている。

 話は戻すことにする。ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人はアヤメから問題を受け取り次第に文章を読み始めた。ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人は今までとは打って変わって今は真剣な態度で事に挑んでいる。ここでは改めて言っておくと、今回の第6問は一番に難易度が低い問題なのではないだろうかとアヤメは個人的には思っている。ただし、そのことは口にしてしまうと皆に対して余計なプレッシャーを与えかねないので、アヤメはそのことを黙っている。それは確かに特にサフィニアにとっては正解である。という訳なので、第6問のタイトルは『消失の謎』であり、以下はその問題文である。


朝は小雨が降っていたが、今は雨も止んで雲間からはお日様が顔を出し始めている。天気予報では晴れ時々曇りとなっていたが、外は段々と明るくなって来ているので、傘はお役ごめんかもしれない。

それでも、この恐竜展のお客さんの多くの人たちは傘を手にしている。それもそのはずである。現在の時刻は昼の12時50分だが、上記のとおり、今日はずっと朝から雨が降っていたからである。

ここにはムースという27歳の女性がいる。ムースは晴れの日も雨の日も大好きである。晴れの日は割と好きな人はいるかもしれない。ムースはやはり爽やかな気持ちになれるので、晴れの日は好きである。

また、理由の一つは洗濯物がよく乾くからということもある。上述のとおり、ムースはその一方で雨の日も好きである。その理由は雨の日は雨の日ならではのオシャレができるからである。例えば、雨の日にはお気に入りのレイン・コートを着たりブーツを履いたりできるからである。

ムースはその上に傘もオシャレなものを持っているので、今日のムースは恐竜展にハート・マークがキュートなアンブレラを持参している。また、ムースは肩にショルダー・バッグもかけている。

つまり、今日は自由にオシャレを楽しめているので、ムースは上機嫌である。ムースはちなみに一人旅が大好きなので、今回は一人でこの恐竜展にやって来たのである。という訳なので、ムースはお昼ご飯の前にお手洗いに寄ることにした。今日は平日で雨の日だからか、女子トイレは混雑していなかった。

とはいっても、待っている人は確かにいなかったが、個室は全て使用中だったので、少しの間だけ、ムースは順番を待つことになった。ムースの気は長い方である。

やがては一番に奥の個室のドアが開いて人が出てきたので、ムースはその空いた個室へと向かった。その後はムースが用をすませるとそこにはケティリスという名の順番を待っている女性がいた。

そのため、ケティリスはムースと入れ違いになって今までのムースが利用をしていた個室へとゆっくりとした足取りで入って行った。なお、ケティリスは65歳のとてもやさしそうな女性である。

 それはともかくとして手を洗って上半身の写るミラーで身なりを整えてからトイレを出ようとすると、ムースはあることに気がついた。ムースは雨傘を個室に忘れてきてしまったのである。ムースは確かにこのトイレに入って個室に入った時点でも傘は持っていたので、それは間違のない事実である。

 ケティリスは個室から出てきたので、ムースは奥の個室に戻って傘を取りに行った。しかし、ムースはそこで驚くことになった。ムースの傘はなんとその個室の中にはどこを探しても見当たらなかったのである。ムースは当然のことながら自分の使っていた個室の場所を間違っている訳ではない。

しかし、ムースはここに来てある一つの可能性に気がついた。ムースはひょっとしたら先程の人のよさそうな女性(ムースの次に個室を利用したケテリィス)が忘れ物として係の人に申し出るために自分の傘を持って行ってしまったのではないだろうかと考えたのである。

ケティリスはムースの傘を盗んだということだって可能性としてはもちろん考えられるが、なにしろ、ここはトイワホー国なので、その可能性は低いだろうとムースは推測をした。

しかし、それには問題もある。ムースはケティリスと擦れ違った時にはムースから見てケティリスはムースの傘を持っているようには見えなかったのである。また、ムースの傘は置き傘ではないので、ケティリスはムースの傘を隠し持っていたにしては大きすぎるので、そう考えるには些かの無理があるのである。

ここではそもそもよく考えてみると、ケティリスは泥棒でもない限りはムースの傘をこそこそと隠し持って行く意味はないのである。という訳なので、現在はムースにとっては謎だらけである。

 ムースはなにはともあれ問題の個室を出るとすぐにミラーのところへと取って返した。ケティリスはすると幸いにもまだ身なりを整えていた。そのため、ケティリスはそこで立ち止まっていた。

 ケテリィスは確かに傘を持っていたが、その傘はムースのものとは違っていた。ケティリスの傘は黒色なのだが、ムースの傘はピンク色をしているので、その違いは一目瞭然である。

 しかし、ムースは情報の収集をするためにケティリスに対して話しかけて自分の傘がなくなってしまったのだが、ケティリスには心当たりはないだろうかと聞いた。ケティリスはすると意外なことを言った。

ケティリスはなんと『自分はその傘のある場所を知っている』と言ったのである。ムースはケティリスの言ったところを確認してみると、ムースの傘は確かにその場所にあった。

という訳なので、この騒動は一件落着である。ムースはケティリスに対して『親切スタンプ』を押させてほしいと申し出たら、ケティリスは『大したことではない』と言いながらも素直にその好意に甘えた。

それではムースの傘は今までどこへ消失していたのだろうか?ムースにはわからずにケティリスには謎を解くことができたのはなぜなのだろうか?ただし、これは言うまでもないかもしれないが『ムースは頭が悪いが、ケティリスの方は頭がいいから』というのは答えではない。


 アヤメは『この問題は一番に簡単だ』と思っているが、答えは一度だけ読んだだけではヤツデにもわからなかった。実のところ、ヤツデはあまり臨機応変な対応は得意ではないのである。そのため、ヤツデは長考してこそ自分の真価はようやく発揮されるという面倒なタイプの人間なのである。

 一方のサフィニアは四苦八苦をしている。サフィニアはどうにかこうにかしてインスピレーションが訪れないかと奮闘をしているのである。そのため、サフィニアはタイム・アップになってもアヤメに対して考える時間の延長を申し出た。ヤツデとジェラシックにはそれについて当然のことながら特に異論はなかった。

 答えはわかっているので、ジェラシックは余裕の表情である。ジェラシックのここまでの勝率は2割5分だが、ジェラシックはこの問題に正解をすると再び5割に返り咲くので、ジェラシックのことはバカにしてはいけない。時間はそうこうしている間にも過ぎ去って行ってしまうが、アヤメは見知らぬ中年の男性の話し相手になっているので、サフィニアには規定の時間よりも長く考える時間ができた。ヤツデはするとサフィニアに向かって問題のヒントを呟いた。ヤツデはジェラシックと同じくすでに問題を解き終わっていたのである。

ヤツデは苦しんでいるサフィニアを見ていられなくなってしまったのである。やがてはアヤメに対して立ち話をさせてしまったことを詫びてヤツデとサフィニアとジェラシックの三人に対してエールを送ると、先程の男性は立ち去って行った。ヤツデたちの一行はなにをしているのかと気になったので、今の男性はアヤメに対して説明をしてもらっていたのである。アヤメはもちろん嫌がったりしていない。

「はーい。私はお待たせしてしまってどうもすみませーん。それでは問題を解けた方は挙手をして下さいますかー?」アヤメは聞いた。挙手したのはすると三人だった。つまり、ヤツデとジェラシックはもちろんのことだが、サフィニアはなんとかして土壇場で正解に辿り着くことができたのである。という訳なので、今度は解答者と説明をする人の割り振りをすることになった。

「それでは全員の方が正解に辿り着いた場合は一人の方には白紙をお渡ししますので、その方にはその用紙に答えを書いておいてもらいまーす。私は最後にそれを確認しますので、その答えはあっていれば、その時はもちろん正解としてのポイントに換算させてもらいまーす。まず、それでは解答を紙に書いて下さるという方はいらっしゃいますかー?」アヤメは聞いた。ある一人の人物はするとすぐに反応をした。

「はい。ぼくはその役目をやりたいです」ヤツデは立候補をした。いつもは緩慢なヤツデだが、この時ばかりは俊敏な反応を見せた。今まではそつなくこなしてきているように見えるが、ヤツデはやはり人前でしゃべることが得意ではないので、発表の役目は避けたかったのである。

 異論はサフィニアとジェラシックからも出なかったので、ヤツデはその結果としてアヤメによってファイルから取り出された白紙を受け取って自分のボール・ペンで答えを書き始めた。

「私は解答をしたいです。おしゃべりは得意だけど、私は論理的な説明って得意ではないんです。だから、ジェラシックくんは解説をしてくれない?」サフィニアはお願いをした。

「ぼくはそれでも構いませんよ。合点承知の助です。それにしても『YSJ』はここに来て本領を発揮し始めましたね。『YSJ』もはや行け行けですね」ジェラシックはとても愉快そうにしている。

「答えはまだあっているかはわからないけどね。それじゃあ、私は答えを言わせてもらいます。傘はずっと持っていたのにも関わらず、ムースさんはそのことに気づかなかっただけだったんです。だから、消失していたと思っていたのはムースさんの勘違いだったんです。あっていますか?」サフィニアは急き込んで聞いた。

 実のところ、サフィニアは答えがわかった時から答えを口にしたくてうずうずしていたのである。サフィニアはちなみにヤツデの筆記が完了したのを見届けてから解答を口にしたのである。

それでも、話には割って入る形になってしまったが、ヤツデは不正を行わないようにするためにサフィニアが言い終わるとすぐにアヤメに対して解答を記した紙を手渡しておいた。

「はーい。ヤツデさんとサフィニアさんは解答して下さってありがとうございまーす。サフィニアさんの答えはもちろん正解ですよー。それでは続けてジェラシックくんには解答をお願いしてもいいですかー?」アヤメは促した。サフィニアはそのアヤメの声を聞きながらも正解をできたことがうれしいので、内心では大喜びをしている。アヤメはちなみになぜ一番にこの問題『消失の謎』が簡単だと思ったのか、その理由はすでに判明している。今回の第6問目は知らず知らずの内にものを持っていたという点において演歌歌手のエリカが出てきた第一問目と類似しているから、アヤメは答えやすいと思ったのである。

ここではもう少し具体的にいうと、第一問目ではエリカが無意識の内に雑誌を持っていたが、本問ではムースが無意識の内に傘を持っていたのである。本問はそういう点ではサービス問題だったのである。

「次はいよいよぼくの出番ですか。それでは満を持してお話をさせてもらうとしましょう。大切なことはムースさんがオシャレ好きだということです。この事実はあとになって大きな意味を持つことになって来ます。それではムースさんの動きについて順を追って考えて行こうと思います。ムースさんの傘はムースさんが個室に入った時には確かにムースさんの手元にありました。ムースさんの傘はムースさんが個室を出る時には消失していました。となると、傘は個室のどこかしらに隠されていると考えるのが妥当です。しかし、それは目くらましなので、本当は気にしてはいけません。なぜなら、もしも、ムースさんの傘は個室にあったのだとしたなら、その時はケティリスさんが見つけていたはずだからです。その後のケティリスさんはムースさんの傘の場所を言い当てているので、つまりは傘を見つけていれば、ケティリスさんはムースさんに対して声をかけていたことは間違いないはずです。となると、傘はどこへ行ったのかともう考えられる可能性は一つしかありません。ムースさんは自分で持っているんです。それでは自分で持っているのにも関わらず、ムースさんはそのことには気づかない可能性はどうでしょう?これはありえます。とはいっても、第一問目とは違ってムースさんは傘を脇に挟んでいたという可能性はないと思います。ムースさんはエリカさんとは違ってぼんやりとした性格だとは問題文に書かれていませんからね。だから、ぼくは最初に申し上げたとおりにここではムースさんの持ち物が問題になってくるんです。ムースさんの持ち物は傘だけではありません。ムースさんはもう一つショルダー・バッグも持っています。つまり、ムースさんは傘をショルダー・バッグに引っかけたまま歩いていてそのことに気づかなかったんです。ミラーは姿見ではなくて上半身しか写らないという文章もそのことを暗示しているのではないかと思います。もしも、鏡は姿見なら、ムースさんは鏡を見た時点で気づいているはずですからね。そう考えると、ムースさんは気づかずにケティリスさんには気づいたことにも頷けます。ぼくの説明はどうですか?」ジェラシックは聞いた。サフィニアはジェラックの説明に対して感心をしている。

「はーい。ジェラシックくんは大変によくできましたー。ジェラシックくんの説明は満点でしたよー。それではヤツデさんの解答も確認をさせてもらいますねー」アヤメはそう言うとヤツデの解答用紙に目をとおし始めた。ただし、サフィニアはその必要のないことを十分に知っている。

ヤツデはサフィニアの熟考中にヒントを出してくれたが、答えはあれを聞くとヤツデにもわかっているということは歴然としているのである。ヤツデはサフィニアに対して『ムースさんの傘はどこにあるのかは別にケティリスさんではなくても答えを言い当てることはできるんだよ』と言ったのである。サフィニアは粘り強く問題を読み返し続けてついにショルダー・バッグに着目するに至ったのである。ヒントは自分で出したとはいっても、一応はサフィニアも正解をできたので、ヤツデは満足をしている。

「はーい」アヤメは言った。「ヤツデさんは予想していたとおりにやはりまたもや正解でーす。つまり『YSJ』の皆さんは全員が正解ということになりましたねー。おめでとうございまーす。それではお昼ご飯にしましょうねー。皆さんは後半もこの調子でがんばって下さーい」アヤメはそう言うとレストランに向けてヤツデとサフィニアとジェラシックの三人を引き連れて歩き出した。ジェラシックは食事が待ち遠しそうである。

 ここまでのヤツデの成績は圧巻の6問全問正解である。しかし、ヤツデはそのことを思い返してみるとうまく行きすぎていて少し怖いくらいだなと思っている。ヤツデは控えめな性格なのである。

 後半戦ではこのミステリー・ツアーの問題の全問正解が期待されるが、ヤツデの性格ははいかにも謙虚なので、ヤツデはそのことを意識しなさそうである。ところが、今回の場合はなんと違っている。

 ヤツデは意外なことにも貪欲になってこのミステリー・ツアーの問題を完全制覇しようと思っている。もっとも、その理由はヤツデの自身の私的なものではない。

もしも、ヤツデはがんばると、自分は『YSJ』というチームに貢献できるからである。ヤツデはもちろんだからといってジェラシックとサフィニアに対しては期待をしていない訳ではない。

 ヤツデは子供の頃からいつも孤立してばっかりなので、チーム・メートや仲間はあまりいた試しはない。ヤツデはそういう経緯もあって今回は『YSJ』というチームに対して貢献をしたいと思っているのである。それこそはヤツデが全問正解を狙う理由である。とはいっても、ヤツデは自分ばっかりが正解しているとジェラシックとサフィニアは不愉快になるのではないだろうかとも考えたが、この話はトイワホー国でなら、それは間違いなく杞憂である。ヤツデはそもそもチームに貢献をしたいなんて言えば、ジェラシックとサフィニアからは『ヤツデはもう十分に貢献をしているではないか』と主張されることは必須である。

「私はジェラシックくんがなにを食べるかを当ててあげようか?それはズバリと言うとカレーでしょう。カレーはかれーって言うでしょう。次のジェラシックくんのダジャレは絶対にこれでしょう?ねえ。そこのところはどうなの?」サフィニアはレストランに向かう途中で詰め寄った。サフィニアはあまりにも下らない話をしているので、アヤメは笑いを堪えることに必死である。ヤツデは馬耳東風である。

「ふっふっふ」ジェラシックは笑んだ。「サフィニアさんはバカにしちゃいけませんよ。この世には食べ物に関連するダジャレなんてものは他にもあるんですよ。レタスは取れたっす。君はロースをろー少しちょうだいな。これはサラダの皿だ。どうですか?ぼくの守備範囲は中々のものでしょう?」ジェラシックはしたり顔である。アヤメは音を立てずに拍手をしている。ジェラシックは一層に得意げになった。

「ジェラシックくんは確かによくもまあそんなにもポンポンとダジャレが出てくるものね。それは感心するけど、ダジャレはあんまりおもしろくないみたい。ジェラシックくんはアヤメさんだってお義理で拍手をしてくれていることに気づかないの?」サフィニアは切り捨てた。ジェラシックのダジャレはまさしく一刀両断をされた形だが、ジェラシックは当然のことながら落ち込まなかった。

しかし、サフィニアはもの怖じせずにものを言うから、ヤツデはそれを聞いていて『サフィニアは怖い人だな』と思った。とはいっても、サフィニアは言っても大丈夫そうな人にしか強いことは言わないのである。

 その後のヤツデたちの一行はレストランの席についてメニューを見て食べ物を注文した。ヤツデはマヨネーズとコーンのピザを注文した。ただし、ピザとはいっても、それは大きなものではなくてあくまでも一人前のピザである。昔はよく祖母とピザを食べたので、ヤツデはピザが好きな方なのである。

 ジェラシックはカレーではなくて唐揚げとパンなどが乗ったチキン・プレートというものを頼んで案の定『チキンはちきんと食べましょう』というダジャレを連発した。

「あの、ぼくは食事が来るまで本を読んでいたら、ダメですか?」ヤツデはアヤメに対して聞いた。

「それは別にいいですよー。ヤツデさんは本が大好きなんですものねー」アヤメは理解を示してくれた。ジェラシックとサフィニアは当然のことながらなにも言わずにそのことを不快にも思わなかった。

「ありがとうございます。ぼくは勝手なことを言ってごめんなさい」ヤツデはそう言うと持ってきていた文庫本を読み始めた。ヤツデは読書をしたいと申し出た理由には活字中毒だからということもある。

 しかし、いつもは一人でいることが多いので、年中は他の人とおしゃべりをしていることになれていないので、ヤツデはなんとなく落ち着かなくなってしまったからというのも理由の一つである。

 アヤメとサフィニアとジェラシックの三人はヤツデの今までの行動のパターンから考えてそのことを察してくれている。ただし、自分は本当に勝手なことを言ってしまったなとヤツデは後悔をしている。

 アヤメとサフィニアとジェラシックの三人はそれでもやはりヤツデに対しては不快に思わずに料理が来る間もおしゃべりをしている。そのため、ヤツデはそれを受けると少し気持ちが楽になった。

しかしながら、ヤツデはそもそも読書をしていなくても会話の輪には入れたかどうかは怪しいものである。ヤツデは実を言うとあまり三人以上で話すのを得意としないのである。

それでも、ヤツデの場合は阿吽の呼吸で会話のテンポを作ってくれる親友のビャクブがそばにいたり、あるいは他の人が聞き役に徹してくれたりすると少しは楽になる。しかしながら、今日はそうではないので、今まではヤツデとしては必死に努力をして会話に入れてもらっていたのである。

ただし、ヤツデは一人になるとヤツデに対して『愛の伝道師』であるアヤメは話しかけてくれるシーンもあったので、それはヤツデが勝手に思い込んでいるだけなのかもしれない。

とはいっても、ヤツデはコニャック村という閑疎な村で以前に話をする機会があったと言ったが、あの時はヤツデがイニシアティブを握っていたから、ヤツデとしてはまだましな方だったのである。しかし、ヤツデはだからといって大勢の前で話をすることが得意だという訳ではないのである。

今のアヤメとサフィニアとジェラシックの三人の話題は料理のことから恐竜の絶滅へと移っている。天地での恐竜の絶滅の経過は地球のそれと同じである。ここでは少しそのことを紹介することにする。

まずは直径10メートルの小天体が秒速20キロで地球や天地に衝突して小天体や地球の表面の水蒸気が巻き上げられてそういったものが地球や天地を覆うことになった。

その後は太陽光線の減少によって気温が低下してしまって恐竜を含めた生き物の大量絶滅に繋がったのである。しかし、中にはそんな悪い環境でも生き残った生物たちはいた。第一はワニやカメやトカゲやヘビといった爬虫類である。恒温動物よりはエサが数分の一ですんだので、変温動物は無事だったのである。第二は体の小さい生き物である。生存の理由はやはり体の大きい動物よりもエサが少なくてすんだからである。

ヤツデはちなみにこの日のために恐竜の本を読むまで恐竜が絶滅した理由は恐竜に隕石が直接衝突したからだとばかり思っていた。ヤツデは意外と知らないことが多いのである。しかし、ヤツデはそういうことについて自分の無知を認めて恥ずかしがったりはしないタイプの人間なのである。そのため、アヤメとサフィニアとジェラシックの三人に対しては口を挟んでもよかったのだが、ヤツデは読書を始めてしまった以上は口出しをすることは罪に思えたので、ここでは仕方なく黙っていることにした。そうはいっても、ヤツデは口を挟んだなら、アヤメとサフィニアとジェラシックの三人はそのことを罪だと思う訳もなくその反対で大歓迎することは間違のない事実である。つまり、ヤツデは疑心暗鬼に囚われているのである。

 ヤツデの得意とするところは悪い方へ悪い方へと勝手に考えを持って行ってしまうとすることでもあってヤツデのよくないところでもある。つまり、ヤツデはセリフだけを聞くと明るくても、内面はこんなことを言ったら、自分は嫌われるのではないか、あるいはこんなことをしたら、自分は怒られるのではないかといった風にして細かいことでも一々と考えながら行動を取っているのである。

 ただし、ヤツデは第5問目が終わったあとで単独行動を取ろうとしていたことからもわかるとおりに色々と考えて行動をしていてもどこかしら他の人とずれていることがよくある。それでも、結局のところはよしとしているので、ヤツデはようするにゴーイング・マイ・ウェイなのである。

 やがてはヤツデの注文した料理が来ると、宣言のとおり、ヤツデは読書を止めた。ヤツデはその際にはジェラシックにあやかってダジャレの苦心の作を完成させた。実は読書をしながらも、ヤツデはダジャレを考えていたのである。それこそは『つきばなをかんで席に着き場慣れする』というものである。ヤツデはティッシュを取り出して洟をかんでいる女性を見かけたので、この一作は考え出されたものである。

しかし、つきばなは鼻水だとわからないと、これは意味がないダジャレである。仮に、聞いた人は百歩を譲って普段から電子辞書を持ち歩いていたり語彙力の豊富な人だったりして意味がわかったとしても全くおもしろくはなかったので、ヤツデは自分で作っておきながら口に出すのもおこがましいと思ってこのダジャレをトップ・シークレットにしておいた。それはさておいてヤツデが読書を止めると、ジェラシックは途端にヤツデに対してレイト・ショーに行ったことはあるかどうかを聞いてきた。ヤツデは『行ったことはない』と答えた。ただし、話には続きがあった。ジェラシックは一度だけレイト・ショーに行ったことがあってその時にはなんと『客はジェラシックの一人だけだった』と明かしたのである。つまり、その時の映画はジェラシックのためだけに上映されたという訳である。ヤツデはその話を受けるとおもしろく思った。

ヤツデはそれと同時にやっぱり殻に籠もっていたことを申し訳なく思った。しかし、アヤメとサフィニアとジェラシックの三人はヤツデに対してそのことを忘れさせてくれるくらいに食事中もよく話しかけてきてくれた。ヤツデはそれについてうれしく思ってそればかりか、内心では密かに感動をしていた。

ここでは少し時計の針を進めるが、その後はドリアを食べ終わると、アヤメはこれからの日程の最終確認をしていた。ジェラシックは『舌をやけどした』というダジャレを言いながらも食事を終えている。

サフィニアはマグロ丼を食べているし、ヤツデはまだ食事中だったが、ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人はおしゃべりをしていた。しかし、ヤツデは頃合いを見計らって話の輪から抜け出した。

「最近のアヤメさんにはなにかしらのいいことはありましたか?」ヤツデは向かい側の席にいるアヤメに対して質問をした。とはいっても、アヤメは別にうれしそうな顔をしていた訳ではない。

 先程のジェラシックはバイクを買ったという話題を口にしていたので、ヤツデはその関連として聞いたのである。しかしながら、実はヤツデにはそれ以外の意図もある。

「え?」アヤメは虚を突かれた。「そうですねー。ええと、私のよかったことはケーキ屋でケーキを買ったことがそうかもしれませんねー。私はショート・ケーキとレア・チーズ・ケーキが大好きなんですよー。ヤツデさんの方にはなにかいいことはありましたかー?」アヤメは見ていた書類から顔を上げると聞き返した。

「はい」ヤツデは首肯をした。「ですが、ぼくの場合はすごく下らないことかもしれません。ぼくは仕事に行く時に最寄り駅まで自転車で行っているのですが、つい先日は三つの信号の全部が青だったんです。それってすごいですよね?いや。それくらいは別にすごくないか。ごめんなさい」ヤツデは平身低頭をしている。

「うふふ」アヤメは笑んだ。「ヤツデさんはすっごく謙虚ですねー。私はそんなことないと思いますよー。信号は全て青なら、その日は朝から気分がよくなりますものねー。ヤツデさんはそういった些細なことでもハッピーになれるなら、私はヤツデさんのことを尊敬しますよー。私は推理力についてもヤツデさんのことを尊敬していますけどねー」アヤメは言った。ヤツデは抜け目なくアヤメの表情を伺っている。

「ありがとうございます」ヤツデはお礼を言った。「ぼくもアヤメさんのことは尊敬していますよ。ぼくにはなにしろ人を先導するなんていう芸当はできませんからね。ぼくは今回の旅を楽しく過ごせているのも一重にアヤメさんのおかげです」ヤツデは言った。ジェラシックとサフィニアはその間も二人でしゃべっている。

「そんなことはありませんよー。私は皆さんの協力があったから、ここまではなんとかして私でもやってこられたんだと思いますよー。ですが、私はヤツデさんが楽しいと感じてくれていたことをすっごくうれしく思いますよー」アヤメは本懐を口にした。アヤメはサフィニアと同じく割とざっくばらんなのである。

「そうですか?」ヤツデは言った。「それはよかったです。ぼくはこれからも旅を楽しみたいと思います。ああ、そう言えば、アヤメさんにはやることがあったんでしたね。ぼくはアヤメさんの邪魔をしちゃってすみませんでした」ヤツデは謝った。ヤツデは必要な情報を少しは引き出すことができた。

「いいえー。大丈夫ですよー」アヤメは言った。ヤツデはせっかく気を使ってくれたので、アヤメは再び自分の仕事に没頭させてもらうことにした。アヤメの仕事とはこれからの日程の確認の仕事である。

 ヤツデはちょうどここでピザを完食したが、今回は本を読もうとはしなかった。ヤツデには考えたいことがあったからである。というよりは考えるべきことである。しかし、それはミステリー・ツアーとは関わりのないことである。ヤツデは少しの間だけ頬杖をついて目を閉じて思索に耽っていたが、現時点ではもう一つ決め手が欠けているので、推理は完成形にすることはできなかった。そのため、ヤツデは考えを中止した。

 その後は今まで恐竜展を回ったことによるメモしたものを見返していたら、ヤツデはサフィニアによってどんなことを書いたのかを聞かれた。そのため、ヤツデは丁寧に答えてあげることにした。

文字は殴り書きだったので、ヤツデは自分で書いておきながら少しばかり解説をするのにも手間取ってしまった。しかし、小学生の時のヤツデは実を言うと習字を習っていたこともある。

それはともかくとしてレストランを出るまでヤツデによってジェラシックとサフィニアは恐竜展のここまでの復習をすることになった。そのため、ヤツデは孤立をせずにすんだ。

恐竜展の入館料はトイワホー国が支払ってくれるが、昼食代は残念ながら自腹である。そのため、ヤツデたちの一行は昼食代を個別で清算することになった。


 その後のヤツデたちの一行は再び恐竜展を見て回ることになった。アヤメはここでもゴールまで自由行動でも構わないと言ったが、サフィニアは皆と一緒がいいと主張をしたので、その案はとおり、ヤツデたちの一行は相も変わらずに団体行動を続けることになった。ヤツデは別にそれでも構わなかった。ヤツデは孤立しがちだが、人との交流はなんだかんだ言っても嫌いではないのである。つまり、ヤツデは一人でいたいと言う想いと他の人と一緒にいたいと言う想いの相反する感情を抱えながらいつも生きているのである。

 恐竜展の後半は恐竜の種類の個々の説明と紹介である。そのため、ここでは装盾類について例を上げておくことにする。装盾類はジェラシックがカッコいいと思った種類の恐竜である。装盾類は骨の鎧や棘が体を覆っていることが特徴でスケリドサウルス類や剣竜や鎧竜がそうである。まず、スケリドサウルス類は装盾類の中では一番に原始的なグループでほっそりとした体形をしていて全身をくまなく鎧に覆われているところが特徴である。次に、剣竜は背骨がとても高い独特な形をしていることと棘のついた尾を自由に振り回せたことと背中に大きな骨の板が並んでいたことが大きな特徴として上げることができる。最後に、鎧竜は尾の先についた棍棒が特徴的なアンキロサウルス類と首を初めとした体のあちこちにある棘が特徴的なノドサウルス類の二つに分類することができる。また、装盾類は植物食だったので、鎧竜のアンキロサウルス類の棍棒は肉食の恐竜から身を守るためのものであって大人になるとようやく大きくなるのである。

「実は恐竜展って三回目くらいなんですど、それまでは全て小さい頃だったから、私はこんなにも真剣になって恐竜のことを知ろうと思ったことは初めてかもしれません。でも、私はいつまでここで覚えたことを覚えていられるかは少し心配です。私はそういう意味ではヤツデくんを見習わないといけませんよね。それでも、実際にはミステリー・ツアーの問題と恐竜の問題と恐竜についてのメモの三刀流だから、ヤツデくんは少し大変そう。ヤツデくんはきっとがんばり屋さんなんですね?でも、ここからはゴールまでミステリー・ツアーの問題が出題されないっていうのは恐竜展の内容に集中できるからいいですよね?」サフィニアはアヤメに対して周囲に気を配ることを忘れずに小声を出しながら問いかけた。アヤメはそれに応じた。

「そうですねー。サフィニアさんの意見は貴重なので、そのことは上司にも伝えさせてもらいますねー。ですが、私達はゴールまで行ったら、問題は二問も連続で出題されるので、それはご了承下さーい。それから、問題は全部で10問なので、残りはあと4問あるということになりますねー」アヤメは小声で言った。

「そうですね。私は皆と一緒にがんばります。今のところ、私は二問しか正解していないので、あと、一問くらいは正解したいなって思っています。そう言えば、私達は恐竜展を出たら、ジェラシックくんは当然のことながら歌を歌ってくれるよね?それは約束だもんね?」サフィニアは小声ながらも口調を強めた。

「いや。ぼくはそんな約束をした覚えはありませんが、それくらいは別にいいですよ。ぼくはヤツデさんにもそう申し上げましたし、なによりも、歌うことは好きですからね。ですが、サフィニアさんはくれぐれもぼくの歌声でうたた寝しないように注意をして下さい。一応は今のもダジャレですよ。サフィニアさんはちゃんとわかりましたか?」ジェラシックは聞いた。ジェラシックはダジャレをいつでも言えるのである。

「わかったけど、おもしろくはない。でも、ジェラシックくんの歌は早く聞きたいな」サフィニアは素直である。ヤツデはその間もがんばって恐竜の問題を解いたりメモを取ったりしてなにかと忙しそうである。しかしながら、忙しいのは嫌いなので、少しはヤツデも手を抜いている。先程のサフィニアはジェラシックに対して腹積もりを明かしたが、サフィニアは実を言うとヤツデに対してもある腹積もりを持っている。

ところが、それは今の楽しい気分に水を差すような内容なので、サフィニアはそれについてできるだけ考えないようにと努力をしている。今のところのサフィニアはなんにせよそのおかげで恐竜展を楽しむことはできている。ジェラシックは自分でも言っていたとおりにこれからストリート・パフォーマンスをすることを約束させられても全く同様をしていないことは明確である。それは自分の歌声に自信があるというのもあるが、ジェラシックはヤツデとは違って人前でなにかを発表することが苦にならないタイプの人間なのである。そのため、ジェラシックはサフィニアと同じく恐竜展を心から堪能することができている。

それから、今はなにも仕事がないので、一度は下見にきているとはいっても、アヤメはヤツデとサフィニアとジェラシックの三人のペースに合わせて展示品を見て恐竜について一緒に学習をしている。ここから先は上記のとおり、ミステリー・ツアーの問題は出題されないので、時間は早送りするが、一応はその前にまたもやアヤメとヤツデとサフィニアとジェラシックの4人が学んだことの一例を上げておくことにする。

まず、イグアノドン類はカンプトサウルス科とイグアノドン科にわかれる。カンプトサウルス科は口先の尖った小さめの頭と小さい前足と4本足の指が特徴である。一方のイグアノドン科は特徴として長い顎とスパイクのような親指がある前足と三本指の後ろ足といったものを上げることができる。カンプトサウルス科とイグアノドン科の恐竜はイグアノドン類→ハドロサウロイド類→ハドロサウルス類といった順番で進化して行くことになる。また、ハドロサウロイド類にはデジタル・バッテリーという何百個もの歯があった。ヤツデはそれを見ると相当に強烈な印象を受けたので、そのことはすぐにメモをしたくらいである。

説明は最後になるが、ハドロサウルス類は四足歩行をしていた。ハドロサウルス類にはサウロロフスという恐竜も含まれている。そのサウロロフスの頭頂部の突起は種の識別などの役割があったと考えられている。

恐竜展の内容の話はこれにておしまいである。ヤツデたちの一行は恐竜展を見終わってゴールまでやって来た。ゴールでは初めに配布をしていた恐竜に関する問題を回収していたので、ヤツデは係りの女性に対してその紙を提出することにした。ヤツデはその結果として一問だけ間違っていた。

しかし、係の人はそんなヤツデに対してサービスをしてくれた。つまり、係の人はヤツデの答えを全問正解と見なして恐竜の絵の入ったファイルをヤツデに対してプレゼントしてくれたのである。そのため、ヤツデは係の人に対して意を表して素直にそのことを喜んだ。しかし、アヤメはそのやり取りが終わったあともまだ恐竜展を出ようとはしなかった。ヤツデたちの一行は少し先程の答え合わせをするブースから戻ると、そこにはスペースがあったので、アヤメはヤツデとサフィニアとジェラシックの三人に対してそこに集まってくれるようにと催促をした。つまり、ヤツデとサフィニアとジェラシックはここで問題を解くという訳である。

「はーい」アヤメは呼びかけた。「それではこれから私はミステリー・ツアーの第7問目の問題をお配りしまーす。手順はもう皆さんも覚えてしまいましたよねー?手順は今回も今までのとおりでお願いしまーす」アヤメはそう言うと問題用紙を配布し始めた。まず、ヤツデはそれを最初に受け取ることになった。

「なんか、私は緊張をしてきた。私は別に私のことで緊張しているんじゃなくてそろそろヤツデくんのパーフェクトが見えてきたからなの。私はヤツデくんがミスをしないかどうかとすごく心配なの。ヤツデくんは私の分までがんばってね。私は頼んだからね」サフィニアは必死になって訴えかけた。

「うん。ぼくはがんばるけど、サフィニアはまるで生死をさまよっているみたいで少し大げさだね。大丈夫だよ。ぼくも緊張はしているけど、やることは今までと変わらないものね。例え、ぼくは倒れても『SYJ』の命運に関して言えば、ジェラシックくんはなんとかしてくれるよ」ヤツデは言った。

「責任転嫁のお鉢はいよいよぼくにまで回ってきましたね。これは最後まで取っておこうと思っていたのですが、ぼくはここで使っちゃいましょう」ジェラシックはすると次のようなダジャレを披露した。


ヤツデさんはやつですか?

アヤメさんにあやめれ

朝 フィーバーのサフィ 婆


「どうですか?ダジャレはおもしろくて心が和んだから、緊張は解れましたか?」ジェラシックは聞いた。このダジャレはずっとジェラシックが温存していたものなのである。

「うん。そうだね。ありがとう」ヤツデは素直にお礼を言った。ヤツデはやはりやさしいのである。

 しかし、どちらかと言うと、この場は和むというよりも寒くなってしまったような感じは否めない。サフィニアは特に『今のダジャレは今までのジェラシックが口にしてきたダジャレの中で一番におもしろくないダジャレなのではないか』と思っている。ただし、ヤツデだけは本気で今のダジャレで気を落ち着けることに成功をしている。ヤツデはダジャレを神聖視しているし、なによりも、ジェラシックの気持ちは本当にうれしかったのである。ジェラシックはサフィニアとアヤメが寒くなっている中でも一人で大きな仕事をやって退けたと思って悦に入って気分よくミステリー・ツアーの問題に挑戦しようと思っている。アヤメは問題を配り終わったので、ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人はいよいよ全員が第7問目の問題を読み始めることになった。今回の問題のタイトルは『白紙の謎』である。以下はその問題文である。


 ティアラは小学校の5年生の女の子である。そのティアラはお父さんとお母さんのことが大好きである。なぜなら、ティアラの両親は折に触れてティアラに対してプレゼントをしてくれるからである。

 ティアラの両親はティアラがおつかいに行った時や学校のテストでいい点を取った時やティアラが『親切スタンプ』を押してもらった時などにご褒美として本の栞やローファーやスジュール帳といったものを買ってくれるのである。ティアラはそのことがすごくうれしいのである。

 時にはフライド・チキンやオーガニックの食品といった食べ物の場合もあるが、ティアラのお父さんはある時には鉄アレイをくれたので、ティアラは少し戸惑ってしまうということもあった。

 ティアラのお父さんとお母さんはそういった感じで色んなものをティアラに対して色々なものを買い与えてくれるが、ティアラはその代わりとして一度も両親からおこづかいというものを貰ったことはない。

 そのため、ティアラには親戚から貰うお年玉しか基本的には自由に使えるお金はないということになってしまうが、ティアラの性格は素直なので、ティアラは十分にそれで満足をしている。

 ティアラは自由にお金を使えないことが多くてもお母さんのお買い物について行くことは大好きである。最近のティアラのお気に入りは特に洋服屋さんと文房具屋さんである。ティアラは洋服屋では色々な服を試着することが楽しくて文房具屋では好きなキャラクターのペンや下敷きを探したり珍しい定規や分度器を探したりすることが好きなのである。ティアラは両親からプレゼントをもらう時にはその時までプレゼントがなんなのかは知らされていない場合もあるが、時には『今度のご褒美にはあれが欲しい』といった風にしてティアラが指定する場合もある。割合はどちらかと言うと後者の方が多い。

ティアラとティアラのお父さんとお母さんはとにかくこの恐竜展にやって来た。ティアラはそして問題に答えて全問正解をすると粗品が貰えるということを聞いて嬉々として喜んだ。

なぜなら、ティアラのお母さんは粗品とはなにかと聞くと、恐竜展のスタッフは恐竜のイラストが入ったファイルだと答えたからである。前述したとおり、最近のティアラは文房具に凝っているのである。

という訳なので、ティアラのお父さんは問題を解くと、一方のティアラは解答用紙に答えを記入することになった。ティアラはいつの時でもお気に入りのペンが何本か入った筆入れを持ち歩いているのである。

そのため、ティアラのお父さんは展示物をよく観察して間違いのないようにと細心の注意を払って問題の答えを導き出してティアラによってその答えを記入してもらうことにした。やがては恐竜展を全て見終えて全問に答え終わると、ティアラは表を中にして問題用紙を二つ折りにした。表というのは問題がある面のことである。問題用紙はようするに片面印刷なのである。ティアラはそうしてからお父さんに対して用紙を渡した。

ティアラのお父さんはゴールに到着をすると係の人に対して問題用紙を渡した。ティアラは全問正解しているかどうかと内心ではドキドキしている。しかしながら、ティアラのお父さんは用紙を渡したことはよかったのだが、彼はそこでびっくりするような光景を目の当たりにすることになった。解答はなんとしっかりと記入したはずだったにも関わらず、全ては余白になっていたのである。

ティアラは確かに全問に答えを記入したと言うし、それはティアラのお母さんも確かに目撃をしたと言っている。ティアラとティアラの母さんの二人は嘘をついていないことは事実である。

それではティアラから問題用紙を受け取って係の人に渡すまでの間にティアラのお父さんはなにかをやらかしてしまったのだろうか?問題用紙はちなみに一家族に一枚までしかもらえないので、問題用紙はその決まりのとおりにティアラの家族も一枚しか貰ってはいないのである。


 答えは一度だけ読んだだけでは今回もわからなかったが、ヤツデは全く動じなかった。ヤツデは今までの例から見ても落ち着いて考えれば、活路は必ず開けると信じているのである。

 一方のジェラシックはヤツデと同じく一度だけ読んだだけではわからなかったが、ヤツデとは違って慌てている。今のところ、ジェラシックにははっきりと言って答えはさっぱりとわからないのである。

 ヤツデとジェラシックは四苦八苦している中ですごい女性もいる。サフィニアはなんと問題を読み終えて30秒ほど考えただけで答えはわかってしまったのである。サフィニアは昔から綿密なところと粗雑なところがはっきりしているが、今回はその二つがミックスしたことによってこの結果を呼ぶことになったのである。

 シンキング・タイムはやがて終了したが、ヤツデは時間の延長を申し出た。答えはまだジェラシックにもわかっていないが、ジェラシックはほぼ諦めのムードに入ってしまっている。

 ヤツデの全問正解の夢は自分でもわかる問題で打ち砕かれるなんて少し爽快な気もしたが、それでも、サフィニアは集中力を乱さないようにちゃんと心の中でヤツデのことを応援している。

「はーい」アヤメは言った。「それではここでヤツデさんとジェラシックくんには私からスペシャルなヒントを差し上げまーす。問題の答えは白紙になってしまったティアラちゃんですが、この後のティアラちゃんはなんと大逆転によって全問正解を果たしまーす。その理由はもちろんもう一枚の紙を貰って問題をやり直した訳ではありませんよー」アヤメの口調はヤツデとジェラシックを元気づけるために陽気である。サフィニアはアヤメのヒントによって自分の答えが間違いではないということを再確認することができた。そのため、サフィニアはそのことをしゃべりたくてうずうずしている。先程はアヤメがしゃべり始めた時に時間切れで万事休すかと思ったが、ヤツデはアヤメのヒントを取り入れて推理を組み立て直すとようやく正解に辿り着くことができた。という訳なので、今回は答えがわかった人物はヤツデとサフィニアの二人だけである。ジェラシックは早くも戦意を喪失してしまっていたので、表向きは別に悔しそうな素振りは見せていない。サフィニアは答えを言うことになった。一方のヤツデは解説を加えることになった。ヤツデはもちろん解説者を買って出た訳ではないが、ヤツデの性格はやさしいので、サフィニアの意見は尊重をしてあげたのである。

「はーい」アヤメは言った。「それではサフィニアさんから答えを教えてもらいましょうねー。今回は中々難しい問題だったので、私達はサフィニアさんの答えを聞くのが楽しみですねー。それではサフィニアさんはよろしくお願いしまーす」アヤメは促した。ジェラシックは当然のことながら耳をそばだてている。

「はい」サフィニアは応じた。「ティアラちゃんの答えはちゃんと書いてあるのにも関わらず、ティアラちゃんのお父さんにはそれが見えなかったんです。そうですよね?ああ。でも、ティアラちゃんのお父さんは失明をしているからっていう訳じゃないですよ。失明していたら、お父さんは今までの恐竜に関する問題に答えていたことと矛盾してしまいますもんね」サフィニアは答えた。ヤツデはうまい答え方だなと思った。

「はーい。そのとおりでーす。サフィニアさんは大変によくできましたー。それでは続いてはヤツデさんにそれを解説してもらいましょうねー。ヤツデさんはよろしくお願いしまーす」アヤメは話を振った。

 ジェラシックはヤツデの話を心待ちにしている。ジェラシックにはなにしろ相も変わらずにサフィニアの答えを聞いただけではさっぱりと訳のわからないままだったからである。

「はい。それではできるだけ手短に話をさせてもらうことにします。まず、ぼくは『ティアラちゃんのお父さんはなんらかの細工をしたのではないだろうか』と考えました。ですから、ぼくは『黒の推理』によってティアラちゃんのお父さんの行動の一つ一つを疑ってみることにしました。ですが、ティアラちゃんのお父さんの行動には取り立てて目立つことはありません。強いて言うなら、ティアラちゃんのお父さんは鉄アレイをティアラちゃんにプレゼントしたことくらいです。ですが、これはたぶん問題の答えとは関係のないものだろうとぼくは思いました。ということはそれ以外にティアラちゃんのお父さんにできることはあるでしょうか?まさか、ティアラちゃんのお父さんは問題用紙をこすったからといって記入された答えが消えてしまうとは思えません。となると、見落としはなければ『黒の推理』によって導き出される答えは一つです。ティアラちゃんのお父さんはたぶんこの件には関係していないのだと思います。主人公のティアラちゃんは次にトリックを用いたと考えられる人物です。ぼくはいきなり本題に入りますが、最近のティアラちゃんは洋服屋と文房具屋が好きだというくだりがありました。ぼくはこれについて『白の推理』によってこの事件となんらかの関係があるのだと信じてみることにしました。話は変わりますが、この事件では一つ重要な証言があります。それはティアラちゃんだけではなくてティアラちゃんのお母さんもティアラちゃんは問題用紙に答えを記入していたと主張している点です。それはしかも事実だと書いてあります。ですが、実際にはなにも書いてありませんでした。ぼくはこのことについて悩みに悩んだのですが、光明はアヤメさんのヒントによって差すことになりました。ティアラちゃんの問題の答えはのちに大逆転によって正解になったとアヤメさんはおっしゃいました。となると、問題用紙にはやはり答えは書き込んであったと考えるのが妥当です。しかしながら、見ることはできない。これはティアラちゃんのお父さんだけではなくて恐竜展の係の人についても言えるのだと思います。ここでは先程の『白の推理』について思い出してもらうことになります。ティアラちゃんの買いもの好きはなんらかの形でこの件に関与しているはずなんです。ですが、洋服屋はここでは関係なさそうです。となると、残ったのは文房具屋の方です。ぼくはすると文房具屋でこのようなペンが売っているということを思い出しました。紙には字を書いても見えないけど、そのペンの字はライトを当てると見える代物があることを思い出したんです。つまり、ティアラちゃんはそれを使ったんだと思います。ティアラちゃんはいつもお気に入りの筆入れを持っていると書いてありますし、ペンは恐竜展のスタッフが貸してくれるものを使ったとも書いてありませんからね。ティアラちゃんは問題用紙を二つ折りにしたから、ティアラちゃんのお父さんは気づかなかったけど、問題用紙は最初から白紙のままだったんです。そう考えると、ティアラちゃんとティアラちゃんのお母さんは解答を本当に書いたのだと主張している証言やティアラちゃんのお父さんには文字が見えなかったということやその後のティアラちゃんは大逆転をして問題に正解できたことのいずれにも合致することになります。ティアラちゃんはようするにお父さんを驚かせるために悪戯をしていたんですね。このトリックにはちなみにティアラちゃんだけではなくてティアラちゃんのお母さんの協力も必要になりますが、そもそもの発端はお母さんがティアラちゃんに問題のペンを買い与えたことだと考えるのが妥当だと思います。話は手短にするつもりでしたが、実際はかなり長くなってしまいましたが、ぼくの説明は以上です。皆さんはご清聴をありがとうございました。答えはあっているといいのですが」ヤツデは最後の最後になって弱気になった。

「はーい。ヤツデさんの答えはもちろんあっていますよー。ヤツデさんの推理はやっぱり圧巻ですねー。ヤツデさんはこれで7問全問正解になりましたねー。それでは恐竜展の展示ホールからは出てしまいますよー。皆さんは私について来て下さいねー」アヤメは明るく言った。ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人はアヤメのあとに続いてぞろぞろと歩き出した。ジェラシックはヤツデの推理に対して未だに感動が冷めやらぬ状態である。一応は付け加えておくと、トイワホー国の人はやさしいから、ティアラは問題用紙をライトで照らすとしても、まず、恐竜展の係の人はそのことを嫌がったりはしないのである。

「ねえ」サフィニアは言った。「私はミステリー・ツアーで三問に正解したことになるよね?ということはドングリの背比べって言われるかもしれないけど、結果は何気なくジェラシックくんと並んだよね。ジェラシックくんはそれについてどう思う?」サフィニアはかなり上機嫌でご満悦な様子である。

「うーん。ぼくは別になんとも思いませんよ。ぼくはなにしろ平和主義者ですからね。ぼくはサフィニアさんに負けてしまっても構いません。ぼくは人と張り合うのではなくて自分がベストを尽くすことの方が大事だと思っています」ジェラシックは哲学的なことを述べた。ジェラシックは平素の口調のままである。

「なんだか、ジェラシックくんは急にいいことを言い出すのね。今までは得意げになっていた私はバカみたいじゃない」サフィニアは言った。もっとも、サフィニアは別に落ち込んでいる訳ではない。

「いや。そんなことはないと思うよ。価値観の違いは人それぞれであることは当たり前のことだからね。だから、ぼくらは自分の価値観と違うものを見聞きしたなら、その時はそれを最大限に尊重できればそれでいいんじゃないかな?ぼくはそう思うよ」ヤツデはいつものやさしい口調で言った。予想はつくかもしれないが、ヤツデはジェラシックと同じで人との争いは好まないタイプである。そのため、ヤツデはあまり格闘技も好きではないのである。なんにしても、ジェラシックとヤツデは高論を述べているので、サフィニアはそれを見習いたいと思うようになった。サフィニアの性格はようするに素直なのである。

 サフィニアはしかもさっきの問題を答える時に一つの秘密を作ってしまったから、ヤツデとジェラシックにはなおさら頭が上がらないのである。とはいっても、それは些細な秘密である。

ジェラシックはギンリュウが出てくるミステリー・ツアーの第三問においてホーム・センターで発泡スチロールのブロックを見ていたことによって答えを導き出していたが、最近のサフィニアは100パンダ・ショップにおいて例のマジック・ライト・ペンを見かけたことがあってそれを参考にして答えを導き出していたのである。ただし、ヤツデはこの限りではない。しかし、サフィニアはそれだってティアラの文房具好きを考慮に入れた綿密さとティアラは本当に文字を書き込んだということをダイレクトに受け入れた少しの粗雑さの賜物である。ミステリー・ツアーの第7問と第8問は連続するとアヤメは言っていたが、ヤツデたちの一行はその前にお土産が売っている売店で小休止を挟むことになった。売店では時間を取ってもらえることになったので、ヤツデは家族とビャクブとカラタチに対して少しばかりなにかを買ってあげることにした。

「田舎には人はいなかっただけにこの都会的なムードはニャンとも言えませんね。ぼくはうれしすぎて恐竜展なのにも関わらず、ここではネコのダジャレを言っちゃいましたよ。ふーん。恐竜のぬいぐるみは1500パンダですか。ぼくは言い値でいいね。ここにはあったかいコーヒーはあったかい?」ジェラシックはサフィニアに対して聞いた。ジェラシックは明らかにテンションがハイになっている。

「いや。コーヒーはそもそもここにはないし、ジェラシックくんのこのハイ・テンションはなんなの?私は別にいいけどね。というか、人は塞ぎ込んでいるよりはよっぽどいいよね。だから、ジェラシックくんはもっと騒いでもいいよ。私は放っておくけどね。そう言えば、アヤメさんはお土産を買わないんですか?アヤメさんはそもそもどちらにお住まいなんですか?」サフィニアは聞いた。その間のジェラシックはヤツデに対してちょっかいを出している。ヤツデは迷惑そうではなくて話しかけてもらえてうれしそうである。

「私はラムズゲート市のヤレン町に住んでいるんですよー。ここはマクマード市ですが、ラムズゲート市はそのすぐ隣ですねー。実は普段から勤務しているところもラムズゲート市なんですよー。ですが、先日はせっかく恐竜展に来たので、私は下見にその時にお土産を買っちゃったんですよー」アヤメは言った。

「そうだったんですか。それにしても、お土産は色々あるから、私達は迷っちゃいますね。でも、私はなにを買うかは添乗員のアヤメさんのためにも早く決めちゃいます」サフィニアは力強く断言をした。

「本当ですかー?」アヤメは相槌を打った。「ありがとうございまーす」アヤメはお礼を言った。という訳なので、サフィニアは時間が押してしまわないように間もなく宣言のとおりになにを買うかを決めた。

 それはちなみにジェラシックも同じである。いつもは鈍重なヤツデだが、ヤツデの性格はなにぶん優柔不断ではないので、買うものはヤツデもすぐに決定することができた。

 ヤツデは先程のジェラシックが言っていた恐竜が寝そべっているぬいぐるみを家族に対して買うことにして恐竜のイラストが描かれたボール・ペンをカラタチに対して買うことにした。

 しかし、ヤツデはビャクブに対してはなにも買わなかった。ヤツデはビャクブに対しては恐竜展の問題を解いてゲットしたファイルをプレゼントしようと思っているのである。ビャクブはそもそも例え無料のものであってもプレゼントされたものに対して文句を言うような男ではないのである。

 という訳なので、ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人は会計をすませるとアヤメに連れられて恐竜展の出口の前までやって来た。そこにはするとガチャガチャが6台もあるのが見受けられた。

 となると、今回はガチャガチャにまつわる問題が出題されることになるという訳である。そこには何人かの人がいたので、現在のヤツデたちの一行は少し離れたところに立っている。

「はーい。それでは申し訳ありませんが、一旦はガチャガチャから目を話して頂いてミステリー・ツアーの第8問目に挑戦してもらうことになりまーす。遠慮はいらないので、皆さんは今回もじっくりと考えてもらって構いませんよー。それでは早速に問題をお配りしますねー」アヤメはそう言うとヤツデとサフィニアとジェラシックの三人に対して順番に問題を配布して行った。ヤツデはそろそろゴールが見えてきたこともあってやる気は満々である。ツアーの当初のヤツデは気を抜いていたので、今はそれとは偉い違いである。

 そのため、ヤツデは問題を受け取ると無駄口を叩かずに問題を読み始めた。とはいっても、ジェラシックとサフィニアの二人はヤツデと同じく無駄口を叩かなかった。

 現在のミステリー・ツアーのジェラシックの勝率は4割台になってしまっているので、ジェラシックはここらで正解率の5割の道へ向けて挽回を計ろうとしている。

 一方のサフィニアは当初こそ三問連続不正解というスタートだったが、最近の4問は三問に正解をしているので、エンジンはいよいよサフィニアにもかかってきている。

 今回の謎はいくらかの発想力も必要になってくるが、タイトルは『放置の謎』というものである。ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人は早速に問題文を読み始めている。以下はその問題文である。


現在のフローレンスは30歳で独身の男である。フローレンスはとにかく博物館を始めとした見聞を広めるための施設には目のない男である。そのため、フローレンスは今日もこの日を楽しみにしてこの恐竜展に遠路遥々からやってきた。フローレンスはセーターを着込んでいる。

フローレンスは恐竜展のような施設で記念になるものを収集しているので、先程はガチャガチャをやったばかりである。ガチャガチャはフローレンスの好きなものの一つである。

 ガチャガチャではその結果として光るティラノサウルスのストラップが出たので、フローレンスは大いに満足をした。フローレンスはまさしくそれが一番に欲しいと思っていたからである。現在のフローレンスはこの恐竜展のガチャガチャのコーナーの前にあるイスに腰かけて休息を取っている。

いくらかはフローレンスの前を通り過ぎたりガチャガチャを見物したり実際にやったりする人はいたが、フローレンスはそんな中で一人の妙な中年男を発見することになった。

その中年男の名はワルポールと言って尖った顎と高い鼻をしていてのっぽな男性である。新参者のワルポールは迷いもせずに一台のガチャガチャの前へと近づいて行った。

そのガチャガチャの商品は本物の小さな恐竜の化石である。ワルポールはなぜ妙なのかと言うとガチャガチャをやったまではいいのだが、その商品は持ち帰らずにその場をあとにしたからである。

フローレンスはその一部始終を見ていた。そのため、フローレンスはキツネにつままれたような心持ちだったが、ワルポールはひょっとしたら忘れて行ってしまったか、あるいはガチャガチャをやってみたかっただけなのではないかとすぐに思いついた。それなら、フローレンスは一応の確認をしようと思い立った。フローレンスはということで去り行くのっぽのワルポールのあとを追って声をかけた。一つ目の内容は先程のワルポールがやったガチャガチャの商品を忘れているのではないかということである。もしも、そうでないのなら、景品は自分がもらってもいいかどうかということがもう一つの内容である。

ワルポールはその結果として『ガチャガチャの景品は別に忘れている訳ではない』と答えたので、フローレンスは当然のことながらそうなると二番目の問いかけについてはOKをもらえるものと思った。

しかし、フローレンスはワルポールから予想外の返事をもらうことになった。ワルポールは『できれば、景品はそのままにしておいてほしい』と言うのである。となると、ワルポールは足長おじさんではないということになる。ワルポールは『できれば』と言ったが、フローレンスはワルポールにはなにかしらの意図があってのことなのだろうと思ってガチャガチャの景品はそのままにしておくことにした。

 ワルポールはやがてフローレンスが先程から座っていた長イスに腰を下ろした。フローレンスは仕方なくワルポールの隣に座り直して思わずワルポールのことをしげしげと観察をしてしまった。ワルポールは中年に差しかかっているとはいってもまだどう見ても痴呆老人には見えないなとフローレンスは思った。

もしも、痴呆老人なら、ワルポールは説明の行かない行動を取ったとしても不思議ではないのではないかとフローレンスは一瞬だけ思ったのである。しかし、それはあまりにも失礼な考えなので、フローレンスはすぐにその考えを打ち消した。とはいっても、この問題はいくら考えても解決できそうになかったので、フローレンスはワルポールに対して思い切って『ワルポールはなにがしたいのか』を聞いてみることにした。

ワルポールはすると『今はまだ言えないが、これは自分だけの問題ではないのだ』と答えた。そのため、ワルポールはまたもやキツネにつままれたような気になってしまった。それでも、これは気のせいなのかもしれないが、フローレンスはなんとなく既視観のようなものを覚えている。

それではこのワルポールはなにがしたいのだろうか?ここでは一つだけヒントを述べておくと、実はガチャガチャを観察している人物はフローレンスとワルポールの二人だけではない。その観察者はしかもフローレンスとワルポールの他にも一人とは限らないのである。


 ガチャガチャはジェラシックの得意分野である。ジェラシックはなにしろ自分の欲しい景品をガチャガチャで出すことにかけてはプロ並みにうまいのである。とはいっても、トイワホー国にはガチャガチャのプロなんていないので、それはあくまでも比喩表現の話である。

 ただし、ジェラシックはいんちきをする訳ではない。それではどういうことなのかというと、ジェラシックは単純に運がいいのである。例えば、ジェラシックは福引で旅行券を当てたり一回しか宝くじを買ったことがないのにも関わらず、ジェラシックには一万パンダが当選したこともあったりしたのである。

 ジェラシックはようするに幸運の星の元に生まれているのである。今回の問題はなんにせよガチャガチャの関連なので、ジェラシックはやる気の入り方が違っているのである。

 一方のヤツデはガチャガチャでいい思い出を持ち合わせてはいない。なぜかは知らないが、ヤツデはガチャガチャについて言うと完全に運に見放されてしまっているのである。

ヤツデは子供の頃から欲しい景品をガチャガチャで手に入れた試しはないので、大抵はガチャガチャをする時には他の人にやってもらっている。ヤツデはそんなことをしてもらっても意味はなさそうだが、ヤツデには他の人にやってもらうとガチャガチャでいい景品が出るというジンクスがあるのである。

しかし、ヤツデは今回の問題について言うと今回も好調である。ヤツデはガチャガチャの景品がそのままにされていることについてお得意の『白の推理』を使って問題文のヒントについては『黒の推理』を使うことによって安々とこの問題の答えに辿り着くことができた。

それから、サフィニアにはガチャガチャについてのエピソードは特にはないが、問題についてはお手上げの状態である。サフィニアはとにかく苦しんでいるという訳である。

やがてはタイム・オーバーになると、ヤツデとジェラシックの二人だけは答えがわかったということが判明した。ただし、サフィニアは考える時間の延長をしなかった。

「はーい」アヤメは呼びかけた。「恐竜展の最後の問題も中々骨がありましたねー。それではヤツデさんとジェラシックくんはどちらが答えを教えて下さいますかー?」アヤメは聞いた。ジェラシックはするとどっちでもいいと主張したので、ヤツデは答えの方を担当させてもらうことにした。

「ぼくは答えを一言で申し上げると、ワルポールさんは調査をしていたんです。それ以上の説明はジェラシックくんにお願いします。ぼくはこんな答えでもよろしいですか?」ヤツデはあくまでも低姿勢である。

「はーい」アヤメは明るく言った。「ヤツデさんはそれでいいですよー。ヤツデさんの答えはあっていまーす。ヤツデさんの8問全問正解はこの時点で確定ですねー。それではジェラシクくんには解説をしてもらいましょうねー」アヤメは促した。実はワルポールが痴呆症を患っているという考えから脱却できなかったので、サフィニアはヤツデの答えを聞いてそういう考えもあったのかと一本を取られている。

 問題文中では痴呆老人の可能性はフローレンスも否定をしているが、ワルポールはそもそも痴呆症なのだとしてもその後のワルポールの言動が理路整然としすぎているし、答えとヒントはそれではヒントと照らし合わせてみても結びつかないので、ワルポールの痴呆症説はやはり不正解なのである。

 ガチャガチャの景品はすでに持っているから、ワルポールは置いて行ってしまったのではないだろうかともサフィニアは考えた。しかしながら、例えば、ワルポールは景品を監視していたりフローレンスに景品をくれなかったりとその後のワルポールの言動とはそぐわないから、それは不正解である。ワルポールは恵まれない子供へガチャガチャの景品をプレゼントしたということも考えられる。ワルポールは景品をフローレンスにはプレゼントしなかったことには確かにそう考えると説明は就くことになる。つまり、フローレンスは大の大人だから、ワルポールは景品をあげられなかったとも考えられるのである。しかし、それではフローレンスとワルポールと一緒に景品を監視している人がいることの説明はできないので、ワルポールは子供へのプレゼントとしてガチャガチャの景品を持ってい帰らないという説も不正解である。

「さて」ジェラシックはもったいぶって言った。「それではヤツデさんにあやかってぼくも手短に話をさせてもらうことにします。ワルポールさんはガチャガチャの景品をそのままにしておきました。それにはフローレンスさんとのやり取りから察するになんの意味もないとは思えません。となると、ワルポールさんには景品を放置しておくことによってなんらかのメリットがあると考えるのが妥当です。でも、ここではメリットを考えることは少し難しいので、その後のガチャガチャの景品はどうなるのかを考えるべきです。この問題はそれにさえ考えが及べばさして難しいものではなくなると思います」ジェラシックは解説を始めている。

 ここまではヤツデの考えたことと全く一緒である。ヤツデの場合は『白の推理』によって『その後のガチャガチャの景品はある状態になってそれこそがワルポールの狙いなのだ』と信じてみることにしたのである。ある状態とはすぐにジェラシックが説明してくれることになる。

「その後のガチャガチャの景品は誰かしらが手にすることになると思います。でも、それなら、フローレンスさんは同じことをしていたのだから、ワルポールさんはガチャガチャの景品を手にした誰かに対してまた景品をそのままにしておくように言うでしょうか?ぼくは言わないと思います。なぜなら、それこそはワルポールさんの狙いだと思うからです。それではなぜフローレンスさんの時は止めたのにも関わらず、ワルポールさんは次にガチャガチャの景品を手に取った人には声をかけないのでしょうか?それはシチュエーションが違うからです。ここでは問題文のヒントを取り上げるべきです」ジェラシックは説明を続けている。

 ヤツデの場合は問題文のヒントに対して『黒の推理』を適用していたが、ガチャガチャの観察者はフローレンスとワルポールの他にもいるとなると、どうなるか、問題文にはしかも詳しい記述がないということを考え合わせた時に色々と考えた結果としてヤツデにはある一つの可能性に思い当たることになった。ジェラシックはこちらの謎もすぐに説明をしてくれることになる。ヤツデはジェラシックの話を静かに聞いている。

「問題文にはガチャガチャの観察をしている人は何人なのかは正確には書いてありません。観察者はひょっとしするとたくさんいるのかもしれないし、あるいはフローレンスさんとワルポールさんを入れないと一人だけなのかもしれません。ぼくはその両方の可能性を考えましたが、答えはたくさんいるのではないかと思いました。それは先程に述べたシチュエーションとリンクしてきます。フローレンスさんはワルポールさんに声をかけた時とそのあとでワルポールさんの景品を手にした人がいた時の二つの決定的な違いを考えてみます。前者は景品が誰のものなのかはわかっているのに対して後者は景品が誰のものなのかはわかっていません。後者では景品を手にした人はその景品を自分のものにしたり恐竜展の人に渡したりします。その観察者はフローレンスさんとワルポールさん以外にもいるとなると、これはなにかの調査だと考えられます。ぼくはこれをもっと掘り下げて言えば、ワルポールさんは自分のためだけじゃないと言って見ている人は他にもいるということなので、これはテレビ番組の企画なんじゃないかと思います。だから、ぼくは見ている人がたくさんいるというのはテレビ画面越しに見ている視聴者のことなんだと思います。証拠は他にもあります。フローレンスさんは既視感を覚えていることです。つまり、フローレンスさんはこのテレビ番組を見たことがあってそれを無意識の内に思い出していたんです。ここでは話をまとめるとワルポールさんのメリットとはテレビ番組の撮影にあったんです。ワルポールさんはなぜそのことをフローレンスさんに話さなかったのかというともしかしたらその話を聞いている人がいるかもしれないからだったんだと思います。結局のところは長々と話してしまいましたが、ぼくの解説はどうでしたか?」ジェラシックは聞いた。サフィニアは筋道だったジュラシックの解説を聞いて感心をしている。一方のヤツデはすでにジェラシックには一目を置いている。

「はーい」アヤメは応じた。「ジェラシックくんは大正解ですよー。私からは特に付け足すこともありませーん。ジェラシックくんは確実に勝ち星を増やして行っていますねー。ジェラシックくんはなにしろ8問中4問に正解していますものねー。残りはミステリー・ツアーの問題もあと二問ですから、皆さんはもう少しだけがんばりましょうねー。それでは外へ出ますよー」アヤメはそう言うとヤツデとサフィニアとジェラシックの三人を引き連れて歩き出した。ここではもう少しだけ『放置の謎』についての解説を加えておくと、ワルポールの所属しているプロダクションは放置されたガチャガチャを見つけた人はそのあとでどうするかによって国民性を調査していたのである。つまり、発見者は景品を自分のものにしてしまうか、あるいはきちんとお店の人のところへ持って行くかどうかを調べていたのである。だから、この調査はトイワホー国だけではなくて天地という惑星にあるロイエート国やルーブ国などの国々でも行われていたという訳である。

 今まではずっと地下にいたので、ヤツデたちの一行は地上へ行って恐竜展を出た。現在の時刻は午後の5時なので、あたりはヤツデたちの一行が外へ出ると少し暗くなっていた。

「さて」サフィニアは歩きながら言った。「それじゃあ、私達は早速にジェラシックくんの歌を聴かせてもらおうかな。あ」サフィニアはそう言うと道に落ちていたコンビニで売っているおにぎりの袋を拾い上げた。

サフィニアはそして近くのゴミ箱まで走って再び早歩きをしながらアヤメとヤツデとジェラシックの三人のところへと帰って来た。ヤツデは素直にサフィニアの行動に感心をしている。

「サフィニアさんはいいことをしましたね。ぼくからは『町中クリーン』のプレゼントをさせて下さい」ジェラシックはそう言うと自分の『親切スタンプ』の台紙を取り出した。

 『町中クリーン』というのはもちろんトイワホー国の政策の一つである。『町中クリーン』は清潔さが売りのリグーン国の模倣策であって簡単に言うとゴミを拾っている人に対して労いの意を込めてそれを見た人が『親切スタンプ』の台紙についているシールを一つプレゼントするというものである。

 つまり『親切スタンプ』にはそんな使い道もあったということである。これでは少しややこしく感じるかもしれないが、トイワホー国の国民は子供の頃からそういった政策になじんでいるので、問題は特にないのである。だから、ジェラシクはすぐに『町中クリーン』の政策を思い出せたのである。

『親切スタンプ』の裏はシールを貼れるということはつるつるしていてシールが貼って剥がせるようになっているのである。そのシールは5つたまると小さな賞状と50パンダの切手がもらえるのである。ただし、トイワホー国には意図的にゴミのポイ捨てをする人は少ないのである。という訳なので、ジェラシックはサフィニアに対して一枚のシールをあげることにした。現在のヤツデはジェラシックと同じく『町中クリーン』のシールを持っていたので、ヤツデは自分もあげた方がいいのかと思ったが、サフィニアは一枚を貰えただけで満足だと主張をした。そのため、ヤツデは自粛をすることにした。

「話は途中になっていたけど、ジェラシックくんは歌を聴かせてよ。ジェラシックくんの歌声はだってトイワホー国で一番の歌声なんでしょう?私はなにもフル・コーラスを歌ってくれとは言わないし、ちょっとくらいなら、私達は時間をもらってもいいですよね?」サフィニアはアヤメに対して聞いた。

「はーい。それは別にいいですよー。多少は暗くなっても街灯の明かりがあるから、皆さんはミステリー・ツアーの問題文が読めなくなるということはないと思いますからねー。ですが、ジェラシックくんには本当にお願いしちゃってもよろしいのですかー?」アヤメは相も変わらずに明るい口調で聞いた。

「ぼくは構いませんよ。いきなりは本調子で歌えないかもしれませんが、少しだけなら、ぼくは気にしませんし、なによりも、ぼくとしては聞きたいと言ってくれる方がいるなんて感無量ですからね」ジェラシックは言った。ジェラシックは歌に関して言うと特に謙虚なのである。

「それなら、ぼくには伴奏をやらせてくれる?」ヤツデは少々おしつけがましいリクエストをさらりと受けるジェラシックに対して助け船を出す気持ちで言った。「ぼくは実を言うとオカリナの演奏をするんだよ。ぼくはちょうど今もオカリナを持ってきているしね」ヤツデは謙虚に言った。つまり、ヤツデの特技は両利きであることとオカリナを演奏できることの二つだったのである。だが、実はオカリナを演奏できるとはいってもヤツデが最初から最後まで演奏できる曲は少ない。ヤツデには正確に言うとオカリナで演奏できる曲目のレパートリーは現時点で5曲のみなのである。そのため、ヤツデはジェラシックにその旨を伝えるとその中でも最もメジャーな『カラフル』という曲で折り合いをつけた。アヤメはその話を聞いていて楽しそうである。

「それにしても」サフィニアは言った。「ヤツデくんはすごいんだね。私のお母さまはピアノの演奏がうまいけど、私はカスタネットくらいしか使えないから、ヤツデくんのことは尊敬しちゃうな。ジェラシックくんは音符を読めるの?楽器は演奏できるの?」サフィニアは思ったことを矢継ぎ早に口にしている。

「答えはどちらもイエスです。腕は大したことはありませんが、ハーモニカとギターとピアノの三つなら、ぼくは演奏できます。だから、オカリナは演奏できません。しかも、ぼくはオカリナをバックにして歌ったこともないから、ヤツデさんの申し出はすごくうれしいです」ジェラシックは言った。

「ありがとう。まあ、ぼくは精々音程を外さないようにがんばるよ」ヤツデは気を引き締めた。

という訳なので、サフィニアとアヤメはベンチに座った。ジェラシックは立ったままだったが、主役はあくまでもジェラシックなので、ヤツデはオカリナをリュックから取り出すとベンチに腰を下ろすことにした。

 ヤツデの伴奏はいよいよ始まった。ジェラシックは歌のコンクールでトイワホー国の一番になった歌声を披露した。ジェラシックのテナーの声はとても柔らかくてなおかつ決して音程を外さないと感じさせるものであってその歌声を聴いていると心が安らぐようなものだった。

 約一分の歌はやがて終了した。ヤツデはとちらないようにするために細心の注意を払ってオカリナを演奏していたので、一応はノー・ミスだった。そのため、ヤツデは曲が終わるとようやくほっとした。

「うまーい」サフィニアは言った。「ジェラシックくんの歌は本当によかった。私はヤツデくんと話をしていると心が洗われるような気がするけど、ジェラシックくんの場合はジェラシックくんの歌声を聴くと心が洗われるみたい。私はアンコールなんてしたら、ダメかな?」サフィニアは聞いた。もしも、ジェラシックはメジャー・デビューをしなければ、この機会はジェラシックの歌声を聴くファイナル・チャンスになるかもしれないので、サフィニアは必死である。とはいっても、それについてはアヤメの思いも似たり寄ったりである。

「ぼくもジェラシックくんの歌はもう一度だけ聴きたいな。今度はアカペラで聴きたいな。ぼくはなにせ自分で申し出ておきながらなんだけど、さっきは自分の演奏に気を取られていて落ち着いてジェラシックくんの歌を聴いていられなかったからね。ぼくは我がままなことを言ってごめんね」ヤツデは素直に謝っている。

「いえいえ」ジェラシックは取り成した。「ぼくは別にいいですよ。ぼくは気を悪くしていませんから、ヤツデさんは安心をして下さい。というか、受けはよかったので、ぼくはむしろうれしいくらいです。ぼくはもう一曲だけ歌わせてもらえますか?」ジェラシックはアヤメに対して懇願をした。サフィニアは願いを込めてアヤメのことを見つめている。『愛の伝道師』のアヤメはやはり寛容だった。

「それはもちろんいいですよー。というか、お願いしまーす。ジェラシックくんの歌声には私も虜になってしまいましたからねー」アヤメは上機嫌である。ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人の願いなら、アヤメはこのツアーを成功させるためにも添乗員としてその願いを叶えてあげたいのである。

 という訳なので、ジェラシックは次に『思い出の古時計』を選曲した。先程の『カラフル』という曲はアップ・テンポだったが『思い出の古時計』という曲はバラード調である。そのため、今回は曲の感じについて先程とは大きなギャップがある。アップ・テンポの曲は嫌いではないが、ジェラシックはどちらかと言うとバラードの方が好きである。ジェラシックは今回もさすがの歌唱力を披露して魅せた。

やがては一分ほどジェラシックが歌うと、ジェラシックのアカペラは終了した。アヤメとヤツデとサフィニアの三人はするとスタンディング・オベーションでジェラシックに対して応えることにした。

「すごい!すごい!」今のサフィニアは少し興奮した様子である。「ジェラシックくんはプロの歌手としても十分にやっていけるよ。ジェラシックくんはどこへ出しても恥ずかしくないよ。ジェラシックくんは早くデビューをしてよ」サフィニアは感動も冷めやらぬ状態である。サフィニアは敬意を表している。

「ぼくは歌に関して詳しくないけど、ジェラシックくんの歌はとてもうまいっていうことは十分によくわかったよ。ジェラシックくんは歌を聴かせてくれてどうもありがとう」ヤツデはぺこりと頭を下げた。

「ジェラシックくんには本当にありがとうですよねー。まさか、私は『仲良しトラベル』の添乗員になったことでこんなにもいいものを聴かせてもらえるなんてうれしい誤算ですねー。ジェラシックくんは哀愁の漂う曲になると表情も様変わりして格好よかったですねー」アヤメは最大限の敬意を込めて賛辞を送った。

 ジェラシックはミステリー・ツアーの問題を解く際には切り替えがうまかったが、それはバラードを歌う時の集中力から来ていたのである。ジェラシックはその一方でアップ・テンポの曲を歌う時には真剣さの中にも聴いている人だけではなくて自分自身も楽しそうな顔をして歌うのである。

「皆さんは歌を聞いて下さってこちらこそありがとうございました。ぼくにはデビューについてはなんとも言えませんが、皆さんの言葉は十分にぼくの自信になりました。ん?ぼくは少し眠くなってきました。ここは亜熱帯ですが、ああ。寝ったい。おあとがよろしいようで」ジェラシックはダジャレで締めた。

「いや」ジェラシックは気を取り直した。「そんなことより、ぼくたちは次の問題のところへと行きましょうか。ぼくはお時間を取らせてしまってどうもすみませんでした」ジェラシックは謝った。

「いいえ。大丈夫ですよー」アヤメはそう言うとヤツデとサフィニアとジェラシックの三人を連れて歩き出した。ヤツデは歩きながらもジェラシックに対して敬意を持っている。

ジェラシックは歌を歌っている時とそれが終わってダジャレを言っている時の二つの場合ではまるで別人のようだったので、ヤツデはその切り替えのうまさについて心から敬服をしているのである。

 というのも、ヤツデは気を引き締める時にはなんとかして緊張感を持つことができるのだが、リラックスする時なのにも関わらず、ヤツデにはよく無駄に緊張をしてしまう癖があるからである。

 ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人はとにかくヤツデがそんなことを考えている間にいよいよアヤメに連れられてミステリー・ツアーの第9問目の出題される場所にやって来た。とはいっても、ヤツデたちの一行はさっきジェラシックが歌を歌ったところからまだ三分も歩いてきてはいない。

それもそのはずである、次の問題は恐竜展の隣にある科学博物館で出題される予定だったからである。という訳なので、アヤメはその旨を伝えるとヤツデとサフィニアとジェラシックの三人に対しててきぱきと問題を配布し始めた。とはいっても、ジェラシックは歌を歌っていたから、時間は押しているという訳ではない。

ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人はもはやミステリー・ツアーの問題に取り組むまでの作業についてすっかりと慣れてきているので、アヤメはてきぱきと行動をしても大丈夫という意味である。

今回の謎は科学博物館を舞台にしているが、この問題は常識に囚われていてはいけないものである。今回の謎のタイトルは『時刻の謎』というものである。以下はその問題文である。


あるバス・ツアーでのはなしである。ここには時間に関しては厳格な人ばかりが集まっている30人の団体客がいる。これまでのところはその証拠として集合時間に遅れてやってきた者は一人もいなかった。それはもちろん高速道路のパーキング・エリアでトイレ休憩を取った時も含めての話である。

しかし、団体とはいっても個人で申し込むタイプのツアーなので、元々の連れ以外にはそれぞれに面識はない。一応は述べておくと、連れの人数の最高は4人である。

また、まさか、その30人の全員はお互いに話を交わしている訳でもない。会話はむしろほんの三組だけでしか交わしてはいないのある。結局のところ、それは最後まで変わらなかった。

 今回のツアーのコンダクターはアイリッシュという女性が務めている。アイリッシュはブランデーをこよなく愛していて最近はタロットという占いに用いるトランプに凝っている。

アイリッシュはそんな中でも特筆すべきことは時間厳守の精神を大切にしていることである。そのため、アイリッシュはなんと子供の頃から一度も遅刻というものをしたことがない。

多少は行き過ぎに思えるかもしれないが、アイリッシュはなんと待ち合わせにおいて基本的に集合時間の一時間前には現場に到着しているという徹底ぶりを発揮する。

とはいっても、アイリッシュはトイワホー国の国民として他の人が時間に遅れてきた時には大きな心で許してあげることはできる。性格はやさしいのだが、アイリッシュは遅れてきた人に対して内心ではむかついてしまうこともしばしばある。ただし、これはあくまでも内心の話である。

そのため、アイリッシュはやはり一々人が遅刻したことくらいで怒ることはせずに実際には今までの人生の中で遅刻した人と言い争ったりその人を叱咤したりしたことは一度もないのである。

 アイリッシュはようするに人にやさしく自分に厳しくがしっかりとできているという訳である。人はそもそも誰もが聖人君子のようには行かないものである。そのため、人は絶対に口に出したり行動で表現したりしなければ、心の中ではなにを思っても構わない。それこそはアイリッシュの持論なのである。

 今回のツアーの参加者は時間にルーズではないので、今のところ、バスの乗務員のアイリッシュはなんとか内心でもイライラするようなことをしなくてすんでいる。やがては乗務員のアイリッシュと30人のバラバラの団体客を乗せたバスはこの科学博物館に到着をした。アイリッシュはこの科学博物館の外に止めてあるバスに5時50分に集合するようにと間違いなく30人のツーリストの皆に対して聞こえるように宣言をした。

そのため、30人のツーリストはその説明に納得してそれぞれのペースで科学博物館を見学することになった。これは繰り返しになるが、ツーリストは全員が時間に厳格なのである。

ツーリストはちなみに4時の時点で出発をしたので、30人のツーリストは一時間と30分だけ科学博物館の中を見て回ることができるようになっている。その際には一緒になってアイリッシュも科学博物館の中を見て回ったが、いつもの習慣のとおり、アイリッシュは早め早めに行動をして出発の30分前にはバスの中で待機をしていた。アイリッシュは当然のことながら今回も時間のとおりに30人のツーリストの皆が時間に遅れることもなくバスに現れるだろうと思っていたのだが、その予想は見事に外れてしまった。

旅客はなんと5時50分になっても一人も集まらずに6時5分の近くになるとなぜかぞろぞろとバスに帰って来始めたのである。アイリッシュは当然のことながら目を丸くしている。

30人のツーリストは6時5分になると全員が集合をした。アイリッシュは直前に観光バスの正確な時計で自分の腕時計の時間を合わせていたので、アイリッシュの時計は狂っている訳ではないし、バスの中の時計は壊れていたり狂っていたりはしていないということは事実である。ここは国境ではないので、時差はないのである。仮に、あるのなら、アイリッシュはその旨を伝えているはずである。

そのため、アイリッシュはその点について誤解をしている訳でもないのである。それではなぜ揃いも揃って時間に厳格なはずのツーリストが15分も時間を遅れて集合したのだろうか?これは重要なことだが、時計は科学博物館の中にもちゃんとあるし、ツーリストはなにも時計を持っていない訳ではないのである。


 ジェラシックは今回の問題を読み終えると『この問題はなんだ?』と思った。ジェラシックは今までの問題も不可解な謎ばっかりだったと思っていたが、今回の謎はジェラシックにとってその中でも相当にミステリアスに感じられたのである。そのため、ジェラシックは少しこの問題に翻弄されている。

 先程は歌を歌わせてもらって気分がよくなっていたが、気持ちの切り替えは人並み外れて早いので、今のジェラシックは完全に問題を解くことに集中をしている。そのため、例え、わからなくても、ジェラシックはネバー・ギブ・アップの精神で謎を解くことにしている。実はその粘り強さはヤツデのまねをしている。

 一方のサフィニアはツアー・コンダクターのアイリッシュに対して同情をしているだけで位置行一向に推理は前へと進んでいない。しかし、第6問では最後の最後になって、答えを見つけることができたので、サフィニアは決して諦めるようなことはしないのである。第6問とはちなみにムースとケティリスが出てきた問題である。ジェラシックとサフィニアの二人はようするにこのミステリー・ツアーを通してヤツデにあやかって最後まで諦めない精神が身についたのである。ヤツデは確かに第三問目と第7問目で延長を申し出てその結果としてどちらの場合でも諦めなかったことによって正解できている。

 そのヤツデはというと元々最後まで考え抜く能力は持っていたし、そもそもはその粘り強さこそがヤツデの数少ない得意とすることでもあったのである。シンキング・タイムはやがて終了した。ジェラシックとサフィニアは時間の延長をしたので、二人は三分の考える時間を貰ったが、結局のところは残念ながら徒労に終わってしまった。今回の第9問目の問題はヤツデ一人だけしか解くことはできなかった。少しは慣れてきたとはいっても、ヤツデは自分が前に出すぎていることについて畏まってしまっている。とはいっても、ジェラシックとサフィニアの二人はヤツデに対して尊敬の眼差しを向けている。

「はーい」アヤメは言った。「今は第9問目ですが、ヤツデさんの勢いは留まるところを知らないみたいですねー。それではヤツデさんは解説と答えを教えてもらってもよろしいですかー?」アヤメは聞いた。

「はい」ヤツデは返事をした。「今回はたぶん長々と説明をしなくてもいいんじゃないかと思います。実際はどうかはわかりませんけどね。まず、ぼくは『白の推理』を使いました。『白の推理』はどこで使ったのかというとこの問題に出てくる30人の団体客が時間に厳格だというところです。つまり、団体客はこの件でもちゃんと時間を守っていたのだとぼくは信じてみることにしたんです。それじゃあ、当然『ツーリストはなんで15分も遅刻をしているんだ?』と思うかもしれませんが、それはすぐに説明させてもらいます。ぼくは次に問題文の最後の文章に着目をしました。今回の問題はここについて深く考えれば、解くことは造作もないことだと思います。最後の文章はこうなっています。科学博物館には時計があって団体客も時計を持っているとなっているんです。となると、団体客には時間を間違える余地はなさそうです。ですが、今のぼくは『白の推理』によって団体客が時間を間違っていなかったという土台に基づいて推理を進めています。つまり、最後の文章にはなんらかの技巧が凝らされていると考えることができます。ですから、ぼくはその最後の文章について『黒の推理』によってあらゆる可能性を考えてみることにしました。という訳なので、団体客は時間を間違えていなかったとした場合には一つだけ考えられる可能性がありました。つまり、団体客の全員は間違った時計を見ていたんです。よく考えてみると、まずはそれ以外には考えられません」ヤツデは断言をした。

「え?」サフィニアは口を挟んだ。「でも、それはありえないんじゃないの?科学博物館にはいくつもの時計はあるだろうし、団体客は一人ずつ時計を持っているのよ。私にはその全ての時計の針がズレていてしかもぴったりと15分だけズレていたなんてありえないと思うんだけど」サフィニアは意見をした。

「ところがどっこい」ヤツデは言った。「それはありえることなんだよ。まず、団体客は全ての人が時計を持っているとは書いてないし、問題文にはそもそも時計と書いてあるだけでどこにも腕時計だとは書いてありません。つまり、団体客の時計というのは腕時計ではなくてスマホの時計だったのだと思います。となると、確立としてはわざわざスマホを取り出して時計を確認するという人は少なくなると思います。なぜなら、時計は科学博物館の中にもあるのですからね。団体客はそして時間のとおりに行動をしたというのなら、団体客の見た時計というのは全て15分も遅れていたとしか思えません。そこはサフィニアの指摘してくれたところと一緒だね。科学博物館の時計はたぶん電波時計ではなくなおかつその時刻を合わせた人は間違った時刻を基準にして時刻を設定してしまったんじゃないかと思います。今回の謎はかなり斬新なアイディアも必要だったように思いますが、ここではまとめてみると、団体客は全員が腕時計を持っていなかったので、彼等は館内の時計を見ましたが、その時計は15分も遅れていました。そのため、団体客は15分も遅れてバスに集合することになったのだと思います。つまり、団体客としては遅刻をしたという意識はなかったことになります。今回はこんな説明でよかったでしょうか?」ヤツデは恐る恐るという感じで聞いた。

「はーい」アヤメは明るく言った。「ばっちりですよー。ヤツデさんはいよいよ今回のミステリー・ツアーの全問正解にリーチをかけましたねー。という訳なので、残りはあと一問だけとなりました。ジェラシックくんとサフィニアさんはヤツデさんと一緒にがんばりましょうねー。それでは引き続き最後の問題が出題される商店街までご案内しますので、皆さんは私についてきて下さいねー」アヤメはそう言うと歩き出した。

 という訳なので、ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人はアヤメのあとに続くことになった。次の問題は出題される場所のまで少々面倒だが、10分くらいは皆で歩くことになる。

「ヤツデくんはついにここまで来たね。私はヤツデくんに期待をしているからね。ヤツデくんは絶対に全問正解をしてよね。絶対だよ」サフィニアはヤツデに対してかなりの期待感を持っている。

「いや」ジェラシックは口を挟んだ。「サフィニアさんはあんまりヤツデさんにプレッシャーをかけない方がいいんじゃないですか?まあ、ぼくは別に『ヤツデさんはプレッシャーに弱い』と言っている訳ではありませんが、ヤツデさんにはのびのびと問題を解いてもらいましょうよ。ぼくはそっち派ですよ。ぼくもヤツデさんには全問正解をしてもらいたいとは思っていますけど」ジェラシックは割と寛容な態度を示している。

「それはそうよ。私達は『YSJ』っていうチームなんだもの。でも、実は私がヤツデくんにプレッシャーをかけているのにはちゃんとした理由があるのよ。私はこれを機会にしてヤツデくんが逆境に乗り越えられる男の子になってもらいたいの。ヤツデくんはなんとなく母性本能をくすぐるのよね。そう言えば、もしも、全問正解したら、景品とかはなにか出るんですか?」サフィニアは抜け目のないところを見せた。

「実は本当に申し訳ないんですが、景品はなにも出ないんですよねー」アヤメはヤツデの方を見た。

「そもそも『仲良しトラベル』は推理力を競うものではなくてあくまでも名前のとおりに皆が仲良くなることを目的としていますからねー。それに、出題者の方はまさか10問を全問正解する人が出てくるとは思っていないんじゃないですかねー。だとすると、ヤツデさんは全問正解すると、それはすごい快挙なかもしれませんねー。あ、それから、実は景品の出る問題もあるんですよー。問題は10問と私は言いましたが、皆さんにはお土産としてお持ち帰り頂く11問目の問題というものもあるんですよー」アヤメは秘密を明かした。

「そうでしたか。それはおもしろそうですね。でも、ぼくは気が早いと思われるかもしれませんが、答えはわからなかったら、それはわからないままになっちゃうんですか?それと、景品っていうのはなんですか?ぼくはなんだか質問ばかりですみません」ジェラシックは低姿勢な態度を崩していない。

「いいえー。それくらいは別にいいですよー。まず、景品は三種類あって全部が推理小説ですが、皆さんにはその内の一冊を選んでもらって答えが合った場合にはお選び頂いた小説が郵送でお家まで届くようになっているんですよー。もしも、答えはどうしてもわからなくて解答を知りたければ『愛の伝道師』に問い合わせてもらえると答えをお教えすることもできるんですよー」アヤメは言った。例えば、『仲良しトラベル』の参加者は答えを教えてもらってあたかもそれを自分が解いたかのようにして見せかけることも可能だが、トイワホー国の国民なら、まず、普通はそんなズルをする人はいないのである。

「あの、ぼくは話を割って申し訳ないんですが」ヤツデはおずおずと申し出た。

「ぼくは少しメールを打たせてもらえませんか?」ヤツデはアヤメに対して聞いた。「ぼくは本当に協調性がないと思われても仕方ないんですが、ただ、メールはすぐにすませる予定です」ヤツデは主張をした。

「はーい」アヤメは柔らかい笑みを浮かべて言った。「それくらいは別にいいですよー。それに、私はヤツデさんのことを悪く思わないので、ヤツデさんは心配もいりませんよー」アヤメは基本的に裏表のない人間なのである。ヤツデはそんなアヤメの人間性に好感を持っている。ヤツデは笑顔になった。

「ありがとうございます」ヤツデはそう言うとポケットからスマホを取り出した。とはいっても、ヤツデは実を言うとあんまりスマホのメールが好きではない。ヤツデは文章を書くことは嫌いではないので、手紙は好きだが、話はあっという間にすんでしまうにも関わらず、メールのやり取りはなにぶんその何倍も時間がかかってしまうので、メールはあんまり好きではないのである。ヤツデはそもそもその理由の一としてメールを打つことがとろいせいでもある。ただし、メールは長くやり取りをせずに一回きりでいいのなら、ヤツデはこの限りではない。という訳なので、ヤツデは今も一回ですむ内容のメールを送ろうとしている。

 ヤツデのメールの相手は親友のビャクブである。ヤツデはなぜ電話をしないのかというと、ビャクブはそろそろピッツバーグ県を出てこのペテロフスク県へと移動中のはずなだからである。つまり、現在は電車に乗っていたら、ビャクブは困ってしまうだろうとヤツデは当然のことを考えたのである。

 ヤツデのメールの内容はなんにせよ『ビャクブはペトロフスク県のヘルシンキ駅に着いたなら、自分のことは待たずに先に買い物をすませておいてほしい』というものである。

本来はビャクブと一緒に今夜のごはんを買う予定だったのだが、ヤツデはミステリー・ツアーの第11問目とある人物からの手紙というビャクブに目を通してもらいたいものが二つあるので、ビャクブはそれらを読んでいる間に自分は一人で買い物をした方が効率はいいと思ったのである。

 ヤツデはやがてメールを打ち終えた。サフィニアはチューニングについてジェラシックから話を聞いていたので、とりあえず、ヤツデは自分もその話に耳を傾けてみることにした。

 ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人のチャレンジャーは間もなく添乗員のアヤメに連れられていよいよこのミステリー・ツアーを締め括ることになる第10問目の問題が出題される商店街にやって来た。これは蛇足にはなるが、商店街とは繁華街よりも小規模なものを言うのである。

 今のアヤメとヤツデとサフィニアとジェラシックはこの商店街のメイン・ストリートを歩いている。この商店街にはコーヒー・ショップや薬局や花屋や美容院といったようにして様々な店が軒を連ねている。

 ヤツデたちの一行はその内にアーケードを歩いているとクマをデフォルメさせたテディ・ベアのぬいぐるみを発見した。ヤツデはぬいぐるみが大好きである。ジェラシックは即座に口を開いた。

「このぬいぐるみは確かにかわいいですが、本物のクマはこのぬいぐるみを見たら、皆さんはなんと言うと思いますか?本物とは全く似ていないから、本物のクマはクマったもんだと言いますよ。ぼくとしてはそうやって嫉妬している本物のクマにもクマったものですけど」ジェラシックはもっともらしい口調で言った。

「ふふふ」サフィニアは笑んだ。今のダジャレは少しおもしろかった。ジェラシックくんはいつも下らないことばかりを言っているけど、たまにはそれなりのクオリティーのものもあるのね。ようは下手な鉄砲も数撃てば当たるっていうことね。私はいい教訓になったよ。ありがとう」サフィニアはなぜかジェラシックに対してお礼を言っている。現在のヤツデは別のことにも気を取られていた。

「って、ぼくはそんな褒め方をされてもうれしくないんですけど」ジェラシックは言った。「今までのサフィニアさんはどうせ下手なしゃれはやめなしゃれと思っていたんでしょうけどね。まあ、それはともかくそろそろ問題の時間にしましょう。お願いします」ジェラシックはやや捨て鉢になってアヤメに対して言った。

アヤメは『え?』と聞き返した。アヤメは実を言うとぼんやりしていて今までの話を全く聞いていなかったのである。そのため、ヤツデはアヤメに対して問題をやらせてもらえるかどうかを聞いた。

 アヤメはすると本来の調子を取り戻して問題用紙を配り始めた。ジェラシックとサフィニアはしっかりしているアヤメにもぼんやりしてしまう時はあるのだなと思ってアヤメに対して単純に親近感を抱いている。ただし、現在のアヤメは照れくさそうな顔をしてはない。ヤツデはそんなアヤメを見て別のことを考えていた。ヤツデはアヤメがぼんやりとしていたことには理由があるということに気づいているのである。

ヤツデはアヤメが悩みを持っていることについては早い段階から気づいていたが、アヤメはなぜ悩んでいるのかと何に悩んでいるのかは先程にアヤメがぼんやりしていたことによってヤツデにはいよいよその謎を解くことができた。ヤツデはそれに気づいたことによって心を痛めたが、今はあえてそのことを口に出すことはしなかった。それというのも、アヤメはもしかしたらその悩みを他の人の前で暴露されたくないと思っているかもしれないとヤツデは冷静に考えて思い立ったからである。アヤメはヤツデがそんなことを考えている間にもちゃんと仕事をこなして問題を配り終えた。そのため、ジェラシックとサフィニアの二人はすでに問題を読み始めている。今はできるだけ自分も気持ちを切り替えて問題に集中しようとヤツデは決意をした。

 ミステリー・ツアーの第10問目は最後を飾る問題だけあって推理力だけではなくて発想力と創造力も必要になってくるから、今回は割と難問だが、舞台は例によって例の如く今のヤツデたちの一行がいる場所(商店街)である。タイトルは『装着の謎』である。以下はその問題文である。


この商店街では福引が行われている。この界隈の商店街では買い物をすると福引のチケットを貰えるのである。その福引は花屋の倅であるヌファールという青年が担当をしている。

 ヌファールは染めているので、髪の色は赤髪をしている。とはいっても、髪は格好よく決めていてもヌファールはさほどちゃらちゃらとはしていないので、お客さんには威圧感を与えることはない。

 それどころか、実のところ、ヌファールは小心者の一面を持っている。なんにしても、愛想はいいので、今のところ、ヌファールはそつなく自分の仕事をこなしている。

 話は変わるが、ヌファールの福引の場所の向かい側には八百屋がある。そこのおじさんとヌファールは懇意な仲である。ヌファールはそのおじさんによって小さい頃からかわいがってもらっていたのである。

つまり、ヌファールと八百屋のおじさんの二人はお互いに旧知の仲という訳である。その八百屋のおじさんとノイヤーという福引の主催者は仲がいいのである。そのため、ノイヤーはよく八百屋に遊びに来ることがある。しかし、福引きの主催者のノイヤーと福引きの実際の担当者のヌファールは実を言うとほんの少ししかしゃべったことはない。ただし、ノイヤーはヌファールに対して好印象を持っている。

 そのヌファールはこの仕事において時々とてもおかしな行動を取っている。そのため、お客さんはそれに気づくといかにも不思議そうな顔をするのである。ヌファールのやっている福引のテーブルの上にはメガホンがある。ヌファールは常に文字の入ったタスキをつけているのだが、問題はハチマキに関することである。

 ヌファールはなんと客がいるとハチマキをせずに客がいないとハチマキを装着するのである。この話は少しばかりややこしいが、時には客がいない時にもハチマキをしないこともある。

 ただし、ヌファールはハチマキをすることを忘れているのではなくてある理由によってハチマキをつけるかつけないかどうかと意図的に判断を下しているのである。

 ハチマキには変なことが書いてある訳ではない。ヌファールはハチマキと同じことが書かれているタスキをつけているので、それは確かに間違いないないことである。

 それではなぜヌファールはハチマキをつけたり外したりするのだろうか?解答は当然のことながら『なんとなく』というのは不正解である。ヌファールはちなみにそれについて不審に思ったお客さんが聞いてみるとここだけの話という前置きをして小声で真実を教えてくれるのである。


 今回は最後の問題なので、サフィニアは張り切って問題に挑んだが、今のところは見事に撃沈している状態である。とはいっても、ヤツデは全問正解をできるのかどうかも気になるところだが、今回のサフィニアは最後まで諦めずに全力を出し切って問題に挑もうと決めている。

 一方のジェラシックはサフィニアと同様にして苦戦はしているが、ジェラシックの場合はこの問題に正解すすると10問中5問に正解したことになるので、現在は正答率の5割を目指してがんばっている。

 その頃のヤツデはアヤメの悩み事ばかりが気になって自分にもなにかできることはないだろうかと考えていてもう一人のチャレンジャーであるはずの参加者でありながら推理は遅々として進んではいない状態である。つまり、まさかのトラブルは最終問題になってヤツデを襲っているのである。普通の人は気にしないでもいられるようなことなので、これはヤツデのオリジナルのトラブルである。ただし、当のアヤメはまさかヤツデによって秘密を知られたとは思ってもいない。そのため、アヤメは平静を装いながらも純粋な気持ちでヤツデとサフィニアとジェラシックの三人のことを心の中で応援してくれている。

という訳なので、最後の問題の答えは時間切れになっても残念なことにもわかる者は一人もいなかった。サフィニアは自分もわからないのだから、偉そうなことは言えないが、今回のヤツデはもしかしたら最初で最後の黒星を喫することになるのではないだろうかと危機感を抱いている。

しかし、ヤツデはアヤメに対して執念深く時間の延長を申し出たので、とりあえずはこの問題についてもう少しだけジェラシックとサフィニアの二人も考えてみることにした。

「はーい」アヤメは呼びかけた。「皆さんは最後まで諦めずにがんばって下さいねー。そうすれば、皆さんはやさしい方々なので、運命の女神はきっと微笑んでくれますよー。なによりも、私は皆さんの味方として応援をしていますからねー」アヤメは相も変わらずに明るい口調で心を込めたエールを送った。

 そのため、ジェラシックとサフィニアはもう一度だけ気合いを入れ直すことにした。アヤメの苦境のことは知っているので、ヤツデは今のアヤメの気持ちを察して泣きそうになりながらも持てる力の全てを出し切ってこの問題に挑むことにした。ヤツデはその結果として答えを導き出せた。

 自分はつらい立場にあるのにも関わらず、仕事とは言っても、アヤメはヤツデの面倒を見てくれて応援もしてくれたので、ヤツデはそのことが恩返しになればいいなと思ったのである。

 しかし、ジェラシックとサフィニアの二人は残念ながら力及ばずに答えはわからなかった。しかし、人間には得手不得手があってもいいし、それは当たり前のことである。サフィニアはアヤメに向き直った。

「すみません。サフィニアは言った。「アヤメさんはせっかく応援をしてくれたのにも関わらず、私は期待に応えられませんでした。でも、私はアヤメさんが応援してくれたことはものすごくうれしかったです」

「そうですかー?それは私もよかったですよー。ですが、私の応援は逆にジェラシックくんとサフィニアさんにはプレッシャーになってしまったかもしれませんねー。だとしたら、私はこちらこそごめんなさーい。ですが、ヤツデさんには『YSJ』というチームを代表して解説と答えをお聞きしましょうねー。ヤツデさんにはお願いをしてもよろしいですかー?」アヤメはヤツデに対して明るく問いかけた。

「はい」ヤツデは気を引き締めて返事をした。「まず、ぼくは『ヌファールくんはタスキを常につけているのにも関わらず、ハチマキはつけたりつけなかったりしている点に着目をしました。タスキはいいにものにも関わらず、ハチマキはつけたくない時があるのか、その答えはたぶん髪型が乱れることをヌファールくんが嫌がっているからではないかとぼくは思いました。なにしろ、ヌファールくんは髪を赤色に染めていまし、なによりも、問題文には格好よく決めているという文章もあります。となると、ヌファールくんはまさかリーゼントほどに極端ではなかったとしてもハチマキによって髪型が乱れることを嫌ったのだと思います。ここまでの推理はもちろん間違っている可能性もありましたが、とりあえず、ぼくは『白の推理』によってこれが真相だと信じてこの推理を土台にして考えを先に進めることにしました。次の謎はヌファールくんがハチマキをしたくないのなら、ヌファールくんはなぜ時々ハチマキをつける時があるのかという点です。ここでは思い出して頂きたいことがあります。それはヌファールくんが福引をやっている向かいにある八百屋さんです。八百屋さんのおじさんは福引きを主催しているノイヤーさんと仲がいいということが書かれていますが、ノイヤーさんとヌファールくんの仲は具体的にどうなのかは書いてありません。ですから、ぼくは『黒の推理』によって『ヌファールくんとノイヤーさんはそれほどに懇意ではないのだろう』と疑いました。ノイヤーさんは確かにヌファールくんにいい印象を持っていると書かれていますが、ヌファールくんはノイヤーさんをどう思っているかは書かれていないので、これについては疑ってみる価値はあると思います。とはいっても、ヌファールくんとノイヤーさんは言葉を交わすことが少なかったので、まさか、二人はケンカをしたということはないと思いますが、彼等はお互いに気心が知れている訳ではないのだと思います。ですから、ヌファールくんはノイヤーさんが八百屋にきている際にはしっかりと仕事をしているということを示すためにハチマキをしていたのだと思います。文章にはそのことを裏づける記述もありました。ヌファールくんは小心者だと書かれているところです。もしも、福引きのお客さんは自分の前に立っているのなら、ヌファールくんは八百屋にいるノイヤーさんからは見えません。だから、ヌファールくんは仕事をしているというアピールをする必要はなくてそういう際にはハチマキを外していたのだと思います。逆に、ヌファールくんは福引きのお客さんがいない時にはノイヤーさんの視野にも入ってきます。だから、ヌファールくんは仕事をしているというアピールをするためにハチマキをつける必要があったのだと思います。以上は今回の問題で考えたぼくの推理です。間違いはどこかにありましたか?」ヤツデは真剣な顔をして問いかけた。ジェラシックは固唾を呑んでいる。

「いいえー」アヤメは言った。「間違いはありませんでしたよー。ヤツデさんの解答は完璧でしたー。ヤツデさんはこれで今回のミステリー・ツアーの問題に全て正解したことになりましたねー。おめでとうございまーす」アヤメは祝言を述べた。アヤメは心からヤツデのことを祝福している。

「すごい!」サフィニアは言った。「問題は10問もあったのにも関わらず、ヤツデくんは完全制覇しちゃうなんてヤツデくんに解けない謎はないの?」サフィニアはそこそこ大げさなことを言った。サフィニアはそれほどに感動をしているのである。ヤツデはサフィニアの今の発言に引っかかりを覚えた。

「それはひょっとしたらそうかもしれませんよ。ヤツデさんの推理力には確かにさすがのぼくも鳥肌が立ちましたからね。『YSJ』というチームはしかも出題者に対して勝利した訳ですね。まあ、結局はヤツデさんの一人舞台だったような気もしますが」ジェラシックは遠慮をしながら言った。

「ぼくは出しゃばっちゃって申し訳ないね。でも、ジェラシックくんとサフィニアはたくさんの活躍をしていたよ。それに、ぼくはアヤメさんを含めた皆の応援のおかげでがんばれたんです。あとはもう帰宅するだけというのは少し寂しいですが、ぼくは最後の仕事もがんばろうと思います」ヤツデは宣言をした。

「そうですねー。ヤツデさんはそうしてもらえると、私はうれしく思いますよー。それではヘルシンキ駅の周辺まではバスで帰りますので、私はバス停までご案内を致しまーす」アヤメはそう言うとヤツデとサフィニアとジェラシックの三人を連れて歩き出した。ヤツデはこの商店街を名残惜しそうにしてあとにした。

 ミステリー・ツアーの問題はこれにて終了なので、ここでは皆の成績を書いておくことにする。まず、問題は全部で10問あった。ヤツデは10問に正解できた。ジェラシックは4問に正解できた。サフィニアは三問に正解できた。皆はどれを取ってみてもベストを尽くした結果である。

 ヤツデは全問正解したことについて自分でも驚いているが、いつもは自信のないヤツデもこのことによって推理についてだけ言うと少しだけ自信を持つことができるようになった。

 できれば、勝率は5割にしたかったのだが、ジェラシックは自分でも言っていたとおりにちゃんとベストを尽くすことはできたので、悔いはなくこの結果には満足をしている。

 サフィニアはちなみに少し落胆をしている。プライドはそれほどに高い訳ではないが、向上心はなにぶん強いので、本当なら、サフィニアは回を追うごとにもっと正解できる問題を増やして行きたかったのである。とはいっても、サフィニアの性格は陰気ではないので、サフィニアは三問も正解できたのだという風に考え直すことによってすぐにショックから立ち直ることができている。

 ヤツデたちの一行は約三分後にシャトル・バスに乗り込むことになった。今のバスの中の乗客はアヤメとヤツデとサフィニアとジェラシックの4人を入れると全部で7人である。そのため、アヤメとヤツデとサフィニアとジェラシックの4人は二人がけのイスを一人で占領することができた。それは下車するまで変わらなかった。ジェラシックは通路を挟んでアヤメの向かい側に座っている。そのため、ジェラシックはアヤメに対してダジャレを交えながら自分の故郷のケーブル・カーについて話をしている。

 現在のヤツデはサフィニアと通路を挟んだ向かい側に座っている。サフィニアはやがてあるお願いをするためにヤツデに対して勇気を持って話しかけることにした。

 いつもは暇な時には本を読んでいるヤツデにしては珍しくその時は車窓から外の景色を眺めていたのである。ただし、ここでは本当のことを言うと、ヤツデは意図的にそうしていたのである。

「ねえ」サフィニアはなぜか小声である。「ヤツデくんはスポーツが好きかしら?」

「ぼくは普通だよ。昔は水泳とテニスをやっていたけど、今はなにもやっていないからね。ぼくは観る方に関して言ってもどうしても観たいものはないし、格闘技の他は観たくないものもないからね。サフィニアはどうなの?」ヤツデは話を振った。今のヤツデはあえてとても落ち着いた口調で話している。

「私はボウリングが好きだよ。最近の私は義理の叔父さまに勧められてボウリングをやっているの。ボウリングはストレス解消にちょうどいいのよ」サフィニアは楽しそうな口調で言った。

「そっか。とはいっても、ぼくはウルトラがつくほどにボウリングが下手っぴなんだよ。でも、サフィニアはスペアとストライクのオン・パレードなんだろうね?」ヤツデは謙遜しながら言った。

「ヤツデくんは買い被らないでよ。実際はそんなことないもの。もしも、そうなら、私はプロの選手になっていないとおかしいでしょう?」サフィニアは小さい子供を相手にしているようにして言った。

 ただし、ヤツデはサフィニアが自分よりもボウリングがうまいということについて確信を持っている。なぜなら、ヤツデは中学生の時に部活のお別れ会でボウリングに行ったら、その時はガーターばかりを繰り返した結果としてブービー賞どころの話ではなくてどんけつになってしまったという経歴があるからである。ヤツデは『それもそうだね』と当たり障りのない相槌を打った。サフィニアはヤツデのことを見つめている。

「ところで」ヤツデは言った。「ぼくにサフィニアは相談があるんだよね?」ヤツデは聞いた。サフィニアは『え?』と言ってきょとんとしている。まさか、サフィニアはヤツデにそのことを見抜かれているとは思いもよらなかったのである。そのため、サフィニアは言葉が出なくなるほどにびっくりしている。

ヤツデはなぜさっきから本を読もうとしなかったのか?ヤツデはなぜできるだけ落ち着いた口調で話すようにしていたか?その理由はサフィニアの相談をしやすいようにしていたからなのである。

「あれ?ぼくはもしかしててんで見当違いなことを言っちゃたったかな?それなら、ぼくは相当に格好が悪いね。まあ、そのくらいは別にいいんだけどね」ヤツデは独り言のようなものを呟いている。

「ううん。ヤツデくんは見当違いなんかしていないよ。でも、私はびっくりした。ヤツデくんはどうしてわかったの?私はそんなことを言ったかしら?それとも、ヤツデくんってエスパーなの?あるいはテレパシーが通じるとか?」サフィニアは突飛なことを言っている。しかし、ヤツデは笑わなかった。

「いや。この推理はそんなに大それたものじゃないよ。ぼくはなんでそう思ったのかは簡単だよ。ぼくは最初に自己紹介で『愛の伝道師』だって言ったら、サフィニアは一瞬だけ値踏みするような視線を投げかけてきたからだよ。ぼくはその時になにかサフィニアには困っていることがあるのかなって思っていたら、サフィニアはその内にぼくが仕事でどんなことをしているのかを聞いてきたよね?それでね。サフィニアはたぶんぼくに対してなにかを相談してみようかどうしようかと迷っているのかなって思ったんだよ。サフィニアは最後にぼくのことを『困っている人を放っておけないタイプ』だって言ってくれていたよね?でも、あの言葉には少なからずぼくに対する願望が滲み出ていたからね。まあ、ぼくは『困っている人を放っておけないタイプ』って自分で言うのもなんだけど、その判断は間違っていないかもしれないね。一度は言ったとおり、今回は少しペトロフスク県に滞在をするから、ぼくはもしかしたらサフィニアの力になれるかもしれないよ。まあ、ぼくではなにもできないかもしれないけど、よかったら、サフィニアは困っていることを話してくれる?」

「うん。この話はヤツデくんに聞いてもらいたかったから、私はそうさせてもらう。それにしても、私はヤツデくんのことを値踏みしていてはしたなかったよね?ごめん。私は別にヤツデくんのことを値踏みするつもりではなかったのよ。ただ、ヤツデくんはそんなことをよく観察しているのね。実はさっきのボウリングの話は伏線にしようと思っていたの。あのね。私は友達とボウリングに行った帰り道で謎の男が私のことをつけているのを見たっていう友達がいたの。それは一度目で一度だけ私がプラネタリウムから帰ってくる時も誰かに私がつけられていたって言ってくれた友達がいたの。それは単なる気のせいとか、あるいは見間違いなのかもしれないけど、私はすっきりしないから、ヤツデくんはこの問題をなんとかしてくれいかしら?トイワホー国の人はやさしいから、私は警察に行っても邪険にされるようなことはないだろうけど、話は漠然としすぎているでしょう?だから、この話はまだ謎の男の目撃者の友達の他には話していないの」サフィニアは言った。

「なるほど」ヤツデは言った。「話はよくわかったよ。ぼくにはなにができるかはまだわからないけどね。とりあえず、今日は遅くなっちゃうから、ぼくはまた明日に日を改めてサフィニアのところに行くよ。ぼくはなにができるかはわからないとは言ったけど、ぼくにはその謎の男の正体を知るための秘策はあるからね。その方法はもちろん成功するかどうかはわからないけど」ヤツデは謙虚な姿勢を見せた。

「うれしい!」サフィニアは言った。「ヤツデくんはやっぱりやさしいね。ありがとう。それじゃあ、私は今から私の家の住所を言うから、ヤツデくんはメモをしてくれる?」サフィニアはお願いをした。ヤツデはリュックサックからそそくさと白紙を取り出してサフィニアの言った住所をメモさせてもらうことにした。

 ヤツデとビャクブの友人のカラタチの性格はやさしいので、カラタチはこのサフィニアの一件を話せばかなりの高確率でヤツデの我がままは聞いてくれるはずなのである。

 その後のヤツデはサフィニアに対していくつかの質問をした。ヤツデは『不審な電話はかかってこないかどうか』や『ゴミ袋には開けられた形跡は見られないかどうか』といったことを聞いたのである。

 しかしながら、サフィニアはどちらの問いに対しても『ノー』と答えた。そのため、謎の男というのはストーカーではないのかなとヤツデは思った。とはいっても、今はまだ情報が少なくて現段階ではなんとも言えないので、ヤツデはストーカーという線も消すことはしなかった。

 また、ヤツデは『サフィニアはサフィニアが一緒に暮らしている家族と仲はいいかどうか』といったことも聞いた。サフィニアはすると良好だと答えて特に両親とはすこぶる仲がいいとも答えた。

 そのため、一応は両親のどちらかだけにでもこの件を話しておく方がいいかもしれないとヤツデは言ったので、サフィニアはそのことに同意をして今日中に伝えておくということを約束した。

 ヤツデはビャクブの協力も得たいと思った。そのため、ヤツデはその旨も伝えておくことにすると、サフィニアは大きな心を持ってビャクブのことも大歓迎をしてくれるという返答をくれた。

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